英雄の息子
(お父さんは何を言っているのだろう? 星をも壊せる人がこんな魔法ぐらい… なんか変な物をくれたり… お母さんも少し涙目だ… 加護って… まっ、マジなのか? やっ、ヤバいー! お父さん、早くなんとかしてー!)
眩しい光りに目が眩み… 視力が復帰すると…
「勇者様!」
ゲンキーの目の前に見た事もない美人巨乳が立っていた…
「95のF…」
思わず呟やいてしまう…
「95?」
美人巨乳が首を傾げる。
(めっちゃ可愛い。お父さんが、お母さんを初めて見た時はこんな感じだったんですかね… もう、メロメロです… だが残念です。彼女が連合星にいたら、絶対にものにしてみせるんですがね…)
「それは、気にしないでください… それより、僕は勇者ではありません… ニート志望の怠け者です… 元の場所に戻していただけますか?」
美人巨乳が勇者ではないと聞き驚き焦っている。
「おっ、お主! 勇者ではないのか?」
王様も驚いている。
「ファンタジーですね。もろ王様っぽいです。おっしゃる通り、親の脛齧りのボンボンです。戦闘力ゼロですよ?」
ゲンキーの言葉に、その場の全員がガッカリとしている。
それもそのはず、ゲンキーは13歳、小柄で、あどけない顔、どこからどう見ても勇者には見えなかった…
「とにかく帰らせてくれませんか? お困りなら父を紹介しますから! どんなお悩みも一発で解決しますから」
ゲンキーは、したり顔をして言う。
「父とは何者なんだ?」
王様が静かに聞く。
「えっと、昔は勇者だったようですよ? 今はちょっと違いますが…」
(魔王とか魔神とか言うと不味いですね… 黙っておきましょう)
それはゲンキーでも解る事だった。適当に誤魔化す。
「召喚魔法の精度が悪かったのかー!」
ファンタジーな神官服のような物を着たオジサンが頭を抱えて叫んでいる。
「納得いただけたでしょうか? とにかく帰らせていただきたいのですが…」
ゲンキーは、危機感もなく、やたらと落ち着いている。
「召喚しておいてなんだが、帰す術がないのだ…」
王様がガッカリとして呟いた…
「まっ、マジですか⁉︎」
その場の全員が頷く…
「そんな… じゃ、じゃあ! お父さんを呼んでください! 呼んでいただければ、連れて帰ってもらえますから!」
ゲンキーがお願いする!
「じゃがな。召喚魔法も使えてあと1回だ。それを使ってしまうと…」
王は困っている。
「大丈夫です! 僕のおと… いえ、父ならお悩みもきっと解決してくれますから!」
「しかしな…」
王が悩んでるいると…
「お父様お願いします。呼んでしまった私達に責任もあります。召喚魔法用の魔力は、また頑張って貯めますから…」
美人巨乳は天使だった。
「仕方がない…」
王もそんな娘にメロメロだった。
「彼の父を呼ぶ事は可能か?」
「召喚魔法を先程と同じ場所に飛ばすぐらいは…」
召喚士は困った感じな雰囲気を出している。
「それで大丈夫です。父の妻の1人も勇者です! 確か、孫も! 下手な鉄砲数撃ちゃ当たるです。父じゃなくても、妻の誰かを攫ってしまえば、父の逆鱗にふれ、なんとしてでも時空を超えてこの星を滅ぼしにやってくるはずです!」
ゲンキーは自信満々だ!
「そっ、そんなヤバいのを呼んで大丈夫なのか?」
王は焦っている。
「大丈夫です! 僕がいます! なんだかんだ家族には甘いです。でなければ、僕のような駄目息子は育ちませんよ! さっ、早く!」
ゲンキーは己を良く知っていた。13歳にして悟りを開いているのかも知れない。
「おっ、おう…」
王が頷くと、神官と美人巨乳が魔法を唱える。
魔法陣が金色に輝くと、禍々しい瘴気が溢れ…
その国は雷雲に覆われ真っ暗になり、紫電がスパークして無数に落雷する。
「誰だ! 我が息子を攫った奴は! 滅ぼしてくれるわー! ブラックサンダー!」
それは地獄の底から響くような声だった… そして恐ろしい殺気が国を包んでいた…
真っ黒な稲妻がスパークし落雷する。魔法陣の目の前の床が蒸発し城の最下層、いや、底の見えない穴が空いていた!
「今は無理でも必ず息子を取り戻しに行く… 覚えておれ…」
魔法陣は黒炎により焼かれ消えていく… その場の全員が青い顔をしていた…
「すいません。既に激オコでしたね… でも、父でも魔法を飛ばすのがやっとですか… 迎えは当分来ないのかも知れないですね…」
ゲンキーがガッカリとする。
「そっ、其方の父は勇者ではないのか?」
王が驚いて問う。
「昔は勇者だったと言っていました。今は、みなさん魔王と呼んでいます… でもそれは愛称ですよ? 実際は違いますから…」
ゲンキーは説明した。
「なっ、何者なんだ?」
王がビックリする。
「聞かない方が良いと思います。とりあえず人間ですから安心してください」
「そっ、そうなのか…」
「あの… 父が迎えに来るまで、どうしていたら良いのですか? お金も家もないんですけど…」
ゲンキーが聞くと。
「しばらく城に滞在していただくとよろしいかと…」
姫が答えてくれる。
「あのー、95… いえ、貴方のお名前と年齢をお聞かせください!」
美人巨乳に聞く。
「サナリーです。16歳ですか…」
「サナリーちゃんですか。
3つ上か、可愛いし巨乳だし、僕の彼女になってくれませんか?」
ゲンキーはバカだった。
「そっ、それは、会ったばかりですし…」
いきなり言われたサナリーは困っていた…
「まあ、そうですよね。おいおいで構いませんから…」
ゲンキーがサナリーと話していると…
「メイビス王よ、コイツを殺していいか?」
姫に失礼な事を言うゲンキーに怒り、ピカピカの鎧を着た男が剣を抜く!
(ゲンキー! 胸のペンダントに魔力を込めなさい!)
(だっ、誰ですか⁉︎)
(いいから早く!)
突如、心の中で声が聞こえたゲンキーが魔力を集める。妹達とレインに少しだけ魔力の扱いを習った事があった。
胸のペンダントが光り輝き、光りの粒子が鎧となる。
白金に輝くその鎧には2枚の翼があり、右手にはエクスカリバー! 左手にはエンジェリーシールドを持つ!
「そんなこけおどしが通じると思うなー!」
「駄目ー!」
サナリーの静止も聞かずに、ピカピカ鎧の男が剣を振り下ろす!
ゲンキーの脳天に直撃する!
「ガッキッン!」
物凄い音で振り下ろした剣が折れる。
「ああー! エクスカリバーがー!」
ピカピカ鎧の男が叫び、王や大臣達が真っ青な顔をしている。
「危ない! じゃないですか! 危うく死ぬところでした… それとエクスカリバーは父が昔使っていた剣で、軽々しく名乗ると逆鱗に触れますよ? 何本のエクスカリバーを異世界で握り潰してきた事か…」
流石のゲンキーも焦った!だが、すぐに冷静さを取り戻す。なかなか図太い性格をしている。
「もう終わりだ。エクスカリバーが無くなった今、魔王は倒せない…」
王が嘆き、その場の全員が青い顔をした。
「へー、これが剣と言うやつか! えい!」
そんななか、能天気なゲンキーが初めて剣を振る!
「ズパッ!」
柱が真っ二つに斬れる。王達が驚いている…
「あっ、刀身にエクスカリバーと書いてありますよ?」
斬れ味の鋭い剣にビックリとしたゲンキーが刀身を眺めて言った。
「ちょ、ちょっと貸せ!」
ピカピカ鎧がゲンキーの剣に触れようとすると、聖剣は光りの粒子となり消えていく。
「お前それをどうやって!」
(ゲンキー! ペンダントの事は秘密です! それを取られると魔王様が探す事が出来なくなります! 魔王様に掛けられた魔法で顕現する物で、自分以外には使えないと答えなさい!)
(いったい誰なんですか…)
ゲンキーは冷静だ。
(後で説明しますから!)
「なんか父の魔法みたいですね… 僕以外は使えないようです… 全く、こんな使えもしない鎧や剣など… お弁当とか用意してくれるとよかったのに…」
ゲンキーに危機感は全くなかった…
「ヤリチ、命令無視とエクスカリバー破壊の罪で拘束する!」
金ピカ鎧は、ヤリチと言い、国宝、エクスカリバーを破壊した罪で、憲兵に捕らえられた。
「そっ、そんなー! コイツが悪いんだー!」
ヤリチは叫びながら連れて行かれた…
「ごめんなさい…」
サナリーがそれを見守り謝った…
「サナリーちゃんのせいではないですから、気にしないでください。それよりも疲れました休ませていただけませんか?」
ゲンキーは図々しい。憲兵に案内され、付いて行くと…
「これ、牢屋じゃないですか! 勝手に呼んでおいてこの仕打ちは酷すぎますよ?」
無言で憲兵の2人が睨んでいる。
「まあ、入りますけどね…」
大人しく牢獄に入るゲンキーだった。
直ぐにベッドに横たわる。疲れていたのか直ぐに眠ってしまう。
(ゲンキー、ゲンキー! 起きなさい! 真理のイカズチ!)
「痛っ!」
人差し指に強烈な静電気が走る。
(もー! 何をするんですか!)
(ゲンキー、貴方は危機感がたりていません!)
(だから貴方いったい、どこの誰ですか?)
(私はシンリー、世界の真理を知る者で、魔王様のスキルです)
(あの! シンリーですか? 父が母であり親友であり妻であると絶賛する…)
(魔王様がそんな事を…)
(父はシンリーさんを1番に信頼して頼っていると言っていました)
(魔王様…)
(シンリーさんは意外と人間臭いんですね…)
(コホンっ! そんな事はどうでもいいです! さっさと逃げますよ!)
(なんでですか? 父のお迎えが来るまで城で待たせていただきます。サナリーちゃんを見ました? 僕の理想の通りの女性です)
(ゲンキー、そのご飯、スープを指先につけて舐めてください。舌先に付ける程度ですよ?)
シンリーの言う通り、部屋に置かれている食事のスープを指に付け舌先で触れた…
「ぐおおおー! 苦しい! ゲロゲロゲロ、オロオロオロ…」
(なっ、なんなんですか?)
(味わってわからないのですか? 毒です。小さなスプーンほども飲めば死んでいたでしょうね…)
(どうしてそんな物を舐めさせるのですかー!)
(言ったところで信じないでしょう?)
(どうして僕を殺そうと?)
(邪魔だからでしょうね… エクスカリバーを持つ貴方が… それ、レプリカですけどね!)
(ええっ!)
(勇者でもない貴方が本物のエクスカリバーを使える訳がないでしょう?)
(そうですか… サナリーちゃんも僕を殺そうとしているのですか?)
(少なくとも王と姫は哀れんでいます… 召喚魔法を使った神官が毒を盛りましたね。
召喚魔法もわざと駄目勇者を探してゲンキーを呼び、2度目の召喚魔法は魔王様を攻撃しようとしました。
大した魔法でもなかったですし、無効化しましたけどね。
あと、ヤリチと言う、この国の軍の隊長からも目をつけられました、明日にでも刺客が放たれるでしょね…)
(なんだか、とってもヤバそうなんですけど… 父はいつ頃迎えに来ると思いますか?)
(そうですね、私の分身にも連絡が取れないほどの場所です。そのネックレスを感知するのに数年は…)
(ええっ! そんなに… 逃げるってどうすればいいの?)
(まず、魔力操作のコツを少し教えます…)
そう言ってシンリーがゲンキーに魔力の使い方を教える。
(ゲンキー、白金の鎧を纏いなさい! そしてエクスカリバーで壁を斬って!)
(えい!)
ゲンキーが壁に一文字の裂け目を作る。
(馬鹿なのですか! ゲンキーが通れる大きさに決まっているでしょう!)
(シンリーさん… お母さん並に強いよ! もっと優しくしてよ…)
(いいんです! 私は魔王様の母であり妻であり親友です。ゲンキーは息子みたいなものです。強くも言いますし、生き残るために全力でサポートします)
(わかったよ… 言う事を聞くよ…)
ゲンキーが拙い剣技で壁を斬り刻み、人が通れる穴を開ける。
(鎧の羽に魔力を流して)
シンリーに言われた通りに魔力を流すと空中に浮き上がる!
(シンリーさん飛んでいるよ!)
(さんはいりません! あの山の向こうに街の気配がします! そこを目標に飛んてください)
(落ちたらどうするんだよー)
(私が補助します。絶対に落ちません!)
シンリーの言葉を聞きヨロヨロと飛んでいく。
(ゲンキー、スピードを上げて! ノロノロしていると見つかります!)
ゲンキーは目一杯魔力を込める! ビックリするほどのスピードで飛ぶ!
(シンリー、怖いよ! こんな速度で何かに当たったら死んじゃうよ…)
(その鎧はオリハルコン製です。何かに当たっても傷一つ付きません… 中身は潰れてしまうかも知れませんが…)
(意味ないじゃん!)
ゲンキーは泣きそうだった、いや、泣いていた…
涙目で山を越える… 遠くに街が見える…
(もう少し行ったら森の中に降ります…)
(ええっ、このまま飛んで街まで行こうよ…)
ゲンキーは歩くのが嫌だった。
(少し狩りをして鍛えます! 冒険者になって稼がないとご飯も食べられませんよ?)
(僕、努力とか嫌いなんですけど…)
(甘やかされ過ぎです! 真理のイカズチ!)
「痛っ!」
(なにするんだよ… 痛いのも苦手なんだよ…)
本物の軟弱者だった。
シンリーの指示で森に降りる。
(目の前に落ちている。木の棒を拾ってください、剣の振り方を教えます…)
シンリーが基本の振り方を教えていく。
(剣は今と同じ事を毎日練習します。次は魔法です…)
ファイア、サンダー、ヒールなど基本の魔法を教えていく。
(ゲンキー、凄いですよ? 普通は1つの魔法を覚えるのに数日かかります。いっぺんにいくつも習得するなんて天才かもしれません…)
(そっ、そうかな…)
シンリーに褒められ、まんざらでもなかった…
(いよいよ実戦です。野ウサギを狩ります)
(ウサギをですか?)
(食べないと死にますよ? そろそろ体力も魔力も限界です… 飛んでも落ちますし、何かに襲われたら抵抗も出来ずに死にます…)
(でしたら、ウサギじゃなくて…)
(では、オークがいます。そちらにしましょう!)
(いえ、ウサギでお願いします…ウサちゃんごめんなさい…)
シンリーの指示の元、森を進む。
(右前方にエアカッターを放って! 左に回りこんでエクスカリバーで斬って!)
物凄く優秀なサポートナビがあるにも関わらず、半日頑張ってもうさぎは取れない…
(仕方がありません… ゲンキー、右の茂みに入って隠れて、息を止めて声も出しては駄目です! 私の挨拶で飛び出したら目の前の敵にエクスカリバーを刺して! 躊躇したら死にますよ!)
シンリーはスパルタだった。
(いきますよ、3、2、1、今です!)
ゲンキーは茂みを一直線に駆け出し、目の前の肌色の何かにエクスカリバーを突き刺す!
「グガァァァー!」
叫び声を上げてそれは後方に倒れる!
ズンっ! と音がした方を見ると2mはあるオークが倒れていた…
驚きながら近づく…
「コレを僕が…」
(私のサポートがあれはこそですが、そうですよ?)
シンリーの言う通りだった…
シンリーに言われるがまま血抜きをし裁く。
(貴方はアイテムボックスと言う力を持っています。捌いた残りと魔石は収納してください)
収納の仕方を教えてもらい。ファイアの魔法で火を起こし肉を焼く。
「美味しいですけど、調味料が欲しかったですね…」
どこまでもゲンキーだった。
(ええ、こんなところで眠るのですか?)
そこは大木に出来た木の穴の中だった。
(ここを使っていた主はもういません。入り口に結界を張ってください)
「バリアウォール!」
穴の入り口に結界を張る。
(まあまあです、もう少し厚めのイメージでやってください)
そんな感じでシンリーが丁寧にゲンキーを育てていく。
(ねえ、シンリー、父にもこうやって教えて上げたの?)
(魔王様はね、基本をナオトさんに教わり、全て自身の努力で強くなったのですよ? 人々を護り世界を救い努力を重ねて今に至るのです…)
(そうですか…)
そう返事をすると、ゲンキーは眠りについていた…
寝ている間はシンリーが見守る。至れり尽くせりの異世界記だった。
(お父さん、ゲンキー大丈夫?)
そんな妹の声が聞こえた気がした…
「ああ、大丈夫だ!」
魔王がリビングで映像を観ながら返事をした。
「やっぱり、ぬるゲーだわ! シンリーがいなかったら死んでいるし!」
愛が呆れている。
「でも貴方、あの子少し頑張っていましたね…」
エルザはゲンキーを少し見直した。
「ああ、ゲンキーにしては良くやっている… しかし気になるのは、あの神官と姫だな…」
魔王も親バカだった。
「えっ、神官は次元を超えて攻撃してきたから、かなりの力を持っていて怪しいのはわかるけど、姫のサナリーって子? おじい様好みで可愛い子じゃない?」
魔王の言葉を愛が気にしている。
「ああ可愛いけど、魂というか心を、あまり感じない… どこか抜け殻のような雰囲気がある。まあでも、俺の関わる事ではない。ゲンキーの冒険だからな…」
そう、ゲンキーの冒険は始まったばかりだった!




