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2 売り先

 王である父親が間違っていることを、彼女は知っていた。

 けれども、娘であり、王の臣下である総司令官としては、その命に従うしかなかった。


 彼女は臣下として優秀であり、従順な娘だった。

 けれども、民にとって彼女は無能は総司令官であり、愚かな王女だった。


 腹心である副司令官の彼は、そんな彼女にいつも従っていた。

 乳母の息子であり、本来なら副司令官の地位に昇ることも叶わぬ下級貴族。

 けれども彼はその優秀さを周りに証明しつづけてきた。

 愚かな者以外は、彼を見下すことはなかった。


「カルロ。いつもすまないな」


 これは王女の口癖だった。

 彼女は腹心であるカルロの苦労を誰よりも知っており、その絶え間ない努力の底に、自分への思慕があることを知っていた。

 けれども王女である自分がカルロと結婚できないことは明白で、それならば彼女は可能な限りで結婚を引き延ばしていた。

 二十二歳になり、子供を産む年齢の限界が近づいていた。

 そろそろ決断しないといけない、そんなことを思っているとそれはやってきた。

 最初は徐々に、しかし確実に国を、王を蝕んだ。

 いや、王が国を蝕んだのだ。

 王は世界を支配する愚かな夢を抱いた。

 隣国を侵略し、奪い、支配した。

 周辺諸国を、一つ、二つと支配し、王の野望はどんどん膨らみ、国民を戦争に駆り立てた。

 けれども周辺諸国が連合を組み、王国と対峙した。

 一国なれば王国は無敵だった。

 しかし連合となれば異なる。

 戦争に負け続け、それでも戦争をやめない王。

 国は疲弊し、国民の負の感情が高まった。

 王女は戦争をやめるように進言したこともあった。

 けれども、王は王女の、総司令官の言葉を聞かなかった。

 そして、それは起こった。

 革命だ。

 王女は覚悟した。

 そして、王が殺された時点で、王国軍の武装を解除し、投降しようとしていた。

 愚かな王の責任を王女は取るつもりだった。

 けれども、王国軍の一部が王女を裏切り、革命軍と共に王宮へ押し入り、王を殺した。

 革命軍のリーダーの前に、ひざをつき、王の首を差し出したの王女の腹心であるカルロ。

 彼は褒賞として、王女の身柄を希望した。

 それは最初から決められたことらしく、王女は身分をはく奪された上、カルロの奴隷になった。

 リーダーに食って掛かろうとした彼女を押さえつけ、その口に布を巻き、カルロは王女を連れ帰った。

 そうして、今、元王女は国から出て、カルロと共に旅をしている。


「殺してくれ。頼む」


 元王女は何度もカルロに願った。


「嫌ですよ。やっとあなたは私のものになったのに」


 その度にカルロは薄笑いを浮かべる。

 元王女は腹心の様子に、復讐されているのではないかと思うようになっていた。

 カルロの想いを知って、ずっと彼を傍に置き続けた。

 早く解放して、誰かと共に添い遂げされたほうがよかったのではないか。

 元王女は、今となっては役に立たない自身を連れて旅をするカルロに憎しみよりも憐れみを持つようになっていた。


「カルロ。私を捨てていけ。あなたはまだ若い。私など連れて何になる」


 王女である、総司令官であった彼女は炊事など何もできなかった。カルロがすべて彼女の世話をしており、作戦指揮などは優秀であったが元王女は生活能力がゼロであった。


「そのうち、あなたを売り飛ばそうと思いまして」

「そうか。なら高く買ってくれるところに売り飛ばせ」


 元王女はカルロの言葉にそう返した。

 彼の路銀になるのであれば、よい。

 そう思って返したのだが、カルロはそっぽを向いただけだった。


 カルロは確かに王を、父を殺した。

 憎い気持ちは最初あった。

 なぜ裏切ったのか。

 なぜ処刑される機会を奪ったのか。

 なぜ最後の王族として死ぬ機会を奪ったのか。


 けれども、旅をしているうちにそんな気持ちは徐々に消えていった。

 彼女がすべきだったことは、彼女自身が王を力づくで止めることであった。

 民があっての王であり、王族である。

 彼女は王族として責務を放棄していた。

 なので、王族として死ぬ権利は元からなかったのだ。

 ならば、生き恥をさらさずどこかで野垂れ死にたかった。

 凌辱などは望んでいない。

 だから、静かに死にたかった。

 けれども、カルロはそれをさせない。

 役に立たない彼女を連れて、ずっと旅をしている。


「どうだ。今日は作れたぞ」

「……まあ、食べれないことはないですね」


 見よう見まねで元王女は料理をするようになった。

 料理と言ってもスープや、狩りで得た動物を解体して焼くだけだが。


「どうだ。洗濯もできるようになったぞ」

「まあ、ちゃんと綺麗に汚れは落ちているみたいですね」


 半年も旅を続け、彼女は身の回りのことをすべてできるようになっていた。


「旅はここで終わりです。あなたを高値で買ってくれるところに売りますから」


 大きな街に到着し、カルロは突然そう宣言した。

 戸惑っている彼女を無理やりある家に連れて行った。

 どうみても売春宿や、人買いの類とは思えない綺麗な家だった。

 迎えた人物たちも人のよさそうな老夫婦。


「本当にいいのかい?」

「はい。お願いします」

「カルロ?」

「あなたをこの老夫婦に売りました。せいぜい彼たちの役に立ってください。その知識はあるはずです」


 それだけ言って、彼は出ていく。


「カルロ!」

「ついてこないでください。邪魔です。やっと邪魔がいなくなって清々します。これからは私は自分の人生を楽しむので邪魔をしないでくださいね」


 追いかけた元王女にそう言い、カルロは早足でいなくなった。


「……邪魔、そうか。邪魔か」


 元王女はカルロの言葉を真に受け、その場に立ちすくんだ。



 

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