1・いったい何が起こったのでしょうか!?
こんにちは(◍•ᴗ•◍)
この作品に興味を持って頂き、ありがとうございます!
いや〜、夏ですね~、暑いですね~。夏バテや熱中症に気を付けつつ、酷暑を乗り切りたい所ですね。
今作は前作とだいぶ毛色が違う感じです。口調が令和JKっぽくないかもしれないですがだいじょぶかしら。
今回はラブコメです。ではでは、よろしくお願いしまーすヾ(・ω・*)ノ
帰って来るなり荒っぽく脱ぎ捨てたバッグとコートを椅子に放り投げ、手早く一連の準備をすると美玲は愛用のクッションに陣取った。
「飲み物良し、おやつ良し、スマホ良し!」
荷物は散乱して、脱ぎ捨てた服は山積み。
母に見つかったら行儀が悪いと叱られそうだが、長かった受験勉強からようやく開放され、ずっと楽しみにしていたゲームをついに解禁する日が来たのだ。今日くらいは大目に見てほしい。
先程まで友達と受験お疲れ様会をしていた為、いつもより高いテンションで、独り言も絶好調だ。
「よっしゃ、今日は徹夜しちゃうか!」
【――作って、食べて、戦って。心のままに、この世界を生きよう。 画面の中のもう一人の自分と、この世界の隅々まで遊びつくせ】
そんなキャッチコピーのアクションRPGゲーム「WARRIOR OF LIBERATATION」のパッケージを眺めつつ、ゲームが起動するのをソワソワと待っていた。
WARRIOR OF LIBERATATION。意味は自由の戦士、だそうな。
その名の通りフィールドはオープンワールド、キャラクターデザインから性別、種族、職業、武器、仲間や恋人、結婚相手も選べる。ストーリーも大筋は決まっているものの、選択によって状況が変化する自由度の高いゲームだ。
「キャラデザどうしよ~。えっと、どうせなら主人公は超イケメンにしよっと。んで、美少女と美女のハーレムに、イケオジとショタのゴールデンパーティで世界征服……っと」
思うままに言葉を吐き出し、欲望のままに設定を決めていく。
大学受験のストレスから解放された今、美玲はまさに求めていた自由を満喫していた。
神の言葉を降ろすかの如く天を仰ぎ、理想の超絶イケメンについて思案する。
「……よし来た! インテリ、ヤンデレ、ナイスガイ。金髪、碧眼、細マッチョ。…………よーっしよし、いい感じじゃないの!?」
そしてこのゲームの最大の特徴である、AIキャラ作成機能。
これはプレイヤーがキャラクターデザインをする際、キャラのプロフィールを入力すると、AIがキャラの生い立ちと性格を考慮して口調や立ち振舞を設定してくれるので、よりリアリティのあるプレイヤー理想のキャラデザができると話題になった。
ゲームスタート時点から膨大なデータ量でWi-Fi必須だが、プレイ時間3桁でもまだ遊べると発売から1年たった現在も売上ランキングTOP3をキープ。
このゲームの大筋は、世界でたった一人、自分だけのオリジナルキャラが世界のどこかで赤子として生まれ、魔王を倒す勇者となるまでの王道冒険物語である。
「やっだもー、超イケメンに育っちゃうんじゃないの? えーっと名前? えとえと、んんー、どうしよ〜」
美玲は出だしこそ遅れをとったものの、バイト代で購入したゲーム一式を前に、時に誘惑に負けそうになりながら受験勉強を頑張ってきたのだ。
「決めた! キミの名はレインだ!」
だから、ちょっとやそっとの事で弱音を吐く事なんて、無いと思っていたのだが。
「あ、詰んだこれ」
……そう、赤子として。
うっかりヤンデレ設定したキャラが悲惨な幼少期を過ごすこともある、人によっては末恐ろしい機能なのだ。
AIは優秀だ。優秀故に、膨大なデータから最適な人物像を作り出す。
モブではあるが、家族も主人公に合わせて一緒にキャラデザされるので、ヤンデレ製造機としてのクズっぷりをまざまざと見せつけられた。
……そう、今更ながら美玲は自分の選択を激しく後悔していた。
「あああ、わたしのレインが病んでいく……」
5歳の誕生日まではプレイヤーが入力したデータを元に、AIが主人公の成長過程を紡いでいく。
途中何度も両親からの罵倒や暴力に心が折れそうになりながら、美玲は自分の理想を詰め込んだ超絶美少年の主人公レインを、ただただ幸せにしたい一心で見守り続けた。
ストーリーは最終的に魔王を倒すとエンディングになるのだが、このラスボスの冷酷なまでのスキル設定に初見プレイヤーは瞬殺されるとかなんとか。
中々挑戦的な仕様も相まって、ラスボスまで行かずに遊ぶ人が大半だそうだ。
主人公がシナリオの節目となるいくつかのイベントをクリアするまで魔王は復活しない仕様になっているので、それまではサイドクエストをこなしながら育成するのがこのゲームの基本だ。
そのため大抵のプレイヤーはそのイベントまでにキャラを育成しながら畑仕事や人助けをしたり、はたまた最強装備を入手するために傭兵や盗賊となりダンジョンに入り浸ったり、商人としてNPCと駆け引きして資金稼ぎしたりと、さまざまにこの世界を楽しんでいる。
最初は美玲もこの、ちょっとばかり愛が重い超絶イケメンの主人公レインで、かわいくて強い美少女と癒し系おっとり美女、ダンディでスマートな素敵おじさま、パーティのマスコット件愛くるしい獣人少年を仲間に魔王討伐……はほんのおまけで、異世界ハッピーライフを満喫ついでに世界征服を目論んでいた、の、だが。
「これ完全ハードモードじゃん」
冷めてぬるくなったレモンティーでカラカラの喉を潤すと、少し気持ちが落ち着いた。
五歳の誕生日になり、ようやくプレイヤーが主人公を動かす事ができる。そこで遂に、勇者覚醒イベントが起こるのだ。
――何処からともなく現れた黒猫に誘われ、迷い込んだ光降り注ぐ白亜の神殿。床一面に咲く真白の花の合間を通り抜け、祭壇に立つと。
目の前には女神様が画かれたステンドグラスに、開けた天上。雲の合間から、天使の梯子が降りる。
光の中に浮かび上がった女神様から天啓を受け、勇者の証を額に授けられるのだった――
「おいコラ、そこは『キミ、カワイイネ』とかちょっとは気の利いた事でも言わんかーい! 不器用さんかね君は」
実家を離れ独り立ちしてからと言うものの、対人で苦い汁をすすってきたヤンデレの宿命か、社交スキル底辺のレインがどう仲間と協力して魔王を討伐するのか。
美玲はレインのあまりのコミュ力の低さに苦戦を強いられていた。
必要最低限しか話そうとしないレインを強制的に会話させて、先ずはギルドメンバーと少しずつ仲良くなって交友関係を広げていかないと、パーティメンバーを組めるかも怪しい。
孤高の勇者とは聞こえは良いが、魔王に独り突撃しても瞬殺されるだけだ。
……それに、やはりレインが誰かと苦楽を分かち合う姿をこの目で見たい。心を開いて、背中を預けられる仲間と共に、大声で笑い合う所が見たい。
美玲はそんな一心から、手当たり次第にNPCに話しかけまくった。
今の所、話しかけておいて「ああ」とか「いや」しか言わないポンコツ主人公に、戸惑いながらも会話に乗ってくれるギルドマスターには感謝しか無い。……きっと忙しいだろうに。
「これは、心して育成せねば……。だいじょぶ、わたしがついてる。先ずは、お友達から」
******
「いーや、中ボスも強強じゃん」
美玲は部屋に引き籠もり、のめり込む様にゲーム漬けの日々を送っていた。
「にしてもエヴァンジェリンかわ〜。やっぱレインの嫁はエヴァンジェリン一択だね。君が居なかったら、レインは独りで魔王に突撃するところだったよ。全くこのシャイボーイめ。……はぁ~、お陰でようやくまた一人、パーティメンバーが揃った」
ギルドマスターの紹介で知り合ったエヴァンジェリンは、レインと正反対のコミュ力おばけで在りながら、かわいい、やさしい、つよいの3iを兼ね備えたスーパーヒロインだった。
レインが苦手な聞き込みや相槌をフォローしつつ、時に相手を上手く誘導して必要な情報を聞き出すと言う高等技術を所持している。もはや二人の出会いはギルドマスターの采配、運命としか思えない。
どんな場所、種族のギルドでも、ギルドマスターは固定のようだ。多くのプレイヤーが序盤で交流するであろうギルドマスターは、きっと主人公を補佐する役割でレインの様なプレイヤーと釣り合いを取るため、他のNPCより柔軟に設定されているのかも、なんて都合良く解釈する美玲だった。
クッションに深く寄りかかりぐったりしながらレモンティーを飲んでいると、ポコンとLIMEの通知音が鳴った。
『明日10時に校門前集合ー☆』
中学時代のグループLIMEからの通知だった。進学、就職により地元を離れる子達も居るので、その前に皆で集まろうと言う事になっていたのだった。
「あー、そう言えば明日だっけ」
スマホを持ったままベッドにゴロリと横になると、画像フォルダから中学時代の懐かしい面子の写真を眺める。この写真を撮ってから、もう3年もたったのかと思うと自然と溜め息が出た。
仰向けに寝転んでいた為、スマホを枕元に置くと電気の光が眩しい。
美玲は両腕で目元を隠すと、しばらくの間そうやってじっとしていた。
「美玲ー! お風呂入っちゃいなさいよー!」
「…………はぁーい、わかったー!」
階下から母の声が聞こえたので、美玲も大声で返事をする。
ノロノロと立ち上がり、着替えを持って部屋を出た。
「あ、そう言えば美玲、今日愛理ちゃんに会ったわよ。ほら、あそこよ。あそこのスーパーでバイトしてるんですってね」
脱衣所の扉まであと一歩という所で、キッチンから話しかける母の言葉に美玲の足がピタリと止まる。
「愛理ちゃん、益々綺麗になったわね〜。あんたと同じ大学に行くんですってね。美玲は元気かって聞かれたから、元気有り余ってるって言ったら笑ってたわよ〜。一緒に居た男の子にも挨拶されたけど、あんたの同級生にあんなにかっこいい子居たかしら? 確か」
「あーもう良い? 明日用事あるから早くお風呂入りたいんだけど。どうせ明日愛理と会うんだし」
このままではあまりにも長くなりそうなので、美玲は母の話を遮り脱衣所の扉に手をかけた。
「ああ、はいはい。次入るんだから、早く上がんなさいよ」
「……はいはい」
湯船に身を沈めると、温度差で手先がジンジンする。流石に連日のゲーム三昧で目がシバシバ、身体はバッキバキだ。
肩まで湯船に浸かると、あまりの心地良さに目をつむった。
「あぁ゙~ぎもちぃ〜、極楽極楽。……やば……寝そう……」
身も心も解れる心地良さ。
流石に寝る前に湯船から上がらないと。そうは思うのだが、あまりの心地良さに目が開かない。身体が動かない。
だから、もうちょっとだけ……。
もう、ちょっと、だけ………………。
………………………………………………。
作中のゲームが実際にあったら、情報処理でロード時間長過ぎてイライラしちゃう、かも?(・–・;)ゞ
ちなみに私は黒髪推しです。特定のキャラを推している訳ではないですが、赤や紫、青のおめめですと尚良しです。