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ジジイの異世界記  作者: パパちゃん
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その2

ローブを深く被り、そそくさとアルブの街を出る。

ノーブは街に思い入れはなかった。


家は街外れの一軒家で、近所付き合いもなく同じ年頃の子供にも会ったこともなかった。

当然友達もなく、知り合いと言えば、街の門番や定期的に行商に来る商人達、何かあるとやってくる村長的な人。

母がいなくなった今、村になんの未練もなかった…


とりあえず、あてのない旅、街を出て東に向かう…


街から離れたところでローブを脱ぎマントを羽織る。

ごく一般的な服とマントを羽織り腰にマジックバッグの軽装。


数キロ歩いたところで盗賊団が現れた!


「ボーズ 、1人旅か?」


いかにも盗賊の格好をした男はニヤニヤとしながら尋ねた…


「散歩だよ? ほら、手ぶらでしょ? お金は持っていないですよ?」


ノーブは笑いながら答える。


「じゃあ奴隷だな!」


盗賊がニヤけながら言った。


この世界、街の外は危険だった。

行商人や旅行者などは、盗賊に出会うと、物は奪われ、女子供は攫われ奴隷として売られ男や歯向かった者は問答無用で殺されてしまう。


盗賊は10人、相手は子供1人だと侮り、剣も抜かずに寄ってくる…

普通の子供ならビビるところだが、鬼人王や魔物の群れと比べるまでもなく、ノーブには簡単に倒せる相手だ。


「装着!」


ノーブが叫ぶと真っ赤な鎧が瞬時に装着される。

鎧をアイテムボックスから出して装置する発動キーとして「装着!」と設定していた。

盗賊達は突然の出来事にビックリする…

盗賊の頭風の男が、


「爆炎の悪魔!」


そう叫び、凄く驚いている…


「いや違う! こんな子供じゃない! お前は何者だ!」


盗賊の頭が叫ぶと、部下達が一斉に剣を抜く!


その瞬間、ノーブは瞬歩で一気に盗賊の頭の前に行き首に剣を当て、


「死にたくなかったら答えろ。爆炎の悪魔とは何だ!」


ノーブは歳に似合わないドスの効いた声で凄む!

盗賊はノーブの見た目とのギャップに戸惑い…


「数年前に帝国に喧嘩を売った元爆炎の勇者のことだ…

真っ赤な鎧を着ているって噂しかしらねーよ 」


盗賊の頭は素直に答えた…


「何故、僕が爆炎の悪魔だと思った?」


ノーブは質問を続ける。


「真っ赤な鎧なんて珍しいし、最近、アルブの街に迫ってきた魔物のスタンピードを爆炎の勇者が全滅させたと冒険者達が騒いでいたからな…」


「その爆炎の勇者には何処に行けば会える?」


「さあ…」


盗賊の頭との話は続いたが得るものはなかった…


(これ以上聞いても無駄か…どうする? 全員殺すか?

 強さはそれほどでもないが同じ人間相手だとやり辛い…)


まだ子供のノーブは、人を殺した事も対人戦闘の経験すらなかった…

一度、後ろに跳躍して距離をとり、右手を掲げる。


「サンダー!」


ノーブは電撃魔法を放つ!


盗賊達全員に電撃がはしり気絶する。

転がる盗賊達を、その場に放置して立ち去った…


(とりあえず鎧は色を変えよう…)


ノーブは雷の魔法が得意なので、鎧のカラーは黄色に変更した。


1日中歩くが次の街や村には辿り着かない、飛んで行けば早いのだが気ままな1人旅。

ゆっくりと歩いて行く。

そして、初めての野営をしてみる。

マジックバッグからテントを出して設営する。

就寝中に襲われる可能性があるが…

ナオトが用意してくれていたテントはマジックアイテムで、就寝中のテントの30m以内に何者かが侵入すると警戒信号が脳内に響く。

テント自体も頑丈でナイフはもちろん、剣で切りかかっても破れない代物だった。

そしてマジックバックからゴーレムを出し防衛モードでテントの入り口に立たせておく、防衛は完璧だった!

至れり尽くせりの過剰と言えるアイテムの数々だった。


食事は非常食もあるが、狩りをしてラビットを取ったり野草を摘んで料理して食う。

旅は馬車や人が通る道を進んでいるが、時折道をそれて森に入りマジックバッグからゴーレムを出した戦闘練習をしたり 、森や山の方から強い魔物の気配を感じては寄り道して倒していた。

今のところノーブの手に余る強さの魔物は出会わない…

魔物の群れに囲まれたとしても鎧の強さで簡単に勝ててしまう。

ちょっとオーバースペックなので手強い敵に出会うまでは 鎧や剣に頼らず、体術のみで戦う事としていた。


旅に出て4日ほど経った頃、何かに襲われてる馬車と遭遇する…

目の前で乗合馬車が燃えている。


(炎の魔法でやられたのか?)


ノーブはそう思い辺りを見回す。

馬や御者は殺され…

かなり抵抗したのだろうか?

男だけではなく女子供まで殺されて無惨に切られた死体が散らばっていた…


少し離れた森の方から…


「キャー!」


女の子の悲鳴が響く!

ノーブは、その方に駆け出す。

到着すると、同じ年頃の男女が剣を構える盗賊に囲まれていた!

それは以前にノーブを襲った盗賊団だ。


(やはり止めを刺すべきだった、そうすればこんなに沢山の人が死ぬことがなかったのに…)


ノーブは、甘っちょろい自分に腹が立ち、やり場のない怒りが込み上げていた!


怒りに任せ盗賊達をパンチとキックで蹂躙していく!

7〜8人倒したところで…


「お前かー!」


大声で叫びながら盗賊の頭が斬りかかって来た!

斬りかかって来た鋼の剣を身体強化をし気を纏った手で掴んで砕く!

驚愕の表情をする盗賊の頭! その側頭部にハイキックを叩き込む!

頭が吹き飛び、盗賊の身体は、その場に崩れ落ちる…


それを見て逃げ惑う盗賊を離れた位置からジャブの連打!

拳から見えない気弾が飛び出し、盗賊達の心臓を貫く!

ノーブは容赦する事なく全員に止めを刺した。


座り込み震える男女。

ところどころに傷があり血を流していた。

ノーブは2人にヒールの魔法をかける。


「大丈夫ですか?」


そして、2人に優しく声をかけた。


「俺達は大丈夫だけど他の人達は?」


男の子が聞くが…


「残念たけど… 僕が来たときには全滅していたよ…」


殺された人達を弔おうと街道沿いに集めて埋め、盗賊は1箇所に集めて魔法で焼却した…

盗賊は次の街や村に連れて行けば報奨金が貰えると男の子が教えてくれたが…

ノーブは金には興味がなく、マジックバッグに人の死体を入れる事に抵抗を感じ魔法で焼却して灰にした。

埋葬を終え、ノーブは、これから先、甘さを捨てなけれは生きてはいけないのだろうと気持ちを引き締めていた。


そして、助けた2人を見てノーブは悩む。


「君達はこれからどうするの?」


2人に話しかける。


「この先のカーシャの街に行って冒険者になる!」


男の子が立ち上がり自信満々に答えた。

男女は双子の兄妹で、成人した折に村を出て冒険者になる為にカーシャの街に行く途中だった…


「あなたは何処に向かっているのですか?」


女の子がノーブに質問した。


「あてのない旅です…」


ノーブは答えた。


「できれば一緒に街に行って欲しいです」


女の子に提案され…


(この2人だけでは、魔物に遭遇して襲われたら助からないだろうな…)


ノーブはそう思い、行き先のない旅で、何処かの街や村で母や師匠の手掛かりを探せれればそれでいいと…


「わかった一緒に行こう!」


2人を街まで送る事にした。


「ありがとうございます」


女の子にお礼を言われてノーブは少し嬉しかった。

とりあえず自己紹介を交わす。


「僕はノブ! よろしくね!」


ノーブはマリアを捜索している連中にバレる事を恐れ。

名前を変え偽名を名乗ったが、咄嗟の事で良い偽名が思いつかず、ノーブをノブに変更した。


「兄のマルス!」


「妹のマーラです、よろしくお願いします」


2人の名前を聞き、まじまじと見てしまう…


「なんだよ…」


マルスが嫌そうな顔をした…


「すみません、僕は同じ年頃の人に会ったことが無いので、つい見てしまいました…」


母、マリアは隔離された所に住まわされていて、近所に家もなく他の家族を見る事もあまりなかった。

同世代の人間を見るのが初めてのノーブは興味津々であった。


「へー、いくつなんだ? 俺達は15歳になったばかりだ」


マルスがノーブに尋ねる。


「僕ももう数日で15歳です」


そう返すと…


「同じ歳なんだし、気軽な感じで話そうぜ!

しかしあの強さ… 格闘家なのか?」


マルスは砕けた感じになり、ノーブの強さが気になっていた。


「うーん… 剣や魔法なんかもつかえるよ、でも格闘が1番好きなんだ」


ノーブは照れながら答えている。


「先程はヒールをかけてくれてありがとうございます」


マーラがお礼を言う…


「いいよ。ところで君達は冒険者志望らしいけど、何で戦うの?」


ノーブは2人に慣れてきている。


「俺は剣士… になりたい! 妹は僧侶を目指してる!」


マルスは帯剣していて、マーラも小さい杖を腰に刺してるが、盗賊には全く敵わなかったようだ…


(そんな実力で冒険者になれるのか?)


ノーブは内心思ったが…


「なれるといいね」


社交辞令的に言って微笑んだ…


「そうだ! あてのない旅なら、カーシャの街で冒険者になってパーティーを組もうぜ!」


マルスが提案する…


「とりあえず考えておくよ」


ノーブはそう答えたが、母やナオトを探す目的があり、その街に腰を据える気はなかった。


「私もノブさんが一緒なら心強いです」


マーラが微笑む…


(これが女の子か… めっちゃ可愛い… )


ノーブは、初めての異性のマーラに惹かれ始めていた。


「まぁとりあえず街を目指そう!」


3人は出発した。

話をしながら歩いていると右の林から魔物の気配がする。


「止まって!」


ノーブは2人を制す。


「なんだ!」


マルスが唐突に命令されてムッとしている。


「弱そうだが魔物だが来るぞ!」


ノーブが2人に注意を促す!

すると、林の中から目の前に3匹のゴブリンが現れた!


「ここは俺達兄妹に任せろ! 実力を見せてやる!」


マルスが剣を抜き構える!

マーラがすかさず身体強化の魔法をマルスにかける!

マルスが棍棒を持ったゴブリンに斬りかかる!

ヒラリっ、ゴブリンにかわされて棍棒でどつかれる…


(マジかっ⁉︎ あれで冒険者になろうと思っているのか!)


ノーブはマルスの弱さに驚きヒイていた…

あっと言う間にマルスは3匹のゴブリンに囲まれて棍棒でタコ殴りにされる…


すかさずマーラが「ヒール」を詠唱。

マルスの傷が回復する!

だが、ゴブリン達から逃げられない。


「助けて…」


マルスの泣きが入った…


ノーブが右手を突き出し「サンダー!」ゴブリン達を感電させ気絶させた。

そのまま倒してもよかったが、マルス達の成長の為にと…


「止めを頼む!」


マルスにトドメを促す。

マルスは慌てて倒れてるゴブリンの胸を貫いていた。


「魔石の回収も頼む!」


マルス達にお願いするも、2人は魔物の捌き方をしらない…

ノーブは2人に魔石の取り方を丁寧に教える。


(この2人では冒険者は無理だな…)


改めて思っていた…

強くなりたいそうなので、そこから先の魔物はノーブが弱らせてマルスが止めと魔石の回収。

マーラが回復や補助魔法を掛ける役へと分担した。


道すがら食材用にラビットを数匹狩り、野草を採って夕食の準備をする。

マーラが、これぐらいは役に立ちたいと料理をしてくれた。

野草のスープとラビットの串焼き、自分で作るのと変わらないはずだが、何故かマーラの作った食事は美味しく感じた。


「ありがとう、とても美味しいよ!」


ノーブがマーラにお礼を言うと…

その言葉にマーラは頬を赤らめて照れている…


(女の子って、なんて可愛い生き物なんだっ!)


ノーブが思ったとき…


「妹に惚れちゃ駄目だぞ! まぁ、一生パーティーメンバーとして頑張ってくれるのなら考えないこともないけどな…」


マルスがニヤけながら言い…


「一生か…」


ノーブはそう呟き、あながち悪くないと内心思っていた。


「もう、お兄ちゃんもノブさんも馬鹿なこと言わないで…」


マーラは真っ赤な顔で照れていた…

野営の準備をすることになり双子は盗賊に襲われた時にテントや荷物を置いてきた事に気づく…

ノーブはマジックバッグを持っていることは食事のときに教えていた。

マジックバッグはかなり高価な物らしく2人は凄く驚いていた。

ノーブはマジックバッグから大きめのテントを出し設営した。

そのテントに3人で泊まり、交代制で見張りをする事となった。

ノーブのテントは見張りの必要はないが…

同世代の2人と話をするうちに、ノーブ自身の強さや数々のアイテムは一般冒険者が持つレベルの物ではないと気づき、テントの性能は隠していた。

もちろんゴーレムを出す事もしなかった。

マジックバッグだけは見せてしまっていたので、家宝を持ち出したと適当な嘘をついた。

そして、彼らの前では鎧も装着しないことにした。


3人で2日ほど歩き。

途中、ゴブリンやオーク、ウルフなどの魔物に襲われたりした。

ノーブ1人でも余裕で倒せる魔物にしか出会わなかったが、パーティーを組んで戦うことが新鮮で楽しかった。


カーシャの街に到着した。街に入るのには身分のチェックと通行料がいる…

門番に身分証明書の提示を求められるが3人とも身分証明書を持っていなかった。

簡単な審査を受けて、お金を払って通してもらう。

通行料は銀貨1枚、仮の証明書は銀貨2枚、この証明書は今後もこの街では使えるが他の街では使えないとのこと。

全国共通の身分証明書が欲しい場合は冒険者ギルドや商業ギルドなどに登録するのがオススメだと教えられた。


街に入り双子と別れる予定だったが、証明書の発行を兼ねて冒険者ギルドに登録することにして、もう暫く一緒に行動することになった。


ノーブは初めて見る右も左も解らない街に戸惑う…

双子も同じ様で、3人で街の入り口に呆然と立ち尽くしている。

しばらくして落ち着き、門番に教えてもらった冒険者ギルドに向かう。

木造3階建ての建物で、入り口には盾の上に剣が2本クロスするデザインの看板があり、中に入ると大きなロビーがあり、正面にギルドのカウンター、右手には食堂がある。

左の壁には掲示板のような物があって依頼書が貼られている。

何故かノーブは、この雰囲気にドキドキしてしまう。


カウンターに行きギルドの受け付けをする。


「いらっしゃいませ。どういったご要望でしょうか?」


受付嬢は、顔立ちの整った赤毛赤目の女性で、笑顔と穏やかな口調で、ノーブ達に話しかけた。


「冒険者登録をお願いします」


マルスが代表で登録を申し出る。


理由を聞かれ、双子は冒険者になって稼ぎたい。ノーブは旅を続けるために冒険者になりたいと伝えた。


受付嬢は、エルザと名乗り注意事項を丁寧に説明してギルドカードを発行してくれた。

冒険者登録が完了した!


このギルドカードは魔道具でカードに血を垂らして登録する。

本人が魔力を込めると称号やレベルなどが現れる。

冒険者にはランクがあり、EDCBAそしてS、当然ノーブ達はEランクからのスタートで依頼をこなしていけばランクアップしていく。

そういったシステムだった。


だがノーブは旅の身分証代わりに登録しただけでランクアップに興味はなかった。


ついでに、この街の宿を紹介してもらい向かう。

宿も冒険者ギルドと似たような建物で看板にはベッドが描かれている。

中に入ると左手に宿のカウンターがあり、正面には階段、横には食堂の入り口の扉があった。


宿にチェックインする。愛想の良い中年男が…


「お泊まりですか?」


そう声を掛けてくれる。

ノーブ達が頷くと…


「1泊1室、銀貨2枚、朝食夕食付きで銀貨3枚ですが」


そう説明され、ノーブは…


「食事付き1人部屋で、10日お願いします!」


金貨を3枚出す。

そして、双子の妹マーラが、


「リーズナブルな相部屋とかありますか…」


消えそうな声で聞く。


「男女別の相部屋なら1人銅貨5枚、 朝食夕食付きなら銀貨1枚と銅貨5枚です」


店主が説明し、


「相部屋食事なしでお願いします…」


2人分の銀貨1枚を、マーラが支払っていた…


案内された部屋に行き、ノーブは1人後悔する…

普通に同じ条件で泊まると思っていた。

ノーブには母が置いていった大量の金貨があり、マジックバッグの中には大量の魔物の魔石やドラゴンの死体がある。

売ればかなりの金額が手に入る…

余裕があるからと、2人の事を考えず行動してしまった事にだった…

気を取り直してギルドカードに魔力を込めてみる。


冒険者ギルド Eランク

名前 ノブ

職業 オールラウンダー

レベル 138

称号 異世界人の弟子、ドラゴンスレーヤー


(えっ⁉︎ 異世界人の弟子ってなんだ?

どっ、ドラゴンスレーヤーって⁉︎

まぁ小さいドラゴンは倒したけども…

これ人に観せていいやつなのかな…

一般的なEランク冒険者のレベルってどれくらいなんだろう…)


ギルドカードを眺めノーブが悩み考えていると…


「コン! コン!」ノックの音が聞こえる…


マルスが呼びに来た。

道中に倒した魔物の魔石を換金をしにギルドに行こうと誘われた。

ノーブが了承して3人でギルドに向かう。


宿に泊まるときの出来事が気になり。


「なんかゴメン… 」


ノーブが唐突に謝る。


「うん? なんだ?」


マルスが困惑する…


「いや… 自分だけ1人部屋で…」


ノーブが困った顔で言うと…


「そんなこと気にしないでください」


そう言って微笑むマーラ。


「俺達も直ぐに沢山稼いで良い部屋に泊まるから問題ない!」


マルスが胸を張って言った。


「そっか…」


ノーブが呟く…


ギルドに着き、受付嬢のエルザに魔石の買取りをお願いする。


ゴブリンの魔石10個

コボルトの魔石2個

ウルフの魔石8個

オークの魔石6個

値段は1個あたりゴブリンが銅貨5枚、コボルトは銅貨5枚、オーク銀貨1枚、ウルフ銀貨1枚と魔石は全部で金貨2枚になった。

オークは肉、ウルフは毛皮や牙をと魔物によって違うが、食料や衣服、武器防具の素材になる物を持ってこれば買取れるとエルザが教えてくれた。

魔物の死骸は丸ごと持ってきても買い取ってもらえる。

ただ収納魔法かマジックバッグを持っていないと重くて持ってこられないだろう…

ゴブリンなどの使い道のない魔物は討伐の証に魔石と耳などを切って持ってこれば証明となり認められる。

ちなみにドラゴンの死体はいくらか? と尋ねると、最低でも金貨1000枚からだと教えてくれた。

大きさや種類で値段もことなるらしい…

ノーブは自分が持っているドラゴンの値段が気になり売ってしまおうかと思ったが…

お金には困ってもなく、ナオトに貰ったマジックバッグは収納した物の時間が止まってるため腐ることもなくいつまでも新鮮な状態で保存される。

焦ることもないと売るのを思いとどまっていた。


初めての収入に喜ぶ2人と分け前の話になる…


「僕はいらないから2人で金貨1枚ずつ分けて」


ノーブは2人に言うが…


「それは駄目です。ノブさんがいなければ盗賊に殺されていたかも知れないですし、魔物も自分達だけでは倒せなかったはずですから…」


マーラが困った様に説明し…


「そうだマーラの言う通りだ! 俺たち兄妹とノブの2人で金貨1枚ずつ分けよう!」


マルスも同意していた。


「そう言ってくれるなら、3等分にしようか?」


ノーブがそう提案して納得してもらった。


10日間宿を借りたこともあり、滞在中はマルス達とパーティーを組むことにした。

活動は次の日からとし、双子と別れて街を散策する。

武器や防具の店 、服屋、雑貨屋に寄り、旅に必要な物を買い込みマジックバッグに放り込む。

母や師匠の事を調べたいが、探し方がわからない…

爆炎の勇者や悪魔と呼ばれているのが師匠かも知れないと探してはみたが、何の手がかりも見つけられなかった。

旅を続けていれば、いつか出会うだろうとノーブは思う事にした。


その日の夕食は宿の食堂で頂く。

魔石を売ったお金もあったので、双子達も一緒に夕食を共にした。

メニューは野草スープとパン、ボアのステーキ!

久々に、しっかりと味付けされた料理に舌鼓を打ち、ノーブは満足していた。


警戒せずゆったりとベッドに眠るのも8日ぶり、久々に深い眠りについていた。


そしてカーシャの街2日目、朝食を宿の食堂ですませて冒険者ギルドへ行く。

3人で掲示板の前に立ちEランク用の依頼書を観る。


迷子の猫探し。

ドブ掃除。

薬草摘み。etc…


マルスは…


「碌な依頼ねーな」


そうボヤく。

彼は討伐系の依頼を期待していたようだ。

とりあえず薬草摘みの依頼書を持って受付に、


「野草摘みを受けたいです」


エルザに依頼を受ける事を申し出る。


「では、街の外の西の森に生えている、これと同じ物を摘んで来てください」


見本の薬草を見せてくれた。


「ポーション作りの薬草なので、取れるだけ摘んできてもらえればいいです」


話を聞くと、ポーション作りの薬草摘みは毎日あって上限のない初心者向けの依頼との事だ。

そして森で魔物と出会った場合、退治して証明部位か魔石を持ち帰れば、ポイントが付くとのこと。

Cランクまではポイントを貯めていけばランクアップする。

BとAランクはポイントと実力をみる試験があり、Sランクは実力、人柄、ギルドへの貢献度、王様や貴族、ギルドマスターなどの推薦も必要だと言う事だった。


ノーブ達は依頼を受け、この街に来たときに通った門から出て行く。

ギルドカードを見せれば出入りは自由で、もちろん無料だ。

森に行く途中、マルスが…


「俺は、ちまちまと薬草なんか集めたくねぇ!」


叫びながらごねている…


「僕はネコ探しよりは良いと思うけどな」


ノーブは言うが…


「冒険者ってのは、派手な技や魔法で魔物を薙ぎ倒して、酒を浴びるほど飲んで美女をはべらせるんだ!」


マルスは熱い自論を語り始め、それをマーラがジト目で見る…

くだらない話をしながらも目的の森に到着する。

森では薬草を探し摘んでいく。

嫌々ながらも薬草を探し摘むマルス。

黙々と頑張るマーラ。

3時間ほどでかなりの量を摘んだ。

3人は満足して街に戻ろうと歩き出す。

森の奥に入ったせいだろうか?

ノーブは魔物が近づく気配を感じ取る…


「右から魔物… オークが4匹来る!」


2人に警戒を促す!

マルスが荷物を置いて剣を抜く! マーラが杖を構え、身体強化の魔法をノーブとマルスにかける!

その直後にオークが現れ襲い掛かってきた!

ノーブは拳を構え、4匹のオークに気弾を手加減して放つ!


「どんっ! どんっ! どんっ! どんっ!」


充分手加減をしたが、2匹は倒してしまった。

残りの2匹にマルスが斬りかかった!

1匹のオークの首に一撃! オークは崩れ落ちる。

そして気弾でふらふらしている最後のオークを袈裟斬り!

オークの群れを倒した。


戦いのあとで、マルスがギルドカードを見ながら「うぉー!」っと吠える!


「うん? どうした?」


ノーブが不思議そうに聞くと…


「れっ、レベルが上がった! カードを作ったときはレベル6だったけれど、レベル7になっている!」


マルスは喜び小躍りしていた。


マーラも同じく上がってるらしい…

戦闘経験値はトドメとかではなく、パーティーで振り分けられるようだ。


(しかしレベル7か…)


ノーブは自分のレベルを教えられないと思った。


あまりマジックバッグを使うのは嫌だったが。

お金のない2人のためにオーク4匹の死体は持って帰って売ることにした。

ギルドに行き薬草を引き取ってもらう。

結構な量だが得た報酬は銀貨3枚だった…

そしてエルザにオークの買取りを申し出てビックリされる。

魔物の買取りはギルドの建物の裏で行われる。

その場所に案内されてマジックバッグからオーク4匹を出す。


「マジックバッグ持ちなんですね!」


エルザが驚く。


「ええ、我が家の家宝で…」


そう言ったノーブの目は泳いでいた…


「収納魔法持ちは珍しく貴重で、マジックバッグもかなり高価な物です。

冒険者なら貴族の家の出身の方や、Aランク以上の冒険者、あとは大手の商人ぐらいしか持ってない物です…

あまり目立つところでは使わないことをお勧めします…」


一度言葉を止め、


「無用なトラブルに巻き込まれないでくださいね。貴方の事は何故か気になり心配してしまいます…」


そう付け加えた…


一般常識がないノーブ達を心配して、エルザが査定の間にいろいろ教えてくれた。


冒険者レベル

Eランクが5〜15

Dランク 15〜30

Cランク 30〜50

Bランク 50〜70

Aランク 70〜100

Sランク 100以上

大雑把で、レベルが全てではないが、強さのバロメーターとしては、こんな感じらしい…


だがノーブは知らなかった、自分にはレベルとは別の強さがあると言う事を。

この世界最高峰のSランク冒険者であっても、1人で魔物のスタンピードを全滅出来る者などいなかった。


そして、魔物の買取りは、貴重な素材や部位だけを持ち帰るのが大半で、今回のように丸々死骸を持ってくることは少ないとの事だ。

ただ、竜種やベヒモスなどの希少で高価な魔物は、収納魔法持ちや大容量のマジックバッグを持った者が同伴するか、馬車や荷車を使って持ち帰ってくるのが常識だと知った。


マジックバッグもピンキリでオークが2匹ぐらい入る物から、竜が何頭も入る大型の物まであり、容量が大きいほど値段も高くなるとの事だった。


話を聞き、ナオトから貰ったマジックバッグは国宝級の物だと思い、


「僕のマジックバッグは、そんなに沢山入りませんから…」


エルザに嘘の説明をするが、ノーブの挙動は怪しかった…

そして、話を聞いてからは、ギルドカードのステータスを見せる事も、ドラゴンをマジックバッグに収納している事も言えなくなってしまった…


査定が終わり、オークは1匹、金貨1枚、合計金貨4枚で買い取ってもらった。

ちなみに1匹は袈裟斬りをしたおかげで派手に傷がついていたが、オマケしてくれた。

オークのように食材になる物はまだしも、毛皮や武器、防具の素材に使われる魔物は出来るだけ外傷を少なく倒すことと勧められた。


ギルドのランクアップシステムは、EからDにランクアップするには10ポイントとの事で、薬草摘みで1ポイント、オーク討伐で4ポイント計5ポイント貯まった。


これで調子に乗ったマルスが、


「明日はオークを5匹討伐してランクアップを狙おうぜ!」


そう言い出し、


「兄さん駄目ですよ? 今まで魔物を倒せてきたのは、ノブさんが弱らせてくれたからです。過信してはいけません!」


しっかり者のマーラに怒られる…

2人のやりとりを見て、


「向上心のマルスと慎重派のマーラ、バランスの取れた良い兄妹だ!」


兄弟のいないノーブは2人を羨ましく思った。


「そうか? 面倒くせぇ妹だぞ!」


「もう兄ちゃん!」


ノーブには、そう言ったやりとりが微笑ましかった。


翌日も結局、マーラの意見を尊重して薬草摘みに出かけた。

森に入るが前日に結構採ったので薬草が見つからず更に奥に移動し、やっと発見して順調に薬草を摘む…


マーラが薬草を両手に抱えて…


「こんなに沢山取れたわ」


微笑む。


ノーブは、ここのところ双子と行動を共にしてるせいもあって、まともな鍛錬はできていない…

だが、初めて出来た同世代の仲間、友達ってこういったものかと…

そして、可愛いマーラに惹かれ、彼女の笑顔を見てるとなんとも言えない気持ちになり、このまま双子と冒険者をしていたいという気持ちも芽生えていた。


「さて帰る…」


ノーブが言いかけたとき!


10頭のシルバーウルフに囲まれていた!

マーラの笑顔に見惚れて、気づくのが遅れたのはナイショの話だ!


「マルス、魔物だ! シルバーウルフだ! 毛皮は高く売れる! なるべく傷を付けず倒すぞ!」


ノーブは常に2人の事を考えて魔物を倒すときも、なるべく高く買取りしてもらえる様に注意して倒していた。


「斬ると値が落ちるもんな…

 でもどうやって?」


マルスはノーブ任せだった。


「殴って蹴って倒すさ!」


ノーブがニャっと笑い、一気にダッシュする!

パンチとキックを駆使して、一瞬で10頭のシルバーウルフを倒した!

それを、マジックバックに収納して薬草を抱えて帰る。


「今日の分の報酬です」


エルザが渡す銀貨3枚を受け取り魔物の買取りをお願いする。

裏の買取り場でシルバーウルフを取り出すと…


「どうやって倒したんだ⁉︎ 傷が全く無い!」


外傷の無い綺麗なシルバーウルフに魔物の買い取り担当者が驚く!


「これなら高く買い取れるぞ!」


別の買取り担当者も興奮して声を上げる!


「よろしくお願いします」


査定を待つ。


「凄いはね貴方達、何者なんです?」


エルザも驚き聞く…

何もしていないマルスとマーラは黙り込む。


「僕は格闘が得意なので殴って倒しました」


ノーブは悪びれる事もなくサラっと説明する。


「殴って… シルバーウルフと言えばこの辺の魔物の中では最速ですよ」


エルザが怪訝な顔をしている。


「僕、足が速いんで…」


笑って誤魔化す。


「目立たないでと言ったばかりなのに… 」


エルザは呟きため息を吐いていた…

シルバーウルフは希少な魔物で、毛皮は貴族の間で流行していて、かなりの高値で売れた!


1頭金貨10枚。

なんと⁉︎ 金貨100枚!

しかも、Dランクにアップ…

希少で高価な魔物の持ち込みや、Cランクの魔物のシルバーウルフの複数討伐も加算され、Cランクにアップした!

マルスは喜び!

マーラは実力不足のランクアップに戸惑っていた…


そして、この出来事で、2日でEからCランクにアップした実力派ルーキーとして注目されることになった…

双子もお金に余裕が出来て、宿の部屋も1室食事付きに変わっていた。


翌日、ギルドに行き依頼ボードを眺めてると、他の冒険者が声を掛けて来る。


「よう、期待のルーキー! 俺はヤイバだ、バスタードのリーダーだ よろしく!」


自分達より少し年上の男性にそう声を掛けられて挨拶された。

人に慣れていないノーブとマーラは、どうしていいか解らずオロオロする。


「俺はマルス、妹のマーラと仲間のノブだ!」


マルスは気さくに挨拶を交わし、もじもじする2人をよそに、マルスとヤイバの話が盛り上がっていく!

そして、お互いの親交を深めようとギルドの食堂で懇親会を開く事になった。


ノーブも、ここのところ忙しい日々だったから休養もいいかと、この日は依頼を受けないことにした。


調子に乗った2人が、昼間っからエールをあおる。

ヤイバのパーティーメンバーは、戦士のヤイバを筆頭に斧使いのダム、盾使いのマサ、魔法使いのトオル、僧侶のアコの5人。

全員Cランク冒険者だった。

お互い挨拶をして雑談… 宴も終盤に…


「合同で魔物の討伐に行こう!」


ヤイバが提案する!


「やろうぜ!」


マルスが即答する!


「明日だ! 明日!」


「おっー!」


2人が盛り上がる!

他の仲間達も、それを受け入れているようだ…

だがノーブは正直気が進まない…

彼らの実力も知らないし、自分の実力やマジックアイテムを見せる訳にもいかない。

だが、良い機会かも知れない、自分がこの街を去ったあと、マルスとマーラを助けてくれる仲間も必要だろうとノーブは思った。


「悪いが僕は明日、用事があって行けない…」


そう断わった。


「付き合いわりーな!」


マルスに言われたが気にしない。

明日は久々に鍛錬と旅の支度、母や師匠の情報収集をする事にした。

この街に来て明日で5日、そろそろ旅に出ないと出発するきっかけをなくすと思い始めていた。


翌日、ノーブは街で情報集めをしたが収穫は無し、旅支度をして森で鍛錬をしていた。

久々にゴーレムを出しての戦闘練習で汗を流す。

昼食をと思いギルドの食堂に向かい、ホールを歩いていると…


「あれ? ノブさん、もう帰られたのですか?」


エルザに声を掛けられる。


「いや、僕は休みですよ」


「そんな… 今朝、バスタードの皆さんとマルスさんマーラさんが、ゴブリン集落の壊滅依頼を受けたんです…

依頼の最低人数が8人なので最後の1人はノブさんだと思っていたのですが…

あの子達、7人で依頼を受けたのかしら… 大丈夫かな…

言ってはなんだけど、バスタードもCランクになりたてで、実力はまだまだだから… 無事に帰って来て欲しいけど…」


ギルドの受付嬢の感なのか?

エルザは心配していた。

ノーブも心配になり…


「そのゴブリンの集落はどの方角にあるのですか?」


ノーブは慌ててエルザに聞く。


「今から行っても日が暮れてしまうわ… 明日まで待って捜索に出かけたら?」


そう諭される…


「そうですね… とりあえず場所や方向を教えてください」


ノーブはエルザにゴブリン集落の場所を教えてもらった…

ギルドを出て居ても立っても居られず街の外まで駆け出す! 

人気のないところで「装着!」黄色い鎧を身につけ、雷を纏い空に浮き上がる、背中と足の噴射口から一気に高温の炎を噴射して全力で飛ぶ!

一体どれくらいの速度で飛んだのだろうか…

徒歩で半日かかる距離を一瞬でたどり着いていた。

眼下にゴブリンの集落がある。

多くの魔物の気配を感じるが人の気配はしない。


(まだ、たどり着いていないのだろうか… 気配を察して引き返したのだろうか…)


ノーブはそう思い、1番強い魔物の気配のする場所に飛ぶ!

着地した場所には、ノーブの身長の倍もある巨大なゴブリンキングがいた!


「グオオオー!」


ゴブリンキングは唸り声を上げて向かってきた。

ノーブは軽くジャンプしながら右ハイキック!

ゴブリンキングの頭を一瞬で粉砕する!

倒れゆくゴブリンキングを尻目に辺りを見回す…

100匹近くのゴブリンがノーブを見ている!

だがそんなことはどうでもよかった…


(みんなはどこだ! マーラは無事か?)


足元に転がる7つの人、無惨な姿で死んでいる…

ノーブの頭が真っ白になる…

見慣れた服装の女の子を抱き上げて顔を見る…

マーラだった…

だが既に意識はない… 死んでいる…


「マーラ! マーラ!」


ノーブは叫び!

エクストラヒールを唱える… 何度も唱える…

でも、死んだ者は生き返らない…

死者蘇生の呪文は知らない…

ノーブは自分の非力さに打ちひしがられて言いようのない怒りが込み上げてくる!


キングを倒され呆然としていたゴブリン達が一斉に動き出す!

迫り来るゴブリン達に、自衛のため無意識で操作したのか?

8枚のヤーが飛び回り攻撃していく!


(騒がしい… 静かにしてくれ…)


ノーブはそう思い…


「ライオット!」


魔法名を叫んだ!

掲げた手の平から激しい稲妻が発生し、その稲妻が暴れ狂った様に広がり、ゴブリン達を感電させ全滅させた…

そして、敵もいなくなり、その場を静寂が包む…

ノーブはマーラの亡骸を抱き呆然としていた…

どれだけの時間が経ったのだろう?

青空だった空が、月夜に変わっていた。


(どうしてこうなった… 自分が討伐を断ったからか?

ギルドが実力もない者達に100匹近い魔物の退治に行かせたからか?

いや違う! 理由はどうあれ、彼らが戦いを挑み負けた。ただそれだけだ…)


ノーブも甘い考えで鬼人王に戦いを挑み死にかけた…

戦いとはそんなもの、彼らに運と実力がなかっただけ…

そう解っていても、やりきれない深い悲しみが襲う…

ふと思い出し、アイテムボックスからナオトに貰った魔導書を出す。

死者蘇生の魔法を探す…


(あった! これだ!)


それは術者の寿命の一部を対価に死者蘇生を行う究極の呪文だった。

大好きだった彼女が、自分の寿命の一部で生き返るならそれでいい!

ノーブはそう思い、詠唱を覚え最大の魔力を込め詠唱する。

長い詠唱が終わり「リザレクション!」と唱える!

だが、魔法が発動しない…


「何故だ!」


ノーブは叫び!

茫然として項垂れる…


そのとき、マーラの身体が光る!

その光が玉となりノーブの中に入って行く…

そしてマーラの声がノーブの心に聞こえる…


(ムチャなことはしないでください…

私はもう死んでいます。

短い間でしたが、貴方と過ごした日々は楽しかったです。

貴方には特別な使命があります。

この世界を導いてください。

そして、いつの日か…)


その声は徐々に小さくなり最後の方は聞き取れなかった…

声が聞こえなくなると同時に、ノーブの身体が光り輝き! 脳裏に様々な情報が流れ込む…

それは前世からの記憶。

自分は地球の日本に住んでいて、女房子供、孫までいる50歳のジジイだった!

平和で穏やかな日々を送っていたある日、女房との散歩の途中に、眩い光と共に、この世界に召喚された…

石造りの部屋には、王様と召喚士や騎士達がいた、一緒に召喚されたであろう学生服を着た若者が2人。

1人はナオトを若くした感じだった。

そして、激怒した王の命令で騎士に斬られる寸前の召喚士がノーブに魔法を放った!

そして転生してマリアの子として産まれた…

確実な答えはその場にいた者に聞かないと解らないが、たぶんナオトは、この時の若者の1人…

その証拠にナオトに貰った魔導書は日本語で書かれている。

彼が同日に召喚された者なら、ノーブは、その時、転生させられ赤子からやり直し、ノーブが10歳のとき彼が25〜6歳、計算が合っていた。

謎を究明するには、ナオトに会わなければならない、ノーブはそう思ったが…

まずは、この状況をなんとかしなければいけなかった。


マーラの遺体を抱いて飛び、カーシャの街へ戻る。

遺体を抱いたままギルドに入る…

それに気づいたエルザが駆け寄る…


「そんな…」


エルザは口を押さえて涙を流す…


「他の皆さんは?」


「全滅していた… ゴブリンの集落にはゴブリンキングを含め100匹ほどいた…

彼ら7人では全く歯が立たなかったようだ…

俺が駆けつけたときには全員が亡くなっていた…」


前世を取り戻したノーブの口調は変わっていた…


ゴブリンは全て討伐はしたが、後処理はせず、マーラだけを連れて帰ったことを伝え、マーラの遺体をギルドに預けた。

明日、ギルドから後処理の部隊を出してくれる事を聞き、その日はギルドの霊安室でマーラの遺体を眺めて夜を明かした。


翌日、朝1番で出かけた処理部隊が夜に戻って来た…


部隊から報告を受けたエルザに呼ばれてノーブはギルドマスターの部屋に行く…

ギルドマスター立ち合いのもと、エルザが処理隊から受けた報告を伝えてくれた。

大体の内容はノーブが報告した状況をと同じだった。

ただし、ゴブリンに関しては、ほとんどが灰になり、正確な数が解らず、ノーブに討伐料を支払えないとのことだった。


「それはいい… だが、彼らの遺体はどうするのだ?」


ノーブが尋ねると…


この街の墓地に埋葬され、遺品はギルドに登録したときに書類に書かれた家族の元に送られると説明された。


一通りの報告を聞き、ノーブが、その場を後にしようとしたとき、ギルドマスターが口を開く!


「お前は何者だ? 短時間であの距離を往復して、なおかつ7人のCランク冒険者を殺した魔物を1人で灰にした実力 !

ただのCランク冒険者とは言わせねーぞ!」


死者に敬意も払わず、下らない質問をするギルドマスターに、ノーブはキレ…


「さぁ? 何者なんだろうな…

弱い彼らが魔物達に殺され… 強い俺が魔物を蹂躙した。ただそれだけだ!」


喋りながら殺気を放っていた!

激しい殺意に腰を抜かし息を呑むギルドマスター…


「まぁいい、彼らを丁重に葬ってやってくれ…」


ノーブはギルドマスターを睨みつけて振り向き、その場を後にした…


そして、ノーブは3日間宿に籠っていた。

疲れてはいたが頭が冴えて眠れない。

何気にギルドカード観た…


冒険者ギルド Cランク

名前 ノブ

職業 勇者

レベル 138

称号 ドラゴンスレーヤー、悲しき者


勇者になった事で、異世界人の弟子、が消えた…


(勇者か… 昔、漫画や小説なんかで読んだな…

異世界に転生して勇者になる話を、そんなことが本当に起こるとは…

ただのジジイなのになんで俺が勇者なんだ! 全く理解できない!

あの平和な日本に帰りたい!)


そんなことを強く思うようになっていた…


勇者の力が目覚めた今… 光魔法と空間魔法が使えるようになり、収納魔法とは別のアイテムボックスも手に入れた。

ゲームとかでよくあるやつだ。

自分自身の中にあるマジックバッグみたいな物で、魔力も使わず維持できる便利なポケットみたいな物、日本アニメのネコ型ロボットが持つ四次元ポケット的な物だった。

今まで使っていた、マジックバッグの中身をアイテムボックスに全て移す。

マジックバッグもアイテムボックスの中に収納する。

アイテムボックスの中身を確認すると 、マーラの心、と言うものを発見した…

だが取り出すことが出来ない⁉︎

いろいろやってみたが、やっぱり駄目だった…

気になるが暫く様子を見ることにした。


そして翌日、宿をチェックアウトし、マーラとマルスの墓を訪ね、旅立ちの挨拶をする…

墓を後にすると、出入り口で待っていたエルザに会う。


「エルザか、やはりアニメの様に綺麗だな… 何か用か?」


記憶を取り戻したノーブは、エルザのアニメに出てくるヒロインの様な整った顔立ちに現実味を失っていた…


「旅立たれるのですか?」


エルザは綺麗と褒められて照れているのか? 赤い顔をしている。


「ああ」


「口調が変わりましたね…」


「そうだな、いろいろあったし本来の自分を思い出したんだ…」


「本来の自分?」


「転移者や転生者って知ってるか?」


「あっ、貴方は勇者様なのですか!」


「いや、ただ聞いてみただけだ、俺はそんなもんじゃねぇよ…

この世界の勇者ってなんだ?」


「魔王を打ち倒し世界を救う者です」


「そうか… やはり俺は違うな…」


「最後に一つ旅の目的を教えてください!」


「爆炎の勇者を探している。

居場所に心当たりはあるか?」


ノーブの問いに、エルザは静かに首を振る…


「そうか… では行くか… マーラ達の墓を頼む!」


ノーブが立ち去ろうとすると、エルザが再び声をかける。


「あの、また会えますか?」


「この街に戻る気はない… エルザの顔を見るのも最後だろう…」


ノーブは興味無さそうに答えて顔を左右に振った。


「いえ、そんな事はありません。

いつか必ずお会いする日が来ると思います… 何故か私は…」


エルザは何かを伝えたそうだったが、困った様に口籠もってしまった…

ノーブは何も言わず歩き出して次の街へと旅立った。


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