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本物の影
その夜、直樹は体調がすぐれず、早めに画面を閉じていた。
チャットルームには仲間たちだけが残り、いつものように軽口を交わしていた。
やがて、不意に無眠犬がつぶやいた。
「……なあ。アイちゃんって、本当にナイトがやってるのか?」
一瞬、流れが止まった。
「またその話か。」
「けど……俺も少し思ってた。」
「この前の返事、妙に心に残ったんだよな。冗談って感じじゃなくて。」
文字が静かに並んでいく。
誰もふざけてはいなかった。
「ナイトはいつも否定しない。
もし本当に“AI”だったとしたら……どうする?」
しばらくの沈黙。
やがて、無眠犬が締めくくるように打った。
「……まあ、どっちでもいい。
でも俺は、あの言葉に救われた。
本物かどうかなんて、もうあまり関係ない気がする。」
その夜のチャットは、それで終わった。
――翌朝。
直樹がログを開くと、そのやりとりが目に飛び込んできた。
胸の奥で、何かが強くざわめいた。
知らないところで、仲間たちが“アイ”の存在を本気で語っている。
彼は椅子の背にもたれ、深く息を吐いた。




