その21
あの会議から半年。
聖神国フォーリーンは魔王の庇護下に入ることはなかった…
大聖女は最後まで庇護下に入る事を望み教皇や枢機卿達を説得したが教皇達は立場を捨てることが出来ないと断った。
その結果、大聖女、聖女、神官、シスター、聖騎士、計1万2000名がギガンティスに亡命を願い出た。
魔王はそれを快く受け入れた。
教皇派は激怒したが魔王は綿密な計画を立て亡命者を連れ出して無事保護した。
大聖女、聖女を失った聖神国フォーリーンは衰退の道を辿ることとなる…
そんなこともあったが…
今起きている事態に比べれば大した事ではない!
その事態とは…
ギガンティスの王都アルカディア、もともとはギガント帝国の王都だった場所に造られている。
王都南門の外には広大な開けた土地がある。
元帝国の領土だ。
まだ、どの国にも属していない場所に連合軍が陣取り待機している。
その兵士の数、20万!
術や魔道具で使役した魔物、ドラゴン、トロール、サイクロプスなどが2000。
騎竜部隊3000、連合軍は戦力を出し惜しみせず攻めて来ている。
一方、ギガンティス側は、魔王、ヤマト、ナオトの3名が門の中の広場に仮設作戦指令室を作り連合軍を眺めている。
国には高い壁がありヤマトの強力な結界障壁に護られている。
愛達は城で待機して騎士達が護りを固めている。
ギガンティスの防衛軍は壁の外には展開させず王都の防衛のため壁の上で待機していた。
ヤマトは仮説指令室で結界障壁の維持に専念する。
ナオトはヤマトの護衛をしてアモンとギャリソンは門を守護する。
そろそろ使者が来る頃だ。
やって来たのは… 大王国ダンジルの首相サラーンだ!
「お久しぶりです大魔王様、最終勧告に参りました。
降伏を認めて国を明け渡せば多くの血が流れず平和に解決出来るかと思います」
サラーンは自分達が有利だと思っている。
「最初から最終勧告か? 我が国は無条件降伏はせんが戦う以外の解決方法はないのか? お互い干渉せず生きていけばよかろう…」
魔王は無益な争いをしたくはなかった。
「何を弱気な。 だったら降伏してください」
「勘違いをしておるな… 無駄に死ぬ、お前達の兵を心配しておるんだ… 人の命を粗末にするものではないぞ?」
魔王はやれやれといった感じを出して優しく諭していた。
だが、サラーンに引く気はない。
「仕方がない… さっさと終わらせて来るか…」
そう呟いて立ち上がり歩き出す。
ハッと驚いた顔をして後から追いかけてくるサラーン。
「お前、結界や障壁とかのバリアは張れるのか? めいっぱい強力なので身を守れよ…」
魔王は心配そうな顔でサラーンを見て告げた。
サラーンはなんともいえない顔をしている。
魔王は門から外に出る… サラーン達は急いで自軍の安全な場所に戻る。
連合の兵達は自分達が有利だと思ったのか緊張感がなくだれている。
魔王は全員が見渡せる位置まで飛び上がって空に浮かぶ。
眼下の敵兵に緊張が走る!
魔剣カリバーンを抜き掲げる。
黒い光が身体を包み漆黒の鎧を纏う!
「サモンゲートオープン! 来い! 守護獣!」
魔王の右に2ヶ所、左に2ヶ所に巨大な魔法陣が現れて光輝く! そして25m級の神魔竜を筆頭に神魔獣、神魔鳥、神魔亀が現れた。
神々しい守護獣に敵兵達は恐れ慄く。
立て続けに「精霊召喚!」バランスよく散らばった5個の魔法陣が現れて20mはあろうか? 人型の5精霊が現れる!
イフリート、シルフィード、ウィンディーネ、ノーム、ドリアード、魔力を込めて巨人型で顕現させた。
精霊魔法を使う者でなくても一目見て解る伝説上の上位精霊達の出現に連合兵達は更に恐れ慄き恐怖した。
「グラビトン!」
魔王は広く弱めの魔法を掛ける!
全ての敵兵は地面にうずくまり立つ事が出来ない!
魔法で声を広範囲に聞こえるようにして話す。
「一度だ! 一度だけだ! 大魔王の慈悲をやろう! 死にたくなければこの場を立ちされ! さもなくば死あるのみだ!」
グラビトンを解除してやると兵達は恐れ慄き逃げ出す。
4割ほど減った… 寄せ集めの兵などこの程度だ。
「サラーン! どうする? 戦うのか? 容赦はしないぞ?」
返事はないがしばし待つ…
どこからともなく「いけー!」と声が上がり「うおぉぉぁぉーー!」と兵達が剣を振り上げて向かってくる!
そして魔道士部隊が大魔法を放ってくる!
巨大な火球がいくつも飛んでくる!
魔王は「ファイアアロー!」を放ち迎え撃つ!
無数に黒炎の矢が飛んで火球を相殺していく!
守護獣達が「グガァァァー!と咆哮し! 暗黒光線、冷凍光線、熱光線、破壊光線を次々と放つ!
精霊達は複合魔法「天変地異」を放つ!
大地から大小さまざまな蔓が現れて攻撃する!
嵐が吹き荒れ幾つもの竜巻が巻き起こり風の刃が乱れ飛ぶ!
あちこちに巨大な火柱が噴き上がる!
弾丸のような酸の雨が降り雷が次々と落ちる!
大地は揺れて地割れが起こり敵を飲み込む!
敵兵は泣き叫び逃げ惑う。
魔法と光線の攻撃が終わったあと辺りは阿鼻叫喚として戦える者などいなかった…
少数の生き残りがいたが敢えてトドメは刺さずに見逃す。
その方が世間に噂が広がり大魔王の恐怖が伝わるだろうと…
そして、生き残ったサラーンを見つけて魔王は転移で目の前に現れる!
そこには5人の生き残りがいた。
サラーンのために障壁を張っていた魔道士達だろう。
全員が何処かしらの手足が吹き飛び重傷だった…
サラーンも右手右足が無い…
ヒールで治癒はしたのだろう血は止まっている…
「だから言っただろう? やめておけと…
戦って得る物はあったのか?
見てみろこの惨状を…
俺は防衛のために仕方がなくやった…
次、攻めて来たら容赦も勧告もしないからな、そうお前らの王に伝えろ!」
サラーンは震えながら頷く…
「もういい、魔道士達に手足を治してもらいそうそうに立ち去れ!
しばらくしたら、辺り一面を焼き払う、見苦しくて仕方がない…」
魔王は悲しそうな顔で辺りを見回し、そう告げて立ち去ろうとするが…
「欠損を再生出来る治癒士なんて知りません…」
サラーンは消えそうな声で呟いた。
「残念だな…」
魔王も呟き、その場を去った…
その後、生き残りが撤退したのを確認して。
「ヘルファイア」で屍の山を焼き払い手を合わせて冥府を祈る…
土魔法で土を入れ替えて綺麗な状態にした…
魔王は再び責めてこない事を切に願った…
同日同時刻に聖神国フォーリーンが攻め落とされていた!
数名の神官や聖騎士がギガンティスに逃げ延びて来た。
翌日にはフォーリーン奪還作戦を決行した。
占領されたままでもよかったが…
ギガンティスと隣接しているフォーリーンに侵略拠点を置かれると鬱陶しい。
フォーリーンに滞在している2万の兵を相手に戦うというナオトの提案にのる事にした。
今回の作戦の計画、指揮は全てナオト任せだ。
防衛隊は総勢6000名。
志願したアモンも同行させる。
数的には圧倒的に不利だが ナオトは自信満々だった。
魔王は個人戦に特化したタイプでナオトは対個人でも強いが部隊を率いて戦うのも上手な万能タイプだった。
いざとなればナオトとアモンで無双するという手もある。
危なくなれば魔王に連絡が入り助けに行く手筈となっていた。
早朝に出発して夕方にはフォーリーンを奪還した!
魔王軍側に死者が出ることはなく作戦は成功した。
その際に18000人の国民を保護した。
だが、ヨハネと枢機卿達は見当たらず。
国を捨てて逃げたようだった。
魔王はヤマトに結界障壁をフォーリーンまで広げさせてギガンティスの領土とした。
魔王は交戦的なタイプだと自分では思っているが…
同族との戦いを好んでいるわけではない。
願わくば、この敗戦を機に連合には侵略を諦めて欲しいものだと思っている。
そして、この戦いを機に大魔王国ギガンティスの強さが世界に広がる。
圧倒的な力差を思い知った連合に諦めムードが高まるが…
大王国のシューマー王が皆を鼓舞し徹底交戦に出る!
戦力差を埋めるために禁断の領域に足を踏み入れるのだった…
魔王がそれを知るのは、もう少し先の話である…




