英雄の息子5
「もう、半年になるわね!」
ナツがしみじみとしている。
「何がですか?」
ゲンキーは何の事か解らない。
「私達が出会ってからよ!」
「そうですね、ナツさんに怒られ続けて、はや半年、いやいや僕も頑張りました。早く父が迎えに来てくれると良いのですが…」
ゲンキーは力なく呟いた…
「ゲンキーは帰りたいの?」
ナツが聞く。
「そりゃ、僕みたいな軟弱者が生きていくには、平和な街が似合っていますからね。
剣を持って歩く世界は殺伐としていて心が落ち着きません…」
「ゲンキーさんが帰ってしまうと寂しいです…」
アキが寂しそうだ。
「アキさん… じゃあ彼女になって充電してくれますか?」
「それは…」
アキが困った顔をする。
「ですよね… 届かない高嶺の花より、身近な…、どうしているかな、ナージャ姫は…」
ゲンキーは、ふと遠くを見てしまう…
「誰?」
ナツが興味深そうに聞く。
「えっと、近隣の国の姫です。将来有望な巨乳候補で、ときどきお茶を飲んだりしてデートをしていました。なかなか可愛い子でしたから、もう既に婚約者いるかも知れません。なんの約束もしていませんでしたから…」
「ゲンキーの話ってどこまでが本当かわからないわ?」
ナツが怪訝な顔で言う。
「僕は嘘は嫌いです。全部本当です。父が迎えに来て、許可が出れば皆さんを案内しますよ? 見たこともないような不思議な物が沢山あります。きっと気に入ります」
ゲンキーはそう言って笑った。
「そろそろ遭遇します。皆さん戦闘準備を!」
前方から4体のオーガが現れる。
「ライトニングダッシュ!」
ゲンキーが黄色い稲妻をスパークさせ目にも止まらぬ速さで駆け出す!
スパッスパッスパット!
3体のオーガの首を斬り落とす。女子メンバーは4人で1体のオーガを倒すのがやっとだった。
「上です!」
ゲンキーが叫ぶ!
倒したオーガを横取りしようと5mのワイバーンが襲ってくる。
「フライ!」
ゲンキーは空を飛び! ワイバーンに…
「サンダーアロー!」
稲妻の矢を放ち、口から脳を焼き倒す。
ゲンキーはCランク冒険者となり、閃光のルーキーと呼ばれていた。
「ずーっと一緒にいたのに、ゲンキーだけどんどん強くなっていっちゃったわね…」
ナツが寂しそうだった。
「僕なんか強くないですよ? ママの1人に元勇者のレインさんがいるんですが、僕なんかレインママの足元にも及びません。きっと瞬殺されます。
まぁ、凄く優しい人なのでそんな事しませんけどね!」
ゲンキーの話は全て本当だが、誰にも信じてもらえず、ホラ吹きルーキーといった、不名誉なあだ名もあった。
依頼を終えてギルドに戻る…
「よう! ホラ吹きルーキー! そんな女達は捨てて俺達と組まないか?」
「ありがとうございます。
でも、ムサい男だけのパーティーに入りたくありません」
ゲンキーがギルドに顔を出すとスカウトの嵐だった。
だが、興味が無く断っていた。1つのパーティーをのぞいて。
「あら、ゲンキー、お姉さん達のパーティーに入る話は考えてくれた?」
物凄い巨乳美女に声を掛けられる。
「100のGのラサラさん… 僕を勧誘しないでください… 心が揺れてしまうじゃないですか…」
そう、ラサラはゲンキー憧れのお姉さんだった。
ラサラ率いる、ビックバストバスターズは、美女巨乳ばかりの5人のパーティー。
ゲンキーだけではなく、ソル支部の男冒険者全員が入りたいパーティーであった。
「何か願いが有れば聞くよ?」
ラサラが聞く。
「じゅ、充電を…」
ゲンキーが言い掛けるが…
「駄目よ! ゲンキーは渡さないわ!」
ナツが怒鳴る。ラサラとナツは仲が悪かった…
「あら、足手纏いじゃない?」
ラサラがバカにする。
「失礼な事を言わないで!」
ナツがムッとする。
「貴方達が足を引っ張らなければ、ゲンキーはとっくにBランクよ?」
「ラサラさんそんな事はありませんから… ナツさんも揉めるのはやめましょう…」
「「ゲンキーは黙っていて!」」
2人に怒られてしまう…
「ゲンキーさん、放っておきましょう…」
アキがゲンキーを気遣ってくれる。
「なんで、ゲンキーだけがモテるんだー!」
ギャラリーの中からそんな魂の叫び声が聞こえた…
「モテている訳じゃないです…」
ゲンキーは寂しそうに呟いた…
「ダンジョンに潜って勝負よ!」
何かのきっかけで激しくキレたナツが怒鳴った!
「受けて立ちます! 私達が勝ったらゲンキーはいただきますからね?」
ラサラは宣言する。ナツ達には部の悪い勝負だった。
「もー! ラサラ達に勝てる訳ないでしょう! どうする気なの?」
ハルがナツを怒る。
「仕方がないじゃない…」
ナツが困った顔で答える。
「駄目です。僕が謝ってきます。土下座するか、靴でも舐めれば許してくれるでしょう」
ゲンキーは謝る事ぐらいどうという事はない。
「ゲンキーはプライドはないの?」
ナツが呆れた顔で聞く。
「プライドなんてクソの役にも立ちません。持っているだけ無駄です…」
どこまでもゲンキーだった。
「いざとなれば僕が移籍すれば良い事ですから気にしないでください」
「私達と離れて寂しくないの?」
ナツは困った顔をしていて、ハル達も寂しそうな顔をしている。
「寂しくないと言えば嘘になります。ですが、揉めるよりはマシです。
巨乳に囲まれるのは僕の1番の夢ですから、現実になって良いかも知れません…」
ゲンキーはあながち悪くないと思った。
「ゲンキー…」
ナツが言い、全員が呆れていた。
「とにかく勝負よ! その日まで依頼は無しで特訓よ!」
ナツの一言で特訓する事となる。シンリーに聞いた事を、春夏秋冬のメンバーに教える。
女子達はメキメキと上達し強くなっていった。
「いよいよね!」
「こっちのセリフよ!」
ラサラが言い、ナツが言い返す。
目の前はソルの街から少し離れた場所にある、名もなきダンジョンだ。
Cランク冒険者が魔石集めをするにはもってこいの、中の下的なダンジョンだった。
「もう遅いわ! キャンプをして明日潜るわよ!」
ラサラが言うと皆が頷いた。ラサラもナツも仲間思いで危険な事をさせるタイプではない。
テントを2つ張り…
「ゲンキー、いらっしゃい、泊めてあげるわよ?」
ラサラに誘われる。
「あっ、ありがとうございます!」
ゲンキーは喜びラサラ達のテントに行こうとすると…
「駄目よ! まだ私達のパーティーメンバーだわ! 貸さないから! ゲンキーも鼻の下を伸ばしてのこのこと行かないの!」
ナツが怒っている。
「でも、こんなに綺麗な巨乳のお姉さんの誘いを断ったら一生後悔します…」
ゲンキーはラサラ達のテントに泊まりたかった。
「じゃあ今日は、私とアキの間で寝かせてあげる!」
ナツがアキで釣る。
「アキさんとハル…」
ゲンキーの一番の望みだ。
「なにか?」
ナツに一蹴される。
「いえ、何も…」
でも、アキの隣で寝れるのは凄く嬉しかった。
翌朝。
早くからダンジョンに入り、2パーティーでそれなりに協力して進む。
勝負は15階層で行う事となっていた。
「やっぱりゲンキーは凄いわね、まだ冒険者になって半年しでしょう? 何年か後にはAランク、もしかしたらSランクになるかも知れないわね…」
ラサラはゲンキーの可能性を信じていた。
そんなに広くはないダンジョン。10人で協力して目的の15階層に到達する。
いざ勝負を始めようとしたとき、激しい地震に見舞われる…
「きゃー!」
美女達が悲鳴を上げる!
「皆さん、飛んで空中にいれば揺れませんよ?」
ゲンキーは浮き上がり、当然とばかりに説明する。
「「「「飛べるかー!」」」」
何人かの女子が叫んだ! 程なくして地震は収まる…
ゲンキー達のいた場所の、すぐそばの壁が崩れ落ち、さらに下に続く通路が現れた…
その光景に女子達全員が驚く。
「勝負は延期して、下層を探索しない? ギルドに報告すればかなりの特別報酬とポイントがもらえるわよ?」
ラサラが提案する。
「そっ、そうね、みんなでBランクに上がるチャンスね… わかったわ! 休戦して協力しましょう! みんな行くわよ!」
ナツが賛成した。当然のように両パーティーのメンバー全員が2人に従う。
「待ってください! 止めておきましょう! 嫌な予感がします…」
それは予感ではなく、シンリーからの警告だった。
(ゲンキー、この先は危険です! 行ってはなりません! 全滅します!)
そう言われていたのだ…
「ゲンキーはいつも慎重なんだから、せっかくのチャンスなのよ?」
ナツはいつもの事だと取り合わない…
「大丈夫よ? お姉さん達が守ってあげるから」
ラサラにもゲンキーの声は届かなかった… 2人を先頭にして、全員がどんどん進んでしまう。
「ちょ、本当に危険なんだから…」
ゲンキーは焦ったように声を出すが、ダンジョンの新しいフロアに向かう緊張から誰も返事をしない。
ゲンキーは諦めたように付いて行くしかなかった。
「おかしいわね行き止まりよ?」
ナツが言うと同時に!
「下がって!」
ゲンキーが叫ぶが、足元が崩れ全員が傾斜を滑り落ちて行く。
そこは、巨大なフロアだった。
天井には光苔があり明るく美しい森があり川がある、だが10人は顔面蒼白であった…
目の前にいる巨大なグリーンドラゴンが睨んでいるからだ! フロアにはグリーンやレッドのドラゴンが無数に飛んでいた…
全員が死を覚悟するしかなかった。
「仕方がありません。僕が時間を稼ぎます… なんとか、落ちてきた斜面を登ってください… アキさん、ラサラさん、ビックバストバスターズの皆さん、充電して欲しかった…」
ゲンキーは覚悟を決めて胸のペンダントに魔力を込める!
神々しい光の粒子がゲンキーを包み白金の鎧を纏いエクスカリバーを抜く!
「防御する暇はありませんね…」
盾を捨て…
「サンダーメイル!」
金色の稲妻が身体を覆いスパークする。鎧の羽に魔力を込めて飛び、目の前のグリーンドラゴンの首を一気に斬り飛ばす!
ドラゴンの身体が倒れ、ドカッン! 物凄い音が響く! 飛んでいたドラゴン達が、それに気づき一気に向かって来る。
女子達はその光景に動く事は出来なかった…
「仕方がありません。サンダーウォール!」
女子達の目の前に稲妻の壁が現れる!
「全力で、結界を張ってください! そして、僕に構わず一刻も早く逃げて!」
ゲンキーの絶叫に、女子達がありったけの力で結界を張る。
だが、落ちてきた斜面を登る術はなかった。
「サンダーボンバー!」
「フレイムキャノン!」
放てる魔法を全て放つ! ドラゴンは、あちこちからブレスを放ってくる。
なんども直撃を受ける… 鎧の力が無ければとっくに死んでいる…
ボロボロになりながらも空を飛び、複数のドラゴンと戦う。倒せたのは僅か2頭だった…
女子に向かうドラゴンがいる。ブレスを吐かれ結界が消し飛ばされる。
結界のおかげで助かったが、全員がボロボロだ… ゲンキーは女子達の前に降り立ち盾となり戦うが既に魔力も底をつく…
「そろそろ限界です… なんとか登れませんか?」
………
ゲンキーの問いに誰も答えず、ただ泣いていた。
「僕はお父さんの言う事を聞いて鍛えるべきでした…
お父さん! お願いです! 彼女達を助けてあげてくださーい!」
ゲンキーの絶叫がこだました!
無数のドラゴンが迫って来る。もう駄目だと思ったとき!
ゲンキーの周りから夥しい数の魔導レーザーが次元を超えて放たれた! ドラゴンを攻撃して蹂躙していく。誰もその状況を理解出来ない。
そして、次元を超えて一機のドローンが姿を現す。
「セシリーママの…」
ゲンキーは驚きながら呟く。
ドローンはゲンキーの前に出る。離れた場所からドラゴンの大軍が迫ってくる。
ドローンが輝くと、ドゴーー! ズガズガズガズガ、ゴゴーーン! 物凄い音が響き! エリア全体に紫電が雨のように落雷して、全てのドラゴンと魔物を殲滅する。
紫電が消えると綺麗な森は焼け野原となっていた。
ドローンがゲンキー達の方を向くと、神々しく輝く光が全員を包む。傷は治り心は癒される。
ドローンが立体映像を投影する。ゲンキーの目の前に香ばしいい魔王っぽい服を着て赤いマントを羽織る魔王がいた。
「ゲンキー、これを観ていると言う事は、ピンチに陥ったのだな… 咄嗟の事でドローンを付けるのが精一杯だった。
いざと言うときのために魔力を込め魔法を発動するようにしてあった…
だが、使ってしまったと言う事は次は助ける事が出来ないかも知れない。
己を鍛え生き延びろ! 俺が迎えに行くそのときまで!
それとな、俺の魔眼、未来視がゲンキーに必要だと疼き告げた… 受け取れ…」
ドローンの底が開き1つの薬瓶が落ちてくる。
「これは! 巨乳丸、ボヨヨン! じゃないですか! お父さん! 流石にこれは違います! なにか脱出できる物を…」
(ゲンキー、大丈夫です! ドローンにまだ魔力が残っています… ドローンに向かってダンジョンの外に転移したいと望めば、叶えてくれます)
「さて、これで消えるが望みがあればドローンに向かって願え… それと、用法容量はきちんと守るんだぞ…」
「ダンジョンの外に転移させてくださいー!」
ゲンキーが叫ぶと、全員が光に包まれ消えて行く、気づくとダンジョンの入り口にいた。
「さて、後片付けだな…」
ゲンキー達のいた場所に魔王がいた。
「全部焼けちゃったな… ドラゴンの魔石を回収っと、このフロアに人は入れない方がいいか、でもゲンキー達が嘘つきになるといけない…」
そう呟き、15層からの通路を造りフロアが見えるところに結界を張る。
結界は神ですら破る事が出来ない。
そして、魔王は帰って行く…
「ねぇ、ゲンキー、今のはなんだったの?」
ナツが聞く。
「父がピンチを迎えたとき守るようにと、ママの1人が造ったドローンをボディーガード代わりに付けていてくれたみたいです。
あの紫電と癒しの光は確かに父の魔力でした」
「ゲンキー、貴方は何者なの?」
ゲンキーの説明に、ラサラが聞く。
「エロ親父の息子… 痛っ! いえ、英雄の息子です…」
ゲンキーが答えた。
「あの鎧や剣は?」
「父の魔法です。結構過保護なんで… その力を使ってもドラゴンを2頭しか倒せませんでした…」
「普通、2頭も倒せれば凄いんだけど… 最後のアレを見ちゃうとね…」
ナツが呆れている。
「ゲンキーさん、助けてくれてありがとうございます」
アキがお礼を言い、ゲンキーの頭に手を回し胸に顔を埋めさせる。
ゲンキーが夢にまで見たアキの充電だった。
「ゲンキー、こっちもよ」
ラサラにも充電をしてもらい。
ビックバストバスターズのメンバーにも順々にしてもらう。
最後はハルにしてもらう。
「ハルさん成長しましたね! 90のEです。おめでとうございます」
「ええ、そうですか…」
ハルが照れていた。
「命をかけて戦った甲斐がありました」
ゲンキーは満足していた。
ナツとフユは、なんとも言えない顔をして見ている。
「そのドローンから出てきた瓶はなんなの?」
ナツが聞く。
「あっ! これが、巨乳丸です! ナツさん、フユさんも飲まれますか? お2人とも巨乳になると無敵ですよ?」
「何が無敵かわからないけど、ちょっと飲んでみようかしら…」
ナツが返事をし、フユも頷いていた。用法容量を守るように説明して薬を預ける。
その日はキャンプをして、翌日ギルドに戻る。
新しいフロアを見つけた事だけを告げ、ドラゴンと戦った事やゲンキーが2頭のドラゴンを倒した事は報告しなかった。
「ゲンキー、あの薬凄いわ! 既に効果が出てきたわ! 私もアキぐらいになったら充電してあげるね…」
「それは嬉しいですね! ナツさんは、ただでさえお綺麗なのに巨乳になって、そのナツさんに、充電されるなんて夢見心地です!」
「そっ、そう、楽しみにしていなさいね… コレもママの1人が造ったのでしょう?」
「はい、マーリンさんと言うママです。貧乳だったマーリンママが、父が喜ぶようにと自分のオッパイを巨乳にするために執念で作った薬なのです」
ゲンキーは、ママの中でマーリンを一番尊敬していた。
「お父さんも物凄い人みたいだけど、ママ達も凄い人ばかりなのね!」
ナツが驚いている。
「でも僕を産んでくれたお母さんは、美人で巨乳ですけど、なんの取り柄もないパットしない人です。僕は母似なんですよ…」
「それは残念ね…」
ナツが同情する。
ナツとラサラの合同発見の報告を受け、ギルドはすぐにダンジョンに調査隊を送った。
だが、フロアは見つかったものの、聖なる結界に阻まれて中に入る事は出来なかった…
「貴方、何の取り柄もないパットしない人だと…」
「そんな事はない、エルザは優しく可愛い俺の妻だ!」
「で、なんの取り柄がありますか?」
「ええーっと… その… 顔? オッパイ?」
「貴方、ゲンキーの思っている事と変わりません!」
エルザが悲しそうだった…
とりあえず抱きしめておく。
「しかし、今回はヤバかったわね!」
愛がホッとしていた。
「ゲンキーは鎧で守られているし、いざとなれば守る事などどうとでも出来る。
だが女の子達はヤバかったな…」
「まあでも、結果オーライでしたね! 巨乳丸も上手く渡せたし、でもよくアレがLIVEだと疑われなかったですね?」
アコが呆れる。
「だよな、コンサートのリハーサルで恥ずかしい衣装を着ていたし、バレるんじゃないかとヒヤヒヤしたよ…」
魔王はやれやれとした顔をした。
「ゲンキーは、おじい様なら魔法でなんでも出来ると信じているから… 仮に会話をしたとしても魔法だと思うわよ?」
「まさかな…」
「ありえますね、私もきっと同じ状況なら、そう思いますから…」
ミランもそう言って頷いた…




