3・どうやら私、異世界に来てしまったようです!?
こんにちは!
お盆が過ぎましたが、相変わらず暑い日が続きますね。実は夏バテしておりました。
夏バテしても、食欲だけは減らず。むしろポテチが無性に食べたくなって、大袋をバリボリ平らげてしまった。体重計怖い。
今回、いたずら心でちょっとしたクイズ?を仕込んでみましたw 暇つぶし程度にお楽しみください。
ヒント・国の為〚同じor違う〛どちらか当ててみてね☆
彼女が振り向けば、爽やかな青空を思わせる水色の髪がヒラリと宙を舞い、アクアマリンの宝石の様に美しい瞳と、透き通る様な白い肌が見る者の視線を奪う。
ぷにぷにの小さな手と、覚束ない足取りと花の様な笑顔は見る者を魅了し、舌っ足らずで一生懸命に話す姿は庇護欲を掻き立てる。
齢四歳、このジャポネ皇国辺境の地、フォレスト伯爵領の伯爵令嬢にして、皆のアイドル。
――そう、それが。
「ミレーユ様〜!」
「きゃー! なんて愛らしいのかしら!」
「本当、まるで妖精さんの様だわ!」
マーガレットモチーフの装飾と胸元のV字の切り替えがアクセントの、薄黄色のチュールワンピース。編み込んだ髪にワンピースとお揃いの髪飾りを着けてもらい、お出かけ用にちょっぴりおめかしをした姿が鏡に写っている。
鏡越しに着替えさせてくれた侍女達(メイドはメイドでも、レディースメイドというらしい)に向かってにこりと微笑んでみる。サービスでくるりと一回りして、スカートの裾をつまんで小首を傾げてみる。
『きゃぁあ〜!』
侍女達の黄色い声援を受けノリノリでポーズを決めていると、強めのノックと共に呆れた声が聞こえた。開かれた扉の前には呆れ顔の侍女長と、ニコニコと笑顔の伯爵夫人が立っている。
「皆さん、奥様がおいでですよ。ミレーユ様のお支度は整ったのですか?」
『は、はい!』
侍女長に声をかけられた侍女たちは、ピシリと背筋を正し伯爵夫人に挨拶する。メリハリがあるのは侍女長の教育の賜物のようだ。
「おかあさま、じじょちょう、いかがでしょう。にあっていますか? じじょたちが、とってもかわいくしあげてくれました」
美玲は侍女達にやったようにくるりと回って見せると、黄色いチュールスカートとお花がふわりと宙を舞う。装飾は控えめなので、可愛い見た目の割にはとても動きやすい。伯爵夫人と侍女長ににっこりと、とびきりの笑顔を向けた。
「うふふ。とっても似合っているわ、ミレーユ」
「……ええ、ええ。ミレーユ様、とってもお似合いです。マーガレットの花の妖精の様に愛らしいですわ」
伯爵夫人、もといお母様は今日も今日とて、目眩がするほど美しい。
本日は領地の視察と言うことで、美しい銀髪は結い上げ、ブラウスにフレアスカートとブーツで比較的シンプルな装いだ。
いつも真面目で凛々しい侍女長も、ミレーユを前にくしゃくしゃの笑顔で応えてくれたので、美玲は満足気にうんうん頷いた。
(そうであろう、そうであろう。わたしも鏡を見て、あまりの可愛さにテンション爆上がりなのだよ)
鏡に映る少女の姿に、ようやく見慣れてきた所だ。現実を受け入れるまでは多少時間がかかったが、何事も慣れるものである。一ヶ月もすれば、美玲もある程度は置かれた状況に馴染んでいた。
――目覚めた後、訳がわからぬままにあれよあれよと一日が過ぎてしまった。
その日の夜、ようやく部屋で一人になると美玲はまじまじと鏡を見つめた。鏡の中に映り込むのは、四から五歳程のちょっぴりツリ目がチャームポイントの、水色髪の美少女だった。
美玲が右手を頬に当てると、鏡の中の少女もつられて右手を動かし手を当てている。
混乱した頭で頬をつねれば、少女もまた頬をつねる。ニヤリと笑えば、ニヤリと笑う。
それでも確信が持てなくて、その場で大きく両手を広げ、思い切りピョンピョン飛び跳ねてみた。鏡の中の幼女が髪を振り乱し、奇怪な動きで飛び跳ねていて……ただただ疲れただけだった。
(まじでどーなってんの、これぇ)
……どうやら本来の身体の持ち主であるミレーユは、川で溺れて意識を失っていたようだ。そこに何らかの形で、美玲の意識がミレーユに入り込んでしまった。
では、美玲の身体はどうなってしまったのだろう。ミレーユの意識と入れ替わっていたりするのだろうか、……それとも、もぬけの殻……。
嫌な想像をしてしまい、美玲はブルリと震えた。改めて、美玲は鏡の中の少女と向き合う。
おもむろに髪を一本つまみ、勢い良くブチッとな。……思ったよりも痛かったので、若干涙目になりながらも引っこ抜いた水色の髪をしげしげと眺めた。
(うむ。紛うことなき、水色)
地球人に、水色髪は居ない。これが地毛だとすれば、それは……。
光に透かしてみたり、引っ張ってみたり、結んでみたり。謎に蝶々結びにした髪を眺めながら、頭に浮かんだ言葉を思わず口にしていた。
「これが゛いせかいてんせい゛ってやつですかっ!?」
受け入れ難い状況に、美玲は頭を抱えていた。
――それから、約一月。
ここが異世界だとしたら、情報を集めねばならないと美玲は考えた。地球での当たり前が通用しないのなら、場合によっては無知は命取りとなりかねない。知識という武器を手に入れなければ!
そんなわけで子供の特権をフル活用し、情報収集に務める事にした。今こそ、年下の従兄弟から盗んだ禁断の技を使う時だ……!
時に逃げられる事もあったが、家族や侍女の仕事の邪魔をしない程度に、無垢な瞳で「それなんで?」と必殺技を繰り出せば。攻撃をくらった大抵の大人は観念して教えてくれる。
通称゛なんでなんで攻撃゛で聞きまくる事で、美玲にも大まかな世界観が視えてきた。
この少女の名は、ミレーユ・フォレスト。五歳の誕生日を目前にした、ジャポネ皇国辺境の地、フォレスト伯爵領の伯爵令嬢にして、皆のアイドル。
父はケンウッド・フォレスト伯爵。母はエミール・フォレスト伯爵婦人、兄はコンラッド・フォレスト伯爵令息。
フォレスト伯爵領は、ジャポネ皇国の北側の国境を守護する重要な役割を担っている。
父ケンウッドを筆頭に、フォレスト騎士団によって国境警備を任されており、日々魔物や他国の脅威から王国の安全を守護する、大事なお役目である。
この世界には、魔法にエルフやドワーフ、獣人等の異種族、そして魔物なるものが存在する様だ。
(ウォリべも現実だったら、こんな感じなのかなぁ)
ゲームを通して魔法や異種族は見慣れてるとはいえ、所詮は非現実世界だ。美玲にとってこの世界は正に、ファンタジーの世界である。
美玲も素質があるらしく、訓練すれば魔法を使えるようになる……らしい。いつか自分の手から炎やら水やらが出るなんてまだ信じられないが、瞬間湯沸かし器のようで便利かも、なんて現実的思考が抜けない美玲であった。
それにしてもいくつか不可解な点がある。話を聞いて美玲が気になった内の一つが、人物についてだった。
――森 美玲、それが美玲の本名だ。父は森賢人、母は森瑛美、兄は森航大。
父は地方公務員、母は中小企業のパート事務員で、二つ年上の兄は大学生だ。
貴族と公務員。国の為に働くという点では、ざっくり、平たく、大雑把に言えば、同じく無くも、なくもなくない、ような気もするのだが……?
(なんなん、このビミョーな類似点。ただの偶然? にしては父さんと兄ちゃんのツリ目とか、母さんの左目横のほくろと口元とかそっくりなんだよなぁ。……だがしかし、うちの家族はこんな美形じゃないぞ。あ、わたしが知らんだけで母さんってば、昔は超美人だったとか? 父さんもビール腹から腹筋チョコレートになったらこんなイケオジに? もしかして二人とも痩せて若返ったらこんな感じ!? …………いやいや、ないない。やっぱ違う、別人だわ。そもそもわたしも兄ちゃんも、ツリ目以外似つかぬ別人だわ。いくらなんでも美化しすぎじゃん)
平々凡々。本来の美玲はその言葉がしっくりくる様な日本人の標準体型に、若干のツリ目以外特出した個性の無い顔立ちだ。その割に今の姿に不思議と既視感があるのは、このビミョーな類似点のせいなのかもしれない。
いっそのこと全く接点の無い、新たな人生が転生ものの醍醐味ではないのか。妙な類似点が、違和感を増幅させる。
兎にも角にも、もっと情報が欲しい。
今日の領地視察は、幼女故に独りで身動きできない美玲にとって、外の世界を知るチャンスだ。この機会、逃すまい。
家族と合流し、広い階段を降りて玄関ホールへと向かう。使用人によって左右に大きく開かれた玄関扉から、外の景色が広がった。
美しく手入れされた樹木の緑、噴水から湧き出る水の青、城の外観と石畳は白い石で統一され、三色の美しいコントラストに息を飲む。
別名“氷晶の城”。石造りの城が堅牢でありながら重苦しさを感じさせないのは、雪の結晶の様に美しく調和が取れているからだった。
あまりの美しさに見とれていると、お母様にどうしたのと声をかけられる。美玲が見とれていた間に、お父様とお兄様は先に馬車にたどり着いていた。
石畳の上をトテトテと小さな体で懸命に歩く様子を、家族と使用人に見守られながら歩いた。
(ううう、じっと見られると歩きずらいよ〜)
こんなに注目されるのは、体育祭や発表会位だ。見られているという緊張から、何も無い所でつまずいてしまった。
つんのめって転ぶ既の所で、ふわりと優しい風が美玲の体を包む。何が起こったのかわからなくて呆然と立ちすくんでいると、お母様が目の前にしゃがみ込んだ。
(な、何今のっ!? ふわぁって柔らかい風が…………あっ、魔法か! すご~い! お母様すご~い!)
お母様は優秀な魔法使いでもある。風を操り、美玲が転ぶのを防いでくれたのだ。
怪我が無いかと心配するお母様に抱きつくと、柔らかくて、なんだか懐かしい様な、良い香りがした。思わず美玲はお母様の肩にほっぺたをスリスリしてしまう。
(ムフフ、役得役得。――さあ、とくと見るが良い! 皆の者、羨ましかろう)
美玲がお母様の肩越しにサッと視線を走らせると、御者や騎士、執事に侍女たち、そしてお父様が慌てて目を反らす。
お父様は軽く咳払いをしながら、心配を口にした。
「ミレーユ、大丈夫か?」
「ミレーユ、まだ調子が悪いなら、母様と一緒にお屋敷で休んでいても良いのよ?」
ぎゅっと抱きつく娘に、お母様は心配そうに声をかける。下心満載だった美玲は我に返り、お母様から身体を離すと、握りこぶしでドンと力強く胸を叩き元気いっぱいに答えた。
「しんぱいはいりません、おかあさま! わたしも、みんなとはくしゃくりょうのしさつにいきたいです! それに、しんぱいしてくれたみんなに、げんきになったすがたをみせたいのです!」
ミレーユが寝込んでいる間、話を聞きつけた領民達からお花やぬいぐるみ等のお見舞いの品を受け取っていた。野花のブーケや手作りのぬいぐるみなど、領主一家からすれば素朴でささやかな贈り物だが、贈ってくれた気持ちが美玲にはとても嬉しかった。……そして、どこかにいるはずの本物のミレーユに、彼らの思いが届いている事を願った。
今日はもらったうさぎのぬいぐるみに紐を付けてもらい、斜めがけにしている。超かわいい。
「……そうね、みんなにありがとうってお礼を伝えなくてはね。それならミレーユ、母様と約束してちょうだい。もうあんな無茶をしてはだめよ?」
「はい、おかあさま。わたしたちは、もうしんぱいをかけるようなことはしません!」
「……わたしたち?」
「………………ミャー」
「ピチュピチュ」
いつの間にか美玲の足元にすり寄ってきた黒い子猫と、頭に留まった茶色の小鳥。見慣れぬ愛くるしい動物達に、多くの者が困惑した。
美玲が小鳥を手の甲に乗せると、隣に立つお兄様の肩にピョンと飛び乗った。お兄様は嬉しそうに小鳥を撫でてやる。
(おお、良いではないか、良いではないか。美少年と、鳥。これは眼福、絵になるのう)
爽やかな晴天の下、小鳥と戯れるお兄様を眺め美玲はうんうん頷く。そんな子供達の様子に、お母様は口元に手を当て驚いた。
「あらまあ。……ふふ、随分と懐いたのね」
「…………えっとコンラッドにミレーユ。この子達は一体どうしたんだ? 父様に紹介してくれるかい?」
「あっわすれてた! おとうさまにしょうかいします! んとねー、このこがいけでおぼれていたところをたすけたら、なつかれました! このこははねをけがしていたので、みんなでてあてをしてげんきになりました! ねこさんのおなまえはシズクで、とりさんはソラっていいます!」
美玲がしゃがみ込んで黒猫の背中を撫で撫ですると、気持ち良いのか目を瞑った。そんなシズクを茶色い鳥はお兄様の肩から降りて、ちょこまかしながら興味津々に眺めている。そんな姿が微笑ましい。
「あなた、お仕事が忙しくてまだ会えていなかったものね。ミレーユがこの子達を見つけて、皆でお世話していたのよ。ほら、夕食の席でお話しましたでしょう」
「……ああ、そうだったな! そうか、我が家のお転婆姫が助けた子達だったのかい。皆元気になって良かったな。……君も、もう危ない遊びはしてはいけないよ」
お父様がシズクを撫でると、返事を返す様にニャンと鳴いた。
……ミレーユが溺れた原因は、シズクを助けようと川に入ったからだった。伯爵邸近くの林で地面に横たわるソラを見つけて、手当ての為に連れ帰ったのも、ミレーユだそうだ。
本来のミレーユも、美玲と同じく動物好きなのだろうか。
美玲は昔から、何故か動物に好かれる体質だ。本人も世話好きで、行き場のない犬猫を家に連れ帰るクセがあった。森家では、犬二匹、猫二匹の計四匹と共に暮らしている。もちろん散歩やお世話は美玲の役目だった。
(皆、元気かな。父さん母さん兄ちゃん、ちゃんと面倒見てくれてるよね。……ああ、今すぐ皆をモフりたい……)
残してきた家族に思いを馳せていると、お父様が執事長に声をかけた。
「今日は城壁へ向かうから、流石に連れて行く訳にはいかないな。……スチュワート」
「はい閣下。お坊ちゃま、お嬢ちゃま。可愛い護衛達にはお城を守っていただきましょうね。……ささ、こちらへどうぞ」
執事長の言葉に侍女長が頷くと、二人の侍女が前に出る。一体何処から取り出したのか、侍女の手には煮干しと小さな木の実がそれぞれ乗っかっていた。
二人がシズクとソラに見えるように手のひらをふりふりと動かすと、一匹と一羽はそれに釣られて城の中へと去っていく。…………何処となく侍女二人が楽しそうなのは、気の所為では無いはずだ。
お留守番の皆に彼らを託し、美玲達は馬車に乗り込んだ。馬車に乗るのは初めてで、少し緊張する。……乗り物酔いはしないだろうか。カタカタと車輪が動く音が響き、馬車が動き始めた。
馬車の中はクッションが効いた座り心地の良い椅子で、思ったよりも快適だった。しかし残念ながら、美玲の今の身長では窓の外の景色は見えない。背伸びをしてみたが、窓には届かなかった。
「……どうしたミレーユ、外の景色が見たいのか? どれ、危ないから父様のお膝においで」
コクリと頷くと、お父様に抱き上げられた。腿の上に座らせてもらうと、馬車の窓から外の景色がよく見える。
「うわぁあ〜!!」
柔らかに頬を撫でる風と、馬の蹄の音。そして窓から見える、美しい城塞都市。それは美玲が未だかつて見たことがない、壮観な景色だった。
動物保護に関しては、野鳥保護法とか病気とか現実的には難しい点もあるのですが、フィクションなので大目に見てくださいな。
ちなみに…クイズわかりましたか?〚同じく無くも、なくもなくない〛
正解は………〚同じ〛でした~!
ではまた次回、お会い出来たら嬉しいです(*^^*)