その3
カーシャの街を後に東に向かう。
人探しの旅だが、行く当てのない1人旅、ゆっくり次の街に移動する。
この何日かで、曖昧だった前世の50年間生きた記憶がハッキリと蘇った!
(俺は日本で死んだことになっているのだろうか?
帰ればあの日からやり直せるのか?
女房と子供、孫はどうしているのだろうか?)
そんな事ばかりが気になって仕方がなかった。
(出来る事ならジジイに戻って帰りたい!
この世界は争いが多く平和な世界で育った俺には辛すぎる。
15年も住んでいても知り合いも友達もいないし…
友達や好きな子が出来たと思ったら無慈悲に死んでしまう…)
ノーブは、この世界の出来事が悲しい夢のように感じて現実味がなくなっていた…
(とりあえずナオトを探そう… 彼ならきっと全てを知っているはず。
もしかしたら日本に戻る方法も知っているかも知れない)
絶対にナオトには会わなければならない。
そして、この世知辛い世界で生き抜くには力が必要だと、もっと強くなろうと決めた。
鍛錬は欠かさず気を高め、空いた時間に魔導書を読んでは新しい魔法を練習する。
強い魔物の気配を察知すれば倒して経験値を稼ぐ!
魔物には何の怨みもないが、ロールプレイングゲームのドラクエみたいな物だと割り切った。
(前世と言うか、本当の俺は50歳、この世界で15年過ごした…
今の俺には65歳分の経験がある!)
前世の記憶を取り戻してから、身体も元に戻ろうと身体が伸び180cm程になり、顔立ちもどことなく日本にいた頃に戻りつつある…
当然イケメンではないし…
そのうち前世のように太ってくるかも知れないが、自分らしくて、それもアリだと思っている。
考え方や話方もどんどん前世寄りになっていく… というか、完全に戻っていた!
見た目が15歳なだけで中身は完全な日本人のジジイだった。
(あー、しば漬け食べたい!)
そしてふと思い出し、ナオトに貰った鎧を装着する!
「装着!」
一瞬でアイテムボックスの中から鎧が転送されて装着される!
(どこかのヒーローか、宇宙刑事みたいだな!
装着! と叫びながら何か香ばしいヒーローポーズでもとるか?
こういうのを若い子達が「厨二病」とか言っていたな。
そしてこの鎧、どう考えてもモビルスーツだろう!)
頭部に魔力制御のバルカン砲!
肩には2門のキャノン砲、その筒を外して光魔法の魔力を込めるとビームサーベルにもなる。
腕にも魔力攻撃の発射口がついていたり、背中や足の裏にバーニア、肘や膝から武器が飛び出すギミック…
極め付けは腰から孔雀の飾り羽の様にぶら下がるヤーと言う武器…
念じれば、分離し、1枚ずつ飛んで行き敵を貫き倒す。
ファンネルとかビットと同じ様にオールレンジ攻撃が出来る。
鎧はモビルスーツや特撮ヒーロー、アイアンマンを混ぜたような性能で、魔法と剣のファンタジー世界には似合わないものだ…
「赤色は3倍早い!」も思い出して納得した。
ノーブも赤い彗星は好きで鎧の色も赤色に戻したかったが…
爆炎の悪魔と間違えられるのは面倒なので黄色のままでいく事としたが、気分はニュータイプだった!
魔法も前世を思い出した今の方が、現象をイメージしやすく効率的に発動出来ていた。
格闘も多感な10代の頃は、喧嘩ばかりしていたので 、パンチやキックのバリエーションも増えてフェイントや戦いの駆け引き、そして、プロレス技などを思い出して、剣技以外は戦いの幅が広がり、良くも悪くもノーブは変わり、完全に前世の自分を取り戻していた。
ノーブは、過去を思い出した自分は、どんなことができるようになったのか、能力を試しながら旅を続けた。
そして、小さな街を見つけて寄っていく、街の門に行き、冒険者ギルドのカードを提示すと通行料を取られることもなく街に入れてもらえる。
街の名はラック。
とりあえずこの街のギルドに向かう…
小さな街の割に冒険者ギルドの建物が大きい。
中に入ってみると、レイアウトはカーシャの冒険者ギルドと一緒だった。
何か情報はないかと依頼ボードを眺めるが、コレといった収穫はない…
受付嬢に声をかける。
「旅の途中で寄ったのだが、宿を紹介してもらえないか?」
そう尋ねてみる。
「小さな街なので宿屋はないです…
ここで良ければ冒険者用の宿泊部屋をお貸しすることは出来ます」
受付嬢が笑顔で答えてくれた。
「では頼む」
ギルドカードを提示して料金を払い部屋を借りた。
食事はギルドの食堂で食べる。
野草のスープ、パン、何かの肉のステーキ…
この世界ではスタンダードな食べ物で、今までなら美味しく感じていたが、日本の味を思い出した今、この世界の料理では物足りなかった。
(日本食が恋しい… 米を食いたい! 醤油が舐めたい! 女房の作ったカレーライス食いてぇ!)
ノーブは心の底から思っていた。
転生物の物語だと、転移者が醤油やマヨネーズなどの調味料やラーメンやカレーライスを作って流行らせて食無双したりするが、ノーブは米や野菜の育て方も知らず、調味料の作り方も解らず絶望した。
魔法でなんとかと思ったが…
魔力は現象を操作して実行する、無から有を生み出す事は出来なかった。
(この世界、俺の他にも転移者がいるはず。
どこかの街や村で食無双をしている奴がいるかも知れない!)
仄かな期待をして何かの肉にかぶりついていた…
その後は、特にやる事もなく、旅の疲れを癒す為に、ギルドで借りた部屋で早めに就寝した。
翌朝、食堂で朝食を食べて旅に出掛けようとチェックアウトをしに受付に向かうと、ロビーに30人ほどの冒険者が集まっていた。
この街の北の森の奥に瘴気溜まりが出来て、魔物が湧き出し、街に向かって来る可能性が高いといった情報が持ち込まれていた。
そこで、ギルドからの偵察と討伐の緊急事態指名依頼が発動されていた。
緊急事態指名依頼は、国や街が魔物による危機に晒されたときに発せられる。
その国や街に滞在している冒険者は強制参加となる。
主に魔物のスタンピードが発生して街が魔物の通り道となり被害を受ける可能性がある場合に発せられる。
ランクの中から上は前線で戦い、下位ランクの者は後方支援をするといった具合だ。
(面倒くさい事に巻き込まれたな…)
ノーブはガッカリとしていた。
そんなノーブに、中年のリーダー格の男が声を掛ける。
「Sランクのダーガだ! 今回の作戦のリーダーをやらせてもらっている。君は?」
ダーガと名乗るSランク冒険者の熱のある挨拶に…
「俺は旅の途中で、この街に寄ったノブ… Cランクだ… 」
ノーブは興味無さそうに答える…
「何が出来る?」
ダーガに聞かれる。
「メインが格闘家だが… 剣や魔法でも戦えるし、回復魔法も使える…」
ノーブは控えめに答える。
「それが本当なら、凄いな!」
この世界の常識では、勇者でも無い限り、肉体派、頭脳派と別れて、格闘や剣技で闘う者、魔法で戦う者、治癒や障壁などで支援をする者、そんな感じで、オールマイティに何でもこなすと言ったノーブに、ダーガは冗談半分に聞き笑っている。
「ただの器用貧乏さ… 普段はソロで活動していて、団体行動はしたことがないし苦手だ」
ノーブはCランクで、解放される事を期待していたが…
「構わん! 戦力は1人でも多い方がいい! 付いてきてくれ!」
結局、そうなってしまった…
そして集まった冒険者に向けてダーガが声を上げる!
「出発は正午だ! 北の門に集合する。いいな!
それまでに準備を整えておいてくれ!」
「「「「おぅ!」」」
ノーブ以外の全員が気合いを入れて返事をしていた!
各々、準備の為に解散していく中、ダーガが6人の男女を連れてノーブに話し掛けてきた。
「準備はいいのか? 旅の途中だったのだろう?
手を貸してもらう代わりに何かいる物が有れば言ってくれ、用意するから」
ダーガは面倒見の良い奴だ。
「いや大丈夫だ! 拳さえあれば戦える!」
ノーブは拳を見せて笑う。
「そうか…」
ダーガは苦笑いしながら…
「ノブは俺達、炎の剣と行動を共にしてもらう!」
ダーガが告げた。
「うん? 荷物持ちか?」
「いや、仲間としてだ!」
「連携は取れないぞ?」
「こっちでフォローするから自由に戦えばいいさ」
話をして、ノーブは、なんとなくダーガを気に入る。
「わかった…」
炎の剣のメンバーと行動を共にする事に納得した。
「俺は盾使いのゴウ!」
「僕は剣士のヨウです」
「弓使いのフーハ」
「魔法使いのレンよ」
「僧侶のマヒルね」
「魔法剣士のジュン!」
メンバーとの挨拶を終わらせて一旦別れる…
特に準備を必要としないノーブは旅に必要な食料や雑貨などの買い出しに行き、マリアとナオトの情報を調べて時間を潰した。
正午に北の門に行くと、60人ほどの冒険者が集まっていた。
(街の騎士団は行かないのか?)
そう思い、近くにいた冒険者に聞くと、ここは小さな街で騎士も少なく彼らは街に待機して防衛に専念するとの事だった。
普通、魔物のスタンピードが発生する危機があれば、街の騎士、国の騎士、冒険者が協力して一丸となり対処する重要案件に他ならないが、この街では冒険者だけに丸投げであった…
だが、街の役人がいないほうが面倒が少なくていいかとも思い、ノーブは気にしない事にした。
そして、炎の剣のメンバーと再び合流する。
だが、荷物を持たずに防具もない姿に皆が驚く!
「おっ、お前! 鎧も剣も装備せず、何も持たずに行くのか?」
ダーガが焦るのもそのはず、これから街に被害をもたらすかも知れない魔物のスタンピードを調べに行く、事と次第によっては戦闘になる事もある。
それなのにノーブは私服にマントを羽織っただけといった軽装であった。
「ああ、この拳があれば充分だと言っただろう?」
再び拳を突き出し笑うと、その場の全員がヒイていた…
「冗談だ、小さいが収納魔法が使える! その中にテントや食料、防具や武器が入っている」
ノーブはスベった恥ずかしさから、自ら収納持ちだと暴露し恥ずかしさを誤魔化していた…
「収納魔法持ちかっ!」
ダーガに驚かれる…
正確にはアイテムボックスなんだが…
「容量が小さくてあまり使えないがな…」
そう付け加えた。
荷物持ちを当てにされるのは嫌だったからだ。
グループごとに馬車に乗り込んで出発をし、馬車で行ける所まで行き野営をして、翌日は徒歩で森の中を移動し、正午には目的地に着く予定だった。
馬車に揺られること半日、炎の剣のメンバーと雑談のついでに「爆炎の勇者」の事を聞いてみたが新しい情報を得ることが出来なかった…
予定の時間に野営地に着き、馬車を降りてキャンプの準備をする。
パーティーごとにテントを張り泊まる。
当然、風呂もなく、身体を洗う魔法や川で水浴びをして代用とする。
夕食もパーティーごとに作って食べる。
1人で参加したノーブを気遣い、ダーガは食事やテントに泊まる事を誘うが、ノーブは、これから戦いに行き、死んでしまうかもしれない連中と馴れ合う気にはなれずに断わっていた。
あの街での出来事がトラウマになっていた。
翌朝、朝食を取り出発する。
森の中、道無き道を進むが魔物が全く現れない…
だが、3時間ほど進んだところで前方から凄い数の魔物の気配を感じて進行を止めてノーブはダーガに声を掛ける。
「感じるか? 魔物の気配を!」
ノーブが聞くと、ダーガが青い顔で…
「ああ」
と答え、ダーガだけではなく、感知スキルを持つ者や気配を感じ取れる者達は青ざめていた。
そして、魔物の大群は、気配から察するに、街の方向に進んでいるのに間違いはなかった…
「どうする? 相当の数だぞ? 一旦、街に戻って応援と合流するか?」
ノーブは冷静にダーガに聞く。
「いや、この距離だ、戻って応援と合流していては間に合わない… 俺達で足止めだけでもせねばならん!」
ダーガが拳を硬め震えていた。
「俺1人、先行していいか? 足止めぐらいならしといてやる。
その間にお前らは撤退しろ」
ノーブが言った事を信じられないとばかりに、ダーガは驚きの顔をする。
「はあ? 馬鹿なことをいうな! 駄目だ!
Cランク1人で行かせるわけにはいかん!」
ダーガの言う事は当然だった。
「どうしてもか?」
「ああ…」
「皆死ぬぞ? 俺なら離れたところから大規模殲滅魔法を放てば問題ないんだぞ?」
ノーブは適当な事を言い納得をさせようとしたが…
「だとしてもだ!」
ダーガは真面目な良い奴だった。
「信じないのか?」
「Cランクの冒険者1人で何が出来る!」
声を荒げる!
「じゃあどうするんだ? 混戦となれば誰かを助けながら戦うのは無理だぞ」
ダーガは、冷静に、しかも強気で上から物を言うノーブが不思議で仕方がなかったが…
「それでも全員で戦う!」
決意の表情をして宣言した!
「後悔するぞ…」
ノーブは呟き、それを最後に口を挟むのをやめた…
Sランク冒険者の意地とプライドもあるだろうし、この緊急事態を任されたリーダーでもあるダーガに決定権があり、彼は自分の責務を全うしようとしていた。
他の冒険者グループのリーダーを集めて作戦を立てる。
初撃はノーブが大規模殲滅魔法を放つ!
続いて魔法使い弓使い達が 各々の最大級の魔法や技を放ち剣士達が突入する!
ヒーラーが後に続き回復させながら戦う。
大物の魔物はランクの高い順で受け持つ…
アバウトな作戦だが、冒険者の寄せ集めではこの程度だろうと、ノーブは納得する…
斥候していた冒険者が戻り、安全な道を通り、魔物の群れが見渡せる山の上に案内される。
そして、魔物の大群を見た全員が驚愕する!
空には無数の飛竜やハーピーが飛び回り、森の木々を薙ぎ倒し土煙を上げ、土竜やトロールにサイクロプスと、さまざまな魔物が進行してくる。
遠くに見える瘴気溜りまで魔物の列が続いている… その数ざっと2000以上!
それを見て驚愕して逃げ出す者、腰を抜かし絶望する者、全員が恐怖してガてタガタと震えていた。
そう、冒険者達は魔物の数と種類を見て悟った。
あの魔物達を討伐するのには、同等の数か、それ以上の数のSランク冒険者がいると…
「無理だ、もう皆、心が折れている…」
ノーブは全員の顔を見渡してダーガにそう告げ…
「どうする、戦うか? 戦略的撤退もありだと思うぞ…
見る限りここのメンバーは戦えない。死地に向かわせるのか?」
そう続けた。
「だが俺には責任が… ここで食い止めなければ街が…」
ダーガが声を絞り出しながら呟く。
「お前、責任感が強くていい奴だな!」
ノーブは笑顔でダーガの肩を叩いた。
「若造に何がわかる!」
ダーガは悔しそうな顔で声を荒げるが…
「まぁ怒るな、それに俺は65歳のジジイだぞ?」
ダーガは、65歳を冗談だと思い、この期に及んでも余裕のあるノーブが不思議でならなかった。
「じゃあ、全員を帰らせて、2人で魔物を殲滅するか? Sランクって凄いんだろ? 半分はやれるか?」
ノーブが提案して聞くが…
ダーガは泣きそうな顔をしながら、
「無理だあれだけの魔物に囲まれたらなす術がない…」
そう答えた…
「そうか、正直だな… じゃあ、後のことは気にするな。もういいから帰れ」
ノーブは既にダーガとのやりとりが面倒くさくなってきていた…
「そんな事が出来るか!」
だが、ダーガは折れない…
「仕方がねーか… 帰りそうもないし…
邪魔をせず、そこから動くなよ! 戦い難くなるからな!」
一方的にダーガに言い放ち!
「装着!」
全員が見ている前で叫び、黄色い鎧を身に纏う…
「サンダーメイル!」
鎧の上に稲妻を纏い、バチバチとスパークしている!
全員が魔物の事も忘れキョトンとして、その光景を黙って見ていた…
ノーブが浮き上がり、背中のバーニアから青白い炎が噴射され、一気に飛び立つ!
その動きに気づいた飛竜やハーピーがノーブに向かい迫り来る!
「サンダーブレイク!」
ノーブは頭上高く人差し指を上げて叫ぶ!
辺りは一瞬で真っ黒な雷雲に覆われ雷音を轟かせて稲妻が空飛ぶ魔物に次々と落雷する!
そして感電して黒ゴゲになった魔物が落下していく…
「ライオット!」
ノーブが魔物に向かい突き出した手の平から稲妻がほと走り拡散して広がり夥しい数の魔物を感電させていく!
弱い魔物はそれだけで死んでいた!
そして、次の大魔法の詠唱が終わる!
「メテオ!」
ゴゴーー! 爆音と共に無数の巨大な隕石が大気圏の摩擦で焼かれ火を噴き落ちてくる。
ドカドカドカーン! と、物凄い音を立てて魔獣を潰して大地に激突した!
その反動で森の大地や木々がめちゃくちゃに吹き飛び!
同時にゴゴー! っと大地が揺れる。
殲滅した魔物たちの死骸を乗り越えて、瘴気溜りから今なお進行してくる魔物の前に立ちはだかり、両手を突き出す!
「レールカノン!」
極太の黄色い光を稲妻が纏いスパークしながらどこまでも突き進む!
光に飲まれた魔物が消滅していく!
その光が消えたと同時にノーブが一気に瘴気溜まで飛んだ。
上空から中心部を眺める。
そして、瘴気を出す岩を見つける!
ノーブは8枚のヤーを飛ばして岩を破壊する!
岩が崩れ、人よりも大きな魔石があらわとなる!
ダイヤのような魔石で、中には黒いもやが蠢き瘴気が溢れ出していた。
その周りはドス黒い沼のようになっていて、中から魔物が次々と這い出でていた。
ノーブは魔力を込め上空から稲妻を落とす!
「サンダーブレイク!」
雷撃が直撃!
魔石が爆音と共に激しい光りを放ち大爆発を起こし砕け散る!
それは、アルブの街の森で鬼人達を吹き飛ばして大爆発を起こしたときと同じだった!
(あのスタンピードもアレが原因だったのか! アレは一体なんなんだ?)
魔石は砕け散り瘴気は止まり、ドス黒いヘドロの沼は蒸発して消えた…
地上に降りたノーブは剣を抜いてサンダーフィールドを唱え、電磁フィールドの上を滑走しながら魔物を斬り刻み同時に魔法も放つ。
小型の魔物は肩のカノン砲と頭部の魔力バルカンで攻撃して倒す。
そして、意識を込めてヤーを飛ばす!
ヤーはノーブの魔力に反応し次々と魔物を攻撃していく…
前世の記憶を取り戻したノーブはハンパなく強く、まさに無双状態で夥しい数の魔物を蹂躙していた!
だが大規模な魔法を何発も使い通常の攻撃魔法や鎧のギミックでも大量の魔力を消耗していた。
そろそろ魔力がヤバいが、気を高め剣技と格闘技を駆使して残りの魔物を倒していく…
見渡す限りの魔物を倒した…
逃げ出した魔物もいる。
だが、感知を広げて捜索してみたが強い魔物はいない。
一息つきアイテムボックスからマジックポーションを1本取り出しゴクリと飲み干す!
「ファイトー! 1発!」
そう叫び、拳を握り天に突き上げる!
ノーブのノリは、日本人のオヤジだった…
多少の魔力を回復して飛んで帰る。
勢いでやってしまったが、どうしたものかと考えながら皆がいる場所に戻って来た。
「無事に戻って来た!」
「勇者の再来だ!」
「ばっ、化け物だ!」 etc…
「雷帝様」
戦闘を見ていた者、全員がノーブを驚愕の目で見る。
中には涙を流して拝む奴までいた…
「お前らどこまで見ていた?」
ノーブが聞くと、ダーガが…
「飛んでいき稲妻の魔法を打ったと思ったら、火を吹く巨大な岩が落ちてきて…
あとは土煙の向こうで何かが光って…
そして、お前が帰ってきた…
これだけの魔物を1人で倒したのか?」
ダーガの説明を聞き、ノーブは考える。
前世の記憶を取り戻した今、力を隠す必要も無く、S級冒険者になり、大々的に母やナオトを探す事も良いかとも思うが、S級冒険者ともなると、ギルドにも頼られて少し面倒くさい事になる。
ノーブは前世の記憶から、何かに縛られて働くのは懲り懲りしていて、せっかくの自由を奪われたくなかった。
「うーん… 違う! ちょっと過信していてな、最初の稲妻の魔法でやれると思ったが、多少の飛竜とハーピーを墜落させる程度で、ちょっと焦っていたら反対側から爆炎の勇者が来て、彼の魔法で巨大な岩が降ってきた!
俺はヤバいと思いすぐさま勇者の元に行き行動を共にしていただけだ。
なんかスゲー魔法で魔物を殲滅して瘴気の元まで行き、瘴気を出す魔石をぶっ壊して、残りの魔物をちぎっては投げ… とにかくスゲー戦いだった!
あれが勇者の力ってやつか… スゲーよな!
まぁそんな訳で俺は最初の数発の魔法を放っただけで、あとは見ていたんだ。
だいたいCランク冒険者1人でこれだけの魔物を殲滅出来る訳がないだろう…」
ノーブは早口で適当な嘘を話し笑っていた。
だが、ダーガ達は全く信用せず、
「私、雷帝様がメテオの詠唱をして魔法を放つところを見ました…」
「俺も、何百もの魔物を一瞬で焼いた黄色い光の魔法を出すところを見た!」
「滑る様に動き、次々と強い魔物を切り捨てるところを見ていました…」
目や耳の良い者や遠く離れた場所を見聞きする魔法を持つ者もいた。
嘘はバレバレだったが…
「皆、よく聞け! 俺はただのCランク冒険者で魔物を全滅したのは俺じゃない…
爆炎の勇者だ。いいな、解ったか…」
ノーブはそう告げ、冷たい顔をして殺気を放った!
冒険者達は経験した事が無い、恐ろしい殺気に当てられ、泡を吹いて気絶する者までいた。
冒険者達は恐れ慄き、ただただ黙って頷いていた。
真実がギルドに伝わると面倒くさいことになりそうなので、ゴリ押し… いや、脅迫して納得させた。
ノーブは魔法でめちゃくちゃになった森を眺め、被害の責任を求められるのは嫌だと、この嘘を冒険者ギルドでも押し通すことに決めた。
「ダーガ、この処理をどうする? 戻って来るときに感知してみたが強い魔物はいなかったぞ?」
ノーブの言葉を聞き、考えたダーガが口を開く、
「とりあえず一旦戻ろう…
魔物の死骸の処理だけでも、この数ではなんともならん…
ギルドに戻り、ギルマスと相談して仕切り直そう…
近くの街からも助っ人の冒険者が集まっている頃だしな…」
皆に撤収を告げた…
街に戻る馬車の中では、変な空気感があり誰も話すことがなく終始無言だった。
街に着くと北門にはかなり数の冒険者が今まさに出発しようとしていた。
ダーガが説明に向かい、一旦出発は見送り、リーダー格が集まって今後の事を決める運びとなった。
第一陣で討伐に参加した者達は、全員、冒険者ギルドに戻り、後処理はあるものの、ダーガの報告で魔物の討伐完了として緊急事態の発令は解除。
報償金をもらい、ノーブ達は自由の身となったノーブはそそくさと街を出る事にする。
だがノーブだけ受付嬢に呼び止められ、ギルドマスターの部屋に案内される。
中にはギルドマスターとダーガがいて、ギルドマスターに説明を求められる事となり、皆についた嘘と同じことを説明する。
「本当に爆炎の勇者が現れたのか?」
壮年のギルドマスターが怪訝な顔をして問う。
「ああ本当だ! 勇者以外にこんな事が出来る者がいるのか?」
ノーブは平気な顔で嘘をつく、65年の人生は伊達じゃなかった。
それでもにわかに信じきれないのか?
ギルドマスターは怪訝な顔をしている。
「ただな、爆炎の勇者とは戦い方が違うのだよ…」
(そうか… 爆炎とか言うから炎や爆破魔法で戦うのか?)
ギルドマスターが言った言葉に、ノーブも思うが、今更だと無理を承知で嘘をゴリ押する事にした。
「俺が嘘をついていると思っているのか?
それなら言うが、俺があの数の魔物を1人で倒したと言えば富も名声も手に入る。
わざわざ勇者の手柄にする必要があるのか?
本当なら俺がやったと言いたいが、C級冒険者が1人で数千もの魔物を討伐したと言って誰が信じる?
強さを証明して見せろとダーガと模擬戦でもやるハメになってみろっ!
ボコボコにされた挙句、嘘がばれて恥をかくのは俺なんだ!」
苦しいながらも最もらしい嘘をつき通す。
「いや、俺は瞬殺されると思うが…」
ダーガは情け無い顔をして呟く…
「だそうだが?」
ダーガの呟きを聞き、ギルドマスターが怪訝な顔をする。
「世の中には知らない方がいい事もあるんだ…」
ノーブが静かに見た目の年齢に似合わないドスの効いた声で呟くと、ギルドマスターの部屋が物凄い殺気に包まれる…
ギルドマスターとダーガは真っ青な顔色となり…
「わっ、解った! 爆炎の勇者が現れた! そう言う事にしておこう!」
ギルドマスターは焦りながら早口で答えた。
「ノブ、落ち着いてくれー!」
ダーガも泣きそうな顔で叫んだ!
ノーブは多少イラッとしていたが、殺気を放っただけで2人を攻撃する気はなかった。
「まあ、解ってくれればそれで良い…」
ノーブは機嫌を直して満足そうに頷いていた。
「ノブ様、ここでランクアップの試験を受けていきませんか…」
ギルドマスターの口調が凄く丁寧になり、恐る恐る尋ねる。
「ランクアップには興味がないんだ…
ランクが上がると面倒な指名依頼を頼まれたりして厄介ごとが増えそうだから遠慮しておくよ」
ノーブは笑って断った。
「そうですか…」
ギルドマスターはため息を吐きながら諦めた顔をする。
「さて、話は終わりか? なら俺は行く」
ノーブはギルドマスターの部屋を後にして面倒な街から急いで出ようとする。
「雷帝様!」
「うん? 俺のこと?」
ノーブには、厨二病っぽい二つ名ながついていた…
一緒に作戦に参加した面々に次々とお礼を言われる。
帰り道は無言だった炎の剣のメンバーも、街に戻り気分が落ち着き冷静になれたようで普通に会話をしてくれていた。
一通り挨拶をして皆に旅立つ事を告げ、今度こそ街をあとにした…
そう言えばと思い、ギルドカードを見てみる。
冒険者ギルド Cランク
名前 ノブ
職業 勇者
レベル 215
称号 ドラゴンスレーヤー
悲しき者 魔物の天敵
嘘つき
「ぶっ!」
思わず吹いてしまった。
(嘘つきって… まぁ嘘をついたけど、前世では話を大きく盛ることはあっても嘘つきじゃなかったんだけどな…)
ノーブはガッカリとした…
だが、レベルもかなり上がっていた。
決まった数しか出てこないドラクエとは経験値の入り方が違う。
レベルアップのために、はぐれメタルを探さなくていいのは助かると思いながら1人笑っていた…
(この世界にも「はぐれメタル」はいるのか? 一度出会ってみたい物だ…)
ノーブはくだらない事を考えながらマリアとナオトを探すために更に東を目指し歩き出した。