その15
ヤマトが「北の森」を管理していた頃は住人は5万人ほどだったが…
大魔王国ギガンティスを建国してから各種族の亜人達が庇護を求めて集まり、そして孤児を集めて奴隷も買い漁った…
結果、10万人ほどの人口となっていた。
建国後、10ヶ月ほどたったときマルから連絡が来た!
魔王は急いで駆けつけて工場に入ると、マルが、
「待ってたぜ!」
と。
「ついに出来たか?」
魔王は嬉しそうに聞く!
「ああ、最高傑作だ!」
マルが顎をしゃくり付いて来いと促す。
付いて行くと…
「これだ!」
筒状の細いカプセルの様な水槽の隣にステンレスのベッドがあり、その上に理科室の骨格標本みたいな物が寝かせてある。
アダマンタイトで骨格を造りドラゴンの素材で人口臓器を造ったホムンクルスだ!
それは水槽から出されたばかりのようで水が滴り落ちていた。
だが、このままでは動かない。
核となる心がないからだ…
ドラゴンの魔石から削り出した心臓の様な核の器を握り「真理の心」を移す。
それをホムンクルスの胸に埋める。
ホムンクルスの身体と核が繋がるのを待ち魔王の魔力を注いでいく…
骨格を覆うように皮膚が生成されていく!
その神々しい光景にマルは目を奪われ息を呑む!
ホムンクルスが光輝く!
そして、少し幼い美女がそこにいた!
起き上がり話し出す!
「主様、成功でございます」
「真理の心」が受肉に成功した瞬間だった。
その姿は若くして死んでしまった3人を思い出させた…
外見はマーラの幼さとマリの美しさ、落ち着いた雰囲気はマリアからだろう。
「真理… シンリーと呼んでいいか? 嫌なら別の名を…」
魔王が名付ける。
「はい、ありがとうございます。私の名はシンリーです!」
気に入ってくれたようだ…
3人の心が合わさり出来たスキル…
魔王は今まで真理の心には必要なとき以外は話し掛けなかった。
3人の魂を心の奥に閉じ込めているような感覚を感じていたからだった。
だが、こうして解き放つ事が出来た。
「シンリー、これからは自由だ。好きに生きて貰って構わん!」
魔王は自由にしていいと伝えたが…
(シンリーは主様と共にあり心は繋がっております。
いつまでも、ご一緒いたします)
そういつもの様に心の中で声がした…
(そうか… ありがとう…)
魔王は、その言葉を言うのが精一杯だった。
一部始終を見ていたマルにお礼を言い。
「一度、王城に来てくれないか? 会わせたい奴がいる。
前にも少し話したプロジェクトを進めたいからな」
そう誘う。
「ああ、お邪魔する」
マルと約束して工場を後にする…
魔王は王城に人を集めた。
「シンリーは愛と共に城に住み愛がこの国を治めるときには支えになってもらおうと思っている。
皆も様々な助言をもらい助けてもらうと良い」
そうシンリーを紹介した。
真理の心の事は、皆が知っていてホムンクルスにする事も知っていた。
それでも、ホムンクルスの完成度の高さに驚いていたが直ぐに慣れる。
愛やまりん、ミーナの内政チームは強力な助っ人が出来たと喜んでいた。
そして、その夜マルはやって来た!
「早かったな!」
「事が事だからな…」
他にはヤマトとナオト、将とトシオがいる…
「息子の将とトシオだ!」
2人を紹介すると、マルと息子達はお互い挨拶を交わしていた。
魔王が話し出す。
「今から話す事はここだけの秘密だ! 将とトシオはキリがつき次第、今の部所から外れてくれ…」
2人が驚くなか魔王は話を進める。
「マル、将、トシオの3人はシンリーとも相談しながら、ある装置を造って欲しい…」
その詳細を語る…
興奮して聞き入る3人と驚くヤマトとナオト。
そして、5つの魔石をアイテムボックスから取り出して見せる。
神竜、神獣、神鳥、神亀、そして、一際大きい神!
「これを使って、1年… 遅くても1年半で完成させてくれ!
必要な物資は遠慮なく言ってくれ。最優先で用意する!」
自信満々で「任せとけ!」と返事をするマルと強い決意の顔をして頷く将達。
さっそく打ち合わせに入る様で3人は部屋を出て行った…
残ったヤマトとナオトに、
「使う日が来ないといいんだがな…」
魔王が呟いた…
翌日、魔王は愛を連れて飛行場にいた。
「父さん、アレ、完成したから!」
前日の会議の後、将が魔王に伝えていた。
そんな訳で、じゃじゃん!
戦闘用魔導飛行船大魔王号(仮)
今、国には10機の一般用の飛行船がある。物資や人を運ぶ為の物だ。
その、プロトタイプを改装した。
全体のカラーは黒ベースで紫をアクセントに使ってある。
飛行船の先端部には白いドクロのマーク。
そのマークが開き「魔導砲」を発射することが出来る。
前後左右上下にはエアスラスターがいくつも付いていて瞬時に方向転換が可能だ。
後部には魔導ジェット噴射口が付いていてマッハの速度を出せる。
おおよそ地球の飛行船とは似て非なる物だった。
そんな高性能な飛行船を飛ばすには大きな魔力が必要で魔王以外は操縦が出来ない代物だった。
「さぁ、愛、行くぞ!」
タラップを駆け上がる!
「ちょっと、おじいちゃん、カラーがダサいわ…
それに、今時ドクロって…」
愛が怪訝な顔で見ている…
「まあ、そう言うな…」
孫にダメ出しされて凹む…ガッカリした魔王に、
「乗ってしまえばわからないから大丈夫!」
慰めになっていない言葉を掛けていた…
「はいはい」と魔王は愛に背中を押されて艦橋に入る。
そこはアニメの宇宙戦艦のようなデザイン。
アイテムボックスから取り出した金の縁取りをした紺色のダブルのブレザーに袖を通し白のキャプテンキャップを被る。
「おじいちゃん…」
愛に絶句されてしまい、魔王はガッカリとしながら舵の前に立つ…
操舵輪という海賊船長の船長が「おも舵いっぱーい!」とかやりそうなやつだ。
大きな操舵輪に触れ魔力を流す、あちこちのパネルが無駄にチカチカ光る。
「♪たんたた、たん、たった、たんたたー!」
香ばしい音楽が流れる。
「大魔王号発進!」
魔王が号令を発すると、ゴーー! と激しい音と共に飛び立った!
飛行船に似つかわしくない速度で飛ぶ!
魔力を流し舵をガラガラっと回す。
ジェットで進み飛行船が鋭角に曲がる!
(戦闘機並みの性能だな! 魔法ってスゲー!)
魔王は魔法に改めて感動する。
愛はシートに座り、めり込んでいた…
魔王はグワッハッハッハッー! と笑いながら転舵する。
既に何処を飛んでるか謎… 目の前に山が見えた所で飛行船を止める。
「魔導砲発射よーい!」
魔王が香ばしいセリフを決めると、先端のドクロのオブジェが開く!
「ターゲットスコープオープン!」
床から照準機がせり上がってくる。
「エネルギー充填120%、5、4、3…」
「ダメー!」
愛が叫び! 止めた…
「ええ! なんで? 試し打ちしないと!」
魔王は試したくて仕方がなかった。
「あの山、誰のよ!」
愛が強めに聞く!
「知らん」
「そんなんでいいの?」
「大丈夫だ! 俺は魔王だから!」
ニヤりと笑う。
「はいはい、帰りますよー」
愛が言い出す。おかげで魔導砲は試せずじまい。
魔王はガッカリとして脳内マップで現在地を確認して国に帰る…
のちに巨大な何かが飛んでいたと大陸中で噂になっていたらしいが魔王の知った事ではなかった。
(俺は大魔王! 俺は俺の旗の下、自由に生きる!)
魔王は威勢の良い事を思っていたが帰りはゆっくりと運転させられていた…
空港へ戻り飛行船をドックに入れたあと整備班に横からも攻撃出来るようにミサイルかレーザーを付けてくれと無茶振りをしていた。
「愛、お茶をシバキに行くぞ!」
孫を連れ回す。
学校帰りの子供達を見つけ、
「おい! リリ!」
声を掛けると…
「魔王様ー!」
駆けて来る。
そう、奴隷商で腕を治してやった子だ。
「おい、付いてまいれ!」
威厳を込めて命令して下校途中の子供達の中から連れ出す。
「魔王がリリを用事で連れてくと、シスターか院長に伝えてくれ」
孤児院の子供達に伝言を頼んだ。
愛とリリとの3人でカフェ・チュタバに行く。魔王は甘ーいコーヒーとケーキを注文する。
愛とリリにも好きな物を頼ませる。
リリは10歳、魔王は子供の目線から見た孤児院や学校の話を知りたくて時々話を聞いていた。
今では可愛くて仕方がなく思っている。
生意気な愛と比べたら素直なリリは天使で「魔王様ー! 魔王様ー!」と一緒懸命話してくれる。
ときどき養女にしたいと考えるが…
魔王には家がない。いずれ愛のものになる城に居候している身分だ。
そして魔王は女房と娘を探しに行く予定だ。
そう考えると養女には出来なかった。
3人で広場に行き守護獣を呼び出す。
ドラちゃん、赤太郎、プルル、りくを、たっぷり遊んでやりスキンシップをとる。
レベルも上がり大きくなっている。
ドラゴンのドラちゃんは10m級になっていた。
守護獣も城では飼えないサイズになり守護獣らしく森に住まわせようかと魔王は考えている。
しかし、まだまだ子供なので普段は小さいペットサイズとなり城で暮らしている。
愛とリリがペット達と…いや守護獣達とじゃれている所をガラパゴスで撮影するのが魔王の一番の至福の時だった。
そして、今日は魔王の気分が良かった。
この世界に来て初めてのことかもしれない。
実は魔王がどうしても習得したかった3つの魔法のうちの一つをついに完成させていたからだ。
今日は夕食に皆を招待していて、そのときお披露目しようとほくそ笑んでいた。
「リリ、明日は学校が休みだ。城に泊まっていけ」
魔王はリリにも見せたかった。
「良いのですか?」
リリは驚くが、
「ああ、さっきギャリソンにも連絡を入れた、大丈夫だ!」
準備は万端だった。
「今日は食事会だぞ!」
「わーい」
そう喜ぶリリと怪訝な顔で見る愛…
(ヤバい… 何かを察している)
魔王は下手な口笛を吹きながら…
「アリを迎えに行くぞ!」
そう誤魔化して転移した… アリを連れて城に戻る。
魔王が愛、シンリー、アリ、リリと遊んでいると皆が続々と集まってくる。
ヤマト、ナオト、チム、将、まりん、ギャリソン、フィン…
ワイワイと話しながら食事会を楽しむ。
大魔王号の試運転の感想を聞かせたり、将にミサイルとビームを搭載しろと頼んだり、くだらない話をしながら楽しい食事は進む。
デザートを食べ…
そろそろ良いかと魔王がおもむろに立ち上がる!
「皆、聞いてくれ… ついに究極の魔法が完成した!」
「父さん! 時間を跳べるようになったの!」
将が叫ぶ!
だが魔王は残念そうに首を横に振る…
「じゃあ日本に…」
そう言い掛けた、まりんにも首を振った…
魔王が時間の壁を越える魔法と自力で日本に転移する魔法を習得しようとしている事は皆が知っていた。
だがそれはまだ叶っていなかった。
そして、もう一つ誰にも言っていないが叶えたい魔法があった…
それが完成し、ついにお披露目の時が来た!
「まずは、皆に見せようと思ってな… では行くぞ!」
魔王が黒い玉に包み込まれる。
玉の中を禍々しい黒い煙が渦巻く…
ぴちぴちした15の肌は艶が無くなり顔は老け50歳ぐらいになり煙が消え玉が弾け飛ぶ!
そこに現れたのは、まさしく召喚された日の魔王が立っていた!
「ふふ… 見たか! 究極の魔法を!
ついに、真の姿を取り戻したぞ!」
魔王はドヤ顔を決めるが、全員の目が点になる…
「驚いたか! ワッハッハッハッー!」
魔王はご満悦だが…
「はぁ…」
愛のため息が聞こえる…
「おじいちゃん… マジなの?」
愛がジト目で見て呆れている…
「マジですが、なにか?」
魔王は何がマジなのかイマイチ質問の意味が解らなかった。
「本気なの?」
愛がしつこく聞く。
「なあ、将、まりん、これが俺の本当の姿だよな?」
「いなくなったときの父さんだ…」
魔王の問いに将が答えまりんも頷く。
「ほらな! 悪い魔女にかけられた呪いを解いた王子の気分だ!」
魔王は清々しい笑顔をしている。
「もしかして、その姿でずーっといる気?」
「当たり前だ、本当の姿だって言っているだろう? 老けていたほうが大魔王って感じで貫禄があるし」
「はい、ダメー!」
「ええ!」
愛に駄目と言われて魔王はマジで凹む…
「魔王様、そのお姿も素敵です」
リリが言う…
「お前は天使か!」
リリを抱きしめる!
「リリ、甘やかしたらダメよ!
突然、大魔王が歳を取ったら国民が心配するわ!」
愛はちょいギレだ。
「魔王が奇跡の魔法を造ったと発表すれば良いだろ?」
「はっきり言って私は嫌だわ!」
全員がうんうんと頷く。
「だいたい、その魔法はどうやっているんじゃ?」
ヤマトまで呆れた顔で聞いていた。
「魔法で皮膚の水分を抜き紫外線を当ててダメージを与える。そして皮膚の再生を弱める…
ヒールをかけると戻ってしまうから俺にヒールは厳禁な!」
魔王が原理を説明すると…
「バッカじゃないの? ヒール!」
いきなり愛にやられて15歳に戻ってしまった…
魔王はその場に倒れ込み四つん這いになってしまう…
「父さん…」将が肩に手を置き慰めていた…
「次期女王の名にかけて命ずるわ! その魔法は禁呪とする!」
この世界で初めて「禁呪」が誕生した日となった。
最強の大魔王も孫には勝てなかった…
いつかあの日の日本に戻ったら本当の姿に戻ろう…
魔王は悲しみのどん底でそう誓った…




