その22
あれから2ヶ月が過ぎた…
ヤマトが放っていた間者から続々と情報が集まってくる…
連合軍として大魔王国ギガンティスに攻め入った20万の兵のうち大魔王に臆して逃げた兵は8万 。
自国に逃げ帰った者は罰則程度で済んだが…
大半は大王国ダンジルに逃げ帰り全員が死罪となった!
あの王は狂っている。明らかに悪意の瘴気に取り憑かれている。
魔王はそう思った。
会議のとき王の隣にいた魔族風の男の存在も気になっている。
ヤマトの優秀な間者をもってしても調べがつかなかった…
そんなときにガラパゴスの呼び出し音が鳴り響く。
ルッチからだった…
話があるから屋敷に来て欲しいと頼まれた。
魔王はすぐさまルッチの部屋に転移する。
「よう、ルッチ、息災か?」
「魔王様も元気そうでなによりです。
実はですな、魔王様に面会を求めている方がいましてな…
ダンジルの元首相サラーン殿です…」
サラーンは魔王と連絡を取るために手当たり次第に奴隷商に問い合わせたとの事だった…
普通なら無視するのだがルッチはサラーンと個人的な付き合いがあり世話になった事もあり断れなかったと説明した。
「ルッチ、それは罠ではないのか? 俺はともかくお前は危なくはないのか?」
「これが、大王国の王の耳に入れば、この国にいたとしても殺される可能性が高いですな… あの王は狂っていますから…」
「用心しろよ… で、サラーンはどこで何をしている?」
「敗戦の責任を取らされてダンジルを追放されました…
バンル王国の小さな田舎街で療養中です…」
サラーンは死罪もあり得たが首相という立場もあり、なおかつ大怪我をしていることもあって追放処分で済んだという…
すでに王も興味をなくしていて見張りも付けていない。
ルッチも魔王にサラーンと会いに行って欲しいと頼んだ。
既に滞在先付近にマーカーを設置済みだという…
「じゃあ行ってみるか…」
「ありがとうございます」
ルッチを連れてマーカーの元へ転移する!
少し離れた場所から魔法で辺りを探る。
やはり見張りはいない。
サラーンが療養している施設に行くと病室に通される…
そこには元気そうだがベッドに横たわる右手右足の無いサラーンの姿があった…
「よう、息災か?」
「見ての通りでございます…」
「国には優秀な治癒師はいなかったのか?」
「欠損を治せる術師はいませんでした…
いたとしても私を治癒する許可は王が出さなかったでしょう…」
「そうか… ところで俺に会いたいとは、なんの理由だ?」
魔王は不思議そうに聞く。
「お呼びだてして申し訳ない。
起こしいただきありがとうございます。
ルッチもありがとう。」
魔王は良いからとジェスチャーする。ルッチも頷いていた…
「助けて欲しいのです… 娘を… まだ子供なのです…」
「なんで俺が?」
「貴方しかいないのです。
あの国に忍び込み娘を救えるのは… お願いします」
「無理だな、利点もない。
救い出したところで、どこに逃げる? 全ての国が連合に加入しているのだぞ?」
「貴方の国で匿ってください。 お願いします。
引き換えに、あの国の情報をお話し致します。」
「お前を我が国に入れる訳にはいかん娘を助けたとしても孤児院行きだ…」
「それでも構いません… あの国にいるよりずっとましです!
名はシーランといいます!どうか慈悲を与えてください。」
魔王は検討してみると言い残し ルッチを家に送りとどけて国に帰った。
魔王はヤマトとシンリーにサラーンの申し出を相談したところ2人とも賛成した 。
シーランの居場所はヤマトの間者が探しだした。
大王国ダンジルの貴族が預かっていたが、そっと攫ってきたので単なる行方不明という事となったようだ…
魔王はシーランを連れてヤマトとシンリー、ルッチと共にサーランの元へ転移する。
サーランは涙を流しシーランを片手で抱き寄せた…
しばし親子の時間を見守る魔王達…
頃合いを見計らい話を始めた。
「シーランをここに置いて行くのもいい。
我が国で引き取るのも構わんが特別扱いは出来ない…
10歳という年齢から孤児院に入ってもらう。お前が決めると良い」
シーランは父といたいと頑張るが父は譲らなかった…
「是非、大魔王国に住まわせてください…」
多くは語らなかった。
明らかにサラーンといる方が危険だからだ…
サラーンもギガンティス国に招いても良かったが部下や仲間が攻めてきたときに裏切る可能性もある…
この戦いに決着がついたら改めて考える事にした。
魔王はシーランを魔法で眠らせて大王国ダンジルの話を聞く。
1番知りたかった会議にいた魔族風の男の事から聞いた。
現在は首相となっていて名前はクリストファー。
1年前にダンジルに突然現れて瞬く間に国王に取り入り現在の地位に上り詰めた。素性は不明との事だった…
もともとダンジルの王はおっとりとしていて国の発展もそこそこだった。
それをクリストファーが国を発展させた。
それに伴い王も野心家になっていったという事だ…
いろいろ聞いていくうちに魔王が気になる話があった。
クリストファーの発案で人工的に勇者を造る研究をしていると…
先の戦いで逃げた8万の殆どを死罪としたが…
実際には人工勇者を造るための犠牲にしたということだ…
その他にも新興宗教を斡旋したり…
クリストファーが戦争のキーマンだという事を確信した…
話を終えて魔王達はアルカディアに戻った。
ルッチだけバンル王都の家に送る…
「ルッチ、お前もヤバい立場となってきたかも知れない…
財産や立場を捨てられるのなら、お前と家族を我が国で受け入れるがどうだ?」
「ありがたいお言葉いたみいります。
ですが、私はここに残ります…
私がここを去ると路頭に迷う者が出てくるのです…
いざという時は家族だけでもお願いします」
そう答えた…
「くれぐれも無茶はせず困ったら連絡しろ!」
魔王はルッチに、そう告げた…




