その23
「来たか…」
魔王は会議室のモニターを観ている。
大王国ダンジルから元ギガント帝国領へと続く街道を進む軍隊を魔導ドローンが撮す。
その数120万!
連合軍は総戦力を投入して攻めて来ていた。
隊列の後方に煌びやかな巨大な馬車を発見する。
今回は各国の王達も戦いの場に来るといった情報を得ていた。
魔王は、ならばあれだろうと先手必勝とばかりにドローンから魔導弾を発射する。
ドカドカドカドッカーン!
4発の弾丸が命中して爆発した!
だが馬車は無傷…
強い結界障壁を張れる術師がいるのだろう…
慌てて5人の若者が馬車の上空に飛び上がり護りを固めて辺りを見回している…
「アレが人工勇者か?」
その中の1人がドローンを発見して魔法を放った!
魔法が着弾したところで映像が切れた…
「ドローンのバリアを突き破るのか、厄介だな…」
人工勇者は少し厄介な敵かも知れないと魔王は警戒する。
(マル、状況はどうだ? あとどれくらいで完成だ?)
魔王はマルと念話で連絡をとる。
使えると便利なので念話魔法を習得していた…
(あと2日、いや、1日でなんとかしてみせる!)
マル達は頑張っていた。
(ああ、よろしく頼む。出来るだけ急いでくれ…)
だが、魔王が戦争を避けるために開発した物は完成が間に合わずに連合との戦いは避けられないでいた。
「では、作戦会議を開く!」
ヤマトには国の結界を任せて、シンリー、愛、まりん、ミーナ達、内政担当者は城の会議室で戦況の状況確認や各部署への命令、連絡を担当してもらう。
ナオト、フィン、アモン、ダーガの4人には部隊を率いて戦ってもらいギャリソンには王都の防衛を任せる。
ルルシュ達、教会職員は後方支援を買って出た。
おもに救護を担当する。
当初は魔王1人で大虐殺を行うと宣言していたが、今後の事も考えて皆で分担し総動員で戦う事とした。
細かな作戦を説明して誰一人欠ける事なく戦いを終わらせようと誓った!
魔王はギガンティスは勝つ必要はないと考えている。
連合を撤退させればそれで良いと思っている。
全滅させて勝ったところで得る物は無く虚しさが残るだけだと前回の戦いで痛感していた。
連合軍の速度から考えると今夜はどこかで野営して翌朝仕掛けてくるだろうと予想した。
だが、気を抜かず見張りを怠る事はなかった。
早朝、暗いうちからギガンティスの防衛隊を国の門の外に展開させる。
守護獣も精霊も召喚して配置に付かせていた。
王都アルカディアの正門の前の木々は全て取り払われて戦いやすいように何もない広大な広場となっている。
そして、王都上空には20機の戦闘魔道飛行船シャドウが魔導砲の発射体制を取り浮かんでいる。
ギガンティス防衛隊は臨時の志願兵を入れても1万。
ゴーレム兵が2万で守護獣4頭、5大精霊と数は圧倒的に少ない。
だが、一騎当千が多いのも事実、数の暴力に屈しない戦い方をすればどうとでもなるだろう。
敵軍も同じ頃から陣形を作り始めている。
日が登り朝日が照らす!
眼下には120万の大群が綺麗に並んでいた。
魔王は漆黒の鎧を纏い空中にいる。
(そろそろ使者が来る頃だが…)
魔王は使者を待っている。
だがそのとき! 中央やや後方にある一際大きなテントから魔法を行使する気配を感じる。
(狙ってくださいといわんばかりだな…)
魔王がそう思ったとき、そのテントの頭上にシューマー王の巨大な姿がビジョンとして現れる。
「大魔王! 全滅させてやるわ!」
そう叫んだ!
降伏勧告すらなかった。
それが開戦の合図となる!
魔王は先手必勝と「魔王の波動! グラビトン!」敵兵が行動不能になる波動と魔法を放つ!
5代精霊が「天変地異!」
4頭の守護獣の闇、熱、冷凍、破壊の光線攻撃!
前方の10万ほどの兵を一瞬で殲滅する!
圧倒的火力を前に怯む事なく敵兵が次々と迫ってくる!
既に敵兵は悪意の瘴気に飲まれて恐怖を感じていない!
「暴れ狂え! ライオット!」
紫の稲妻が敵陣に広がり感電させていく!
鎧の両肩の魔眼が開き「破壊光線!」二条の黒い光線が走る!
そして光線を逃れた者も魔眼を直視した者は塩へと変わり崩れ去る…
「地獄の炎で焼かれろ! ヘルファイア!」
辺り一面を黒炎が焼き払う!
黒炎に焼かれて辺りは阿鼻叫喚とする。その光景は地獄絵図だった!
魔王は圧倒的だった!
だが敵軍も黙ってやられている訳ではない!
前回の魔王との戦いを参考にして防御力を上げてきている。
大規模な結界や障壁、個々の装備も上がっている。
魔道具や魔法で攻撃魔法が軽減される…
広範囲殲滅魔法を耐え抜く者もそれなりにいる。
しかも後方で魔導師部隊が召喚魔法で体長30mほどの巨大な人工キメラを召喚した!
長い首が8本あるヤマタノオロチ! それが10頭! 各頭が炎や吹雪を吹き出しながら襲ってくる!
ヤマタノオロチには守護獣や精霊が立ち向かう! その様子は怪獣映画のようだった!
そして騎士を乗せた飛竜10000が空を飛び一直線に国に向かって来る!
だが、王都上空に待機する戦闘魔導飛行船シャドウ艦隊の「魔導砲!」の乱れ打ちに焼かれて消滅していく。
魔王も魔導砲を次々と放ちありったけのヤーを飛ばして飛龍を斬り裂き消滅させる!
地上戦では…
ナオトが爆炎魔法を次々と放ち敵兵を誘導して部下達にトドメを刺させて効率的に戦っていた。
アモン率いる魔族部隊は強力な魔法攻撃を放ち肉弾戦で敵を蹂躙していく!
アモンは悪魔化して敵を千切っては投げて荒々しく敵を倒している!
その圧倒的な姿に敵は恐怖して戦意を喪失していた。
ダーガ率いる冒険者は巨大な冒険者パーティーの戦い方をしていた。
僧侶達が支援魔法で皆のパワーを底上げしてSランクが先頭で無双し魔法使いが後方から攻撃するという作戦だ。
各チームの撃ち漏らしをフィン率いる騎士が討ち取る。
戦い方はそれぞれだが良い感じだ。
だが、連合軍も今回は用意周到で、移動式魔導砲台や自軍を守る結界装置、大規模殲滅魔法を放つ魔導師部隊と厄介な物もある。
ギガンティス防衛隊は魔導砲台にゴーレム兵を特攻させて破壊させる。
魔王は魔導師部隊を優先的に攻撃して倒していた。
一時間たらずで約70万の兵を殲滅した。
だが、魔王の予想より遅い…
陣形の後ろにある王達がいると思われるテントを重点的に狙うが 防御が異常に高い!
地形が変わるのと振動が嫌だったので封印していたが、この際仕方がないと…
「全てを押し潰せ! メテオ!」
ゴゴー! と灼熱の炎を纏った巨大な隕石が5個落下して来る!
そのときテントの周りから5条の光がメテオに放たれる
直撃して爆発する! 岩は粉々に砕かれる…
「厄介だな、人工勇者の力か…」
それを見た魔王が呟く。
その時、敵兵が引いていく…
ギガンティス防衛隊も一旦下がり陣形を整え各自を回復させる。
両方の兵達が下がった後の広場の真ん中は夥しい数の屍が転がっている。
それを魔王はため息を吐きながら眺める。
その時、シューマー王の立体ビジョンが再び現れる。
「小賢しい奴らめ! 大魔王よ! 我が勇者達と戦え! 一騎討ちだ!」
魔王も魔法で真似て敵陣から見える様に自分のビジョンを投影して声を拡散した。
「戦わず、お互い干渉しないという道はないのか?」
「無理だ! そこに国がある限り攻め続けて侵略してやる!」
既に連合軍は70万近くの兵を失っており圧倒的に不利な状況だった。
だが、シューマー王は強気だった。強気というより狂っていると言った方が正解だった。
ギガンティス側は圧倒的に有利で人工勇者との一騎打ちを受ける必要などなかった。
だが、魔王はナオトやアモンが人工勇者と戦うのは少し荷が重いかも知れないと思っていた。
「何を言っても無駄か… いいだろう!
その勇者とやらを倒せば撤退すると誓うか?」
魔王が聞く。
「ああ、約束しよう! 我らが勇者達に勝てればな! ガハハハハ!」
そうシューマーが笑う。
「いけ! 勇者! 魔王を討ち取ってまいれ!」
そう叫んだ!
5人の若者が飛びあがる!
「うん? 一騎打ちではないのか? 5対1じゃないか… お前は王として恥ずかしくないのか?」
魔王の巨大ビジョンは呆れている。
「黙れ! 黙れ! 黙れ! 勇者達と言っただろう! さっさと戦え!」
シューマーは自分勝手に振る舞っている。
「まぁいいだろう… 勇者を倒して、さっさと帰ってもらおう…」
魔王は面倒くさくなりさっさと終わらせたかった。
魔王はビジョンを切り自軍と相手軍の中間位置まで飛び進む。
人工勇者達も向かってくる。
顔が解る位置まで来ると空中で静止する。
真ん中の男が話し出す。
「すまんな、魔王、5対1とは卑怯だとは思うが王の命令は絶対だ。
一応、名乗っておく俺はムサシだ!」
ムサシが名乗り。
ムサシの両隣に2名づついる若者も名乗り出す。
「ミキよ!」「ユウジだ!」「マサだ!」「ユウコよ!
名乗りを上げた人工勇者達、シルバーに輝くお揃いの鎧と剣、見た感じ聖剣だが神気を感じられない模造品で鎧も同じだった…
魔王はシンリーに問いかける。
(奴らは勇者なのか?)
(勇者ではなく魔人です)
(理性があるぞ?)
(彼らから高密度の悪意の瘴気と大勢の魂を感じます。
魔人としての完成度が高いと思われます)
(そうか、邪王も狂ってはいたが理性があったな。
失敗作の教皇魔人は力もなく理性もなかった…
魔人の理想形といったところか…)
(そんなところだと思われます)
魔王は人工勇者達に、
「化物にされてまで戦うか、哀れだな…」
可哀想な者を見る目をして言った。
「化物と呼ぶなー!」
ムサシが剣を抜き飛びかかる!
それを皮切りに4人の人工勇者も動き出す!
人工勇者達の剣撃を魔剣カリバーンで受け流す…
男3人は魔王を取り囲みひたすら斬りつけてくる。
女2人は頭上から魔法攻撃で大量の光の矢を放ってくる。
「サンダーメイル!」
紫の稲妻がスパークしながら魔王を纏い降り注ぐ魔法の矢を消滅させる。
斬りつけた人工勇者は感電して驚き全員が一旦離れて距離をとった。
「サンダーブレイク!」
5条の紫の稲妻が人工勇者達を直撃した!
5人は黒コゲになり落下していく…
魔王が終わったと思ったとき!
黒コゲの人工勇者の身体が光り輝き!
みるみる再生されて何事もなかったように再び向かってくる!
戦いながら、
「その力、死んでも人の魂を吸って生き返るってことか?」
魔王が人工勇者達に問うがムサシ達は何も答えない。
「呪われた力だな…」
魔王は思わず呟いた。
男3人は魔法を剣に纏わせて斬りかかってくる。
魔王は空中を飛び回りひらひらと躱している。
女2人が魔法を唱えるが…
「遅い! レールカノン!」
紫に輝く光りが紫電をスパークさせながら一直線に飛んで2人を飲み込む…
一瞬で跡形もなくなる。
流石に再生はしない。
だが、2人が消滅した後には真っ黒な魔石が浮かんでいた。
(主様、器は神のしもべの魔石を加工した物で人の魂が約1万人分取り込まれています)
シンリーの説明を聞き魔王が破壊しようとしたとき!
その2つの魔石はムサシの中に取り込まれていった…
ムサシの力が上がり禍々しい瘴気が溢れてシルバーの鎧が黒ずんでいく…
仲間がやられたせいか? 興奮して目が血走っていた。
3人が距離をとり3方からの魔法を放ち魔王を結界の牢獄に捕らえた!
3人が同時に詠唱!
結界内が大爆発!
だが、魔王は転移で逃れ無傷だった。
ムサシが「チッ!」と舌打ちをする。
「魔導砲!」
魔王は隙を付きマサを消滅させる!
またもや残った魔石をムサシが取り込む。
ムサシの力が上がる…
魔石を取り込めば強くなるが、その力の制御が難しいといったリスクもあるようでムサシは満足に戦えていない。
残るは2人。
両肩の「魔眼」を開き「破滅の魔眼」が2人を見つめる…
身体が塩に変わり崩れていく、だが次々と再生する…
「破壊光線!」
2条の黒い光線が2人に直撃!
ムサシは堪えて無事だがユウジは塵となった…
またもや魔石だけが残り、その魔石もムサシが取り込む!
「うあああー!」
ムサシが断末魔のような叫び声を上げる!
すると、身体が2回りほど大きくなり黒い瘴気が吹き出して身体を包む!
そして、瘴気が消えていく…
その場には完全なる魔人が誕生していた!
その勇者魔人が魔王に殴り掛かる!
魔王は反応しきれずに直撃をもらう!
魔王は高速で吹き飛び地面に叩きつけられる!
「ヤバいな…」
魔王は呟き立ち上がる。
その直後、勇者魔人が真上から「暗黒破滅!」を放った!
真っ黒な闇の塊が魔王を押し潰す…
身体に悪意の瘴気が入り込み暴れ回り激痛が走り意識が飛び掛ける!
なんとか堪える。
「エクストラヒール!」
「転移!」
勇者魔人の前に現れて顔面を蹴り飛ばす!
今度は魔人が吹き飛び地面に叩きつけられる!
「サンダーブレイク!」
「インフェルノ!」
紫電が落雷して直撃! 黒い炎が噴き上がり焼き尽くす…
だが勇者魔人は再生して立ち上がり口を開け破壊光線を撃ち放つ!
咄嗟に避けたが避けきれず魔王はダメージを受ける…
「デスボール!」
球状の暗黒空間に勇者魔人を閉じ込めて紫電と黒炎が玉の中で暴れ狂う!
空間が圧縮していく…
勇者魔人が圧縮され潰れていく…
空間が消滅するとき「うおぉぉー!」と叫び声を上げて勇者魔人が飛び出した!
勇者魔人は再び暗黒破滅を放った!
魔王は避けきれず直撃をもらいダメージをくらう…
魔王は傷を負いボロボロになっていた。
そのとき王のビジョンが現れ!
「ハッハッハッ! これで魔王も終わりじゃ!
魔王という者は勇者には勝てぬ!
それが世の理じゃて… 潔くやられると良い!」
シューマーは満足そうに勝ち誇った顔をしていた。
「そうか、それなら大魔王という称号を捨てよう!」
魔王は己のビジョンを投影してシューマーや連合軍の全員に聞こえるように魔法を使い声を届ける。
そして、アイテムボックスの中から出せなかった聖剣エクスカリバーに力を貸せと強く念じる。
目の前に聖剣エクスカリバーが抜身で現れる!
魔王は左手で掴む、するとエクスカリバーが白金に光輝く!
そのとき、王都の門が開き聖女達が現れて天に祈りを捧げる!
聖剣エクスカリバーが光を放ち魔剣カリバーンも黒い光を放つ!
2本の剣が宙に浮き光に包まれる。
輝きが収まると1本の黄金の剣となっていた。
魔王は、その剣を掴み抜く。
剣から溢れ出る黄金の光が粒子となり魔王を包み込む!
粒子が黄金の鎧に変わる…
黄金に輝く鎧には天使を思わせる翼があり胸の中央にはキラキラ輝く魔石がある。両サイドの胸には魔導板が装飾されている。
腰にはヘキサゴンバレルもあり背中には24枚のヤーが装備されている。
白金と漆黒の鎧を混ぜた感じだ!
剣の名は神剣エクスカリバーン!
鎧の名は神衣アルティメイル!
そのとき大聖女の声が皆の心に響く!
「守護者様が誕生されました!」
神々しいその姿にその場の全員が見惚れる…
勇者魔人とシューマーを除いて…
一瞬で勇者魔人が魔王の目の前に現れて左手を突き出し殴り掛かってきた!
魔王は神剣エクスカリバーンを振る! 勇者魔人の左手が肩から切断されて落ちる!
ダメージは少なそうだが…
神剣で切断された箇所は再生しなかった。
「ホーリーレイ!」
胸の魔石が輝き聖なる光のビームが放たれる!
直撃だが勇者魔人は咄嗟に黒い瘴気で障壁を張る!
だがビームが障壁に当たると障壁を浄化しながら貫き直撃して爆発する!
爆発が収まると腕でガードしたのだろう右腕が吹き飛び無くなっていた。
瘴気の障壁で威力を軽減したおかげで腕だけで済んだのだろう。
だが、抵抗はそれで終わりだった。
魔王は胸の魔導板に力を込める!
「チェストファイヤー!」
魔導板が光輝き黄金のビームが放射される!
その光は勇者魔人を飲み込み焼き尽くす…
勇者魔人が跡形もなく消滅して魔石だけが宙に浮いている…
魔王が魔石を取ろうと剣を収めたとき…
クリストファーが魔石の目の前に転移して現れた!
魔石に触れる…
「今日のところは私の負けです。いずれまた…」
そう言い残して魔石と共に転移で消えた…
そのときだった!
(魔王、やったぜ! 完成だ! いつでもOKだせ!)
マルからの念話が響く!
魔王は自分の姿を投影し…
「戦いは終わった! 俺の勝ちだ素直に撤退しろ!」
そう連合軍に命じたがシューマーの姿も再び現れ…
「黙れ! まだ負けてはおらぬわー! 絶対に滅ぼしてやる! その国はワシのものだー!」
怒り狂い叫んでいる。
「約束すら守れぬか… もう良い… お前らとの争いもこれまでだ…」
魔王が諦めた様に呟く…
それが合図だった!
大地が物凄い音と共に揺れ出す!
ギガンティス防衛隊と連合兵の間の地面が地割れしていき亀裂は左右に広がっていく!
大魔王国ギガンティスの領土全ての外周に亀裂が入って割れて、ギガンティスの領土が大地から離れ徐々に浮き上がる!
ギガンティスの大地が浮き上がると、その場所は巨大な穴となり海水が流れ込む!
ゴゴゴゴゴーーー!
爆音と振動と共に大魔王国ギガンティスはどんどんと空に浮き上がる!
ギガンティスがあった場所は海となっていた!
それを魔王は連合兵の上空で見守る。
尚もゴゴー! と音を立てて浮き上がる!
すると西南の方から巨大で真っ白なドラゴンが飛んできた! 古竜のシェンだ!
(王よ約束の時が来た!)
シェンは魔王に念話を送る。
そして、完全に空に浮き上がった天空の国ギガンティスの底部の岩場に土魔法で巨大な巣を造る。
シェンが「グガァァァー!」と咆哮すると…
いたる場所からドラゴンが飛んできて集まる。
シェンの前には夥しい数のドラゴンが集まっていた。
「ガアアアアー!」
シェンが咆哮を上げると。
そのドラゴン達は国の底を守るように飛び回る。
国は更に空高く上昇する。
それを敵兵が首を上げてポカーンとして見ている…
王達や護衛の貴族達もテントの外に出て見続ける…
魔王はその王達の前に降り立つ!
「ひっ!」っと腰を抜かす奴もいたが魔王は構わず話す…
「愚か者どもよ! そんなに欲しければ、この土地はくれてやる!」
既に海となった場所を指差す。
「あとは、お前達だけで好きにやれ!」
そう告げて飛び立とうとする…
「誰か! この魔王を殺せ!」
シューマー王が怒鳴り魔王を指で刺す…
瞬時に指を差した腕が斬り落とされる!
「うわー! 誰か! 誰か! ワシの腕を治せー!」
シューマーは叫び狂う!
「ついでだ!」
魔王は左腕も斬り落としていた。
宮廷魔術師だろうか? 慌てて駆け寄りヒールを唱えるが腕は再生しない…
それを他国の王達は青ざめた顔で見ている。
「安心しろ、もうお前達と関わる事はない…」
魔王はそう呟き大魔王国ギガンティスに飛んで向かった。
ドラゴン達は巣穴を造り国の底部に住む。
シェンが全てのドラゴンを従えていてドラゴン達は国には立ち入らずギガンティス国民を襲うことはしない。
ただし、国に悪意を持ち近づく者には容赦なく襲う。
天空の国を護る空の警備隊といった役目だった。
魔王はドラゴン達を見ながら上昇する。
防衛隊は王都アルカディアに戻っている。
魔王も王都に入ると広場には全員が待機していた。
被害状況の確認をする。
死者はゼロで重症者や怪我人は回復魔法やエリクサーで回復済みで、全員、元気だとの報告を受けた。
「皆の者ご苦労であった! 激しい戦いだったが一丸となり国を護る事が出きて良かった!
この大陸が空を飛んだことには驚きだろうが詳細は追って発表する!
今日のところは、ゆっくりと休んでくれ!」
愛達が話したそうにしているが、城で待てと言い残して魔王はマル達の場所に行く。
ヤマトのダンジョン跡地だ、そこは天空の国の中心部で、そこにギガンティスを空に上げた大陸飛行浮遊装置が設置してあった。
床には巨大な魔法陣が光る。
その上に5つの神の僕の魔石を円状に置き、真ん中には1番デカい神の魔石が置かれている。
この装置で大陸を球状の結界に包ませて浮き上がらせていた。
天空の国は上昇させただけで移動はさせていないが飛行も可能で何処にでも飛んでいける。
また、結界により紫外線から守られ温度や酸素は保たれている。
陸地と同じ環境で生活が出来るようになっていた。
装置の魔力は守護獣やドラゴン、生き物が自然と排出する魔素を吸収してエネルギーに変換して空中に大陸を浮かし続ける。
意外と低燃費でシェン1頭いれば事足りる程の出来だった。
「状況はどうだ?」
魔王がマルに確認する。
「完璧だぜ! 落ちる心配はねぇ!」
マルが自身たっぷりに宣言する。
「父さんやったよ! やり遂げたよ!」
将も興奮気味に話す。
「俺、高所恐怖症なんだよな…」
トシオが戯けて笑う。
この天空の国計画はシンリーと3人に託して極秘に進めてきた…
それを実現して完成させた!
今回の1番の功労者達だと魔王は褒め称えた。
城に戻り会議室に入ると出発前に会議をしたメンバーが集まっている!
席に着くやいなや…
「ちょっと! おじいちゃん!」
愛が何も聞いていないと怒っていた。
「皆まで言うな今説明する。
皆、国が突然空を飛びビックリしているだろうが…
成功するかも解らなかったし最後まで国を空に上げる事を悩んでいた…」
魔王には魔王なりの苦悩があり、この計画を知っていたのは開発チームとシンリー、ヤマト、ナオト、ギャリソンだけだった。
「装置はそうそうに目処がついたのだが人間達を見捨てていいものか最後まで悩んだんだ…」
魔王がなんともいえない表情をしている。
「見捨てるって?」
愛が不思議そうに聞く。
「あの大陸から世界樹と精霊が消える。
大地は痩せ水は枯れ植物や動物が育ち難くなる。
願わくば、お互い干渉せずに共存したかったが無駄な思いだった…」
「そうなの?」
「奴らは悪意に満ちていた。
例えシューマー王を討とうとも、次の誰かが狙ってくる。
そう感じてしまった…
禁忌の力に手を染め人の魂を糧として魔人を造り出す。
もはや人の業を越えている…」
魔王の説明に全員が深く頷く…
「まぁ人間も馬鹿じゃない。
皆で協力して生き延びる道を選び進んでいくだろう。
何人かを地上に迎えに行き、その後しばらくは一切の接触を断つつもりだ」
魔王はそう言って締めくくる…
そして、国民には改めて発表する事となった…
その後、魔王でなくなったことや天空の国について愛に責められる。
「ちょっと、おじいちゃんどういうこと? これからなんて呼べばいいのよ!」
「おじいちゃんで良いよ」
「そうじゃないわよ! 今まで皆んなが魔王様って呼んでだじゃないの!」
「じゃあ、真の姿に戻り全員から、おじいちゃんと呼ばせよう!」
「却下だわ! 本気で考えて!」
「魔王でいいよ… 守護者とかガーディアンじゃ変だしな…」
「えっ、なんで魔王⁉︎ せっかくまともな称号に変わったのに…」
愛がガッカリとする。
「俺、破壊と殺戮しか出来ない野蛮人なんだ。守護者と呼ばれる柄じゃない…
魔王と呼ばれるのがしっくりとしている…」
魔王は寂しそうに呟く。
「そうなのね、じゃあ魔王でいいわ…」
愛はイマイチ納得がいかない様子だが、各々好きな様に呼び守護者と呼ぶ者もいれば王と呼ぶ者もいた。
だが、近しい者には魔王と呼んでくれと魔王自身が頼んでいた。
「それと、天空の国ってラピタ? ラピタなの?」
愛が興奮している。
「あれはラピタではなく、ラピュ…」
「おじいちゃん、そこまでよ! 著作権の問題よ?」
「そっ、そうか? 異世界だが気にするのか?」
「私だって日本人の心が抜けないの!
そんな事はどうでもいいから!」
純日本人のジジイと孫の会話で将やまりんが呆れていた。
「とにかく、ラピ… あれは天空の城だろう?
ギガンティスは天空の国… いや、北海道ほどの大きさだから天空の大陸だ!」
魔王は満足そうに頷いた。
「天空の大陸じゃあピンとこないから天空の国でいいわ」
愛がため息を吐いて呟いた。
その後、大魔王国改、天空の国ギガンティスと国名も正式に変更した。
「そうだ、後でリリを連れて地上に行き天空の国をバックに写真を撮ろうぜ!」
魔王は愛の質問攻撃に疲れていた。
「いっ、いいけど…」
「さっそく行こうぜ!」
魔王は愛とリリを連れて地上に転移する。
「おおー! アレが我が国か! そうだ!」
シェンに念話してドラゴンの群れを天空の国の下部を周回させる!
その光景に驚く愛とリリ… 魔王はやりたい放題だった。
日本なら職権濫用とかで訴えられていたかも知れない。
「はい、こっちを向いて笑ってー!」
パシャ、パシャ、パシャ! と撮影しまくり!
「デッカく引き伸ばして城に飾ろうぜ!」
魔王は上機嫌で城に帰ったが… 愛達に、何故、国の底にドラゴンがいるのかと詰め寄られ、また説明をさせられるハメとなった…
数日後、魔王は王都に全国民を集めて説明する。
「我が国は悪意と争わない道を選び空に上がった!
この天空の国ギガンティスは、この星の方舟となる!」
魔王は全国民の前で力強く宣言した!




