その6
あの戦いのあと、ランデル山脈の麓の村に行き休息の日々を送った。
ギャリソンは人間の執事の姿で生活している。
ギャリソンに聞いたが、魔族も人間と同じ見た目をしている。
見た目で違うのはツノがあり少し大柄だと言う事ぐらいらしい。
内面的に違うのは、基本的な身体能力が高く魔力量も格段に多いことだ。
人が詠唱して魔法を使うのに対して、魔族は現象を思い浮かべただけで魔法となる。
魔族の魔法は持って生まれた物、人間の魔法は後から神に与えられた借り物の力、扱う魔法も根本的に違うとの事だった。
そして、一部の魔族は魔神に与えられた加護の力により悪魔へと至る。
ギャリソンの悪魔化した姿は、魔族のバトルモード的なものとの事だった。
そして話は変わる。
アイテムボックスの中にあった「マリの心」は取り出せなかったが…
「竜の卵」は取り出すことが出来た。
巨大な卵で神竜がドラゴンの死体を依代に転生したかもしれない。
ノーブはそう思い、叩き割ってやりたい気持ちにもなるが、記憶を持って産まれてくるなら聞きたいこともあり、アイテムボックスに入れておけば、ノーブの力を吸い成長し孵化するとのギャリソンの説明を聞き、しばらく様子を見ることにした。
そして鎧… 聖剣エクスカリバーをアイテムボックスから出すと同時に鎧も召喚される。
光り輝く白金の鎧。
ノーブは、その鎧を光の鎧や白金の鎧と呼んでいた。
兜はフルフェイスタイプではなく飾り程度の物だが頭部は常に聖なる障壁で守られている。
鎧の胸の中央にダイヤのように輝く拳大の魔石が埋め込まれていて魔力を込めると攻撃が出来る魔力砲がある!
背中には翼があり魔力を込めると飛べる。
背中腰部に16枚のヤーが装着され魔力による遠隔操作で意のままに操れる!
腰には聖剣エクスカリバーを装備し、手甲足甲もあり、フルプレートアーマータイプで全てオリハルコンで出来ていた。
エクスカリバーをアイテムボックスに収納しておくことで、ノーブの魔力をチャージし、その都度、魔力を込めることなく飛んだり武器を使う事が出来る。
見た目はどことなく昔観たアニメのアテナを護るペガサスのゴッドクロスに似ている…
ノーブは自分の前世の記憶を元に具現化されているのかもしれないと思った。
そして空間魔法が時空間魔法に進化したが…
見える範囲に転移する事しか出来ない。
何故なら転移先の時空間座標の割り出しが出来なかったからだ…
時間を止めたり進めたり戻したりも出来なかった…
だが、頑張って転移魔法を極めれば自力で地球に帰れるかも知れない。と、ノーブは、この魔法に期待をしていた。
そして、次の旅路につく。
ギャリソンと2人で飛んで行っても良かったが…
明確な目的地がある訳でもなく急ぐ旅でもない。移動は馬車にした。
今まで使っていた馬車はフィンにやってしまったために麓の村で新しい馬車を購入した。
御者はギャリソンが務めてくれている。
次の目的地はギガント帝国とした。
まず、帝国領土の外れにあるアルブの街に進路を定める。
一度、自分の産まれた街に戻り、そのあと王都に行こうと決めた。
馬車道を西に進む…
70歳ぐらいの執事が御者をして、15歳の若者が乗る馬車…
側から見るとちょっと不思議な感じだろう。
ノーブの見た目は15歳の若者だが、実際は65歳のジジイ…
70歳に見えるギャリソンを、年相応な友に思えて嬉しく感じているが、ギャリソンは自身を5千歳だと笑っていた…
2人の旅は順調だった。
馬車を走らせて見かけた街や村には必ず立ち寄り、ギャリソンが宿を取り、旅に必要な物の買い出しをする。
ノーブは冒険者ギルドに行き道すがら倒した魔物の魔石や素材を売る。
そして、母やナオトの情報集める。
それが旅の途中で街や村に寄ったときのルーティンとなっていた。
ただ、情報集めに関していえば、大した情報が集まらないのが定番だった。
そして、滞在して旅立つと…
必ずと言っていいほど数人のゴロツキが追って来る!
馬車が豪華だったせいもあり、金持ちの坊ちゃんと執事の2人旅だと勘違いされて襲われる。
そして、ギャリソンが返り討ちにする。
今更、この世界のゴロツキ如きに襲われても何の脅威でもなかった。
そんななか立ち寄ったコトンの街で、ノーブがいつもの様に冒険者ギルドに行くと、ギルドの中は異様な雰囲気でざわついていた…
街から南へ2日ほど移動した所に「幻惑の森」と呼ばれる広大な森があり、森の奥には「試しの洞窟」と名を持つダンジョンがある。
そのダンジョンから大量の魔物が湧き出しているのを何人もの冒険者が目撃したといった報告があがっていた。
明日にでも調査隊が出発し調査する事となっている。
ギルド内では、スタンピードが起こる可能性もあり、緊急討伐依頼が出るかも知れないと冒険者達が騒然としていた。
ノーブは、少し気になる事があり、翌日、ギャリソンと共に調査に行く事にした。
宿に馬車を預け歩いて村の外に出る。
感知して周りに冒険者がいないことを確認し、ノーブは、アイテムボックスからエクスカリバーを取り出して白金の鎧を装着する。
続いて、ギャリソンは背中からコウモリ風の羽を出す。
「いくぞ!」
ノーブの号令で、2人は垂直に飛び上がり、一気に南に飛ぶ!
目的地に近づくと、空に黒い固まりが浮いている様に見える…
それは、空飛ぶ魔物の群れだった!
「私めが倒してまいりましょう!」
ギャリソンが言うが…
「いや、ここは試したいものがある」
ギャリソンを制して、ノーブは白金の鎧の胸に意識を集中する。
「ホーリーレイ!」
胸の魔石から聖なる光りのビームが放たれる!
一気に広がり飛竜やハーピーなどの魔物を飲み込み消滅させる。
そのビームを放ったまま、身体を徐々に動かし、魔物のいる空域の左端から右端まで全てを焼き尽くす。500ほどの魔物を一撃で消滅させた!
「さすが勇者様、桁違いの攻撃力ですな」
ギャリソンが笑い…
「あれが、幻惑の森みたいですな、結界が張られて幻術が掛けられているようです」
そう説明した。
「そうだな、あとは降りて地上にいる魔物を倒しながら進むか…」
2人は地上に降り立ち魔物の群れへと駆け出す。
ノーブはギャリソンの戦いに目を奪われる!
殴る蹴る! 掴んでは投げ飛ばし噛み付く!
手刀で真っ二つにされる魔物もいれば、力任せに引き裂かれる物もいる。
口から炎を吐き雑魚を焼き尽くす。
まさに悪魔! 力こそが全ての戦い方だった!
ノーブは剣と鎧に慣れるために勇者装備で戦っているが、実際にはギャリソンと同じ肉弾戦派だった…
ダンジョンから溢れ出た魔物達、ゾンビ、スケルトン、ゴーレム、ジァイアントバット、ワーム、etc…
聖剣エクスカリバーの敵ではない!
レベルの低いゾンビやスケルトンは、エクスカリバーを掲げて放つ聖なる光りだけで浄化され消えてゆく…
ゴーレムも土、岩、鉄、ミスリルと多くの種類が向かって来るが、エクスカリバーにて一撃で倒されていく!
何かに使えるだろうと、各種ゴーレム、高価な魔物や魔石は回収しながら戦い、気づいたら、向かって来ていた魔物を全て退治していた。
結界の前に行き手を入れる。
入れないタイプの結界ではなく、幻術を内包する簡単なバリアみたいな物だった。
結界内に入ると幻術にかかり方向感覚を失う。
幻術耐性がないものは結界の外に誘導され、幻術をレジストできる者は更なる幻術で試しの洞窟に案内される。
洞窟に行き着いた者は幻術を攻略したと満足し騙される。
だがその実は、洞窟より更に向こう側にあるものを隠すためだった!
ノーブは気づくが、それは後でいいと、結界内の魔物を倒しながら洞窟へ向かう。
辿り着くとイメージとは違う巨大な入り口の洞窟だった!
この世界に来て初めてのダンジョンにノーブは少しワクワクしていた。
巨大な洞窟の道を光り魔法で照らして魔物を倒しながら下って行く、5〜60mは下っただろうか?
洞窟から森に出たかと思ったら、ダンジョンの第1階層だった。
天井は岩だが全体的に光っていて階層内は明るい。
ダンジョン内の植物は地上の植物とは若干違っていて、不気味な雰囲気を出していた。
当然のように魔物がうじゃうじゃといる。
ノーブは面倒だと、飛び上がりエクスカリバーをかかげ!
「オーリーハールーコーン!」
トリトンになった気分で叫んでいた…
エクスカリバーが光り輝く!
アンデット系の魔物が聖なる光りに浄化されて魔石だけを残して消滅する。
残りの魔物をギャリソンと共に倒し殲滅していく。
森の反対側まで行くと、再び洞窟状のスロープがあり下って行く…
繰り返すこと19階層、夥し数の魔物を倒していた…
階層を下がれば下がるほど強い魔物が現れる。
だが同時に魔物の密度は減ってきていた。
20階層、目の前に巨大なフェンリルの群れが現れる!
不用意にギャリソンが突っ込んで行くとフェンリルに片腕を噛み千切られる!
「ふんっ!」
ギャリソンが力を入れると、腕がビュンと一瞬で生え再生していた…
(まるで、ナメック… まあ、そんな感じか…)
ノーブはそう思う。
そして、このレベルの魔物には油断すると痛手を喰らう…
「ギャリソン! 油断するな!」
喝をいれ!
「暴れ狂え! ライオット!」
稲妻が走り、20頭のフェンリルは感電し絶命する…
フェンリルの死骸も毛皮が綺麗だったので回収する。
(助けて… た… す… 助け…)
何処からともなく、かすかな声が頭に響き聞こえてくる…
念話だが、なんとなく場所も解る…
(面倒だな…)
ノーブはそう思いながらも声のする方に向かった。
その場に着くと巨大な扉があった!
その扉は既に開かれていて、黒い瘴気と共に魔物がうじゃうじゃと溢れ出ていた!
魔物を倒しながら部屋の中に入る。
部屋の中央には巨大なダイヤのような魔石が祀られていた⁉︎
魔石の中には黒いもやが渦巻き瘴気が溢れ出している…
「間違いない! アレが原因だ!」
ノーブは思わず叫んでいた!
魔石を護る様にアダマンタイトゴーレムが5体と、真っ赤なドラゴンが一頭いた…
だが今更、ゴーレム如きは敵ではない。
一瞬で近づき、エクスカリバーでゴーレムコアを刺して5体を停止させてアイテムボックスに収納する。
その隙にギャリソンがドラゴンの頭を掴んで振り回し壁にぶち当てていた!
ドッカーン! ゴゴー! と激しい音がする!
起き上がったドラゴンが炎のブレスを吐き出す!
ギャリソンも負けじと炎を吐き出して炎と炎がぶつかり相殺する…
(助けて! きゃー! 死んじゃうー!)
念話の声が再び聞こえる…
その念話はドラゴンの腹の中から聞こえていた…
「ギャリソンすまん!」
ノーブは、そう声を掛けてドラゴンの頭上に転移し、両手の拳を組み渾身のハンマーを打ち下ろす!
ドラゴンの脳天が陥没して絶命した!
「おい! 自力で出て来い!」
息絶えて横たわるドラゴンの口を開けて中に向かって叫ぶ!
しばらくすると、ドラゴンの口から羽の生えた小さな人が出て来る⁉︎
その姿はドラゴンの唾液か胃液でベトベトだった…
「妖精なのか? それにしても汚いな… ウォッシュ!」
ノーブは嫌そうな顔をして魔法で洗う。
「お前か? 助けてと騒がしかったヤツは?」
「もーう! 死ぬとこだったじゃん! 優しく助けてよね!」
虫の様な小さな女の子が、ブチブチと文句を言いキレている…
(ギャリソンの得物を横取りしてまで助けたのになんてヤツだ!)
ノーブはガッカリとして妖精を無視して魔石に向かう…
妖精は目の前に飛んで来て、
「ムシするなー!」
ノーブの目の前を飛び回り騒いでいるが…
手で払い除け魔石に手を置き聖なる光りを放つ!
黒いもやがなくなり神々しく光り輝く美しい魔石に変わった!
(見た目といい大きさといい神竜の物とそっくりだな…)
魔石を、まじまじと見て眺める…
「あんた! なんでそんなことが出来るのよ!」
虫が騒ぐが無視だ。虫だけに…
「ムシするなー!」
暴れ出して騒ぐ…
「じゃあ、お前はコレが何か知っているのか?」
ノーブが聞くと…
「知っているわ!」
魔石の上に立ちドヤ顔で小さな胸を張った!
そして話し出す…
「これは神獣様の魔石!
遥か昔、魔神と人間の大戦で戦い深い傷を負った神獣フェンリル様が、ここで亡くなったの… そして残ったのがその魔石…
レッドドラゴンは、このダンジョンのボスで魔石を守っていたの…」
そう説明して話しを続ける。
「私は森の奥に住む妖精なの。
最近、洞窟から魔物が溢れ出てくるようになって、心配になり様子を見に来たけど…
ドラゴンの様子もおかしくなっていて、近づいたら食べられちゃって…
結界を張って消化されないようにして助けを呼ぶ念を送っていたってわけよ…」
要するに、迂闊に近付いて食われたドジっ子だった。
「そうか…」
ノーブは話を聞きながら魔石に触れ、アイテムボックスに収納しようとしたとき!
魔石が光り出し、その光りが飛び出して、ノーブの中に入っていく…
ノーブはやれやれといった顔をして魔石をアイテムボックスに収納した。
「ちょっ! ちょっと! どういうことよ!
なんでフェンリル様の魔石を持っていくのよ!
返せー! 泥棒ー!」
妖精が騒ぎ出す…
「お前さ、また魔石が黒くなって魔物がうじゃうじゃ出てきたら困るだろう?
だから俺が封印しておくんだよ…」
仕方がなさそうに答えるが、それは演技だった!
適当な嘘を付き、何かの役に立つかもと好奇心から頂いただけだった。
「そっか! そういえば、アンタなんで魔石を浄化できたのさ! 聖女でもないのに!」
いちいち騒がしいヤツだ…
「さあ? なぜなんだろうな… じゃあ行くわ!」
ノーブは手を上げて踵を返し歩き出す…
「まって! 待ちなさいよ! 誤魔化すんじゃないわよ!」
妖精は騒ぎながら付いて来る!
「もう騒がしいな…」
「もしかしてさ、アンタ、勇者?」
妖精が聞くが…
「うーん… ただのジジイだ…」
別にふざけている訳ではなかったが…
「もういいわ! 助けてくれたお礼もあるし、精霊の集落に招待するわ! ちょっと付いて来てよ!」
妖精は呆れながら、お礼をするから付いて来いと、面倒くさい事を言い出した…
だが、精霊の集落には行ってみたい気持ちもある。
「わかった連れて行ってくれ、俺はノブだ、こっちはギャリソンだよろしく!」
妖精に自己紹介をする。
「私はチム! よろしくね!」
チムも自己紹介した。
3人でボス部屋を後にする。
チムは妖精、人型の女性で背丈は12〜3cmほどで背中にはトンボのような羽が4枚ある。
バイストンウェルにいるヤツに似ていた…
良く見ると顔も可愛い。
羽があるため、背中が大きく開いたワンピースを着ている。
黙っていればフィギュアの様で可愛いのだが、気が強くよく喋るとうるさいのが玉に傷だった。
「チム、ダンジョンを一気に出る魔法は知らないか?」
ノーブはダンジョンに飽きていた…
「そっ、そんな魔法は使えないわよ!」
チムは困った顔をしていた。
「そうかなら肩にでも乗って掴まれ。走って抜ける!」
「わかったわ!」
チムが肩に乗のったのを確認し、ダッシュ!
あっと言う間にダンジョンの外に出た 。
そして、チムの案内で隠された妖精の集落に向かう。
妖精の集落付近のエリアは神聖な結界と空気に包まれて木々も不思議な感じがする…
「チム、この木はトレントか?」
「そうよ! よくわかったわね!」
「ドライアドとかもいるのか?」
「いるわよ! 会いたいの?」
「いや別に… 強ければ戦ってみるかなと…」
ノーブはバトルマニアだった。
「やめて! アンタ達みたいなのと戦えるわけないでしょう! 皆んな死んじゃうわよ!」
チムは真っ赤な顔をして怒り出す!
「そっ、そうなんだ…」
ノーブは落胆した…
くだらない話をしてるうちに集落の入り口に到着する。
数十… 数百の妖精が飛んで来る!
「チム様が、ご無事に帰られた!」
妖精達は喜び飛び回る。
(ちょっと鬱陶しいな…)
ノーブは幻想的でファンタジーな光景に興味すら覚えなかった…
その後ろから落ちついた雰囲気の一行がやって来る。
チムや飛んでいる妖精達とは違い、背丈は150cmぐらいの羽の生えた女性が、木で作ったフィギュアの様な女性2人を従えている。
「チムを助けていただき、ありがとうございます。
私はチムの母のチルでございます。
精霊女王をしております。
どうぞこちらに…」
美しい女性に挨拶をされ、集落の中に案内をされる。
大体の内容は、チムから念話で説明されて知っている感じだった。
集落中央にある広場に着きベンチに座りチルと話をする。
「増え続ける魔物を退治していただき、ありがとうございます勇者様」
「うん? 何故、勇者だと思う?」
ノーブは不思議に思う。
「普通の人間に、神獣様の魔石の浄化など出来ないことです」
チルは当然とばかりに微笑み頷いていた。
「何故、神獣の魔石から瘴気が出て魔物が生み出される?」
「神のしもべであられる… 神竜様や神獣様が大戦のなか、残念ながら魔族に傷つけられ殺されてしまったこともありました。
亡骸は地上に落ち塵となり消えていきました…
残されたのは巨大な魔石のみ、目立つ場所にあった物は人間に持ち去られましたが…
深い森の中、地中の中、そして、今回のようにダンジョンの中で護られていた物もありました。
数千年の間に、自然界にある魔素が魔石に侵食して溜り、魔石の力を得て瘴気が溢れ出す。
それに寄って、大量の魔物が産まれ出て、今回のようなことが起こったのです…
元来、魔物は魔素溜まりから産まれ出るもの…
今となっては自然に繁殖する魔物も沢山いますが…
神のしもべ様の高位な魔石の影響もあって強い魔物が産まれてしまいます…
この集落も滅びるのは時間の問題だと思われていました…
助けていただき感謝しております」
チルは細かい説明をして、再度お礼を言った。
「そうか… 世界には同じ様な魔石が何個もあるのか?」
「それは、解りかねます…」
ノーブが知っているだけでも3個目、あちこちにある可能性もあると思い聞いてみたが、精霊女王にも解らなかった。
「まぁ、あったとしてもこの世界の人間達がなんとかするだろう…」
ノーブは興味なく呟いた…
「えっ⁉︎ 勇者様がなんとかしてくださるのではないのですか?」
チルが物凄く驚く!
「俺は勇者といっても勇者召喚のついでというか、オマケというか…
間違いで呼ばれた者なんだ…
今回の様に目につけばなんとかするが、自分からこの世界の事に関わりたくはない。
俺は自分の世界に帰る方法を探している…
精霊女王よ俺を異世界に飛ばせないか?」
ノーブは本音を語った。
どうしても日本に帰りたい、ただそれだけで、この世界が滅ぼうが知った事じゃなかった…
「無理です… それは神の領分です…」
精霊女王が困った顔で答えた…
「そうか、無理を言ったな…」
「いえ…」
気まずい沈黙が続く…
「なに、バカなことを言ってんのよ! 勇者でしょう! 世界を救いなさいよ!」
チムが再び騒ぎ始めた…
(面倒くさい…)
ノーブは無視した…
「精霊女王よ、話をありがとう。
行くぞギャリソン!」
ノーブはチルにお礼を言い、立ち上がり踵を返して歩き出す…
「ムシすんなー!」
ノーブのほっぺにチムのパンチが突き刺さるが…
「おっ! チム、連れて来てくれてありがとうな。じゃあ達者でな」
パンチなど蚊に刺された程度で気にもせずに右手を挙げて別れを告げた。
「まてまてまてーい! 私も付いて行く! アンタに付いて行くから!」
チムが勝手な事を言い出した!
「お前さ、人前でブンブン飛んでいたら捕まえられて見世物小屋行きだぞ?」
ノーブはもっともな事を言う。
この世界は、娯楽が少なく珍しい生き物は観賞用に狩られて見せ物となるかペットとして売られる事が多かった。
「アンタ、勇者でしょう! 誰も手を出さないわよ!」
チムは少しビビっている!
「俺を勇者だなんて誰も知らねーよ!」
「えっ…」
チムは絶句した。
「お前、精霊女王の娘ってことは、この里の姫なんだろう? 大人しく里で暮らせ…」
ノーブは話をしながら、ふと、疑問に思う事を口にする。
「お前、なんで妖精なんだ? 精霊女王の娘だから精霊じゃないのか?」
ノーブの問いにチムの代わりに女王が答える。
「妖精は1000年生きて力を貯め精霊に至ります…
チムもあと900年ほど経てば精霊に至ります。
勇者様どうかチムを旅のお供に加えてください。
私からもお願いします」
精霊女王チルからも、チムを旅のお供に加えて欲しいと頼まれてしまう。
「本当に良いのか? 危険だぞ?」
「はい大丈夫です」
「…解った」
「感謝いたします。お礼といってはなんですが、勇者様に精霊女王の加護を与えます」
女王が輝き、ノーブも光りに包まれる!
(最近、こんなのばっかりだな…)
ノーブは飽き飽きしていた…
「勇者様がお困りのときは、精霊を使役してください」
女王が優しく微笑えんでいた。
「この力、ありがたく使わせてもらう… 精霊召喚!」
すぐに試すと、5つの光りが輝き精霊が現れる!
火の精霊 イフリート
風の精霊 シルフィード
水の精霊 ウィンディーネ
土の精霊 ノーム
木の精霊 ドリアード
現れた精霊達が跪き首を垂れる。
「「「「「我ら5精霊! 勇者様と共にあらんことを!」」」」」
声を揃えて忠誠を誓っていた。
「よろしく頼む!」
精霊達は、ノーブの言葉を聞いて頷き、すーっと消えた。
「じゃあ行くか! チル、ありがとう」
ノーブは精霊女王チルに別れを告げて歩き出す。
チムを肩に乗せて、今度こそ集落を出て行く。
結界の外まで行き、コトンの街に飛んで戻る。
街の中では、チムはノーブのマントの中に隠れている。
妖精の集落ではチムを脅したが…
誰かに見られても大したことはない。
妖精は珍しいが鑑賞用に籠に入れて飼っている貴族もいるし、モンスターテイマーが使役していることもある。
高級なペットを連れていると思われる程度の事だ。
疲れたので宿に戻り休む…
おもむろにギルドカードを見る。
冒険者ギルド Cランク
名前 ノブ
職業 大勇者
レベル 530
加護 精霊女王
称号 ドラゴンスレーヤー
ゴッドスレイヤー
悲しき者
嘘つき
2万ほどの魔物を倒し、下層の魔物はかなりの強さだったこともあり、一気にレベルが上がっていた。
(レベル530⁉︎)
ノーブはレベルに驚いていたが、自分の知っているゲームとは違うのだろうと、あまり気にしないことにした。
アイテムボックスの中を見ると「獣の卵」が増えていて、代わりにフェンリル20頭の死骸が消えていた…
「神獣の魔石」とダンジョンボスの「レッドドラゴン」はそのまま存在している。
回収したゴーレムは魔法で素材と魔石に分けて土だけは森に捨てた。
鉄、ミスリル、アダマンタイト、オリハルコン、ダイヤモンドなどを、数百から数千t、ゴーレムコアも5千ほどゲットしていた。
飛竜は美味いとの噂を信じて食材として10mほどの物を数十頭と、牛、豚、鶏に似た魔物を、かなりの数を回収していた。
アイテムボックスの中の時間は止まっていて鮮度が保たれる。
そして、信じられない量の収納が出来る。
無駄な物でも、とりあえず収納していた。
空や地上で倒した魔物は、高価そうな魔物はそのまま収納し、それ以外は焼き払い魔石のみを回収した。
また、ダンジョン内で倒した魔物は放置して時間が経つとダンジョンに吸収されて消えていく。
素材が欲しい場合は適切な時間内に収納したり解体したりすれば持ち帰る事が可能であった。
こちらも、高価で売れそうな魔物と魔石は出来るだけ回収した。
種類はいろいろだが万を超える魔石を手に入れていた。
ノーブは貧乏性で使い道があるか解らない物でも捨てられずに、やたらと確保し収納していた。
翌日、コトンの街を出発する。
北上して帝国領のアルブの街を目指して進んで行く。