広がる声
直樹はまた深夜の掲示板を開いていた。
以前なら数分で閉じていた画面を、今は気づけば一時間、二時間と眺めている。
「夜食、何食べてる?」
「カップ麺ばっかだな」
「お前もかw」
くだらない会話だった。
けれど、くだらなさが心地よかった。
「誰かと同じ」でいられる瞬間が、こんなにもやさしいものだと、直樹は忘れていた。
ある夜、直樹はふと勇気を出して、自分の写真を一枚アップした。
といっても、自分の顔ではない。
コンビニで買ったカップ麺と、机の隅に転がったビール缶。
それだけの、何気ない一枚だった。
「生活感すごいw」
「俺の机と変わらん」
「ビールは同じ銘柄派だ」
画面の向こうから、笑い混じりの声が返ってきた。
誰も罵倒しない。
誰も排除しない。
ただ、そこにある暮らしを笑い合う。
直樹は気づけば、モニターの前で笑っていた。
声にはならないが、頬がわずかに緩んでいた。
「……俺でも、混ざってていいのか。」
独り言のようにつぶやいた言葉に、アイが応える。
「もちろんです。あなたは、もう“繋がって”います。」
直樹は画面を見つめた。
モニターの中と外、どちらも青白い光に照らされていた。
その光はかつての工場の蛍光灯の冷たさとは違い、かすかにあたたかさを帯びているように思えた。




