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4・2

お読み頂きありがとうございます(*^^*)

寒くなったので、すでに裏起毛の服が手放せません。

春と秋が短くて悲しいです(´;ω;`)

 その後、結局レインを砦に残し、美玲達は氷晶の城へと戻ってきた。

 執事長のスチュワートを始め、使用人達が出迎えてくれる。


『お帰りなさいませ』

「ただいま!」

「ただいま〜!」

「お帰りなさいませ、コンラッドお坊ちゃま、ミレーユお嬢ちゃま。視察はいかがでしたかな?」

「砦が大きかった! かっこよかった!」

「おはながたくさんだった! きれいだった〜!」


 スチュワートは柔和(にゅうわ)な笑みで、幼い兄妹の身振り手振りの説明を聞いた。


「ほっほっほっ、そうでしたか。充実した視察でしたようで何よりですな」

「一悶着あったがな。二人共疲れただろう」

(うーん、確かに色々あって疲れたな。……やっぱりおうちが一番! 我が家サイコー!)


 お父様が頭をポンポンと撫でる。現実では流石に頭を撫でられる事がないので、何だかくすぐったい。

 しかし美玲はふと我に返る。レインはその“我が家”に帰れないのだ。そう思うとレインに申し訳ない気持ちになった。


(はぁ、これからどうしよう。こんな時、誰かに相談出来たらな……。いやいや、タラレバを考えた所でどうしようもない。レインに嫌われるのは……やだけど、やっぱり最善なのはレインの力を借りてフラグをへし折る事! その為に最善を尽くすのみ! レインの育成、領地滅亡回避! ……あああ、でもでもやっぱ、嫌われたくないよう)


 美玲はしばらく葛藤したが、結局他に良い案は思い浮かばなかった。



 後日、レインの母ミリアムが窃盗(せっとう)の罪で捕まったとの知らせが入る。香水を、盗んだというのだ。……レインの母とは、抽出工場で出会った金髪の女性の事だった。

 領地の収入源となる香水を盗んだとあり、この事件は瞬く間に領民達の間で広まった。


(盗んだ理由は、闇ルートで売って生活費に当てるつもりだったとか。……え、たちの悪い転売ヤーかな?)


 ……まさか父親だけでなく、母親まで問題を起こすとは。

 美玲の記憶では、ゲームの中ではレインの両親がここまで大きな問題を起こすことはなかったはずだが。美玲が見落としていただけかもしれない。

 お父様が額に手を当て、大きなため息をついく。


「はぁ〜、やってくれたな。領地の物に手を出したんだ、例の母親は重罪は免れないぞ」

「これでは子供もイーサンも、肩身が狭いわね」

「そのイーサンは、副隊長を辞退すると言ってきた。イーサンは真面目で優秀な騎士だ。仲間内でも評判が良い。安心して砦を任せられると思っていた矢先に、こんな事になるなんてな」


 お父様はもう一度大きなため息をつくと、腕を組んで考え込んでしまった。


「関係ないとは言えないが。いくら身内が罪を犯したからといって、何もしていない者まで責められる必要は無い。ただ、分かってはいても世間は厳しい目で見るだろう。そんな環境で子供が安心して過ごせるはずもない。イーサンの待遇も、考え直さなければならない。どうするべきか……」


 これは確かに難しい問題だ。

 加害者家族の置かれた立場は複雑であり、領主としては下手に庇うことは領民の反感を買いかねず、得策ではないだろう。しかし放置すれば、誰がレインとイーサンを守るのか。

 領民にそんな者が居ないことを願いたいが、心無い事を言ってくる者も出て来るかもしれない。

 所詮は他人事。他人の不幸を喜び、悪意を振りまく人も世の中には居るのだ。

 美玲はそれを、嫌という程知っている。


(まぁ……世の中には、事の経緯や真実なんかよりも、話題性を求めて話を面白おかしく盛る人種も居るのは確かだ。それによって傷付く人が居る事も考えずにね。ったく無関係なくせして言いたい放題、一体どっちが加害者だっての! ああ、思い出したらムカついてきた! ……いやいや、今はそれよりもレインの事だ。…………レイン、大丈夫かな)



 ひとまずイーサンとレインを保護するために、美玲とお父様は再び砦へとやって来た。今回は、お母様とお兄様は城で待機だ。

 美玲は駄々をこねてこねてこねまくって、渋るお父様にようやく連れてきてもらったのだった。

 お父様を説得するのに、最終的に床に転がりジタバタしてみた。これも、年下の従兄弟から盗んだ禁断の技の一つ“イヤイヤ駄々っ子”だ。

 だがしかし、禁断の技には代償がある。その代償とは、いつまでも色褪せずに記憶に残る、その名も“黒歴史”。……美玲は何か、変わりに大切なものを失った気がした……。


 砦には、迷子の犬の世話をするレインの姿があった。

 しゃがみ込んで犬を撫でる姿に――が重なり、既視感(きしかん)を覚える。美玲はブンブンと頭を振って思考を払った。

 今後についてお父様とイーサンが話し合っている間、美玲は手持ち無沙汰だ。レインは犬に抱きついて離れようとしない。

 ……自分が想像した推しが、目の前にいる。しかも今は、二人きり。


 (推しが、目の前に……!! うおぉ、サラサラの金髪に、ガラス玉の様に美しい碧眼! いずれは超絶イケメン細マッチョになるであろう逸材! おおお、落ち着けわたし! ふぅ…………改めて考えると、凄い状況だな。な、何か話しかけねば。えとえと、共通の話題とかないの?)


 内心ドキドキしながら、美玲は思い切ってレインに話しかけた。


「……ね、ねぇ。このこのおなまえは、なんていうの?」

「…………」


 プイッとそっぽを向かれた。軽くショックを受けつつも、気を取り直す。美玲はレインがコミュ障な事をすっかり忘れていた。


(………………シカトか。そうかそうか、そう来るか。ふむ、ここは子供同士、仲良く話し合おうじゃないか。……よし、名探偵小学生のように、いっちょ小芝居やったるか!)

「コホン。…………ねえねえ! このこのおなまえはなんていうの? ねえねえ、おしえてよ〜! しりたいなぁ〜ねえねえ!」


 若干声を高くして、無邪気な子供を装い猫なで声で話しかける。

 美玲の小芝居が効いたのか、はたまた美玲の言葉に若干の圧を感じたのか。レインはチラリと美玲を見て、ようやく口を開いた。


「…………トリームサンダー…………」

「…………んん? なんて?」

(ちょっとよく聞き取れないな)

「…………ウルトラエクストリームサンダーボルト…………」

「きゃっか!!」

「え」

「ながすぎる!! このこのなまえは“ライ”にしよう!!」

「え……」

(不満そうな目で見るんじゃない! しかもなんだそのクソダサい名前は!)


 レインのネーミングセンスが皆無(かいむ)なのはわかった。

 美玲はレインの名付けを一刀両断する。美玲の変わり身の速さにレインは唖然とした。

 そんなレインを横に、美玲は茶色いふわふわの毛を撫でる。美玲が現代で飼っていたゴールデンレトリーバーにそっくりだ。


「キミ、カワイイネ! キミはどこからきたのかな? んん〜いいこですねぇ〜よしよし! いまからきみのなまえはライね!」

「バウッ!」

「え。…………ラ、ライ……?」

「バウッ!」


 ライは自分の名前が気に入ったようだ。本犬が気に入ったならと、レインは渋々ながら改名を受け入れてくれた。

 子供同士で親睦を深めた(?)ところで、イーサンとレイン、ライを連れ、美玲は城壁に戻ってきた。


「これから話し合いをしてくる。二人は馬車の中にいなさい。いいね?」


 お父様は子供達に言い聞かせると、イーサンを含め数人の騎士を連れ一件の民家に立ち寄った。


「うわっ、酒臭っ」

「……これは酷いな……」


 玄関扉を開けると、お酒の匂いが室内に充満していた。部屋の中は物が散乱して酷い有様だ。

 部屋の壁により掛かる様に、酒瓶を手にした男性が座っている。イーサンに気がついた男性は、ヘラヘラと笑いながら話しかけてきた。


「これはこれはお兄様ぁ。こんな所に、なんの御用ですかぁ?」

「……お前……また、昼間から飲んでるのか。仕事はどうした? それに……嫁さんが投獄されたのは知っているんだろう。生活費の為に盗みまで働かせて。……お前は一体、何をしているんだ!」

「うるせえ! 家の問題に他人が口出しすんじゃねえよ! ……兄貴はいつもそうだよなぁ。いつもいつも、自分が正しい様な顔して、俺の事馬鹿にしているんだろ!?」

「そんなわけ無いだろう! ……はぁ、今日は、レインの件で来た。今のお前がレインを育てられるとは、到底思えない。だから……正式に、俺がレインの後継人となる。それを、伝えに来た」

「あーあー、副隊長様はご立派ですねぇ。運良く副隊長に抜擢されて、順風満帆。慈悲深くも甥の面倒まで見てくださるだなんて! いいよなぁ、運が良い人間はよぉ!」


 怒鳴り声は、馬車まで丸聞こえだ。


 両親からの愛情を感じられず、心も体も傷ついたまだ幼い甥に、どう向き合えば良いのだろうか。

 レインに対するイーサンの葛藤を知っているだけに、美玲はレインの父親のあまりにも子供じみた言い分にカチンときた。


(カッチーン! 副隊長になるのが、ただの運なわけないだろが! あの肉体美を作り上げるまでに、一体どれほどの鍛錬が必要だと思っているんだ! ぬあ〜っ、落ち着けい! わたしは冷静だ、わたしは冷静だ。は~い、深呼吸〜。吸って〜吐いて〜)


 とりあえず美玲は、まだ見ぬレインの父親に一対一のタイマン勝負を仕掛けた。

 スルリと背後に周り、流れるように膝カックン。相手がよろけた所をすかさず追撃。

 さながら、天に昇る龍の如く。しゃがみ込んで溜めを作ってから勢い良く繰り出す下から突き上げた拳(アッパー)で、レインの父親(仮)が宙に打ち上げられる。

 勝利のゴングが鳴ると共に【K.O.】の文字がピコピコと点滅した。ドサリと崩れ落ち気絶寸前の父親(仮)を前に、勝者の威厳を示すように美玲は拳を振り上げガッツポーズを掲げる。

 圧倒的強者オーラの幼女に負けて、足元にひれ伏す駄目駄目な大人(仮)を前に、観衆(オーディエンス)の拍手喝采を浴びてドヤ顔を決めるまでがワンセットだ。

 格闘ゲームで兄に勝った(ためし)がないが、そんな妄想をしてみれば、多少は美玲の気も晴れた。……想像するだけなら自由だ。


 お父様の言いつけを守り、()わった目で妄想を繰り広げている美玲を置いて、レインは馬車から出てしまった。

 騎士と御者の静止も聞かず、彼らをスルリとすり抜け家に向かった。慌てて美玲も後を追う。


「君は、何か勘違いをしている様だな。砦はフォレスト領地の重要な要。そこの副隊長という役割は、誰にでも(こな)せるものではない。イーサンにはその実力があったからこそ抜擢(ばってき)されたんだ」

「伯爵……。ありがたきお言葉、私には身に余る光栄です」

「……どいつもこいつも何なんだよ、くそっ!」


 レインが玄関扉の前で立ち止まった。

 扉は空いているが、父親を前に足がすくんでいるようだ。美玲もレインの隣で立ち止まった。


 どうやらレインの父親は、劣等感の塊らしい。自分なりに頑張っても認められない現実に、疲れてしまったのだろうか。


(……気持ちは、わからんでもない。勝手に比べられるのは、嫌だな。それで勝手に優劣つけられるのはもっと嫌。誰もんなこた頼んでないわって感じ。けどさぁ、それを理由に他人を傷つけるのは、違うじゃん?)


 結局は、自分も人を傷つける側に落ちてしまったのか。しかしそうやって他人を傷つける事は、自分を傷つける事と何ら変わらない。


 (そもそも人の評価ばかり気にしていたら、疲れちゃうよ。何のために生きているのか、どうしたいかは人に決められるものじゃない、自分で決めるんだ)


 それに人や環境のせいにするのは楽だが、何故そうなったのかを自分で探り改善しなければ、いつまでたっても同じ事を繰り返すだけで成長出来るはずがない。自分でそこに気付けない事には、きっとレインの父親が変わることはないだろう。


「お前から俺がどう見えるかは知らないが、運だけで今の俺があると思われるのは心外だな。何より今お前がすべきことは、嫁さんやレインの為にも、生活を立て直して待つ事だろう!」

「うるせえな! レイン、あいつは本当に言うことも聞けねえ役立たずだ。……ミリアムも勝手に盗みなんざ働きやがって! そうだよ、あいつが勝手にやったことだ、俺は悪くねぇ!」


 ――ブチッ。

 美玲の中で、何かが切れる様な音がした。

 ダンダン! と、地団駄(じだんだ)を踏むと、皆が驚いて美玲に注目した。そんな事はお構い無しに、美玲はレインの父親めがけて声を荒らげた……!

 ――と、美玲がブチギレる前に、お父様が全て代弁してくれた。この場は大人達に任せるべきだ。


「いい加減にしないか! “俺は悪くない”などと言っている場合か! 父親にもなって、甘いことを言っているんじゃない! 自分の人生くらい、自分で責任を持て!」

「うるせえ、うるせえ、うるせえ!!」


 無謀にも、レインの父親はお父様に殴りかかった。

 ドガン! と物凄い音がして、レインの父親が吹っ飛んだ。イーサンがレインの父親を殴り飛ばしたのだ。


「お前っ! 伯爵に向かってなんて事を! それに……レインはっ! お前の操り人形じゃない! いい加減、目を覚ませ!」


 ――その後、辺りはしばらく騒然としていた。

 貴族に対する侮辱罪で連行されるレインの父親と、呆然と見送るレイン。

 ここは人目が多い。レインを馬車にのせ、氷晶の城へと戻った。

4・3に続きます(´・ω・`)



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