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エイジくん、元気で陽気な人気者

エイジ「こんちはー、今回は俺の活躍回だぜ。ようやく俺の天才陰陽師としての力が発揮されるんだ」

明良「エイジの才能、しっかりと見てあげてね。その強さの意味も」

 エイジは小島総合病院の梶ヶ谷院長一家の構成と生年月日が記された表を確認する。

「うーんと、全員にとって良い日が……これだけか。うん、ここにしておくか」

「奥さんからの注文は夫婦和合と子孫繁栄か。まあったく、お盛んなことで」

 スマホを手に取るエイジ、ささっと番号入力。

「こんにちは、雨宮エイジです。梶ヶ谷さんですか? こちらの予定が決定したのでお伝えします……はい、はい。ではこれでお願いします」


 そして当日。梶ヶ谷邸の玄関チャイムを鳴らしたエイジを麻祐子夫人が出迎える。

「こんにちはー、陰陽師の雨宮エイジです」ぴっと敬礼、軽やかな声のエイジの営業スマイルは自然に出てくるもの。

「うふふ、今日はよろしくね」

 梶ヶ谷麻祐子はいかにも上流マダムという感じ、年齢を重ねてパワフルさを得た女性だ。肉体的にも圧倒的なパワフルさを感じられる。

 エイジは夫妻の寝室をコーディネートする。ここを重点的に行うのだ。最初は麻祐子も立ち会う。

「気というものに正気せいきと邪気がありまして、その流れがですね……」

 依頼者に解説するという名目で自分の専門知識を披露するエイジ。

「そこにいる人も大事なんですよ。どんな妖の術も人の力にはかなわないものなんですよね」

 人差し指を立てて語る。陰陽道がその真価を発揮するにはお客様の理解が必要だ。

「奥様、この色は相性が悪いので移動させておきますか?」

 しばらくして麻祐子は仕事があるとして去って行く。エイジはひとりで作業をこなす。

(正気と邪気が交わると大きなうねりが起こる。そう、東西文化が衝突した古代ハンドラ王国みたいに)

 床に魔法陣を描き、護符を構えて呪文詠唱をして完了。魔法陣はしっかり消しておく。

「さーて、こんなもんだろ」

 エイジは額の汗をぬぐう仕草をする。汗をかくほどの肉体労働などしていないが、仕事を終えた感である。

 ドアを開けたままの部屋に麻祐子がやってきた。

「あらあら、居心地がよいわね」麻祐子の声は普通の人なら愛想のよいものに聞こえるだろう。

「そ、そうですよね」

 気の流れは整えた、それなのに邪気を感じる。

「ねえ、エイジくん……」

 エイジはとっさに術を発動する、下準備などが不要な単純で弱いものだが一般人相手ならこれで十分なはずだ。

「うおっ! なんだこいつ、俺の妖力が効かねえ!」

 少なくとも尻もちをつく一撃だった、にもかかわらず麻祐子はビクともしていない。それは物理的に重量級というだけではない。

「夫婦和合と子孫繁栄……だけどその相手はあの人ではないわ。圧倒的に人生勝ち組として生まれ育った雨宮エイジ、あなたなのよ!」

「そりゃーお断りだぜ。その発言だけで離婚になっちまう、慰謝料を支払うために金運を上げるべきじゃないか?」

 余裕と焦りが混ざったような表情を見せるエイジ。少しあがった口角の横を冷や汗が流れる。

「いいえ、責任はあの人にあるわ。だって1週間も私を求めてくれないんだから」

 などと会話しているうちにエイジは逃走経路を確保する、それに気づいた麻祐子は動き出す。ドタドタという鈍い音が響くと同時にタッタという軽い音が混ざる。

 梶ヶ谷邸は豪邸である。エイジがいた部屋は奥にあるので玄関までは遠い。

「なんでこんなでっけぇ家なのに他に人がいねーんだよっ!」

 エイジが感じ取れる人の気は麻祐子だけだ。それ以外はよどんだ気が満ちている。

「くそー、食べられたくて蜘蛛の巣に捕まりに行く静じゃねえぞ、俺は」

 動転のあまり妹の性癖をバラすエイジ、兄失格か妹が望んだことか。

「性欲を満たし、子孫を残す本能を満たすのが夫婦の絆の存在意義でしょうに!」

「結婚ってそういうもんじゃねえだろおぉぉー!」

 エイジは走りながら叫ぶ。バッグに手を突っ込む、ガサゴソ……非常時で慌てているわりには的確に手が動く。

 取り出したのは護符を収納するファイル、パラパラとページをめくる。

 目当ての護符を取り出す。それを左手で挟む。

 くるっと振り返ったエイジは右手で印を描く。

 エイジは呪文を唱える。彼の声が家中に響く、本来ならこんなに大きな声で詠唱する必要はないが。

 強烈な妖力のうねりが麻祐子を包み込む。彼女はその場に座り込んだ。

 エイジの手にある護符はふっと消える。エイジは逃げることはせず、ファイルを開く。

 新しく出した護符を構えて近づく。

「麻祐子さん、これはいったいどういうことですか。俺に依頼を出して招いたのは、何か別の企みがあってのことだったんですか?」

 厳しい顔で厳しい声のエイジ。名誉と報酬にホイホイされた自分自身に対して向けられているのかも。

「俺の妖力を完全に無力化した、一般人にそんな力があるわけないんですよ。まあ、そういった難儀な力に魅了される変人ってのは多いですが」

「俺たち陰陽師が邪魔だから対抗する力を手に入れようってヤツ、いるんですよ」

 エイジが責めるように問いかけると麻祐子は首を横に振る。

「あなたが好きだからよ。病院にやってきて、患者を処置したあなたに魅了されてしまったの」

「なるほど、天才陰陽師である俺をモノにするために悪魔の誘惑に乗っちまったんだ」

 シリアスにナルシスト発言をするエイジ。実力あるイケメンじゃないと笑いものだ。

「ヨクゾワカッタ……」

 麻祐子は立ち上がる。その動き方は操り人形のようだ。

「自惚レ陰陽師ノ貴様ヒトリデハ、逃ゲルコトモデキヌ!」

 ラスボスのように圧倒的な雰囲気を出す麻祐子に対し、エイジは得意げな顔で護符を掲げる。

「……油断したのはお前だぜ? この護符を前にな!」

「ナ、ナンダ。ソノチカラハ……ドコカラ!?」

 輝く力が渦を巻く、エイジは高らかに笑って宣言する。

「俺はいつだって一人じゃねぇんだよ」


 ベッドで眠りこんでいる麻祐子、治療にあたっているのは白藤明良である。医術で人を救うのは多くの神の使いが行うこと。近代医学が発展した現代でも。

「これで安心だよ。しばらくすれば目覚めるはずさ」

「ああ、感謝するぜ。お前がいなけりゃ厳しい戦いになったはずだ。せっかく増築した家を半壊に追い込むわけにはいかないからな」

「キミが発明した護符もすごいよ」

“親しき絆の護符”

「ん、んんー」

「麻祐子さん、お目覚めですか。どこか悪いところはありませんか?」

「あら……あなたは誰かしら」

 そうはいったが、麻祐子には見覚えがあった。悪魔の支配下にあった時、エイジの護符が発動した時にこの少年の顔がエイジの背後に浮かんだのだ。

「僕は大葉神社の神主、白藤明良です。雨宮エイジとは親しい友人です」

「て、天竜信仰の人なの!?」

「麻祐子さん、僕たちはすでにあなたの事情を察しています。正直に語ってください」いつも通り、感情を感じにくい明良。

「アゼド教ハンドラ派、そうですよね?」

静「……方向性変わりすぎじゃない? ま、私を虜にしてくれる男性も出てきそうだけど」

エイジ「おめーが『虜』というと『捕虜』の意味になるな」

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