新章17
調査の報告を受けている。
「あの、確認しましたが、私達が転移した門に間違いないと思います」
まず、ミキが発言した。
あの地下施設にミキを行かせて確認させた。
続いてヤマトが話し出す。
「とりあえず報告じゃが、大したことは解らんかった…
転移装置も動かしかたが解らん。
バラしてはみたが解析には時間が掛かるそうじゃ…
研究施設の機材も古過ぎてあちこち壊れておる。
悪意の瘴気を出す魔物を造ったのではないかとの推測程度の事しか解らんとの事じゃ…」
ヤマトが残念そうに首を振った。
「成果なしか…」
「それとな、地上に繋がる通路と倉庫のような巨大な空間を見つけた。
外への出入り口は偽装されていて外から見ても解らない。かなりの大きさで中は空っぽじゃった…
お主の言う宇宙船の格納庫や発着場かもしれないとの事じゃ」
ヤマトが報告を続けた。
「そうか… 宇宙から攻められると手のうちようがない…
将、ロボや宇宙戦艦はどうなっている?」
魔王が将に問う。
「やっているけど、なかなか難しくて…
ロボットはドラグーン、宇宙船はムサシの技術をベースにエンジンや細かい技術は父さんから貰った地球のスマホのデータを頼りにしている…
エンジン出力、燃料、機密性、強度と問題が山積みだよ。
まだ試作機を造っている段階で直ぐに量産とはいかないよ…」
将が困った感じで答えた。
「そうか、とにかく進めてくれ…」
魔王が頼むと将が頷いた。
「ファンタジーの世界だから意外と宇宙にも空気や重力があるかもな、ちょっと飛んでみるか…」
魔王が天を仰ぎ言い出した。
「駄目よ! そんなの無理に決まっているわ! 危ないことをしないで!」
愛が焦る。
「この世界も地球の世界と概ね変わらないです」
シンリーが教えるが…
「そうか… ならヤマト、不老不死だろう? ちょっと飛んでみてくれ!」
魔王はヤマトに無茶ブリする。
「馬鹿! 老人をこき使うな! そんなに高く飛べるわけなかろう? 人では無理だ。天使かドラゴンならあるいは…」
ヤマトの話を聞きギャリソンが首を振る。
魔王は話が聞きたくて6竜人を呼び出した…
「すまんな集まってもらって」
神の啓示の事から順を追って説明した。
最後の戦いに向けて準備している事も。
「ざっとこんなところだ。
敵が転移で来るなら問題ないのだが…
もし、宇宙から攻撃されたら反撃のしようがない…
誰か宇宙に行ったことはあるか?」
魔王が問う。
「一度、試したことがあります」
サトシだ!
「ある程度の高度に達すると息苦しくなり身体が凍てつき魔法も使い難くなりましたね…」
さすが探求者、危険をかえりみずチャレンジしたようだ。
「そうか…ドラゴンでも無理だったか…魔法すら使えないとなると厄介だな」
「宇宙から来る場合、敵はどうやって来るのじゃ?」
トキが聞く。
「俺のいた世界では、火を噴いて飛ぶ金属の筒や鳥みたいな形の物で宇宙船っていうやつだな」
「火を噴いて飛ぶ鳥みたいなやつか?
それなら知っとるぞ!
6年ぐらい前かの… 妾の島の周りをブンブン飛んでおってな、鬱陶しくて撃ち落としってやった!
島にいくつか転がっておるぞ?」
「マジか!」
トキの話を聞き、皆を連れて時空島に転移して、それを見た。
それはこの世界の物ではなかった!
日本の輸送機に似た丸っころい形で羽のある宇宙船。
3機が墜落していた!
トキが攻撃したのだろう。2機は大破していたが1機は割と良い状態で残っていた。
「コレを解析すれば宇宙戦艦の建造が早まるよ!」
将が目を輝かせている。
「ああ、だが、これで敵は宇宙船を持っている事が確実となった。
宇宙戦闘にも備えなければならん! 頼んだぞ将!」
息子に丸投げという結果になった。
その後も、話し合いが続き竜人達も戦いには協力し参加すると言ってくれた。
会議は終わり解散する。
「王よ一つ妾の頼みを聞いてくれ」
トキに呼び止められて1人の竜人を紹介される。
「妹分じゃ、名前をやってくれ」
解放した100人の竜人のうちの1人だ。
6竜人以外の竜人達は各々が好きな名を考えて名乗っている。
「狭間に落としていたヤツだろう?」
魔王は妹分と聞き不思議に思う。
「竜は皆、悪意の瘴気のせいで呪いのような憎悪しか持っていなかった…
加護を受けて竜人となったいま昔のわだかまりはないのじゃ。
王に名をもらえば繋がりが強くなる気がしてな」
「そうか… トキの妹分ならサキでどうだ?」
「はい王様、サキと名乗らせていただきます。よろしくお願いします」
魔王の名付けた名前を受け入れサキは丁寧に挨拶した。
「有事の時はサキに竜人達を引きいてもらう」
「6竜人ではなくてか?」
魔王は不思議に思う。
「ああ、妾達には別の役目がある」
トキは、それ以上多くを語らなかった。
竜人には竜人達の都合があるのだろう。
その後、魔王は皆にはナイショで宇宙に飛んで行ってみようとしたが、シンリーに無茶をしないでくださいと怒られた。
魔王には見えない見張りが付いていたのを忘れていた…
そして、愛にバレて捕まり城に拘束されている。
(シンリーのヤツ、チクリやがって! 俺のスキルの癖に… 解せぬ!)
魔王はご立腹だった。
「お客様です」
セバスチャンが案内してくる。なんのことはない、聖女ズだ。
フィン、ダーガ、ザマも一緒、愛の護衛のリリーも並び代表でルルシュが話し出す。
「魔王様、私達、合同で結婚式をすることにしました」
「そうか、良かったな、おめでとう。皆に祝ってもらえ」
6人、3組のカップルはついに結婚するようだ。
ルルシュが招待状を出して渡す。
「すまんが欠席で頼む。その日は用事もあるしな…」
「ええー! 出席してくれないのですか?」
「ああ、堅苦しいのは昔から苦手でな…」
「駄目ですよー、出てくださいよー」
「用事もあるしな…」
「どんな用事ですか!」
ルルシュがちょっと怒っている…
…………
魔王が口籠もると…
「子供達と約束があるのですよね」
静寂に耐えかねたエルザが教えてしまう。
「すまん。その日はケーンとミサとカブト虫を取りに行く約束をしているんだ…」
「魔王様、カブト虫は固くて食えねぇぞ?」
ダーガが言う。
「食わねぇーよ! 飼うだけだ! お前はしゃべるな!」
魔王はダーガにイラつく。
ルルシュが泣きそうだ…
はぁ、とため息を吐き。
「人の多い場所には行きたくないんだ… 愛の戦士とか弄られてバカにされるのが落ちだ。諦めてくれ」
魔王はやれやれといった表情をして首を左右に振った。
「えーん、ごっ、ごめんなさーい」
ルルシュが泣き出し抱きついてくる。
「やめろ離せ、彼氏に抱きつけ! フィン、なんとかしろ!」
………フィンが顔を背けて動こうとしない。
「えーん、来てください… みっ、皆んなに、じっ、自慢できないじゃないですか…」
欲望に正直なヤツだ…
「わかった泣くな… ほら、出席するから離れろ…」
魔王は仕方がないと承諾する。
「なっ、なにか、甘いものもっ、た、食べさせてください…」
「図々しいな… わかった、チョコレートパフェを食わしてやる。泣きやめ」
「約束ですよ? 必ず来てくださいよ…」
泣きやみ笑顔を見せるルルシュ。
「ルルシュ様凄い!」とか「さすがだ、あの魔王様を手玉にとっている…」とか、フィン以外の4人が驚いている。
「俺はやられたのか?」
「バカね、おじい様、いつもの手じゃない。
ほんとルルシュに弱いんだから…」
愛にも呆れられてしまう…
ルルシュのあざとさを目の当たりにして複雑な表情をするフィンの肩に手を置き、
「結婚って大変だぞ? 頑張れな…」
魔王はそう呟いていた。
約束はしたが少しだけ顔を出せば良いだろう。そう思った。
数日後、合同結婚式の当日だが魔王はマーリンとセシリーの間に挟まれソファーでくつろいでいる。
愛やエルザ、リリは先に教会に行った…
魔王は誰にも声をかけられないように始まると同時に転移で席につけば良い。
「魔王様、あーん」
マーリンにアダムのリンゴを食べさせてもらっている…
「どこのメイド喫茶だ! 自分で食うからいい!」
「まあまあ、お茶ですどうぞ、ふぅーふぅー」
セシリーがお茶を冷ましている。
「勝手にふぅーふぅーすな!
教会の行事だろ? 行かなくて良いのか!」
「私の神はここにいます」
「いねぇーよ!」
カオスな時間が続く。
ガラパゴスが鳴る。始まりの合図だ。転移で席に着く。
「ルルシュが探していたわよ」
愛が困った顔をしていた。
「良いんだ来た事実さえあれば」
舞台袖からルルシュが魔王を睨んでいる。
それよりも気になるヤツが…
「なんでエカテリーナがウエディングドレスを着ている?」
「自分の式のように教会のあちこちで撮影していたわ…
若返りの魔法を覚えてから少しおかしいのよ…」
ウエディングドレス姿のエカテリーナが参列者席に座っている。
ナオトは隣で死んだような顔をしていた。
「もうナオトは使えんな… 魂の傷が修復不可能かも知れん…」
魔王が呟くと式が始まった。3人娘は綺麗で野郎達も凛々しかった…
(はっ!)
魔王はウトウトして気がついたら終わっていた…
愛とエルザに内容を聞く、素敵な式だったようだ。
人が集まって来る前に転移で帰る。
結婚式を終えたルルシュが城に乗り込んで来てプンプン怒っている。
「なんでちゃんと見てくれないんですかー」
「見たよ、綺麗だったな。幸せになるんだぞ」
「寝てたでしょう!」
「ちょっとだけな…」
「遅く来て、早く帰っちゃうし…」
「俺だって、あんな変な話が広まっていなければ、ゆっくりしたさ!
自業自得ってやつじゃないのか?」
泣き出すルルシュ…
「もうその作戦にはのらん。嘘泣きは聖職者としてどうかと思うぞ?」
後に引けないのか? 泣き止まない…
愛を見ると首を振る。
面倒くさいのでルルシュを教会に強制転移させてやった。
強制転移、それは魔王が新しく開発した転移魔法だった。
対象者だけを転移させて呼んだり送ったり出来る魔法だった。
きっとフィンが慰めるだろう…
「しかし、何でルルシュは俺にこだわるんだ?
まだ聖女王を狙っているのか?」
「きっと、お父さんみたいに思っているのですよ…優しいから」
エルザがそう言って微笑む。
「そうかな…また今度、ケーキでも食べさせてやるか?」
魔王はチョロかった…
「やっぱり甘いわ」と愛に呆れられる…
魔王の面倒くさい1日が終わった。




