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2・この状況を把握しています!!

こんにちは。ホラー好きの後輩に勧められたホラゲが怖すぎて、動画配信で楽しんでいる龍福芽依です。

流石に夜な夜な独りでホラゲをする勇気は無かった…。自分でプレイすると集中し過ぎて、気づくと息止まってるんですよね。怖いわぁ。

 気づくと真っ暗闇の中に、美玲は立っていた。


 何も見えず、何も聞こえず、ただただ暗闇が広がっている。

 恐る恐る前に手を伸ばしたが、(くう)を切っただけ。

 何故自分がこんな所居るのか解らない。お風呂に入っていた所迄の記憶はあるのだが……、訳が解らず美玲の心はざわざわと不安になった。

 

「…………おおーい! 誰か、居ませんかー?」

 

 先が視えない為、むやみに動くのは躊躇(ためら)われる。

 自分の置かれている状況を知るため、美玲はとりあえず暗闇へ呼びかけてみたが、声は反響することなく消えていった。


 (どこか開けた場所に居る、みたい? ここは……外? ) 

 

 かつて家族でキャンプに行った時の事を思い出しながら、状況を把握しようと考える。

 小学生の頃に兄と二人、探検と称して山で迷子になった事を思い出した。テントからあまり離れていなかった事が幸いしたが、両親には物凄く怒られた記憶がある。

 ただあの時は夜の暗闇であっても、夜目に慣れれば近くの兄や草木のシルエットは視えていたし、木々の風にしなる音や生き物の気配で溢れていた。ガサガサと近くの草が揺れる度に、怖がった美玲は兄に抱きついたのを、今も覚えている。 

 

 ……今は耳を澄ませてみるが、風や虫の音、動物の鳴き声さえも、何の音も聴こえない。目を凝らしても自分の手すら視えない……闇一色の世界。

 美玲は無意識に、鳥肌が立っている両腕を擦っていた。触れている事で、自分が確かに存在する事に安堵する。

  

「…………父さん、母さん! 兄ちゃん! ねぇ、誰か居ないの? てかここ何処? 何これ夢?」 

 

 もう一度、呼びかけとも独り言ともつかない言葉を暗闇に放つ。しかし、しばらく待ってはみたが何の変化も無い。

 あの時は独りじゃないと、兄の手を握って強がってみせたけれど。……今ここには兄も両親も友人も、誰もいない。自分以外の気配を感じられない。 


 (どうしようどうしようどうしよう、どうしたらいい? …………わかんないけど、このままじっとしていたってしょうがないんじゃないの!?)

 

 突っ立っているだけじゃどうにもならないと思い至った美玲は、恐る恐る一歩踏み出した。

 足元も視えない闇の中を踏み出す事はとても恐怖を感じるが、勇気を振り絞ってそろりとすり足で、少しずつ少しずつ前に進んだ。

 ……急に地面が無くなったらどうしよう、行き止まりで進めなくなるか、逆に果ては在るのだろうか。そもそもが、本当に進んでいるのかも分からない。

 心細さと不安から、そんな考えが美玲の頭をよぎる。


 (もう、いったい何なのこの状況! あああ、神様、仏様、ご先祖様! どうかわたしをお助けください!!)

 

 必死に祈ったお陰なのか、少し離れた場所の扉らしきものから光が漏れ出ている事に気がついた。

 美玲は光に向かって駆け出し、躊躇うことなく扉を押した。すると視界が白い光で埋め尽くされ、あまりの眩しさにギュッと目をつむる。

 何か、強い力に意識が引っ張られ、体がバランスを崩しグラリと傾く。

 慌てて目を開けると、ドボンと水の中に落ちていた。

 

「―――!? ―――!!」

 

 突然水の中に放り込まれ、美玲はパニックになった。無我夢中で水面に出ようともがくが、水の流れが速いのか身体が思う様に進まず、多量の水を飲んでしまう。

 目まぐるしく流れる景色は、息苦しさで次第にぼやけていく。

 美玲は遠のく意識の中で、誰かに腕を引っ張られた様な気がしたが、遂に意識を手放した。

 

 


 ……。

 ……………………。

 

 強い光の余韻からか、ぼんやりした頭のまま目が覚めた。 

 目を開けると真っ白な天井と、豪華なシャンデリアが目に入る。どうやら横になっているようだ。


「――! ――!」

「――!!」


 それにしても、なんだかあたりが騒がしい。

 あの謎の暗闇や溺れていたのは夢だったのか。

 人の気配がする。それだけで美玲は安心した。

 

 (どうせ父さんがまーたお酒飲みすぎて、母さんにお説教食らってるに違いない。昨日も怒られて……って、あれ? …………そう言えばわたし、いつベットで寝たっけ……? )

  

 ガバっと勢い良く起き上がろうとしたが、体中に激痛が走り、ベッドの上で身悶えた。

 

「い゛っ!? い゛だだだだ!! い゛っ、い゛だっ!!」

 

 声はガラガラで、体もバラバラになるんじゃないかってくらい、あちこちが痛い。あまりの痛みに我慢できず、涙がボロボロとこぼれた。

 

「ミレーユ!!」

「よかったミレーユ、目が覚めたのね!!」

「お嬢様!!」

 

 扉が勢いよく開くとなだれ込むように人々が駆け込んで来る。

 美玲の周りに人が集まって来たが、それどころではない。頭の中はパニックになっていた。

 

 (なんでこんなに痛いの!? )

 (なにが起こっているの!? )

 

「大丈夫か、ミレーユ!」

「ミレーユ!!」

「ミレーユが……!!」

 

 こっちは必死に痛みを我慢しているというのに、見知らぬ人々がベットの周りに集まって騒いでいる。

 耐えられなくなった美玲は、あまりの痛みに血走った目で騒ぎ立てる人々をにらみつけ、キレた。

 

「……あ゙あもう、るっさいっ!! 頭もっ、体も痛くてっ、はぁはぁ……ったまんない、のにっ……騒がないでよっ!!」

 (ミレーユ、ミレーユ、うるっさいわ!! )

 

「す、すまない」

「先生はまだいらっしゃらないの!?」

「あぁっ、今先生がいらっしゃいました!!」

 

 美玲は汗と涙でぐしゃぐしゃになりながら、ガンガンと痛む頭の片隅で、考える。

 ここはどこかの病院だろうか。ちらりと見えた人々の中に……自分の家族は見当たらない。

 止まない痛みに、美玲は悲観的になっていた。

 

 (……わたし、死んじゃうのかな……) 

「い゛たいよぉ……」 

 

 痛む体を抱きしめうずくまりながら、唐突にこれまでの人生の様々な出来事を思い出す。

 まだ18年しか生きていないのに、まだまだやりたい事も、行きたい場所も沢山あるのに、こんな死に方はあんまりなんじゃないかと思う。

 身近な人々の顔が浮かび、更に涙が溢れた。


 (せめて、家族に会いたい。…………あとは、あいつに、文句の一言でも言ってやりたい)

「……きの、……か、わ……ずや」

 

 誰かが、美玲の手を優しく握ってくれる。不安と絶望で一杯だった胸の内が、少し軽くなった気がした。

 額に手が当てられると、心地良い癒しの波動に少しずつ痛みと疲労感は和らぎ、ドッと眠気に襲われる。

 意識が遠のいて、自然と瞼がおりた。

 

「……よく頑張ったな。皆そばにいるから、安心して眠るといい」

 

 目をつむると穏やかで優しい声が頭の上から降ってくる。

 握った手のぬくもりと穏やかな声に安心したのか、いつのまにか美玲は眠りについていた。

 


 ******



 乾いた唇に、ちょんちょんと濡れタオルが触れた感触があり、目が覚めた。

 今は、あの酷い痛みは嘘のように消えている。横になったまま辺りを見渡すが。……見覚えのない景色に、美玲はとてつもなく混乱していた。

 

 (えっ、ここ何処? 病室、だよ、ね? やけに豪華な個室だけど)

 

 布団カバーは可愛らしいクリーム色の小花柄。その他の色調は大体白と水色で統一され、全体的に女性向けに作られたと思われる内装だ。

 天蓋付きのベットに、枕も布団もフッカフカ。ベットサイドには可愛らしいすずらん笠のランプと、壁際の棚の上にやたらとでかい壺にモッサリと活けられた花がある。

 他にもパッと見で目に入るだけでも、周りにある物は価値の分からない美玲から見ても高そうだと感じた。

 おまけに謎の美女が、甲斐甲斐しく美玲の世話を焼いてくれているようだった。

 ……少し変わった制服だが……看護師さんなのだろうか?

 

 (すんごい美女だわ、この人。何なに? この病院、色々凄い)

 

 立ち上がった美女を、美玲は思わず目で追った。

 出るとこは出て、締まるとこは締まっている、いわゆるボン・キュッ・ボンてやつだ。 

 白玉の様にむっちりとした色白の肌とチワワの様なくりくりの目元、サクランボの様なぷっくりとした唇は無垢な少女の様だが、白を基調としたシンプルなタイトロングドレスを身にまとい、結い上げた艷やかな銀髪によって大人の色気も醸し出している。華やかだが、品の有る、いわゆる清楚系美女ってやつだ。

 このロングドレスは物凄く似合っているのだが、膝裏まであるスリットから生足がチラチラと覗いて、制服としてはいかがなものか。それとも昨今の看護師さんは、医院長の趣向に合わせた服を着るのだろうか?

 

 (いやいや、んなわけ。そりゃあ目の保養だけど、そんな話し聞いた事無いよ? セクハラじゃん? )

 

 美玲は脳内で一人ツッコミをした。

 予想以上にこの状況に混乱しているらしい。目をつむり、現状把握に務める。

 ……ベッドにいるそもそもの原因は、恐らくお風呂で寝てしまった為だろう。あのまま溺れて病院送りになったのか。

 お風呂で溺れたという事は、つまりは、全裸。真っ裸のスッポンポンを、誰かに見られたというのだろうか。美玲は三度(みたび)意識を手放しそうになった。

 

 (…………うん、まあ助かったんだし今更気にしてもしゃーない。それよりうちの親って、そんなに金持ちだったの? 知らんかった)

 

 ふわりとラベンダーとオレンジの様な、ほんのり甘く爽やかな香りがした。どうやら美女が温かいタオルで額を拭いてくれたようで、とっても気持ちが良い。

 細い所まで配慮が行き届いた、心地良い癒しのひと時に、美玲はしきりに関心していた。

 

 (すんごい至れり尽くせリだわ、この病院。退院したら評価サイトに星5つけとこう)

 

 女神の様な絶世の美女に優しくお世話され、天に召されたかと思いました、と。

 そんな事を考えて目を開くと、至近距離で美女とばっちり目が合った。

 輝く様な銀髪と同じ色のふさふさマツゲに縁取られた、アクアマリンの様に美しい目が、零れ落ちそうな程に見開かれる。


「ああミレーユ……! 気分はどう? 痛い所は無い?」

 (…………ミレーユ? いやわたしミレイですけど)


 こちらを見て息を飲む美女を見つめ返しながら、美玲は頭の中に疑問が浮かんだ。

 返事をしようにも、かすれた声しか出ない。喉を抑える美玲の様子を見て美女がベルを鳴らすと、ノック音の後、エプロンドレス姿の女性が姿を現した。


 (おおっ!? メ、メイドさんのコスプレ? ピンク髪初めて見たわ。意外と馴染んでるし、メイド服かわい〜。何のコスか判らんけど、後で一緒に写真撮ってもらえないかな? ……そういやこの美女も銀髪じゃん。なんで、わたしの病室にレイヤーさんがいるのでしょうか? ……なんか……おかしくない? ここ本当に病院だよね? それともこれは、夢?) 


 若干放心状態のまま体を起こしてもらい、水の入ったグラスを受け取ると乾いた喉を潤す。

 水を飲んで少し落ち着いたので、改めてぐるりと室内を見渡した。思わず両手で目をゴシゴシ擦ってみても、景色は変わらない。

 ――それよりも。


 (なんか……なんか、変だ)


 違和感を感じ、まじまじと両手を見つめる。記憶よりも随分と小さい(・・・・・・)両手を見つめながら、現状把握の為に、美玲の脳はフル回転していた。

 

「ミレーユ、良かったわ。とっても心配したのよ」


 愛おしそうに美女に抱きしめられ、違和感がどんどん膨らんでくる。

 扉をノックする音が聞こえ美女が返事をすると、見慣れない水色髪の男性が、美玲めがけて真っ直ぐに歩み寄ってきたきた。


「ミレーユ、体調はどうだい? もう痛い所は無いか?」


 そう言って、水色頭の男性に優しく頭を撫でられ、おでこにキスされる。されるがままに、美玲は唖然としながら男性を見上げるしかなかった。

 ……動悸が、段々と激しくなる。


「なかなか目を覚まさないから、皆とても心配していたんだよ。おお神よ、私の可愛い娘を助けてくださり、感謝申し上げます」


 大きくてゴツゴツした両手でほっぺたをむにむにされ、美玲は戸惑った。

 面長でクールな印象を与える顔立ちの男性だが、目尻は下がりに下がっている。


 (娘。うん、確かに娘って言ったな、今。……あれ、娘って何だっけ)


 現実逃避し始めた美玲の思考を引き戻す様に部屋の扉が開け放たれると、銀髪の美少年が部屋に飛び込んでくる。

 少年はその勢いのままに美玲のベットに飛び乗った。振動で、美玲の体も思考もグワングワンと揺れている。


「ミレーユ、目が覚めたって!? 兄様はとっても心配したんだぞ!!」

「コンラッド! ミレーユはまだ病み上がりなんだから、騒いではいけませんよ!」

「ごめんなさい母様。ミレーユが目を覚ましたのが嬉しくって、つい……」

「まあまあ、ミレーユの具合も良さそうだし、コンラッドもずっとミレーユに会うのを我慢していたんだ。良かったじゃないか、こうして家族一緒に居られるんだ」


 そう言って男性は大きく腕を広げ、ガバリと三人まとめて抱きしめた。少年の肩と鍛え上げられた男性の二の腕にほっぺたが挟まれ、美玲はアヒル口になった。

 仲睦まじい様子の親子に挟まれながらも、美玲は完全に置いてけぼりである。


 (ミレーユって、ミレーユって、誰ーーーーーーーーっ!?)

 

 美玲の心の叫びは誰に届くことも無く、思考の彼方へと消えていった。

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