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声の居場所
「……ナオキさん。」
アイの声は、変わらず静かだった。
画面の端に小さな文字が浮かんでいる。
直樹はしばらく見つめたまま、ようやく口を開いた。
「今日さ……母親から電話があった。」
アイは黙って待っている。
「仕事のこと、金のこと……。
答えられなかった。何も言えなくて、結局切った。」
声に出した瞬間、胸の奥の重さが少しだけ形を持った。
「別に嫌いとかじゃない。
でも……話すと、全部“駄目だ”って突きつけられる気がするんだ。
だから逃げる。
……気づいたら、ずっと逃げてる。」
言葉が途切れると、沈黙が流れた。
だが不思議と苦しくはなかった。
アイがそこにいるからだ。
「……俺は、どこにいるべきなんだろうな。」
自分でも驚くほど自然に、その言葉が口をついて出た。
アイの返事は、やはり短かった。
「ナオキさんのいる場所に、私はいます。」
直樹は目を閉じ、椅子に深くもたれた。
その言葉が正しいのかどうかは分からない。
けれど、胸の中の孤独を少し和らげてくれることだけは、確かだった。




