主役は魔王3
「さて行くか…」
家の庭でシンリーと紫電改に乗り込むところだ…
「そうだゲンキー、あのダンジョンの最下層まで行って、ヤリチンとか言う奴を見てこい! 生きて待っていたら連れて来てやれ… 危ないから妻達は連れて行くなよ?」
魔王はヤリチ達を思い出し、ゲンキーに迎えに行くように告げた。
「ヤリチンじゃないです… ヤリチですよ… 僕、1人でですか? 危なくないですか?」
ゲンキーが弱腰だ…
「仕方がない。魔王軍から…」
魔王が言い掛けると…
「だっ、大丈夫です! 1人の方が気が楽ですから…」
ゲンキーは食い気味で断る。魔王軍で、こっ酷くしごかれ、余り関わりたくないようだった。
「では任せた。さて、シンリー行くか…」
シンリーと2人紫電改に乗込み発進する! 飛び立つと直ぐさま転移してカシュー星のあった場所に現れる。
その宇宙空間に見慣れない宇宙船が飛んでいた。
「とりあえず、ロックオンだな。ポチっとな! さてどう出て来るかだが…」
「あちらに攻撃の意思は無さそうですね…」
シンリーが呟き、しばらくすると通信が入る。
「こちらに…ザー、の、ザー、ザー、は、ザー…」
無線の技術が相当悪い…
「通信になっていないじゃないか… シンリー行くぞ?」
そう言って、見知らぬ宇宙船の艦橋に転移する。
「わかるかー!」
魔王の第一声だった!
見知らぬ宇宙船のクルーが驚き慌てふためく!
「お前達の無線機はポンコツかー!」
魔王は気が短かかった… 無線担当がいて根気よく通信していれば問題ないのだが、紫電改は家族だけで動かせるので、クルーは一切いない。
「なんのようだ?」
クルー全員が唖然として固まっている…
「なんの用だと聞いているんだが?」
艦長っぽい男に聞く。
「あっ、あんたは誰だ…」
「あの戦闘艦の持ち主で魔王だ、お前達は?」
「ラーメルダ星、宇宙調査隊の艦長のタイラーだ…」
「何をしに来た?」
「星が消えたから調査に…」
「ああ、俺が星を移動させた、お前達には来られない宇宙にある。心配するな…」
「星を動かした? 貴方は何をしに…」
「ああ、移動させた星の国を造り直していてな、偶然、あの星の技術では造れない小型の宇宙船を見つけた! 近所に文明の栄えた星があるなら観光に行こうかと思ってな!」
魔王は楽しそうに説明する。
「かっ、観光ですか?」
「ああ、妻と旅行に行くんだ! ラーメルダ星はどうだ? 楽しいところか? 魔物がいたり冒険者ギルドとかあるか?」
「楽しいかどうかは… 他の星に行った事がないので…」
「宇宙船があるのにか?」
「はい、宇宙船を開発した偉い方が他の星に干渉してはならないと言いまして…」
「そうか、で、冒険者ギルドや魔物は?」
「はあ、どちらもありますが? あの船で勝手に入ると、どの国に行っても撃墜されるかと…」
「お前の目は節穴か? 俺の船が負けると思うのか? 凄い兵器を積んでいるんだぞ? 見たいか?」
魔王は呆れて聞く。
「はあ…」
「よし! タイラーはノリが良くて好きだぞ! 見たいか? と聞くと、なぜか皆遠慮するからな…」
魔王は嬉しそうに、タイラーの肩を叩いた。
「良かったですね、魔王様」
喜ぶ魔王を見てシンリーも嬉しそうにしている。
「よし、あの小惑星を消しとばしてやる! 良く見ていろよ?」
魔王がそう言うと紫電改が小惑星の方を向き…
「超魔導砲、発射!」
魔王が叫ぶと…
ドシューン! と音を立て魔導砲が打ち出される! その威力は凄まじく! 小惑星どころか、射線上の全ての隕石をも破壊して、閃光はどこまでも輝き進んでいった。
タイラーを含む全てのクルーが青い顔をして見ていた。
「どうだ? 凄いだろう? ステルスモード! ほら見えなくなっただろう?」
「タイラー艦長、目の前の宇宙船が消えました! レーダーにも反応しません!」
クルーが焦っていた。
「あのー、星に来られるのなら案内させてください… いまの兵器、使わないでくれますか…」
タイラーが困った顔で頼んだ。
「仕方がない。だが、魔道カノンや魔道レーザー、魔道ミサイルは使っても良いか?」
魔王は確認する。
「絶対に攻撃させませんから、何も使わないでください…」
タイラーは、この男だけは敵にしてはいけないと魂の底から感じていた。
そのとき、ステルスモードを解除した紫電改が現れる。
「わかった、星までこの船でどれぐらいの距離だ?」
魔王は尋ねる。
「はい、1週間ほどです…」
「ここから見えるか?」
「アレです…」
タイラーが指差す先に点ほどの星が見える。
「そうか… 時間が掛かり過ぎるから転移しょう。俺の船は収納しておく」
魔王はボソボソと呟き、紫電改をアイテムボックスに収納して、タイラーの船ごと、その星の近くまで転移する。
「あの… 神様とかですか?」
タイラーが恐る恐る聞く。
「ただの魔王だぞ?」
魔王の答えが、タイラーは良く解らないようだった… 少しして大気圏に突入して行く。
この星の地図を見せてもらい多少説明を受ける。
そして、ラーメルダ星、サルティン国の首都の宇宙船発着所に到着する!
「へー、意外と進んだ感じだな! タイラー、ありがとうな! じゃあ!」
魔王は辺りを見渡し、満足して、さっそく出掛けようとする。
「ちっ、ちょっと待って! いろいろ会って欲しい人が!」
タイラーが慌てて止める。
「あっ、俺そういう面倒くさいの苦手だから、適当に観光して帰るから気にしないでくれ!」
魔王は笑顔で答え、シンリーと転移する。宇宙船の甲板に出て、ギルドのありそうな田舎街に飛んで行く。
「魔王様、あの街が良さそうです」
シンリーに勧められた街に降りる。
首都は結構発展していたが、田舎街はそれほどでもなかった。
ナヤ街に入る。通行料の交渉はシンリーが担当した。少量の金を渡し街に入る。
「シンリー、初めてなのに手慣れているな?」
魔王が感心する。
「実体を持って来るのは初めてですが、いつも魔王様の中にいましたから、旅行は魔王様と同じ数行っている事になります」
シンリーはそう言って笑っていた。
とりあえず冒険者ギルドに行く。人の思いつく事は似たり寄ったりなのか? 魔物がいて冒険者ギルドのある星はだいたいどこも似たようなシステムだった。
「登録をして欲しいんだが…」
受付に行き手続きをする。
残念な事に飛び級システムはなかった。
そしてFランクスタートにビックリする。
「Fランク…」
魔王は呟き絶句する… それは過去最低のランクだった。
「まあだが、これで街の出入りや、他所の街にも行きやすくなる。依頼は受けず魔物を狩って売れば良い…」
ガッカリしながら呟き、街の外へ行く。森を歩きシンリーとピクニックだ!
魔物を探すがいない… いるにはいるがゴブリンやオークばかりだった。
感知を広げて、高額で売れそうな魔物を探す。
少し離れた山脈に少量のドラゴンやグリフォンなどを見つける。
空の散歩がてらシンリーを抱き上げ飛んでいく。
数日滞在する金が有ればいいと1頭のグリフォンを仕留めて、ギルドに戻る。
「買取りを頼む!」
魔王が受付嬢に頼む。
「では、カウンターの上にお出しください…」
「5mほどのグリフォンだ? カウンターなど潰れてしまうぞ?」
魔王はやれやれといった感じで説明する。
「冗談はいいですから、さっさとお出しください!」
受付嬢が少しキレ気味だ!
「いいだろう。後悔するなよ?」
ドカーン! 5mのグリフォンが小さなカウンターに乗り、カウンターは粉々に崩れ去る…
「なっ、なにを…」
魔王からは、グリフォンの影になって見えないが、受付嬢が青い顔をしている…
「何をじゃない! お前が出せと言っだろう? さっさと買い取れ!」
魔王はムッとしている。
「すっ、少しお待ちください…」
青い顔をした受付嬢がどこかへ走って行く。
程なくしてギルマスを連れて戻って来た。
「こっ、これはどう言う事ですか?」
ギルマスも焦っている。
「その受付嬢がカウンターの上に出せと言うから出したんだ!」
すでに魔王のイライラ度はMAXだった!
「まさかFランクがグリフォンを持ってくるとは思わないので、冗談だと思って言いました…」
受付嬢が困っていた…
「もういい、女を困らせるのは趣味じゃない…」
魔王はため息を吐き、グリフォンを収納する。
「どこへ持っていけばいい?」
「こちらへ…」
魔王が聞くとギルマスが案内を始める。
「少し待て… 強制召喚!」
魔王は大きなため息を吐き、シュッと1人の男を呼び寄せる!
「魔王! 何をやった!」
現れるないなや大声で怒るヨシヒデ…
「違うんだ… 俺は無理だと言ったのに、受付嬢がどうしても出せと言うから…」
魔王は困った顔で、ヨシヒデに必死に言い訳する。
「すみません、冗談だと思ってしまって…」
受付嬢が謝る。
「いや、お前さんは悪くない! こうなると解って出した魔王が悪い! ロビーの床に出せばよかっただろうが!」
ヨシヒデも女に甘かった…
「次から気をつける…」
魔王は素直に謝る…
「解ればいい。すぐに直してやる!」
そう言って、見る見る新しいカウンターを造る。
「また、酒を奢れよ!」
そう言ったヨシヒデを転移で返した…
「またせたな!」
強めに言うが、魔王の威厳はどこにもなかった。
買取場に行き、グリフォンを出して買い取ってもらう。
「あのー、ほんとにFランクなんですか?」
ギルマスが聞く。
「さっき、ここのギルドで登録したばかりだろう?」
魔王は呆れていた…
「本部からの身分を隠した視察とか…」
怪訝な顔をして見ている。
「あのな、視察ならカウンターを壊したり、目立つ事はしないだろう?」
魔王は当然とばかりに説明する。
「まあ、そうですね…」
ギルマスは納得がいかないようだった。何か聞きたそうだったが、さっさとギルドを後にする。
街をブラブラ歩き、ホテルを探す。だが、理想的なホテルはなかった… 転移でサルティン国の首都に戻り高級そうなホテルを見つけ部屋を借りる。
「レストランの食事も良かったし、部屋もなかなかだ!」
「そうですね… ベッドもふっかふかですよ…」
「シンリーそれは…」
「私も言ってみたかったんです…」
「そっ、そうか…」
シンリーには、全ての行動を見られていたと、魔王は、今更ながらに気づく…
凄く恥ずかしくなったが今更だし、目の前の欲望には勝てない… 気にしたら負けだと、何も考えずにヤってしまう。
翌日は首都観光だ… 街にあったデパートに行き家族にお土産を買う。
「アンちゃんはこれカコちゃんはこれ……」
女神ーズやゲンキー嫁ーズ、どんどん決めて買っていく。
「ゲンキーの分は魔王様が選んでください」
ゲンキーはシンリーに嫌われている…
「仕方がない…」
適当に、その辺にあった、ゆるキャラが描かれたTシャツを買う。
街のオープンカフェでお茶を飲む。
「魔王様と、こんな感じの店で、お茶を飲みたかったのです…」
「そうか、1つ叶って良かったな! 次々と叶えていこうな!」
シンリーはやりたい事がたくさんあり、1つずつ叶えていっている。
「あっ、貴方は!」
タイラーが驚いた顔で叫ぶ!
「タイラー、息災か?」
魔王は平然としている。
「どこにいらしたのですか!」
「ナヤって街の冒険者ギルドに登録に行っていた。なにか用か?」
「いろいろ会いたがっている人達がいて…」
タイラーは一生懸命に魔王を探していたのだった。
「そういうのいいから、俺に何の利点もないし面倒くさいだけだ…」
魔王は面倒くさそうに答える。
「しかし…」
タイラーは困っていたが、魔王の知ったこっちゃなかった… 面倒くさくなり、黙って転移してホテルに戻る。
翌日は山でグリフォンやワイバーンを狩る!
意外とサルティン国の科学力が高く、街で見かけた車やバイクが欲しくなってしまった。
そんな訳で魔物を大量に狩っている。
シンリーは近くに座ってニコニコして見ている。
ゲンキーの言う通りセシリーと行動が似ていた。
沢山の魔物を狩り終え、ナヤのギルドのロビーに転移する。
魔王は初日に派手にやってしまったので力を隠す気もなかった。
転移すると…
「あっ! 見つけました!」
タイラーだ…
「お前は俺のストーカーか? 男のストーカーはキモいんだが…」
「違いますよ! 合わせたい人がいるんです!」
タイラーがイラついていた。
「とりあえずだ、魔物を買い取ってもらう!」
魔王はさっさと買取場に行き、魔物をじゃんじゃん出していく… だんだんと買取担当者の顔が青くなっていく…
「あの… こんなに買取する予算はないのですが…」
ギルマスが申し訳無さそうに言う。
「魔物を買取出来るところを紹介しますから、お願いを聞いてください!」
タイラーが必死だ…
「仕方がない…」
ギルドが欲しいだけを買取らせ、残り全てを持って首都に移動する。
国の仕入れ問屋のようなところに連れていかれ全てを買取ってもらい、かなりの額を受け取った。
タイラーと翌日会う約束をして別れ、買い物に行き欲しい物を買って回った。
「たくさん買いましたね」
「ああ、欲しかった物が全部買えたな!」
魔王は大満足で上機嫌だった。
そして翌日…
高層タワーの屋上付近の大きな会議室で、首相だの大臣だの科学者に囲まれていた。
「タイラー、なんだこの数は! 1人じゃないのか?」
魔王はやれやれといった感じでため息を吐く。
「はい、面倒くさそうなので纏めてにしてもらいました…」
それから、質問攻めだった。
どこから来たのか? 何者なのか? どうしてカシュー星は消えなければならなかったのか?
その他もろもろ、魔王は面倒くさく思い、企業秘密だと突っぱねた。
「まあとにかく俺は、観光に来ただけだ。すぐに帰るし、この星に干渉するつもりもないから安心しろ」
そう締めると、1人の科学者が手を挙げる。
「私を魔王様の星に連れていってください…」
そう願い出た…
「うーん… 来たところでだぞ? 隣の芝は青く見える的な感じだろうが、この星より少し進んだ程度だし。宇宙戦艦の技術や軍事機密は学べないぞ?」
魔王は送り迎えが面倒くさく、正直、連れて行きたくはなかった。
「それでも…」
科学者は行きたそうだった。
「シンリーどう思う?」
「魔王様好みの可愛い女性かと、オッパイも大きいですし…」
「いや、そう言う事を聞いているんじゃないから!」
「ふふ、冗談を言って見たかったのです。でも、好みでしょう? 悪い人間ではないので連れて行ってはいかがですか?」
シンリーは普通の人間臭く…いや、普通の女性になっていた…
「わかった連れて行こう…
ただ、今生の別れは済ませておくように…」
魔王が告げると、首相や大臣達が青い顔をしている。
「危険なのですか?」
科学者が聞く。
「ああ、凄くな!」
科学者の顔が曇る…
「ネバーランド効果というのか? 今までも他の星から何人かの希望者を連れて行った…
全員、移住したいと言い出してな… 誰も帰らないんだ…」
そう、サーフィンや買い物にハマった連中や魔王軍に居座る奴もいる…
「はあ、楽しくての方ですか… 私は大丈夫だと思います。娯楽とか興味ないですし… 思い上がっている訳ではないですが、この星で1番賢い科学者と言われいます。
宇宙船も1人で設計しましたし、船や飛行機、車など、ほとんどの物は私が基礎設計をいたしました。今更得れる知識などないと思いますが…」
科学者は呆れたようにため息を吐き説明した。
「ほう、井の中の蛙とはお前の事だな? あのポンコツ宇宙船で満足しているとは… それにあの使えない無線… 技術力が低すぎる。なあ、シンリー?」
魔王の意地悪心に火が着いた!
「魔王様、この程度の文化レベルでは仕方がないと思います。あの方も良くやっています。ガイア星の教師ぐらいは務まりそうですよ?」
魔王が科学者を揶揄い始めたのが解りシンリーもノッてくれる。
科学者の女の顔は真っ赤だった。
「しっ、失礼にも程があります! 私の造った物がポンコツだと言う根拠を示してください!」
めっちゃキレていた。
「仕方がない。見せてやろう! 来い! 魔神ガイアー!」
魔王はニヤニヤして、窓の外を見て叫ぶ!
空中に黒い大きな次元の渦が現れ、中から1台の宇宙戦闘機が現れる!
そして、高速でタワーの前を飛び回る。
「凄い速さで斬新なデザインですけど、ただの飛行機じゃないですか…」
すでに女性の声は小さくなっていた…
「よく見ていろ? チェンジ、ガイアー!」
魔王が香ばしく叫ぶとロボットに変形する!
その様子を目を丸くして見ていた。
「まだだ! マッハパンチ!」
ガイアーの腕が飛んで行き! 遠くの山を砕く! それは目で追える速さではなかった。
「凄いだろう? 俺のロボ! 宇宙にだって行けるんだぜ? サービスだもう一個見せてやる! 来い! 魔王城!」
ブォン! サルティン国の上空に首都を覆い隠すような空飛ぶ要塞が現れる!
それは、空に浮かぶ大陸のようだった。建物が建ち並び中央には禍々しい城がある。
「凄いだろう? 俺の宇宙軌道要塞だぞ? カッコ良いだろう?」
「はい… デザインはアレですけど…」
負け惜しみを言いながら意気消沈していた。
「もっと見せちゃおうかな?」
魔王はノリノリだ!
「魔王様、楽しそうですね」
シンリーも嬉しそうにしている。
「ああ、たまには自慢したいじゃないか… お前達サービスだ!」
ご機嫌な魔王は、魔王城の艦橋に、その場の全員を連れて転移する。
「魔王城、発進!」
香ばしく手を突き出すポーズを取り叫ぶ!
魔王城は発進し、速度を上げ宇宙空間に飛び出す!
「艦隊発進!」
宇宙戦艦ムサシを先頭に次々と戦艦と各種ロボットが発進する。
「ムサシ! 超魔導砲発射!」
魔導砲の光が小惑星や隕石を破壊しながら宇宙を照らし駆け抜ける。
「どうだ? 何か言う事があるか?」
魔王は尋ねる。
「移住させてください… そして、学校から通わせてください…」
科学者は泣きそうな顔で頼んだ… 首相達には必死で止められていた。
とりあえず会議室に戻る。
魔王城はガイア星に送り返した。
「魔王様、楽しかったですね」
シンリーが魔王に笑いかける。
「ああ、いつもと違うバージョンの映像も撮れただろうし、愛も喜ぶかもな!」
魔王も答え、2人で笑い合っている。
だが、その場の全員がなんともいえない顔をしていた。
「そういえば、天才、いやNo.1か? お前、名は?」
「天才もNo.1もやめてください… 私なんて何の取り柄もない凡人です。エリカです…」
「エリカ、ちょっとした冗談だ。お前は充分天才だ!」
流石にやり過ぎたと、魔王は慰める。
「冗談で造れるほどの物なのですか…」
エリカは果てしなく落ち込んでいた…
「エリカ、ちょっと来い」
そう呼び寄せ。
「ほら、元気をだせ…」
そっと抱きしめる。
「なっ、何を⁉︎」
エリカが驚いている。
「気にしないでください。気に入った女性をハグするのは、魔王様の癖ですから…」
シンリーが笑って教えた。
「気にしないでくださいと言われても…」
エリカは困っていた。
とりあえず会議室はエリカを引き留める話で進んでいる。
魔王が、この星に滞在するのは、あと3日間だと告げ、それまでに決めろと言い、その場を後にした。
そして、魔王はシンリーと、近隣の国へも遊びに行き3日間を楽しく過ごした。
約束の日に、あの会議室に転移すると、全員が集まっていた。
エリカの決意は固く、とりあえず留学するという形になったらしい。
必ず帰ってきてください!みたいな事を皆に言われ説得されていた。
「タイラー、元気でな!」
そう言ってラーメルダ星を後にした。
「ただいまー!」
「アナタお帰りなさい!」
セシリーが出迎えてくれて、熱いハグをする。
「シンリー様、楽しかったですか?」
「ええ、とっても」
セシリーとシンリーが楽しそうに話ていた。
リビングに行く…
「皆、帰ったぞー!」
嫁ーズと次々とハグをしていく。カシュー星からの扉も開き…
「「「「「お父様ー!」」」」」
5人の義理の娘もやって来る。
その後ろからイーシャとゲンキーがついてくる感じだ…
シンリーが次々と皆にお土産を配っていく…
「僕だけ、お土産のテイストが違う気がしますが…」
お腹に黄色いデフォルメされたカエルが正面を向いて座る絵の描かれているTシャツを着たゲンキーが呟く。
そのシャツは、ど根性カエルのアレにそっくりだ…
「全部シンリーが選んだんだがな、ゲンキーの分だけ俺が選んだんだ…」
「そうですか…」
その説明で全てを理解したようだった…
「カッコ良いじゃない、ヒロシ!」
ママちゃんが笑ってバカにしていた。
「ヒロシってなんですか…」
ゲンキーが、げんなりとしている…
「ところでヤリチンはどうなった?」
「ヤリチですよ? 助けましたよ? 100層と99層の通路で全員で固まって泣いていました…」
ゲンキーが説明した。
「そうか…」
「あの… 魔王様、私より影の薄そうな女性は誰ですか?」
ピーチが聞く。
ピーチの言葉にゲンキーが気まずそうにする…
「ああ、天才か、エリカと言うラーメルダ星1番の科学者様だ」
「天才ではありません…」
エリカがしょんぼりしながら言う。
「妻候補ですか?」
アコが聞く。
「違う、留学と言うかあっちこっち見回ったら帰る予定だ」
魔王が説明するが…
「帰りませんよ?」
エリカがあっけらかんとして言う。
「帰ると約束してたじゃないか…」
魔王は呆れる。
「ああでも言わないと出してもらえませんでしたから… 私、勉強さえさせてもらえれば妻の端っこで良いので…」
「なんで勝手に妻になっている?」
「だって抱いたじゃないですか! 私、初めてだったんです! 責任とってください!」
全員が驚いて固まる… シンリーだけが、クスクスと笑っていた。
「いやいや、その言い方は誤解を招くだろう… ハグをしただけだろう…」
女神ーズがホッと胸を撫で下ろした。
「ハグぐらいじゃ嫁にしないから…」
「じゃ、ヤっちゃってもらっても…」
「何で妻に成りたがる?」
「お金も家もないですから… それに私、凄い…いえなんでもないです…」
エリカは行くあてがなく身売りをするつもりだった…
「妻にならなくても、住むところと金は用意してやる…」
そう言うと…
「なら私達と住みましょうよ!」
そうピーチが声を掛ける。
「魔王様の彼女になるといいわ、何かとお得よ? それに家が広くて2人だと寂しいからね!」
ミナも賛成する。
「では、それでお願いします…」
住めればどこでも良いようだった…
「シンリー、大丈夫か?」
「大丈夫です」
魔王の問いに、シンリーが笑顔で答えた。
「あの、どうしていつもシンリーさんに確認するんですか?」
エリカが不思議そうに聞く。
「ああ、シンリーはずっと俺の心の中にいたんだ… いろいろあって最近肉体を手に入れたんだ。昔から何か決め事したり困ったときはシンリーに尋ねていてな、そのときの癖で今でも尋ねてしまうんだ」
魔王がザックリ説明すると…
「そっ、その話を詳しく教えてください!」
エリカが食いついてしまった。
仕方がなく話をする。
「その亡くなった3人の魂が融合してスキルになっていたと… で、そのスキルから魂を取り出して人の身体に移し定着させたと…
そんな事が可能なのか… どんな装置を使えば魂を加工出来るのだろう…」
1人でぶつぶつ言い始め考え混んでいる。
「シンリーさん、3人の記憶はありますか?」
「ありますよ? 転生した魔王様を息子として育てた記憶も、一緒に冒険者になったときの事も、エルザさんを初めて見たとき魔王様が一目惚れをしたのを見てヤキモチを焼いたのも覚えています。聖女として啓示を受け旅をした事も、神竜に焼かれ死にゆく私を悲しそうな顔で叫んでいた事も、全て覚えています」
「3人の人格があるのですか?」
「いいえ、それぞれの記憶と人格は前世の記憶みたいな物です、今はシンリーと言う1人の人間です」
エリカがまじまじとシンリーを見て…
「とりあえず、私を殺してそのスキルと言う物にしてもらっていいですか? そして復活させてください! そうすればシンリーさんの人間に至ったプロセスが解ると思うので!」
エリカは狂気の科学者かも知れない…
「駄目だ! それにシンリーは3人の魂だ! エリカ1人なら同じではない!」
「はーい! 私、参加してもいいでーす! いえ、魔王様の手で死んで生き返る。是非参加させてください!」
マーリンも言い出す。この家にもマッドサイエンスもどきが居た…
「駄目に決まっているだろう!」
2人を一喝する! 研究者の考え方は本当によくわからない… 元大賢者で研究者のマーリンは科学者のエリカと意気投合し、仲良くなっていった…
「ヤバいのが2人になったわね…」
愛が心配していた。
「とりあえず、みんなでエメラーダに遊びに行きましょう?」
愛だ…
「俺は温泉は…」
言いかけると。
「あら、可愛い義理の娘達がお父様と温泉に行くのを楽しみにしていたのよ?」
愛がニヤニヤしながら説明する。
「本当か?」
ゲンキーに聞くと。
「はい… ても、僕も温泉は遠慮したいのでお父さんから断っていただくと…」
言い終わる前にゲンキーがナツにツネられていた。
「お父さん、僕も温泉に行きたいです!」
ゲンキーはすでに尻に敷かれている。
エメラーダに行き、いつものルートで遊んで行く。
「魔王様、アレとアレ、アレも欲しいです!」
エリカが腕を組んで離れず、物をねだりまくる。
「あんな物を買って何するんだ?」
「バラして中を見てみようかと…」
「なぜ壊してしまう物を俺が買うのだ?」
「私の彼氏だからですが?」
「彼氏じゃねーし!」
そういいながらもドンドン買わされる。
「あの、浮いて走るタイヤの無い乗り物がどうしても欲しいです…」
欲望の歯止めが効かなくなっていた… 時間になり温泉に行くまで大変だった。
「なんと終わったな…」
宴会場に腰を下ろして呟く…
「魔王様、明日はテステラ星、明後日はアース星、明明後日はガイア星に連れて行って案内してください!
ガイア軍にも連れて行ってくださいね!」
エリカは勝手に予定を立てていた…
「俺を巻き込まないでくれ… 金はやるから1人で行って来い… 俺は少し疲れた温泉に入る…」
魔王は妻達と温泉に逃げて行く…
「魔王様ー!」
「こらエリカ! 入って来るんじゃない! マッパで抱きつくな!」
「魔王様お願いします…」
「ぐっ、グリグリと押し付けるのは駄目だ…解った、わかったから離れろ…」
エリカも美人巨乳で、魔王は美人巨乳に抗う術を持ち合わせてはいなかった…
湯船に浸かっていると…
「魔王様、失礼します」
リリ、ミキ、メールが現れる。
「また新しい妻ですか! よくもまあ美女巨乳ばかり見つけてきますよね!」
ミキが嫌そうな顔で言う…
「まだ妻ではありませんが、彼女のエリカです」
勝手に挨拶をしていた。
「冗談だ、他所の星から来たお客さんだ…」
魔王は面倒くさそう顔している。
「へー、お客さんと、腕を組んでお風呂に入るんですか…」
ミキが意地悪そうに言う。
「そういう文化の星から来た気にするな…」
全くの嘘だ、3人が怪訝な目で見ている…
「しかしあれだ、巨乳が腕に当たって困る。ミキぐらいだと当たらなくて良いんだけどな…」
魔王の意地悪が始まった。
「ぐぬぬ!」
ミキがめっちゃ悔しがっている。
「やっぱり、彼女にするにはこれぐらいの巨乳じゃないとな!」
エリカを抱き寄せ、オッパイを鷲掴みにして揉む。
「まっ、魔王様…」
エリカが赤くなって照れる。責められるのは苦手のようだ。
「魔王様、下品ではしたないですよ?」
リリが軽蔑の眼差しを向ける。
「ああ、リリは上品で控えめなオッパイだからな…」
「オッパイの話じゃありません!」
魔王の答えに、リリが怒っている。
「それにその方、嫌がっていませんか? 無理強いは良くないですよ!」
メールまで口を出す…
「エリカ、嫌か?」
「嫌じゃ、ありません…」
「エリカ!」
「魔王様!」
エリカと抱き合い、リリとミキ、メールをドヤ顔で見てやる。
「ふふ、このやりとりを生で見れて楽しいですわ」
シンリーが喜んでいた。
宴会場に行く。
「あら、エリカさん、べったりね…」
愛が呟く…
「リリちゃん達と魔王様が張り合ってですね… ときどきお馬鹿なんですよね…」
アコが呆れている。
「魔王! 呑ませてもらうぞ!」
ヨシヒデだ!
「また、増えていないか?」
「きっ、気のせいだ…」
「気のせいなわけないじゃろう? その巨乳の美人は誰じゃあ!」
ヤマトだ。
「ガイアに勉強しに来た科学者だ…」
説明していると…
「いちいち女性に反応しなくていいから…」
ヤマトはミーナに耳を引っ張られ連れて行かれた。
「ウチで働かない?」
「うぉっ! 急に耳元で囁くなー!」
魔王はめっちゃ驚く! 将の仕業だ…
「なんだ急に?」
「優秀な科学者が来たと聞いたからスカウトしに来た!」
愛に聞いたようだ…
「で、エリカに後任を任せて、王として頑張るのだな? シンリーはもう必要ないな?」
魔王が早口で聞く。
「そんな訳ないでしょう? シンリーは晴れて人間になって父さんの妻になった。ガンガイアの女王になってもらうよ?」
将が勝手な事を言っている。
「ええー、私、自由の身になったんで魔王様と毎日一緒にいます」
シンリーが言うと…
「そんな事を言わないでくれよー! 頼むよー」
将は泣きそうだった…
「冗談です。ママとして息子のために頑張りましょう!」
シンリーが言うと…
「ありがとうママー!」
将が喜びを爆発させていた。
「良いのか?」
「はい、貴方と2人で造った大事な国ですから…」
シンリーは少し照れていた。
「あのー、盛り上がっているところをすみません… 私、優秀じゃないんですけど…」
エリカがしょんぼりとしている。
「大丈夫だ! エリカなら将達と働けば、すぐに将達を追い抜き、連合星で1番の科学者になる!」
「そんな自信ありませんが…」
「開発チームは国家機密だろうがなんだろうがお構いなしだぞ? コイツらがムサシや魔神ガイアー、魔王城を造ったんだぞ?」
魔王が説明すると…
「ええっ! 本当ですか?」
エリカの驚きがMAXだった!
そのあとは将と話をして、希望の場所を見て回ってから働く事となった。
スカウトに成功し、将は上機嫌だ。
「あれ? ゲンキー、ピョン吉か? 良いな!」
ご機嫌な将は、ゲンキーを弄って笑っている。
「将、そう言うと思って… お前にも買ってきた!」
ピョン吉似のTシャツを渡すと顔を引きつらせていた…
「兄さん、オソロです!」
ゲンキーがニヤニヤと笑っている。
「ママは息子達がお父様の選んだTシャツを、お揃いで着ているところを見たいわ?」
シンリーが2人を弄る。
「ぼっ、僕、オジサンだからコレはちょっと…」
将は恥ずかしそうな顔で断る。
「魔王様、息子がママ母の私をイジメます… やはり女王は…」
シンリーが臭い演技をすると…
「わかりました! 着ますから!」
将がムキになって着替えてきた。
「ヒロシが2人ね!」
ママちゃんが、そう言って笑い、シンリーも楽しそうだった。




