女子高生、景鏡との決着
一向宗との戦いに備えるため、宗滴の代わりを務められるように、私は宗滴と複数の家臣と共に連れられて、大野郡のとある村にやって来た。
「もうすぐ冬の季節が来る。だから冬支度の為に、日中は常に働いておる」
すっかり田畑の収穫は終わり、今は長い冬を超えるために、老若男女問わず、せっせと働いていた。
「そして、どこかでいざこざが起きるじゃろう」
宗滴がそう言ったとき、近くで大人の男性が、良い争いをし始めた。
「凛殿。争いを止めてみなさい」
「余所者の私が止めに入ったら、更にややこしくなりませんか……?」
宗滴は、私の問いかけに答えず、ただ真っすぐに男性たちの言い争いを見つめていた。
「あのっ!! 今は争っている場合じゃないと思いますっ!!」
とりあえず、ただ黙っているだけでは、何も始まらないし、何も解決しない。手を出されるのも嫌だったので、遠くから喧嘩を止める事にした。
「自分は関係ないと思っているから、この場所から解決しようと思っておるな?」
ようやく口を開けた宗滴は、ただ私を注意する言葉だった。
「民を心を疎かにすれば、一気に朝倉家は弱体化する。民がいなければ、儂たちは何も出来ぬ。例え民の些細な悩みでも、耳を傾けることじゃ」
宗滴の言葉に動かされ、私は遠くから眺める事を止め、男性の中に入った。
「先日の噴火の事ですか?」
そう聞くと、男性たちは頷いた。
聞いたところ、火山の噴火で火山灰や噴石での被害ではなく、地震での家屋の倒壊が原因らしい。これからやって来る冬に備えて、米などを貯蔵していたのだが、米蔵が倒壊してすべて駄目になり、そして近隣住民に、食料を分けてほしいと懇願していたのだが、みんなは自分の家族を守る事が精一杯で、食料を分ける事は無理と言われ、そして喧嘩に発展したと言う事だった。
けど、これはどうしたら良いのだろうか。ここで米を分けてあげると言った方が良いのかもしれないが、それは甘えになるから良くないと、宗滴は言いそうだ。けど一乗谷引っ越して来ればよいと言っても、勝手に住まわせるわけにもいかない。城外の家屋の空き状況なんて知らないし、私個人の判断で住まわせるのも、良くないのだろう。
「確認しますが、この辺りを統治している人の名前を言えますか?」
「この辺りだと、亥山に城を持つ、朝倉様の一門衆じゃないのか?」
やはり、景鏡を説得させないといけないようだ。火山が噴火し、この地が危険だと思い、今は一乗谷内の屋敷に避難している。この地の人たちを放っておいて、自分は蹴鞠で遊んでいる。
「孫八郎様を連れてきます。食料、倒壊した建物に関しましては、一門衆だからと言ってふんぞり返っている馬鹿殿にどんどん言っちゃってください」
私の行動を見ていた宗滴は、特に反応することなく、ただ私の後をついてくるだけで、一緒に一乗谷に戻った。
酉の刻。辺りは大分暗くなってきたが、私は構わず、景鏡の屋敷を尋ねた。
景鏡の侍従の人が出てきて、景鏡と話したいことを言うと、侍従の人はすんなりと入れてくれて、暗い部屋で書物を読んでいる景鏡がいた。
「物の怪ですから、人の常識も知らないようですね」
「好きに言えばいいです。ただ私は、卑怯者のお尻を叩くために、わざわざ時間を割いてやって来ました」
「虎の威を借りる狐如きに、卑怯者呼ばわりされるのは、すごく癪に障りますね」
私一人でやると言ったので、この場に宗滴はいない。宗滴は、先に屋敷に戻って休んでいるので、ここは私だけで乗り切るしかない。景鏡に何を言われようが、私は信念を曲げずに、景鏡を亥山の居城に戻させる。
「それで、要件は?」
「自分の領民を大事にしてください」
「宗滴様に感化されましたか。本当に厄介な事ですよ」
景鏡は、書物を閉じた後、私にこう言った。
「藤吉郎殿から聞きました。あの猿みたいな小僧が、この日本を統一し、新たな政権を作る。それは、延景殿が知る通りですよね?」
景鏡と藤吉郎、後の豊臣秀吉と接点を持ってしまったことが、義景のバッドエンドから救う難易度を上げている。
「はい」
これに関しては、何も間違っていないので、私は素直に頷くと、景鏡は勝ち誇った顔で、私にこう言った。
「私、長い物には巻かれる信念でして。そこで、私は思っているんですよ。藤吉郎殿、いや織田家と関係を強くすれば、私は生き延びられる。あの頼りない、義景の元に一生下に付くのは、私も不満です。だから私も。藤吉郎殿、織田と親交がある、延景殿の下に付こうと、前から考えましてね」
景鏡が、私の配下になる。その言葉を聞いて、私は固唾を吞んだ。
「藤吉郎殿に聞いたのですが、今後の私は、かなりすごい事をするようですね。後に朝倉は、織田と対立し、戦をするのでしょう? その後、織田に負けた後、私はすぐ義景を裏切り、自刃に追い込んだ。そして義景の首を差し出し、私は越前一国を治める国主になる。つまり、このまま通りに行けば、この私が、義景の次の当主になれると言う事ではないですか」
景鏡は、後の自分が生き延びる事を知って、ウキウキした様子で、私にそう言った。
「延景殿が頑張れば頑張るほど、私は楽に国主になれる。そう聞いてしまったら、真面目に動かなくても良いまして。延景殿の思うがまま動いてもらった方が、私にとっても利益がある。これまでのように、延景殿を邪魔するのは、私自身の首を絞めるのではと思いまして、今、この時から、私は延景殿の配下になり、朝倉家の筆頭格になるのはどうでしょう?」
そう言われてしまうと、私も考え込んでしまう。魅力的な話で、景鏡の妨害が無ければ、私も動きやすくなるし、家中のいざこざも減る可能性もある。
「孫八郎様。まだ私に筆頭格になる資格はありませんし、孫八郎様を配下にする訳にもいきません。互いに良好な関係を築く、同盟を結ぶのはどうでしょうか?」
「まあ、それでも良しとしましょう」
本当は、私と仲良くするのは嫌のだろう。私の答えを聞いた景鏡は、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
「延景殿がどうしてもと言うのなら、私は亥山に戻り、民衆の言う通りに復興に着手しましょう。延景殿言う通りに動けば、私の次期当主が、更に現実のものになりますから」
景鏡は、さらさらと文章を書いた後、小刀で自分の指を切って、自分の血で捺印する。私と友好的な同盟を締結すると言う、血判状を作った。
「それでは。宗滴様のように、殿を支えられる、立派な軍奉行になってください」
このまま景鏡の思惑通りに行くのも、私は納得できない。
「いいですよ。もし都合が悪くなって、私を裏切ろうと言うのなら、その時は覚悟してください。景鏡を徹底的に追い詰め、未来の義景公と同じようにしてあげますから」
「はい。受けて立ちましょう」
私も、景鏡と友好的な同盟を締結すると言う血判状を初めて作り、互いに血判状を好感した後、景鏡の館を後にした。
後日、景鏡は自身が統括する大野郡に戻り、地震で被害を受けた村に赴き、炊き出しを行ったり、家を建てるための木材を提供するなど、ちゃんとした復興支援をした。




