その16
(この世界に来て16年 、仮初の俺は16歳となった…)
「おじいちゃん、誕生日はいつなの?」
愛が興味深そうに聞く。
「3月で66歳だぞ!」
「違う、この世界でよ!」
「さぁな? 母に聞かされていない…」
(嘘だけど…)
魔王は、この世界の自分は仮初と思い嫌っていた…
未だに心からこの世界に馴染めずにいる。
歳をとると状況の変化に耐えられない、それがジジイというものだと自分自身で思い込み偽りの誕生日など祝われたくもなかった。
そんな時、ダーガ達が訪ねて来た。
解放してから数ヶ月が経っている…
「おう! 久しぶりだな! 息災か? あの後、どうなった?」
さっそく本題を切り出す。
「この国を見た冒険者達がギルドや国の事情聴取でありのままを伝えた。
冒険者達はこの国を気に入った。
桃源郷だの理想郷だの熱く語ってしまった…
幻術を掛けられていたり洗脳されていんるじゃないかと100人全員が疑われて魔法で鑑定された。
ギルドや国が、この国を悪だと決め付ける事に異を唱えた連中は降格や活動停止処分を受けた…」
ダーガがため息を吐きながら説明した。
「そうか、それは悪い事をしたな…」
「いや、悪いのは俺達だし…
それで、冒険者ギルドの総帥からの書状を預かってきている」
ダーガが懐から封筒を出し手渡してくれたが、内容は想像がつ。
今までもあちこちの国から親書が届いている。
魔王は無視しているが… とりあえず目を通す。
要は会って話がしたいといった内容だ。
無視してもいいが…
「お前らは大丈夫なのか?」
ダーガが頷くが、あまりよろしく無い様子だった…
「面倒くせぇが会ってやるか!
この総帥って奴はバンル王国のギルドに常駐しているのか?」
魔王はダーガを気に入っていた。
マズい立場ならなんとかしてやりたかった。
「ああ、総本部だからな!」
ダーガが答えると、
「そうか… ダーガお前は付いて来い!
後の連中は休んでいてくれ、誰かコイツらを部屋に案内してやってくれ!」
魔王は行く事を決めて直ぐに出発すると言い出した。
「急過ぎないか…」
ダーガは心配そうにするが魔王の破天荒っぷりを知っているだけに諦めた顔をした…
炎の剣のパーティーメンバーは付いていかなくていい事にホッとしたがダーガを心配した…
バンル王国の王都でいいのかとダーガに確認し転移する。
門も通らずに直接王都の中、ここにはルッチが住んでいて何度も来ていた。
大きな建物の冒険者ギルドだ。
木造3階建てで面積も広く贅沢な造りで、さすが本部といったところだった…
ダーガは驚いた顔をしつつも「アポを取って来る!」と足早にギルドの中に向かう。
物分かりが良くお人好しで是非とも部下に欲しい人材だった。
魔王はゆっくりギルドの中に入る。
ロビーが綺麗で雰囲気も良い。
受付ではダーガがアポを取っている。
魔王はあっちこっちを眺めて楽しんでいるとダーガが戻って来る。
「すまん、来客中らしく 2時間後しか会えないらしい…」
申し訳なさそうに説明した。
「構わん」
魔王はそう答え、ポケットからガラパゴスを出してギルドの建物や内部を一通り撮影する。
後で愛とリリに見せるためだ…
ダーガが何をやっているんだと青い顔で魔王を見る。
魔王は気が済んだところでルッチに電話を掛ける。
ルッチは魔王からケータイを渡されている。
「しもしも、あっ俺、今、近くにいるんだけど暇でさ、行ってもいいか?」
電話を切る。
「ダーガ、俺は時間を潰してくるが、お前はどうする?」
魔王が聞くと…
「ここで待っている…」
何故かダーガは元気がない…
魔王は、そう思うが、実際、ダーガは魔王に振り回されて疲れていた…
魔王は人目を憚らずに転移し、その場が騒然とする。
ダーガは言い訳をするのに四苦八苦していた…
「よう!」
ルッチの部屋に現れる。
「魔王様、ちゃんと玄関からお越しください…」
ルッチも魔王に慣れて多少の苦言を口に出来る仲となっていた。
「まぁ、固いことを言うな、俺とお前の仲だろう…」
あれからルッチは魔王に協力している。
奴隷が市場に出ると買い付て届け…
孤児を見つけると保護して連絡を入れる。
魔王の期待以上に役に立っていた。
「ところで、どうされたんですか?」
ルッチに質問されて魔王は経緯を説明した。
「そうですか…」
申し訳なさそうにするが、
「まあ気にするな… ギルドの連中とは話をつける。冒険者達も大丈夫だ!
最悪ギルドなんか消しとばしてしまえば良い。ガッハハッハッ…」
魔王は豪快に笑っていた。
「そっ、それは…」
魔王ならやりかねないと心配していた。
そのあとは、ルッチから最近の情勢を聞く。
近々、この大陸の国家が集まり会議をするらしい…
そんな、ルッチの耳に入った情報を時間まで聞いていた。
そして転移で戻る! そこには30代半ばだろうか? すらっとした美人が立っていた!
一瞬驚いた顔をしたが…
「大魔王様ですか?」
「ああ、俺が大魔王だ! 逆らう奴は皆殺しだー!」
ギルドロビーに響き渡る声で凄みをきかせて周りを見回す…
美人が青い顔をする…
「魔王ジョークだ! ガッハッハッハ」
笑う魔王に姿勢を正しキリッと睨み。
「冒険者ギルドの総帥エカテリーナと申します! 此方へ…」
ダーガも誘ったが疲れた顔でロビーで待つと断った。
魔王はギルド総帥の部屋に案内されて進められたソファーに座る。
部屋には職員を装うSランクだろうか? 冒険者が10人壁側に並んで立つ。
ソファーには高位の魔力封じがされている。
エカテリーナの後ろにハーフエルフが1人と横に異彩を放つ手練れの男が1人、両隣と上下の部屋にはAランクBランクがうじゃうじゃといて魔法の詠唱を終え待機している奴もいる…
「お前らからの手紙を見て来てやったのに、このもてなしか…」
魔王が真顔になり冷たい口調で話す。
手練れの男が殺気を放ち剣に手をかける!
魔王は同時に魔王の波動を放つ!
冷たい殺気が建物全体を包む。
この部屋にいる者以外の全員が意識を失った…
魔王は部屋を見渡す。
「流石はSランク意識を保つか…」
魔王はそう呟き不敵に笑う。
だが誰も動けない…
大魔王が無言で立ち上がると魔王の身体を紫電が包みバチバチとスパークする!
「お前ら、どうやって死にたい?」
魔王は優しく聞く… だが誰も何も答えない…
静寂が辺りを包み大魔王だけが静かに笑う。
「死にさらせ!」
腕を掲げた、そのとき!
扉が開きダーガが駆け込む!
「魔王様、やめてくれー!」
叫んだ!
「お前、知っていたのか?」
魔王は怪訝な顔で問う。
「いや、知らなかったが…
突然、物凄い殺気が放たれて全員が倒れたから、もしやと思って…」
「本当か?」
真実の言霊を使う。
ダーガが「ああ!」と言う、その言葉に嘘はなかった。
「そうか、お前ら、ダーガに免じて見逃してやる。だが次はないぞ!」
そう告げて更に魔王の波動を放ち全員を気絶させる。
見逃すが罰は必要だとポケットから油性ペンを出してエカテリーナの額に「肉」と書く。
手練れの男の頬に「スケベ」と書いてやりハーフエルフには「びじん」と…
暇だったからダーガにも「魔王の下僕」と書き魔王を狙っていた奴ら全員、何かしらの恥ずかしい言葉を書かれていた。
(そろそろ起こすか)
魔王はそう思い。
「魔王のイカズチ! 強め!」
館内の全員に放つ!
気絶している全員の身体に静電気… いや、電気が走る!
「ヒェッ!」「いてっ!」「痛っ!」
あっちこっちから聞こえてくる!
魔王はソファーに座り。
「起きたか?」
その場の全員に問うが誰も返事をしない…
「魔王のイカズチ! 強め!」
またもや電気が走る!
「いてっ!」「いたっ!」
再び聞こえてくる。
「起きたかと聞いている!」
エカテリーナ達が頷く…
「まあいい… エカテリーナ、俺をどうするつもりだった?」
真実の言霊で問う。
「拘束して尋問、歯向かうなら殺す…」
答えながらハッとする。
そして、全員の顔に絶望が走る…
頬にスケベと書かれた男だけが精悍な顔をしている。
まだ、心が折れていない様子だ。
なかなかの胆力だった!
「俺に嘘は通じない! まあ良い。ってことはお前らは俺に殺されても文句は言えないな…」
魔王はご立腹だった。
「まっ、待ってくれ…」
ダーガが泣きそうな顔で哀願する。
「ダーガの頼みだ殺しはしない…
そうだな、Sランクは人外という強さだったな…
おい! そこの10人! 旅行をプレゼントしてやる。雪山を楽しんでこい!」
その場から一瞬で10人が消えた!
エカテリーナが青い顔をして「彼らは!」と聞く。
「うん? 今頃、ランデル山脈の頂上でスキーでもして遊んでいるんじゃねーか?」
魔王は楽しそうに笑う。
「お願いです! 返してください! 私の責任問題になるんです!」
エカテリーナは必死に頼むが…
「ちょっとしたお仕置きだ! 周りの部屋の奴らは何処かの孤島に跳ばしてやる!
AランクBランクなら泳いで帰ってこれるだろう? ガッハッハッハ!
あっ、残念だが孤島の場所を知らなかったな…
先程送った連中の隣の雪山に跳ばすか…」
魔王は笑いながらエカテリーナの命令で魔王を狙っていた全ての冒険者を集団強制転移で跳ばした!
「お前ら3人は何処かのダンジョンのボス部屋に跳ばしてやる。
古竜がいいか? リヴァイアサンがいいか? 選べ!」
魔王は笑って聞く。
「やめてください! 許してください!」
エカテリーナは土下座した。
この世界でも土下座という誤り方があると初めて知った。
「ったく、仕方がねーな…」
魔王はそう呟き、3人とダーガを連れ試練のダンジョンに転移する。
3人が驚きながら周りを見回すと頭上に巨大なジャバウォックがいた!
近づくジャバウォックの羽ばたきの風圧を受けて3人は吹き飛びエカテリーナとハーフエルフは激しく地面に打ちつけられてズタボロになる!
魔王が手練れだと感じた男は2人を守ろうと必死だった。
魔王は離れた場所でダーガと共にそれを見ている。
「ダーガ、あの3人、何分持つか賭けるか?」
魔王は笑ってダーガに賭けを持ちかけるが…
「魔王様、頼むから勘弁してやってくれ!」
魔王はダーガが泣いて頼むので気の毒に思い始めた。
「サンダーブレイク!」
ジャバウォックに紫電が落雷し1撃で消滅した。
だが、ダーガと話している間にも3人は軽く襲われたようで無残な姿となっていた。
魔王はダーガと3人を連れてギルド総帥の部屋に転移して戻る。
「どうだ、楽しかったか?」
魔王が声をかけると、エカテリーナとハーフエルフはプルプルと震えていて男は魔王を睨んでいた。
「お前達、ボロボロだし傷だらけだ、俺はお茶を飲みに行ってくる。
その間にギズを治して着替えておけ…
助っ人を呼ぶなら呼べばいい。
そいつらも纏めて皆殺しにしてやる!」
魔王はダーガを連れてルッチの元に転移して、お茶をご馳走になった。
しばらくして、ギルド総帥の部屋に戻ると傷を治して着替えた3人が待っていた。
感知して増援を探したが見当たらなかった。
「せっかく、反撃するチャンスをやったのに…
冒険者ギルドとは、この程度のものか…」
魔王はガッカリとしていた。
「ダーガ、帰ろう… もうギルドにいても得る物がない…」
魔王がダーガを連れ転移をしようとすると…
「お願いします。冒険者達を戻してください…」
ハーフエルフが魔王に頼んだ。
「駄目だ、俺を殺そうとした奴にはなんらかの罰を与えなくては示しがつかん…
なら、冒険者を戻す代わりにエカテリーナには死んでもらう…」
そう告げて魔王の波動を放つ!
「魔王様、嫌です… 死にたくありません…
冒険者は戻さなくて大丈夫です… 誰かを殺しても構いません。
ですが、私だけは助けてください…」
エカテリーナは冒険者達を切り捨てて自分の保身を選んでいた…
そんなエカテリーナの姿に男とハーフエルフはビックリした顔をして驚いている。
「誰かの犠牲が必要なら…」
男が一歩前に出て言いかけたとき…
ハーフエルフが男の前に立ち男を手で静止する。
「魔王様、私が身代わりになります…」
ハーフエルフが覚悟を決めた。
「ハーフエルフよ、名を名乗れ…」
「エルフィーです…」
「エルフィーか覚えておこう、こっちに来い!」
男は止めるが、エルフィーはいいから、と魔王の目の前に行く。
魔王は立ち上がり目の前に来たエルフィーを抱きしめる!
そのまま時が止まった様な気がした。
1分ほど経った頃…
「あの… 死にませんが…」
エルフィーが困惑している。
「うん? 死なないぞ? 俺が女を殺す訳がないだろう?」
魔王がキョトンとしながら言う。
「えっ、じゃあなんで抱きしめたのですか…」
エルフィーはますます困惑する。
「可愛いからだ。誰が書いたのか知らないが落書きが無ければもっと可愛いのに…」
ダーガは魔王が書いたんだろう… と、心の中でツッコんでいた。
「だがまあ、抱きしめた事は対価だと思え、ほら冒険者達を返してやる」
魔王がそう言うと、凍える冒険者達が、全員、転移して戻って来た。
人外といわれた連中が部屋の隅に集まりプルプルと震えている。
廊下や他の部屋から泣き叫ぶ声が聞こえてくる。
部屋の隅で震える10人のSランク冒険者達に、
「もう気が済んだ、お前達に罪はない解放してやる」
魔王は帰れと指示を出す。10人が部屋を出て行こうとする。
「外の連中にも解散しろと伝えろ。
そして今後、俺、もしくは俺の国の者に牙を向いたら容赦はしない。大魔王に二度目の慈悲は無いと思え!」
そう告げて、今後二度と歯向かわないように釘を刺していた。
部屋にはエカテリーナとエルフィー、男が残っている。
その男に声を掛ける。
「お前は何故、本気を出して向かってこなかった?
こいつらは知らないのか?」
魔王は男が魔族であることを隠しているのだろうと思った。
男は黙って考えている…
エカテリーナが、
「彼が魔族なのは知っています」
そう答えた。
もはやエカテリーナは自身を守る事に必死で隠し事などどうでもよくなっていた。
「そうか… よく冒険者になれたな?」
「私とエルフィーだけが知ることです…」
「それで他の冒険者の前で本気を出せなかったのか…」
結局、男は黙ったままで、エカテリーナと話しただけだった。
ギガンティスを建国するまでは獣人やエルフなど冒険者として活動している者もいた。
薬屋ではエルフが鍛冶屋ではドワーフが働いているのが普通だった。
力や技術があれば亜人でもなんとか生きていける。
だが、魔族だけは存在自体が許されず、人族と暮らすには魔族は変装して魔族ということを隠して暮らすしかない世の中だった。
「まぁどうでもいい俺には関係のないことだ…
さて、ダーガ、帰るか…」
ダーガを連れて帰ろうとすると…
「北の森に両親がいます。会わせてください!」
エルフィーが叫んだ!
「ああ構わぬ、親に会いに来い… よし、今から連れて行ってやる!」
魔王は言い出す。
「いっ、今からですか?」
エルフィーが予想外の答えに戸惑う…
「ああ、今からだ。魔族の男、エルフィーの護衛として付いて来い!」
男は黙って頷いた。
「あの、私も連れて行ってください。
このまま残されると言い訳に困ります…」
エカテリーナはどこまでも自分勝手な奴だった…
「俺は、お前を信用出来ないんだがな… エルフィー、どう思う?」
魔王は仲間のためなら自己犠牲もやむなしとしたエルフィーをいたく気に入り、エルフィーに頭が上がらず、同じ精神を持つ魔族の男も気に入っていた。
逆に部下を切り捨て保身に走ったエカテリーナは大っ嫌いだった。
「こんな人だと、今日、初めて知りました…
だからこそ1人で残すと何を報告されるか解りません…」
エルフィーはエカテリーナを汚い物を見る様な冷たい目で見ていた…
「そうか、エルフィーや魔族の男を悪者にし、魔王と結託をしていた、みたいなシナリオを書かれると不味いな…」
魔王はボソボソと呟きポケットからガラパゴスを出す。
「しもしもー、ギャリソンとミーナを連れて教会前の広場に集合! そっ、今すぐな!」
ナオトに連絡して3人に準備をさせる。
そして、ダーガと共に転移して大魔王国ギガンティスの王都アルカディアに戻った。
「そういえば、お前の名前はなんだ?」
アルカディアに着き魔族の男に名前を聞いた。
「拙者、ミカヅキと申す…」
自己紹介を聞いていると「魔王様ー!」リリが駆けてくる。
懐からガラパゴスを取り出して… 「カシャ! カシャ!」前から2枚ほど撮り、その場に自分の残像を残してショート転移で瞬時に後ろに回り「カシャ!」再びワープで目の前に戻りリリを抱きしめる!
「妹さんですか?」
エカテリーナが聞く。
「うん? 俺の買った奴隷だぞ」
「「「「魔王様ー!」」」」黄色い帽子を被りランドセルを背負った学校帰りの子供達が手を振る!
魔王は「おー!」と手を振り返す…
「あれも、奴隷や孤児達だ」
ついでに教えてやるとエカテリーナは口に手を当て何かを考えている…
その姿を見て何かよからぬ事を考えているんじゃないかと魔王は勘繰っていた。
「魔王様、なんであの人達は、お顔に落書きをしてあるのですか?」
リリが首を傾けて聞く。
「奴らはな、悪い事をしたから大魔王様のバチが当たったんだ」
魔王がリリに説明すると3人は気まずい顔をして落書きを手で隠していた。
しばらくしてリリは手を振って帰って行った…
ナオト、ミーナ、ギャリソンが到着する。
「呼び出して悪い!」
そう魔王が言ったとき…
ナオト、エカテリーナ、ミカヅキの3人がハッとした顔をした…
「こいつらは冒険者ギルド総帥と護衛の2人だ。
伝えておくが、こいつらは俺を拘束して殺す算段を企てていた…
やすやすとやられる俺ではないが俺が弱ければ今頃は死んでいただろう…
そんな奴らだから、くれぐれも気をつけてくれ!」
一区切りつけて…
「それでだ、もう俺は冒険者ギルドは敵だと決めた。
だが、ダーガ達のために今回だけはギルドの総帥エカテリーナに、この国を見せる事にした!
案内はナオトに頼みたいがいいか? お前ならやられる事もなかろう…」
「ああ大丈夫、エカテリーナは知り合いでもあるし…」
ナオトはエカテリーナと知り合いで、久々に会ったせいか赤い顔をしていた…
「そうか、そしてミーナ、このエルフィーを親に合わせてやって欲しい…
俺のお気に入りだ、良くしてやってくれ…」
魔王が頼むと、
「はい、そのように…」
ミーナも返事をした。
「そしてギャリソン、こいつに話を聞き仲間がこの国にいるなら合わせてやってくれ…
こんな奴でも1人ぼっちは寂しいからな」
魔王はミカヅキの肩をポンっと叩いた。
「では頼む!」
そう言い残して魔王はダーガと炎の剣の元に行く…
ダーガの顔の落書きを見てパーティーメンバーが笑い転げると思っていたが…
笑うどころか? 何かを察して労をねきらっている… 解せぬ! と魔王は思っていた。
ギルドの3人は、その日の内に帰らせるつもりだったが2日ほど滞在したいと申し出た。
エカテリーナを嫌う魔王はイラっとしたが…
報告を受けたのが愛とリリの前だったために2人に小さい男と思われるのを恐れて許可を出した。
そうでなくてもエカテリーナ以外は望むだけいさせてやるつもりでいた。
家族や仲間に会えない寂しさは魔王が1番良く解っていたからだった…
次の日はエカテリーナが会食を求めてきた。
流石にNOと断ったが先に愛とリリを誘い外堀を埋めていた…
(どいつもこいつも! 俺に言いにくい事があると愛とリリを同席させやがる!)
それは、無敵の魔王の唯一の弱点だった。
それを既に知り利用するエカテリーナがますます嫌いになっていた。
食事を終えて…
ナオトとエカテリーナが遠慮がちに話をするが歯切れが悪い。
「なんだ! 話があるんだろう?」
魔王がキレ気味に聞くとエカテリーナが口を開く…
「お詫びをさせてください」
「終わった話だ!」
「でも、是非に!」
「それは調子が良すぎるのではないか?
あの場で捕らえていたら、今頃拷問してるか殺していただろう?」
エカテリーナは口籠る…
「もし俺の代理で、愛があの場に行って拘束され拷問を受け殺されたと考えると、はらわたが煮えくり返るわ!」
「そんなこと…」
「なかったと言えるのか?」
「…」
「愛もよく覚えておけ! この世界ちょっとした油断で死をまねくと…」
愛も何かを言おうとしたが口を開かなかった。
「待ってくれ…」
ナオトが立ち上がる!
「彼女は悪い人じゃない!」
そう言ったナオトに、
「俺に殺されると思ったコイツは自分の身を守るために部下を見捨てようとしたんだぞ?」
魔王はやれやれといった感じを出していた。
「今回のことは上からの指示で魔王を襲うのは苦渋の選択だったんだ…
それに、冒険者なら雪山ぐらい平気だ!
僕ならスノボを楽しんでから帰って来るところだ!」
ナオトは勝手な事を言っていた。
(やれやれ、惚れたな… 手、繋いでるし…)
「だからだ! ここで許して友好を結びギルドに戻り報告をする…
するとギルド内の反対意見が出る…
外からの大きな力による圧力や脅し、我が国を内部から攻撃してこいとか、魔王の弱点を攫ってこいと命令されるかも知れないぞ?
そんなときにエカテリーナはどんな選択が出来る?
友として我が国に入り誰かを傷つけないと言いきれるのか?
愛やリリが攫われないと言いきれるのか?
自分の保身に走る奴だぞ?
自分の家族や仲間を天秤に掛けてまで俺達との友好を選べれるのか?
大魔王国はギルドの敵、それが一番上手くいく…」
魔王はエカテリーナが嫌いなだけではなく、いろいろと考えての決断だった。
「魔王! 俺達は…」ナオトが話し出す…
エカテリーナはナオトが召喚されて冒険者として修行をしていたときのパーティー仲間で二人は愛し合っていたと…
一緒に召喚された日本の友達が殺された。
その後、帝国に単身で乗り込み敗走…
北の森に逃げ、そのままエカテリーナと離れ離れとなってしまった事を淡々と語った…
話し終えると静かに2人は見つめ合う…
(あー、やだやだ! この雰囲気、苦手だわ…)
そのとき、炎の剣とエルフィー、そして、ミカヅキにギャリソンが付き添い入って来た…
「エルフィー、親には会えたのか?」
「はい、会えました」
「元気だったか?」
「魔王様のおかげで豊かで楽しい暮らしが出来ていると教えられました。
ハーフエルフという事でエルフに遠慮していた時期もありましたが、そういった偏見もなくなり幸せだと申しております」
エルフィーと両親は魔王に心底感謝していた。
魔王はミカヅキにも目を向ける。
すると突然その場に跪き首を垂れる。
「大魔王様、忠義を誓わさせてください!」
突然、忠義を誓い始めた⁉︎
「うん? どうした?」
魔王は困惑している。
「死に絶えたと思っていた同胞がこんなにも…」
涙ながらに語る。
「それは俺じゃない、北の魔王のおかげだ…」
そう、ヤマトが5千年戦い護り抜いた賜物だった。
「だとしても! 拙者の命がある限り、この国と大魔王様をお護りしたい!」
ギャリソンを見ると、真っ直ぐ魔王を見て静かに頷く…
「ミカヅキ、お前、時の魔王の1人か…」
びっくりした顔をして覚悟を決めて頷く…
「深くは聞かない… ただ、人間に恨みはないのか?」
「無いと言えば嘘になります… 長きを生き人間社会で暮らし良い奴も沢山見てきました…」
「そうだな、悪いの種ではなく個だ!
魔族だろうと人間だろうと良い奴、悪い奴はいる!
ミカヅキ、この国をどう見た?」
「私の名はアモンデュールスタック…
アモンとお呼びください!」
額から2本のツノが生え身体がひと回り程大きくなる。
「もう、隠す必要もございません。この国は理想です…」
アモンはそう言って偽装を解除し本体を晒した。
魔王は少し考える。
「今後、この国は本格的に他国から狙われる…
1年もしないうちになんらかの揉め事が起きて、最悪、大規模な戦争になるだろう…
お前達、冒険者の仲間達が雇われて攻めて来る事もある…
俺は国を護るためなら容赦はしない。
悲惨な出来事を目の当たりにするかも知れないぞ…」
魔王はアモンだけではなく、エルフィーや炎の剣にも向かって告げた。
数名は頷き納得した顔をするが…
愛達は戦争が起こるかも知れないと知り驚愕の表情をする。
「それでも、この国に残りたいのなら残って貰っても構わない!
ただし、残る場合は死んだ事にしてギルドや住んでいた所を捨ててもらうぞ?」
「私は、この国の盾となりたい!」
魔王の問いに、アモンは迷わず即答した。
「ならアモン、頼む!」
「はっ!」
アモンは返事をして再び首を垂れた。
「ギャリソン、しばらく面倒を見てくれ!」
ギャリソンは笑顔で頷いている。
「あの… 私も両親と暮らしたいです…」
エルフィーも願い出た…
「この先どうなるか解らないし国の外に出られなくなるが構わないのか?」
「はい… あの… 魔王様… ごめんなさい…」
「もう良い気にするな。家族と幸せに暮らせ!
困った事があれば頼ってくるんだぞ?」
魔王はエルフィーを気に入っていた。
「ありがとうございます」
エルフィーは嬉しそうに返事をし頷いていた。
「エカテリーナ、そういう事だ。ギルドに戻ったら2人は俺に殺されたと報告しておけ」
魔王はエカテリーナにそう告げた。
「あの、私もこの国に住みたいです…」
エカテリーナも願い出る。
「駄目だ! ナオトと付き合うのは良い。個人の自由だ。
だが、お前の入国は今後認めない。
一緒に暮らしたいのなら何処か他の国に住んでくれ」
魔王はエカテリーナに対して魂の奥底から拒否する嫌悪感を感じて国に入れたくなかった。
「僕はそれで構わない」
ナオトは嬉しそうに返事をしたが…
「ナオトさん、私、嫌です!
大魔王国ギガンティスのアルカディアは進んだ街で美味しい物やオシャレな物で溢れています。
私、今更、バンル王国のような田舎で暮らしたくはありません!」
エカテリーナはとんでもなく欲望丸出しの女だった。
「それに、ナオトさん、No.3的な立場だと言ったじゃない!
お給料だって良いんでしょう?
家だってバンル王国では見たことがないような良い家だし、この暮らしを捨てないで!
大魔王様にもっと頼んで…」
ナオトは困った顔をして愛達はひいていた…
アモンとエルフィーはエカテリーナが冒険者を見捨てた場面も見ており、彼女を冷たい目で見ていた。
「魔王…」
ナオトが困った顔で見る…
「おじいちゃん、エカテリーナさんって、ちょっとアレだけど愛し合う2人を追い出すのはどうかと思うけど…」
愛が魔王を指でツンツンして言った。
「俺を殺そうとした女だぞ? それに部下を見捨てる奴は信用出来ない!」
愛に説明すると、
「おじいちゃん、意外と小さい事に拘るんだ…」
愛が軽蔑の眼差しで見ている。
肝心のナオトとエカテリーナは手を取り合って見つめ合っていた…
「魔王、ナオトが出て行くと戦力的な面で困るんじゃが…」
ヤマトまで言い出した…
「愛、エカテリーナはいつかとんでもない事をやらかすかも知れないぞ?」
魔王はやれやれといった感じで説明する。
「そんな事は解らないじゃない」
愛は完全に愛する2人の味方だった…
「魔王、ナオトとエカテリーナの事はワシが責任を持つ…」
ヤマトも頼み出す。
「仕方がない…」
魔王が言いかけるが2人はまだ見つめ合っている…
(駄目だこいつら… やってられねぇ! リア充爆発しろ!)
魔王はイライラする!
「おい! バカップル! 話を聞けやコラ!」
輩の様に悪態をつく。
2人が魔王を見る。
「3人がギガンティスに住むのならギルドや世間的には俺が殺した事にさせてもらいたいのだが?」
魔王が提案すると、
「ねえ? なんでおじいちゃんが殺した事にするの?」
愛は納得がいかない様だった…
「亡命的に3人を受け入れると、ギルドの上の者や付き合いのある国が、この国の事を知ろうと3人に接触しようとする。
あわよくばスパイや暗殺者として使えるからだ。
その流れで、3人の友達や知り合い、顔見知り程度でも死の危険がついてまわる。
そういった面倒事を防ぐ為だ。
それに一国の国王の命を狙った、暗殺に失敗して処分されたのなら誰も不思議に思わないし当然の事だと誰もが納得する。
この世界は日本とは違うんだ、そろそろ愛も慣れないと駄目だぞ?」
魔王は真面目な顔で愛に説明した。
「私の家族はギガンティスにいますし、冒険者仲間で仲の良かった子達は亡くなってしまいました。外に未練はありません…」
エルフィーが説明すると。
「問題ありません」
アモンもOKだった。
「私は…」
エカテリーナだけが言いにくそうだ…
「何か困り事があるのか?」
魔王が聞くと…
「ナオトさんと一緒にいたいのですが、年老いた母が1人で…」
(面倒くさっ! めちゃ面倒くさい!)
魔王は即座に思い、
「残念だな、ナオト、仕方がない、バンル王国に住んで職場としてアルカディアに通え、給料はバンル王国の通貨で出してやる」
魔王は満足そうに説明した。
ナオトが返事をしようと話し始めたとき、それを遮るように…
「わかりました… 母は捨てます。ナオトさん、これで、アルカディアで一緒に住めるわ。
贅沢な暮らしをさせてくださいね」
エカテリーナは母を切り捨てて晴々とした笑みを浮かべナオトを見つめた。
流石のナオトも絶句している。
その場の全員がヒキ、エルフィーは呆れた顔でため息を吐いていた。
「まっ、魔王、エカテリーナは僕のために母まで捨てると言ったんだ! なんとか考えてくれ!」
ナオトは勝手な解釈をして必死で魔王に頼む。
「お前のためではないだろう… バンルで住めは良いだけの話だ…」
魔王が呆れて呟くと…
「おじいちゃん…」「ナオトにはいてもらわないと…」
愛とヤマトが呟く。
2人はどうしてもエカテリーナを住まわせたいようだ。
「仕方がない、母も連れて来ればよかろう…」
面倒くさそうに告げた。
「魔王、すまない」
ナオトが頭を下げた。
「ただしだ、時間はやれん!
今すぐ母を迎えに行く!
ついでにギルドに寄りお前らを殺したと伝えてくる… それでいいか?」
「はい…」
エカテリーナも返事をし、
「でも、それでは大魔王様お1人が悪者になります…」
そう心配した。
「なら帰れ!」
魔王はイライラしている。
エカテリーナは自分が思っていた返事ではなくて困る。
「よろしくお願いします…」
そう言って黙った。
「上部だけの言葉だとしてもエカテリーナさんの言う事は本当よ?」
愛も心配する。
愛もエカテリーナの言葉が本心ではない事は解るようだった。
「今更、悪く思う奴が増えたところで、どうという事はないわ!
俺は大魔王! 世界中から嫌われる者だ!」
魔王はヤケクソだった。
「炎の剣のメンバー達よ、これからはどうする?
冒険者の仕事はないが我が国に残るか?
こうなった以上、特にダーガは不味い立場となってしまうからな…」
「そうだな… 共犯扱いされるのも癪だし、この国で働かせてくれ!」
状況から考えてダーガは思いっきり共犯者となってしまう。
(おし! 有能な部下ゲットだぜー!)
魔王はダーガが残ってくれて嬉しかった。
そして、パーティーメンバー全員が残る決断をした。
ダーガと話し合い立場の悪くなった冒険者達も希望する者は、この国で保護する事にした。
それからが大変だった。
バンル王国に転移して別働隊にエカテリーナの母を迎えに行かせた。
母を連れ出した後はエカテリーナの家を派手な魔法で消滅させろと指示を出した。
魔王に逆らう者は家族ごと制裁を受けるとの意味合いを込めての事だった。
そして、魔王は冒険者ギルドの応接室に直接転移する。
丁度、偉そうな奴らが会議を開いている最中だった。
全員が身構えるのを無視して。
「俺は大魔王だ!」
気絶されると話が進まないので弱めに魔王の波動を放つ!
「エカテリーナ、エルフィー、ミカヅキの3人は俺が殺した!
お前達は俺と敵対する道を選んだことを後悔するがいい!」
一方的に告げ、何も聞かずに直ぐにその場を転移する…
別働隊と合流してアルカディアの城に戻る。
一仕事終えた後は休憩もせずにダーガを連れて各街のギルドに行き冒険者を探し出してはダーガが説明して国に連れて戻る…
その、エンドレスループを完遂する。
全員がギガンティスに住む事を望み保護することが出来た…
「魔王様、ありがとうございます」
魔王が全てをやり遂げて翌日の午後、城に戻るとエカテリーナが待っていた。
「思ってもいない事を言わんでいい! 俺は眠いんだ! とっとと帰れ!」
魔王はエカテリーナをどうしても好きになれない。
「おじいちゃん、ちょっと酷いわよ?」
愛がムッとする。
「だって愛…」
エカテリーナはどう見てもヤバい悪女だが何故か魔王以外の者には受け入れられていた…
(その女は、俺に酷い事をしようとしたんだぞー!)
そう叫びたかったが言ったところで魔王が悪者になるだけと言葉を飲み込んだ。
(もっと俺を大切にしろ!)
魔王は、そうも思ったが何も言わずに寝室に向かい爆睡する。
ナオトとエカテリーナについては様子を見る事にした。




