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038 ジャスコ

 葉月との半同棲生活ももう少しで終わる。

 明後日の夕方には、沖縄でのフルムーンを終えた両親が帰ってくる。


 最後の休日になる今日は、足を伸ばしてショッピングモールでデートをする予定だ。1時間以上かかる道のりを走りきって、今はショッピングモールの屋上駐車場に車を駐めたところ。


「久しぶりに市内までやってきたけど、だいぶ道路事情が良くなったね」


「ねー、私も戻ってきたときびっくりしちゃった。高速道路がこんなに延伸してるなんてね」


「おかげで混まないし早く着きそうだから最高だね。ゆっくりデートできそう」


「ふふっ、一太郎からそんなことを言い出すなんて、あの再会したときからは考えられないなー」


 僕は「確かにね」と自嘲する。


 葉月や土濃塚兄弟のおかげもあって、僕の女性恐怖症はかなり克服したと言えるところまでやってきた。

 手を繋いだりハグをすることは、相手が葉月ならばもう発作が起こることはない。他の女性ではもしかしたら反応してしまう可能性があるけれど、今のところ葉月以外にそんなことをする気はないので、実質的に寛解したと言ってもいい。


 車から降りて屋上駐車場からエレベーターで店内に入る。

 3階の専門店街のフロアに降りたとき、僕はおもむろに葉月の右手を握った。

 すると珍しく、葉月が焦った反応を見せる。


「えっ……!? い、いきなり握ってきちゃう……?」


「ご、ごめん、嫌だった……?」


「そうじゃないけど……、ちょっと、びっくりしたというか……」


「そ、そうだよね、ちょっと気が早いよね……」


 僕は自分が焦りすぎていたことに少し反省した。

 こういうのは自分の都合だけで決めてはいけない。葉月という相手あってのものだから、もっと彼女の意を汲み取るべきだった。


「ごめんね。その……、人前で恋人繋ぎするの、すんごい久しぶりで」


「えっ? そうなの? てっきり手慣れたものかと」


「手慣れてなんかないしっ! しょうがないじゃん、彼氏出来たのって高校生ぶりなんだもん」


「それは初耳なんだけど」


 葉月から出てきた意外な言葉に僕は素直に驚く。

 なんやかんや経験豊富そうに見える葉月だけれども、彼氏がいたのは高校生ぶりだというのはさすがに予想出来なかった。


「ほら、私って芸能人になりたくて東京に出てきたじゃん? 芸能人になるならスキャンダルは厳禁だと思ってたから、全然彼氏作らなかったんだよね。その後AV出始めたときは、そんな余裕なかったし」


「な、なるほどね」


「だから……その、まともに恋愛するのも高校生ぶりで……、その……」


 次第にもじもじとする葉月。言葉の語尾もだんだん弱くなっていて、本当に恥ずかしそうだ。

 まるでいつもと立場が逆転している。これがこの間までなら、僕が恥ずかしがっているのを葉月がからかうというスタンスだったのに、葉月に触れられるようになった途端これだ。


 その時の彼女の目にも僕はこういう感じで映っていたのだろうか。恥ずかしさでもじもじとする葉月は、これまでの5割、いや、50割増しでかわいい。


「じゃあ、なおさら慣れておかないとね!」


「……一太郎の意地悪」


 僕は一度離した葉月の右手をもう一度握る。もちろん、指輪一本一本を折り重ねる恋人繋ぎ。

 葉月は観念したらしく、何も言わない代わりに繋いでいるほうの腕で肘打ちを一発入れてきた。

 こんなふうにじゃれ合いながら、今までのロスタイムを取り返したいなと思う。


 ショッピングモールに来たはいいものの、特にこれが欲しいというものは無い。

 一緒に歩きながらウインドウショッピングでもして、のんびり時間を過ごせたらいいなと思った。それだけ。


「一太郎は冬物買わなくていいの?」


「冬物かあ……、もう持ってるしなあ」


「持ってるって言っても、東京で着ていた冬物でしょ? そんなのこっちじゃ耐えきれないって。私も戻ってきたとき東北の寒さをすっかり忘れていてえらい目にあったんだから」


 まるで脅すかのように葉月はそう言う。

 確かに東京に何年もいると、東北の寒さを忘れてしまう。葉月も同じ境遇だったから、その言葉にはリアルな重みがあった。


「出戻りの先輩が言うと説得力が違う……」


「でしょ? せっかくだし、ちょうど良さそうな冬物を見繕ってあげる」


「……ペアルックとかじゃないよね?」


「んなわけないでしょ。他人に見せびらかすペアルックは好きじゃないの。ああいうのは見せびらかさないほうが好き」


 葉月にそう言われて僕は思わずこの間のペアルックのパンツを思い出してしまった。


 誰に見せびらかすでもなく2人だけの秘密みたいな感じで、お互いがお互いにとって特別な存在という繋がりを知らしめてくる。独占欲が満たされるといえば、間違いなくそう。


「なに思い浮かべてるの?」


「い、いや、別になんでも」


「ふふっ……、一太郎のえっち」


「なっ……! そんなことは……!」


 思考が完全に葉月に読まれてしまっていて、僕はわかりやすく動揺した。


 さっきの手を繋ぐやり取りでついに僕と葉月のパワーバランスが形勢逆転したかと思ったけど、やっぱり肝心なところで僕は葉月に勝てないようだ。

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