その8
ナオトと里を出る。
「どうするんだ? 馬車で行くか? 飛んで行くのか?」
ノーブが聞くと。
「森の各里や住む者達も見せたい。僕の車で行こう!」
ナオトが自慢気に言った。
「うん? 車? 日本のか?」
「いや、魔導車だよ? 馬車は、この里に預けて行くといいよ」
ナオトの言葉を聞きギャリソンとチムが馬車を預けに行く…
「そういえば、ノブさん、聖剣は手に入れた?」
ナオトが唐突に聞いてくる。
「ああ、貰った鎧は壊してしまった… すまんな…」
ナオトに貰った鎧と剣は神竜との戦いで失っていた。
「いいんですよ、アレは僕の鎧のレプリカだから」
そう説明してナオトはアイテムボックスの中から聖剣を出し鎧を纏う。
ディテールは違うが、ノーブが貰った鎧にそっくりな真紅の鎧、どことなくシナンジュに似ている…
「赤い彗星だな」
それを見てノーブは笑った。
そして、ノーブもエクスカリバーを出して白金の鎧を纏う。
ナオトは光り輝く白金の鎧を見て…
「聖闘士だね」
笑い返される…
「内なる小宇宙を燃やしたらこうなった」
…2人はマニアだった。
「僕達、召喚された者は、召喚と共に1本の聖剣が生み出される。
それを持つ事により鎧も現れる。
そのデザインは本人のイメージが反映された形となるんだよ…」
ナオトの説明を聞き…
「俺はオタクじゃないよ… ちょっとアニメや漫画が好きだっただけ…
ほら、子供や孫がいたから…」
恥ずかしくなりオタオタとして言い訳をした。
「その見た目で子供や孫といわれても…」
ナオトは呆れていた。
「見た目は子供、中身は65歳! 真実はいつもそこにある!…ってな」
「あはは…」
ナオトは乾いた笑いをしていた。
ノーブは思いっきりスベったようだ…
「まぁ、同郷の人間がいると気が落ち着くよ」
ノーブは満足げにナオトの肩を叩く。
「しかしその鎧も大概だな… 魔法の世界にモビルスーツの性能とは…」
「好きなんだ… それに、この世界は強くないと生きていけないですからね…」
ナオトは寂しそうに呟いた…
「まぁお互い、亀と書かれた山吹色の道着じゃなくてよかったな」
ノーブは、そう笑うが…
ナオトは、そっと目を逸らした…
(もしかしているのか? サイヤ人が…)
ノーブが驚いていると… ギャリソン達が戻って来る。
ミャーダも見送りに付いて来ていた。
「この度は、ありがとうございました。
勇者様のおかげで助かりました。
このご恩は、いつか必ずお返しします。
出来れば私を…」
ミャーダは赤い顔で何かを言いかけたが、最後までは言えなかったようだ。
「子供が気を使うんじゃない。
まあでも、またいつか会えるといいな!
そのときを楽しみにしているよ」
ノーブはミャーダの頭を撫でた。
ナオトはアイテムボックスから魔導車を出す。
本物の車だった!
日本車の四駆的なオフロードカーに似ている!
「おおっ! カッコええな!」
ノーブは、この世界に来て初めて日本を感じて感動していた!
「さぁ、乗って、出発するよ」
「ナオト、お前免許は?」
「いっ、異世界だから…」
そう、彼は16歳で召喚されているから免許は取れてない…
「冗談だよ!」
ノーブはガハハと笑い、ご機嫌だった!
車が走り出す…
「ねぇ? 何これ⁉︎ 速いんですけど! キャー!」
チムが青い顔をして悲鳴を上げる!
悪路を結構なスピードで走りバンプで跳ねる。
チムは悲鳴を上げっぱなしだ!
だが、ギャリソンは動じない…
獣人の里を出て北上する。北にはドワーフの里、そして東へ行けばエルフの里、南に降れば精霊の里がある。順番に案内された。
ドワーフの里には200人ほどのドワーフが住んでいた。
酒好きで鍛冶を得意とする種族で人間よりガッチリした体型で小柄だった。
エルフの里は150人ほどのエルフしかいない…
ほぼ人間と同じで耳が尖っているのが特徴だった。
エルフと言えば美男美女…
だが、里に住むエルフは老けた者ばかりだった。
そして精霊の里は、精霊と妖精、トレント、ドライアドが1000ほどいて、一番活気が溢れていた。
チム達の妖精の里とは、遥か昔に分かれた種族だと解り、それを知ったチムがやたら張り切って、
「近いうちに精霊女王を連れてくるわ!」
勝手な約束をしていた…
精霊の里を出てテントを張る。
「ナオト、亜人達は何故少なくて年寄りばかりなんだ?」
ノーブは聞くが…
「明日、魔王様に会えばわかるよ」
そう微笑む。
(こいつ、子供を諭すように言うんじゃねぇ!)
ノーブはイラっとするが、子供だった頃の師匠でもあるからと、ノーブはキレるのを我慢していた。
そんな思いがナオトにも通じたのか?
お互いに苦笑いしあう…
「男同士、なに微笑みあってるのよ! 気持ちわるっ!」
勘違いしたチムにバカにされる…
「だよな… 俺もそう思うよ…」
ノーブは、どっと疲れが出てしまった。
そして夕食のとき事件は起こった!
「うおぉぉぉぉーーー! こっ、これは!」
ナオトが用意した食事は…
日本食!
ではなく、日本で食べられる料理!
「カレーライスだー! 米だ、米!」
ノーブはテンション高くはしゃぐ!
この世界に来て…
いや、65年の人生において、初めて嬉しくて涙を流していた…
食後にはコーヒーとケーキまで頂いた!
感無量となり、一つの達成感を味わい満たされる…
ノーブは物凄く満足していたが…
ギャリソンとチムはカレーライスを食べて首を傾けていた…
異世界の人には刺激が強過ぎたのかも知れない…
そんなギャリソンもコーヒーを気に入り、チムはケーキを気に入っていた。
キャラ通りだなと、ノーブは笑った。
明日に備え寝ていると大きな神獣の気配がする…
目を覚ますとナオトが…
「呼ばれているよ…行ってやって…」
そう呟き微笑んだ。
ノーブは、いちいちイケメン力を発揮するナオトが鬱陶しくなっていたが、頷き白金の鎧を纏い飛んで行く…
目的地に着くとベヒモスが待ち構えていた。
亀の甲羅を持つ鰐の様な神獣、甲羅の直径は20m、厚みは5mってところで、静かにノーブを見つめる…
突然、口を開けて高圧水を吐き攻撃した!
ノーブは、さっと避け地上に降り立つ!
木々の間を高速で走り抜け
顔めがけて、
「レールカノン!」
稲妻をスパークさせた黄色い閃光が着弾する!
爆破音が響き渡る!
だが、ベヒモスは甲羅の中に隠れて無傷だ!
「サンダーブレイク!」
ベヒモスに極太の雷が落ちるが…
甲羅に魔力は効かない…
ベヒモスは口を開けて刃物状にした高圧水を吐いて飛ばす!
ノーブは飛び上がり避けるが森の木々が切断され倒れていく…
「精霊召喚! 来い、ノーム! 土壁で奴を囲め!」
ベヒモスの周りを巨大な土壁で囲う、これで先程の水の刃を吐かれても森に被害はない。
ノーブはベヒモスの目の前に転移する。
顔を隠す間を与えずパンチとキックのラッシュ!
「ガァァァー!」
叫び声を上げてベヒモスは倒れ込む!
ノーブはベヒモスの顔に手を当てる。
「サンダー!」
手の平から稲妻がほとばしる!
ベヒモスの身体の中を稲妻が走り感電し絶命する!
ベヒモスは光と共に消えた。
その場には光り輝く巨大な神獣の魔石だけが残っていた。
その魔石から光が飛び出してノーブの中に入る…
そして、魔石をアイテムボックスに収納する。
(あれ? 今回は依代となる魔物がいなかったけど… )
ノーブはそう思い、アイテムボックスの中を調べる。
「亀の卵」と「神獣の魔石」が増えていた…
代わりに「試練の洞窟」のボスのレッドドラゴンが消えていた…
(依代は同族じゃなくてもいいのか?
しかも亀… 亀みたいな甲羅があったけど…
これで、卵が4個、デカい魔石が4つ… どうなることか… あまり考えたくないな…)
その場に留まりノーブが考えていると、ナオトが飛んできた。
「終わったみたいだね」
「ああ… しかしなんなんだアレは?」
「神獣と…」
ナオトが説明しかけた話をノーブが遮る。
「神のしもべの話は知ってる。
神竜といい、ベヒモスといい、何故、俺と戦う?」
戦う理由を聞いた。
「勇者としての貴方の力を試しているんだよ」
ナオトがそう答えた。
「ナオトも試されたのか?」
「いや、僕は… 詳しい話は魔王様に聞いて」
ナオトは魔王に聞けの一点張りだった。
翌朝…
「アンタ! いい加減に起きなさいよー!」
チムに起こされる…
「どんだけ寝れば気がすむの!」
(あっ! こいつ、夜中の戦いに気づいていないんだ… ダメ妖精め!)
ノーブはチムにガッカリとし…
「俺は、お前の知らないところで頑張っているんだよ!」
ちょいギレだった!
「はいはい、わかってまちゅよー! 勇者様は大変でちゅねー」
チムがバカにする… ノーブはムカつくが無視する。
「しかし、妙にスッキリとした朝だな…」
ノーブは、何故かスッキリした感じで、最近、こんな日が多く力が上がったせいだと思っている。
「でしょ、でしょ! 私だってノーブのために…」
チムが赤い顔でモジモジとして何かを言いかけて口籠もる。
「なんだ?」
不思議に思いチムに聞く。
「内助の功ってやつよ… いつか私を妻にしたとき教えるわ…」
チムはモジモジしながら訳の分からない事を言った。
「妻にする訳がないだろう? 俺とお前が結婚? 笑わせるな!」
ノーブは物凄く嫌そうな顔をした。
「ムキー!」
チムはノーブの顔にドロップキックを放った!
「久々に殺意が湧いたわ!」
ノーブは怒って、その場を立ち去る!
「ムシすんなー!」
「虫だけに… あっ! 心の声が漏れた!」
ノーブはチムを揶揄い続ける。
「ムシ言うなー!」
2人は意外と仲が良いのだ。
そして朝食の時間。
「ご飯と味噌汁だー! 納豆まである! しっ、醤油もあるのか?」
ノーブはナオトに詰め寄る!
「もちろんあるから安心して」
「おお! 心の友よ!」
ノーブは感激してナオトを抱きしめてお礼を言った。
「じゃ、ジャイアンですか…」
ナオトは困った顔をしてツッコミを入れた。
「アンタ、バカなの?」
チムにバカにされるが、どうでも良くスルーしていた。
「はぁ…」
そして、チムはため息を吐き呆れていた。
ノーブはテンション高く朝食を頂き!
ナオトの魔導車に乗り森の中心に向う。
近づくにつれ神聖な波動を感じとる。
遠くから見えていた巨大な木に近づき根元付近を走る。
「コレは?」
「世界樹だよ」
「もしかしてエリクサーとかもあるのか?」
「少量だがあるよ」
「そのエリクサーは死者蘇生も出来るのか?」
「いや、虫の息でも、酷い欠損があっても、微かな鼓動があれば復活が可能だけど… 完全なる死を迎えていては無理かな…」
「そうか… どのみち今となってはだけどな…」
ノーブはナオトの説明を聞き、マーラとマリを思い出し、ついつい悲しい顔をしてしまう。
だが、誰も何も言わない…
この世界に住む者は多かれ少なかれそういった悲しみを背負っている…
平和な日本とは違うのだ。
北の森の中心部、世界樹の里で魔導車を降り歩いて世界樹に向かう。
この里はハイエルフが住んでいて世界樹の世話をしている。
世界樹の幹は太く直径で数十キロはありそうだった。
ハイエルフの長が挨拶に来る。
女性で、人間なら25歳ぐらいの見た目、絶世の美女といっても過言ではない…
透き通るような綺麗な声で話す。
「ようこそ世界樹の里へ、勇者様。
わたくしは、ハイエルフのミーナと申します。
以後、お見知りおきを…」
ミーナは優雅に挨拶をした。
「よろしくな! ノブだ、こっちはギャリソンとチムだ!」
手短に挨拶を済ませ、
「こちらへどうぞ」
ミーナに案内をされる。
ミーナは見た目、雰囲気共に完璧!
ノーブは、惚れてまうやろ! と叫びたくなるほどだった。
惜しいといえば痩せっぽちで胸がペッタンコだったこと。
ノーブは大の巨乳好きだった。
(女房、子供と孫がいる俺には色恋沙汰は関係ないことだがな… フフ…)
硬派を気取り勝手な事を思うが…
そんな縛りが無くても、どれだけの美人であってもペッタンコに興味はなかったのだった…
そんな美女、ミーナに案内され世界樹の幹の目の前に行く。
幹には入り口があり中に入ると大きな広場があった。
村が一つ入るほどの広さで一部が吹き抜けとなっていて光りが入り明るい。
その吹き抜けの壁を見上げると上に続く階段がありハイエルフの住居が幹の中に作られていた。
広場には森や畑があり、野菜の様な植物が育てられている。
広場の中央を抜け奥に行くと壁に扉があり中に入ると、小さな小部屋で全員が入ると動き出した!
「エレベーターか?」
ノーブは驚く!
「魔導エレベーターだよ」
「なんでもありだな…」
どれくらい潜ったのだろうか?
エレベーターが止まり扉が開く…
眩い光りが目に染みる。
ノーブ達は小高い丘の上に立っていた!
眼下に広がる広大な土地!
中央には街があり、周りには森がある。田畑も見られる。
地下のはずだが、見上げれは空があり雲と太陽がある。
何者かが巨大なダンジョンを造り、その中に街を造っていた。
北の森をヤマタイ国と呼び、ダンジョン内の街はアルカディアと名付けられていた。
ノーブは、その街を見下ろす…
その街並みは、この世界の建物とは違った!
背の高いビルこそ無いが、日本の建物に似た家や店が建ち並び…
街には舗装された道路があり、少しだが車が走っている。
街の中央には、和風の城が建っていて、目の前には国会議事堂のような建物がある。
ちょっと、チグハグな感じもするが懐かしい光景だった。
しばらく街を眺めていると、何故だか? 路線バスが迎えに来た。
全員でバスに乗り込む、ノーブは高貴なハイエルフが路線バスに乗る姿が滑稽で笑っていた。
バスに揺られ街を見る…
人間、獣人、エルフ、ドワーフ、そして、魔族がいた。
多種族が差別無く暮らしているようだ…
チェーン店風のスーパーやコンビニ、服屋、ファミレス、居酒屋、ラーメン屋…
(日本かっ!)
ノーブは感動して心の中でツッコミを入れていた。
学校や運動が出来る広場も目につく、驚きながら景色をみていると、チムがバスのガラスに張り付き、
「なによここ⁉︎ 何がどうなってるの!」
驚きの声を上げていた!
ギャリソンは魔族がいる光景に驚きつつも静かに街を眺めている…
「ナオト、このハイカラな街はなんなんだ?」
ノーブは聞くが…
「召喚された人々の思いが詰まった街だよ」
そう言って微笑んだ。
(駄目だ、コイツに何を聞いても無駄だ…)
ノーブはそう思い、ため息を吐いた…
「そろそろ着きます」
影の薄いミーナが教え、城に到着した!
「これが魔王城か…」
ノーブは乾いた笑いをしてしまう。
(名古屋城か? 金のシャチホコが屋根に乗っかっているが…)
そんなことを思いながら、全員で城の中に入りエレベーターで天守閣に向かう。
エレベーターを降りて豪華な扉の前に立つ。
「皆さんをお連れしました」
ミーナが扉をノックする。
ガチャっと扉が開く!
目の前にハニワ? 茶色の陶器の様な質感の鎧を着た、お爺さんが立っていた!
その姿は、昔、学校の教科書で観た、鎧を着たハニワそのものだった…
ハニワ鎧を着た爺さんが、ノーブ達を見て、一瞬、ハッとしてから睨む!
「のこのこやって来るとは、甘い奴らめ皆殺しにいてくれるわ!」
そう凄んだ!
ノーブは右手を掲げて魔力を込める!
稲妻の玉が手の平の上で、バチバチとスパークする!
その稲妻は城を一瞬で蒸発させるほどの魔力を秘めていた。
「待て! 嘘じゃ! やめてくれ!」
爺さんがパニくり、ハニワ鎧を脱ぐ!
「年寄りの悪戯じゃ」
爺さんは陳謝する。
ナオトはやれやれといった表情を浮かべ呆れている…
(しかし、ハニワとは何時代から召喚されたのだ?
それに、この爺さんは尊敬に値しないな…)
ノーブはガッカリとしていた。
「おい魔王! お前は何者だ!」
もはや、微塵も尊敬の念はなかった。
「そんなに怒るでない… 悪かったと謝ったじゃろう?」
自分のせいなのに、爺さんは困っていた。
「まぁいい、何から話す?」
ノーブはやれやれといった表情で聞いた…
「そうじゃのう、ところで勇者、お前はこの世界をどう思う?」
「勇者はやめろ! ノブでいい。
この世界の人間として15年生きた 。
ほとんど隔離された生活だったし、旅に出て仲間になった者もすぐに死んだ…
現世の記憶を取り戻してからは、この世界の出来事が悪夢のように思えて今でも現実味を感じない…」
ノーブは思ったままを正直に伝えた。
「そうか…」
「出来る事なら、召喚された、あの日の日本に戻りたい…」
「何か心残りでもあるのか?」
「女房子供、それに孫がいる。それ以上のものがあるか?」
「むぅ…」
爺さんは困った顔で聞いていた。
「魔王よ、お前の力で俺を地球に帰らせてくれないか?
魔王といえば、この世で1番力を持つ者だろう!」
「無理じゃ、ワシにはそんな力はない…
本当の魔王でもない… ワシのことはヤマトと呼んどくれ」
ノーブは魔王だと思っていた老人にそう言われ、驚愕した!
「本当の魔王じゃない? どういうことだ!」
そこから長い話が始まった…
「この星、ガンガイアは、5000年前に誕生したのじゃ。
しばらくは平和じゃったが人族と魔族の戦いが始まった…
圧倒的な魔族の前になす術もなく滅びゆく人間…
人間たちは神に祈り力を得た…
人間は増え魔族を追い詰めた。
じゃが、それを眺めていた神にも葛藤があり、大天使が生まれ、大天使は堕天し魔神となり魔族を導いたのじゃ…
人間は神の僕の力を借りて魔神に戦いを挑むが、魔神は神の一部、この世の者では戦いにすらならんかった…
そして、この世の理から外れた異世界人を呼び魔神を封印したのじゃ…
その異世界人… 勇者と呼ばれた者こそワシじゃ!」
ヤマトが説明しながらピースをする…
「お前が始まりの勇者か…」
「そうじゃ!」
ドヤ顔で返事をして話を続ける…
「勇者として召喚され魔神を封印し、種族の格が上がったワシは神に近づき不老不死となった…」
見るからに爺さんだけど…
「戦いのあと、この世界の権力者から姿を隠し旅に出て世界を見回ったのじゃ…
大戦で敗北した魔族は必要以上に追いやられ絶滅寸前じゃった…
出来たばかりの帝国は、新たな勇者を召喚し、時の魔王を退治し続けていたのじゃ…
ワシは、この森の世界樹の底にダンジョンを造り街にした。
そこに生き残りの魔族を匿い旅を続けたのじゃ。
魔族を根絶やしにしたと思った人間は、他種族、エルフ、獣人、ドワーフ、精霊…
ありとあらゆる種族を敵視して侵略し迫害していった…
人々は変わってしまったのじゃ…
神を信じ、平和を愛した人は少なくなり、階級を作り人が人を支配する時代となり、ワシは出来る限りの亜人を集め森で匿う事にしたのじゃ。
より安全を好む者はダンジョンに、森に住みたい者は北の森に巨大な結界を張って護った。
莫大な魔力を使い続けているうちに不老のはずの身体が年老いた…
いや、老いた原因は違うか…
まあ、そこはどうでもいいんじゃが…
とにかく、人が国を作り領土争いが始まる…
人は、より好戦的になっていったのじゃ…
戦いが拮抗し落ち着くと、新たな領地として北の森に目をつけた…
世界樹があり、資源も豊かな土地、我先にと侵略が始まる…
森に集まり住む者の協力を得て、結界を強化し、魔道具を作り駆使して、人から森を護り続けた。
魔王を名乗った訳ではないのじゃが、人間界には北の森に最強の魔王がいると噂になり手を出す国がなくなったのじゃ。
だが帝国だけは違った!
帝国の王は欲深く、召喚師を我が物として囲い、子孫も国に縛り付け、召喚師の魔力が溜まる度に勇者を召喚させては北の森に送り混んでくる…
じゃがワシは、攻めて来た勇者を説き伏せ味方にした。
誰一人、帝国に戻ることはなかった…
勇者達は、このダンジョンの街や外の森にいて家族を持ち生活していたのじゃ」
ヤマトが胸を張って説明した!
「神が大事に思い助けた人間が、何故こうも変わってしまった?」
ノーブはヤマトに質問する。
「お主も見たじゃろう? 神獣の魔石に宿る黒いモヤを…」
「ああ、黒い瘴気を出して魔物を生み出すあれだろう?」
「大戦では多くの者が戦い傷つき敵に悪意を募らせた。
黒いモヤは悪意が魔力にこびりついた物じゃとワシは思う。
大戦後は、それが世界に拡散していったんじゃ…
心が繊細で弱い人間は影響を受けやすくてな…
特に帝国は戦いの中心となった場所じゃ…
国全体の人が黒い瘴気に呑まれておる…
あの国だけは救いようがないのが現状じゃ…」
ヤマトが残念そうに説明すると、黙っていたナオトが口を開く!
「あの国と王は異常だよ!
異世界から僕達を召喚させて、城で魔法や戦いの基礎を習わせて、実戦を体験するためにと魔法で自由を奪われて強制的に冒険者として修行をさせられていた。
でも、優しかった友達は戦いたくないと城に戻り王に願い出た…
その場で処刑されたよ!
僕はそれを後で知り城に乗り込んだけど…
僕に掛けられていた魔法のせいもあって満足に戦えなくて、帝国騎士や魔導師団にやられて捕まり、マリア様の部下に手伝ってもらって逃げたところをヤマト様に助けてもらったんだ!」
人に歴史ありだった…
「そうか… 大体の事は解った…
しかし、俺は誰になんの為にこの世界に連れてこられたのだろうな…」
いろいろと話を聞いたが、ノーブの事は殆ど解らなかった。
「それはたぶん、神の意思じゃないのかのう?
勇者といえば15〜6の若者ばかり、聞けばお主は50歳で召喚されたとか…
異世界で人として成熟した者に、この世界の判断をして欲しいのやもしれん…」
ヤマトの言葉にノーブは考え込む…
(俺は平凡なジジイだ、とてもそんな役割が務まるとも思えん… イレギュラーな気がしてならない…)
「ところでお主はこれからはどうするのじゃ?」
「とりあえず、最後のピースの母、マリアを探す…」
ヤマトの問いに、ノーブはそう答えた。
「そうか… せっかくじゃしこの街でゆっくりしていけ、なんなら住んでもいいぞ? ワシが家をプレゼントしちゃうぞ!」
ヤマトが楽しそうに提案するが…
「いや、気持ちだけでいい。タダより高い物はないからな…」
ノーブはヤマト達を信用している訳ではなく、それなりの警戒心を持っていた。
「そうか残念じゃ。お前さんほどの強さなら森もダンジョンも安泰なんじゃがな…」
「うん? この街には勇者が沢山いるんだろ?」
ノーブは不思議に思い尋ねた。
「勇者として現役なのはナオトだけじゃ。
勇者の中で不老不死はワシだけ、勇者として召喚されても通常の寿命で死ぬ。
ここにおる子達は、その子孫だったりする。
勇者同士の子であっても、勇者の力は受け継がれない…
ナオト以前の勇者で、1番若い奴が45歳46歳の2人その上は70歳だから戦いは無理なんじゃ。
ちなみに、この街と森の人口は5万人ほど、人間は2万、魔族6千、獣人1万、エルフ、ハイエルフ5千、ドワーフ4千、精霊や妖精2千、あと特殊な種族が3千ほどじゃな」
「勇者召喚は15年に2人か…」
「そうばかりじゃないが、大体そんなところじゃ」
「でも、おじさん勇者2人とヤマト、ナオトの4人の勇者でも過剰戦力じゃないのか?」
「まぁそうじゃが、ワシの魔力も弱まってな…
お主らも簡単に結界の中に入って来ただろう?
それにここのところ不穏でな…」
「何かあるのか?」
「帝国に黒いモヤが溜まっておる…
人々は黒いモヤの影響で、いもしない偶像を崇拝して心の拠り所にしている。
その強い思いが王に集中して依代として魔人になる懸念があるのじゃ… 既に兆候は現れておる」
黒いモヤの力は凄まじく、魔人と黒い瘴気に侵された兵士達や住人、そして万を超える魔物が一度に襲って来たら、北の森、全てが壊滅するとヤマトは心配していた。
(俺でも万の魔物と戦える。それが4人もいれば問題無いだろう…)
ノーブはそう考えている。すると、心の声が漏れたのか?
「僕達は貴方ほど強くないよ」
ナオトが呟いた…
「そうなのか? 魔神を倒した始まりの勇者は別格としても、他の勇者は似たようなもんじゃないのか?」
「昨日、貴方が倒した神獣は僕では倒せないし神獣が僕達を試す事も無かった…」
ナオトは目を瞑り顔を左右に振った。
「そうなのか? なら、何処かで汚染された魔石を探して大量の魔物と戦ってレベリングでもするか?
それか「はぐれメタル」を探してもいいぞ」
ノーブが冗談を交えて聞くと…
「いや、そうじゃなくて…
差し支えなければギルドカードを観せてもらえる?」
ノーブはナオトの頼みに、懐からカードを出して魔力を込めステータスを表示させる。
冒険者Cランク
名前 ノブ
職業 大勇者
レベル 683
加護 精霊女王
称号 悲しき者 ドラゴンスレーヤー ゴッドスレーヤー 嘘つき
「じゃあ僕も」
ナオトもカードを出して見せる。
冒険者ギルド Aランク
名前 ナオト
職業 異世界人
レベル 300
ギフト 光魔法 聖剣
「あれ? 勇者じゃないのか?」
ノーブはナオトのカードを観て驚いた!
「始まりの勇者、ヤマト様だけが勇者の職業を持つ。
その後の勇者は異世界人の総称みたいなもの…
レベルも300でカンスト…
僕の勇者は、あだ名みたいなもんなんだ」
ナオトはガッカリしながら説明した。
「そうなんじゃ…」
ヤマトも頷く。
「それでも、この世界の人達とは比べ物にならない強さだけどね」
ナオトがそう言った。
(俺は一体何者なんだ…)
ノーブは困惑していた。
情報が多過ぎて理解が追いつかない。
数日、この街に滞在させてもらい、ヤマト達と話をさせてもらうことにした。
全ての話を、ただ黙って聞いていたギャリソンは感慨深い顔をしていた。チムは床の上で寝ていた…
ノーブはチムを拾い上げポケットに入れてギャリソンと共に城を出る。
(アルカディア、理想郷の名前だったか?)
ノーブは街を再び眺めて思いを巡らせる。
そして、ナオトの案内でホテルに行く…
「この街並みや建物のデザインをしたのは誰なんだ?」
ノーブはナオトに尋ねる。
「僕の前の勇者がゼネコン関係の仕事をしていて、もう一人はエンジニアだった。
もともとは、この世界の街と同じ感じだったんだけど、徐々に作り直していって車やエレベーターも開発されたんだ。
食事は代々の勇者の日本人が故郷の食文化を求めて似た材料を探し改良したものを育てて再現されているんだ」
ナオトの説明を聞きながらホテルに到着する。
鉄筋コンクリートの3階立ての建物。
横長で学校を小さくした感じだった。
「森から来る人しか利用しないからホテルはコレしかないんだ」
ナオトが申し訳なさそうに言うが…
「いや、充分だ」
ノーブは日本風のホテルに感動していた。
ホテルに入りカウンターにいく。
綺麗な石のテーブルで、受付の担当者は黒髪黒目の日本人男性だった。
この街で産まれた、勇者の子孫だと、ナオトがノーブに教えた。
「いらっしゃいませ」
挨拶の言葉は日本語だった!
この世界で初めて日常会話で日本語を聞き、ノーブは嬉しさで震えた。
ノーブは、この世界で転移し、赤子からやり直して15年間、この世界の言葉を使っている。
ナオトやヤマトも召喚された後に努力してこの世界の言葉を覚えて使っていた。
そして、ナオトに貰った魔導書はナオトがヤマトに魔法を習い書き留めた物だった。
言葉を覚えるより字を覚えるのは難しくて仕方がなく日本語で書いたそうだ 。
ノーブが読めるかどうかは一か八かの賭けだった。
部屋に案内されて休憩する…
ノーブは終始無言だったギャリソンに話をしてみる。
「このアルカディアの街をどう思う?」
「理想ですな…」
「だな…」
「神も最初から、このアルカディアの街のような世界を目指せば良かったのです…」
ギャリソンは悔しそうな顔をしていた。
「まぁだが、戦いがあったからこそ、生き残るために、種族の壁を超えて協力し合うことが出来たのかもしれない…
あとは、始まりの勇者の力と求心力の賜物だな…」
「そうですな、ヤマト… 彼がここまでするとは…」
(ギャリソンの口調といい、
ヤマトが俺達を見たときの表情…
きっと2人には、なんらかの関係性があるのだろう…
だが、何も説明をしなかったのには理由があるんだろう)
ノーブはそう思い2人に関係性を追求しなかった…
「良い所だとは思うけど、私はやっぱ森で暮らしたいな!」
チムには関係なかった。
「まぁ、虫は森に住むものだからな」
チムを揶揄い和む。
「むきー! アンタはなんなのよ! もうー!」
「お前の仲間も、この森に引っ越した方が安全なんじゃないのか?」
怒るチムにノーブは提案する。
「そうね… お母様に相談してみるわ!」
精霊女王と念話を始めて1人でうんうんと頷いていた…
そしてノーブは街に繰り出して楽しむ!
クニクロという服屋に行きジーパンとTシャツを買い着替える。
その姿で、レストラン・サンラークに行きハンバーグとライスを食べ、コンビニのシックストゥエルブでポテチとコーラを買い、公園でベンチに座りポテチをポリポリと食べながら、さまざまな種族の子供達が遊ぶ姿を見てほのぼのとする。
(この危険と隣り合わせの世界でこの環境を作るとは恐れいる。
帝国の悪意を懸念するのも解るし、俺が力になれることがあるなら協力したいと思うが、だがまず、母を探さなくてはならない)
ノーブはいろいろと考えていた。
ホテルに帰るとギャリソンは出掛けていてチムは寝ていた…
チムを起こしてコーラを飲ませてやる。
「チム、俺の故郷の飲み物だ、飲んでみろ」
「わーい! うげ、なんなのよこれ! 口の中が爆発するわ!
アンタの国の人間はどうなってるのよ!」
コーラを飲んだチムがプリプリと怒る!
ノーブは15年ぶりのコーラを味わって飲んでいた。
翌日は勇者会議に参加した。
ヤマトとナオト。そして、45歳のゼネコン勇者のヨシヒデと46歳のエンジニア勇者のトシオ、ザ、日本人会議だ!
ノーブの見た目は15歳だが実際には65年の人生を歩んでいた。
ヤマト以外は年下なのでタメ口で話をする…
そんなヤマトは5000歳ほどだが初対面の印象が悪く尊敬する事が出来ずにタメ口で接していた…
勇者会議と仰々しい名が付いているが…
ただの井戸端会議である。
だが、日本人同士の話し合いは楽しいひと時であった。
会議も終盤、ノーブはどうしても聞いておきたい質問を振った。
「ヨシヒデとトシオの鎧はどんなデザインなんだ? ちょっと気になるんだが…」
待ってましたとばかりに、トシオが…
「変身!」と叫び! 香ばしいポーズを決めた!
その姿は黒と緑のバッタをモチーフにしたあの姿…
「ライダーかっ!」
ノーブは笑いを堪えるのに必死だった!
兜からニカっと笑うトシオの顔が見え、ライダーというより仮面ノリ… そう思ったが口には出さなかった。
「オタク魂が爆発しているな」
2人で笑い合う。
ヨシヒデは黙って剣を出す…
そして、光と共に鎧が現れる…
山吹色の鎧… いや、道着を着ている…
鎧ではなく山吹色の道着、胸と背中には亀の文字がプリントされていた…
「亀仙流なのか?」
「ああ… 俺の中の最強の戦士は悟空なんだ…」
ヨシヒデがそう呟き照れていた…
「山吹色の道着… カッコ良いじゃないか…」
ノーブもアニメ好きで、意外と羨ましかったりしていた…
そして、ノーブもエクスカリバーを呼び出して帯剣する!
一際眩しい光を放ち白金の翼の付いた鎧を纏う!
「おお! 神聖衣! かっけぇー!」
トシオが驚き興奮している!
「じゃあワシも…」
「ハニワはいい!」
ノーブは食い気味にヤマトを止めた。ヤマトは呆然とする…
「ところで、聖剣はどれもエクスカリバーなのか?」
ノーブが聞く。
「いや、俺達の聖剣に名前はない」
ヨシヒデが答え、ナオトとトシオが頷く。
「ふぉふぉふぉ! ワシのは草薙の剣じゃ!」
両刃剣の聖剣を出しハニワ鎧を纏う…
「和風できたか…」
はしゃぐおっさん達に乗り遅れるナオト…
勇者の聖剣と異世界人の聖剣は違う物だった。
そんなとき、ミーナが突然現れてヤマトを呼ぶ。
ヤマトはミーナと会議室の隅に行き何やら報告を受けている…
そして、ヤマトが戻り困ったように話し出す…
「マリア殿が見つかった…」
ノーブは言葉を失う。
沈黙が漂う中、声を絞り出す…
「何処に?」
「帝国に捕まり捕らえられているそうじゃ…」
「そうか…」
「どうするのじゃ?」
「会いに行くさ!」
ノーブは平然と答えた。
「じゃろうな… 止めてもむだじゃろうて、じゃが、帝国を侮るでないぞ!」
ヤマトが心配している。
「ああ、解っている!」
「戻ってくるのじゃぞ!」
ヤマトが大きな声で言った。
ホテルに戻りギャリソンとチムに話をする。
「母が見つかった! 帝国に行ってくる。2人はここにいろ…」
「しかし…」
「そうよ! 1人で乗り込むなんて… あんたバカなの?」
ギャリソンとチムは1人で乗り込む事に反対のようだ…
「俺の個人的な問題だし、ギャリソンにはここにいて何かがあったときにはヤマト達に力を貸してやって欲しい」
「わかりました…」
「チムも皆んなに力を貸してやれ…」
「わかったわ! ここは、チム様に任せてサクっと行って来て!」
ノーブは2人を説得して別れ出掛る。
ナオトに世界樹まで送ってもらい。
「世話になったな…」
ノーブが言い掛けると…
「フラグは禁物ですよ」
ナオトが止めた。
「そうだな! じゃあ行ってくる!」
ノーブは1人、フライの魔法で北の森を飛び立ち出発した!