お泊まり
それから佐々木は着替えだけ持ってくると言って一旦家に帰ったから、私も一度家に帰って軽く掃除することにした。
うちにお客さんが来るのなんて久しぶりで、なんだか落ち着かない。それも最近知り合ったばかりの同い年の女の子だ。
嬉しさと緊張でソワソワしていると、スマホの着信音が鳴った。
佐々木からだ。
「も、もしもし。」
「よお、駅に着いたから迎えにきてくれねえか?場所わかんなくてさ。」
「わかった、すぐ行く。」
「あざす、じゃあ。」
相変わらず佐々木との通話は簡素なものだったが、それが普通に接してくれているようで少し心地よかった。
佐々木を迎えに駅に行ったが、その姿は見えなかった。
「あれ、いない。」
佐々木に連絡しようとすると、後ろから肩をとんとんと叩かれた。
「うわっ、」
「おせーよ仮面野郎。」
佐々木だった。
「びっくりした。」
「本当か?とてもびっくりした顔には見えないが。」
「私、顔に出にくいタイプだから。」
「出にくいじゃなくて全く出ないの間違いじゃないのか?」
「そうだね。」
「全く、変なやつだな。」
佐々木はそう言ってはにかんだ。彼女の笑顔は存外可愛い。
「で、どこ行ってたの?」
「ん?あぁ、コンビニでお菓子買ってた。」
「お菓子?なんで?」
「お邪魔するのに手ぶらなのもなんか変だろ?だから買ってきたんだよ。」
「あぁ、なるほど。」
そういうものなのかと私は納得した。
「一緒に食べようぜ。」
「うん、ありがとう。」
「おう、さっさと行こう。」
「うん。あ、そっち逆方向だよ?」
「、、、道案内頼む。」
「うん、任された。」
「ただいまー。」
「お、お邪魔しまーす。」
「どうぞー。」
佐々木は私の家に入るなり、なんだかソワソワしていた。
「佐々木?どうかした?」
「いや、なんていうか、人の家に一人できたの初めてだからどうしていいのかわかんなくて。」
「そうなの?」
「あぁ、悪いかよ。」
少し意外だった、佐々木と話していると友達がいないタイプには思えなかった。
「いや、私も初めてだし。」
「は?何がだよ。」
「友達を家に連れてきたの。」
「いつ私はお前の友達になったんだよ。」
「違うの?」
「、、、知らん。」
「じゃあ今から友達ってことにしよう。」
「何勝手に決めてんだよ。」
「でもお母さんには友達の家に泊めてもらうって言ってるんでしょ?じゃあもう友達でよくない?」
「、、、ああもうお前と話すの面倒臭え。いいよ友達でもなんでも。」
私に明確な友達ができた瞬間だった。
「まぁ、とりあえずなんか食べる?今日作ったご飯とか残ってるけど。」
「あー、ごめん。手作りのご飯私食べれないんだ。」
「あ、そうなんだ。」
「せっかくお菓子買ったからこれ食べようぜ。そんで私は疲れたから寝る。」
「了解、お風呂はどうする?」
「一応家で入ってきたからいいかな。」
「わかった、じゃあお皿だけ持ってくるね。」
「おう、サンキュー。」
私はキッチンに少し大きめのお皿をとりに行った。
手作りのご飯が食べれないと言った時の佐々木の引き攣った表情が少し気になった。
その後は二人で適当にお菓子をつまみながらテレビを見て、十二時過ぎ頃にテレビを消した。
「私と同じ部屋に布団敷いちゃったけど大丈夫だった?」
「あぁ、別に構わん。」
佐々木はそう言いながら大きなあくびをして布団の中に入った。
私も後に続く形でベットに潜り込んだ。
「そう言えば、佐々木の下の名前ってゆいって言うんだね。」
「あぁ、それがどうかしたか?」
「結構可愛い名前してるんだなって。」
「うるせえ、あいつらが勝手につけた名前だ。」
佐々木は心底煩わしそうに答えた。
「私はこの名前が嫌いだ。」
「どうして?」
「なんでもいいだろうが、早く寝ろ。」
「あ、うん。」
そのあと佐々木は一言も話すことなく眠りについた。
私はそんな佐々木のことが気になって眠れなかった。
それは普段私以外誰もいない家に他人がいるからか、それとも佐々木との今日の一連の会話や出来事が気になるせいか、自分でもわからなかった。