コンビニで鉢合わせ。
古川は二つ目の駅でまた明日ねと言い残して先に降りた。そんな挨拶をしたのは一体いつぶりだったか。
「、、、そういえばあの駅、近くに大きな病院があったような。」
なんて考えようとしたが、他人のことを勝手な憶測で妄想するのはあまり良くないと思いやめ、カバンから文庫本を取り出した。
最寄りの駅に到着し、その足で私はコンビニに寄ることにした。
「確かルーズリーフ切らしてたなー、ついでにお菓子でも買おうかな。」
なんて独り言を言いながらコンビニに入ろうとした時、思わぬ人と鉢合わせた。
「あっ、」
「、、、なんでお前がここにいんだよ。」
佐々木だった。
「佐々木もなんか買っていくの?」
「違う、私はこれからバイト。」
「バイト?佐々木ここでバイトしてたの?」
「あぁ、まだ始めて二週間だけどな。」
「そうなんだ、バイトしてるなんてなんか意外だな。」
「うるせえな、うちは貧乏なんだよ。」
佐々木はそう言って煩わしそうに頭をガシガシと掻いた。
「わかったらさっさとどっか行けよ、このままじゃ遅刻しちまうだろうが。」
「いや、私もこれから買い物するところだったんだけど。」
「じゃあ早く買え、そんで早くどっかにうせな。」
佐々木はそう言い残して店内に入って行った。私も佐々木に言われた通りさっさと買い物を済まして帰るために店内に入った。
「なんで私がお前の会計をしなきゃいけないんだよ。」
「仕事なんでしょ?真面目にやってよ。」
私はルーズリーフとチョコレートとカフェオレの入った買い物カゴを佐々木の立っているレジの上に乗せた。
「さっさとどっかいけって言ったよな?」
「うん、言われた。」
「じゃあなんでまだいるんだ?」
「お菓子選ぶの、少し迷った。」
「そんなこと聞いてねぇよ。」
「いいから早く会計してよ。これも研修のうちだと思ってさ。」
そう言って私は佐々木が胸の辺りにつけていた名札を指差した。そこには佐々木と一緒に研修中の文字も書いてあった。
「うるせえな、レジくらいもうできるっつうの。」
「本当に?」
「あぁ?馬鹿にしてんのか?」
「じゃあ早くやってみてよ。」
「ちっ、わかったよ。」
佐々木は怠そうに私が持ってきた商品を一つずつレジに通して行った。その様がちょっと子供っぽくて可愛かった。
「お会計五百六十円になりまーす。」
「一千円でお願いします。」
「はーいお釣りの四百四十円でーすありがとうございましたー2度と来んなよボケナスがー。」
「また来るねー。」
私は佐々木に追い出されるようにコンビニを後にした。家も近いしまた佐々木が働いてるところを見る時はあるだろう。
家に到着するなり、私はいつも通り玄関でローファーを脱ぎ捨て、自分の部屋で制服も脱ぎ捨て、下着姿でベットに横になった。
「なんだか今日はいろんな人と話したな。」
頭に浮かぶのは佐々木と古川と川上の顔。三人とも全然違う性格の人たちだけど、みんなどこか面白い。
「明日からもお話しできるかな、そうだと嬉しいな。」
私はそう呟いて体を起こし、早々にシャワーを浴びてしまうことにした。
脱衣所で下着を脱ぎ捨て、浴場に入る。鏡にはいつも通り真顔の私が写っていた。
「、、、私もみんなみたいにいろんな顔ができたらいいのに。」
佐々木の不機嫌な顔、古川の少し寂しそうな顔、川上の屈託のない笑顔を思い出しながらそう思った。