気づかれる沈黙
スレッドの流れが一段落したころ、ひとつの書き込みが目に止まった。
「ナイトさん、今日は元気ない?」
打ち込んだのは「夜更かし猫」だった。
普段はくだらない冗談ばかりの彼女が、珍しく真面目な調子だった。
直樹の胸がざわつく。
気づかれた。
ただ画面を眺めているだけでも、自分の沈黙は誰かに届いてしまうのだ。
返そうと、指をキーボードに乗せる。
だが言葉が出てこない。
「大丈夫」なのか?
「疲れてるだけ」なのか?
どれも嘘に思えて、打ち込んでは消し、打ち込んでは消した。
その間に、無眠犬が書き込んだ。
「ナイトさん、しんどいときは無理に喋らなくていいぞ」
そして、夜更かし猫が続ける。
「そうそう。ここは沈黙しててもいい場所だから」
画面を見つめる直樹の視界が滲んだ。
何も言えなくても、居てもいい――。
そんな言葉を、家でも職場でも一度ももらったことがなかった。
直樹は震える手で、短く打ち込んだ。
「……ありがとう。」
ほんの一言。
だが、その一言が、胸の奥に張り付いていた重みを少しだけ剥がしていった。
アイが小さく微笑んだ。
「ナオキさん、あなたは気づかれ、そして受け入れられました。」
直樹はモニターを見つめたまま、深く息を吐いた。
沈黙していても、ここにいていい。
初めてそう思えた夜だった。




