楽しかったね
山田町は夏は涼しく冬は寒い。
冬には雪が積もり、しかも毎年かなり積もる。故に7名しかいない生徒たちに雪かき当番が回ってくるのである。
今日は一年生が当番の日だった。優太と梓は朝早起きをして学校にやってきた。
待っていたのは目一杯に積もった雪。ショベルを手にして長靴とぶ厚いコートに
マフラーに手には手袋。イヤーマフラーに頭には帽子。重装備で雪かきの準備をしてきた。それでも寒い。猛烈に寒い。
校門の前を二人でショベルに足をかけて、思いっきり雪をすくう。雪を歩道の横に棄ててゆく。その作業を何回も繰り返す。その内手袋も長靴の中もぐしょぐしょになる。
「お、終わったあ~」
梓が珍しく疲れ果てた顔で声を上げた。手も長靴の中もぐしょぐしょで手も足も冷えている。ショベルを優太が梓から回収して、二人で倉庫にショベルを片付けに行く。
「……オレ、疲れたよ」
「私も~」
二人とも顔を見合わせて、苦笑しながら一年生の教室に向かった。
まだ誰も居ない教室のストーブをつけて、手を温める。
「あったか~い」
梓は嬉しそうに声を出して手をかざしたまま、ストーブの前から離れない。優太もだ。
「本当に雪かき当番って地獄だな」
げんなりした声音の優太に
「……うん」
梓が頷く。
二人でストーブを真ん中にして、温まってくるとふと二人の視線が合った。
「オレ、腰が痛い」
「私も」
はあーっと溜息が出る。これで何回目の雪かき当番だか分からない。
「今年は例年のない大雪らしいよな」
「だね……。後何回二人で雪かきするんだろう」
「向日葵の当番は楽しいって言ってたじゃないか」
にやりと嫌味っぽく優太が笑う。それを梓は思わずむきになって返す。
「あれは優太君と一緒だったから楽しかったんだもん!」
本音がぽろりと漏れる。
「へ……?」
「あ……」
真っ赤になる二人は顔をお互い背けた。沈黙が二人を包む。
暫くして梓は思い切って優太に気持ちを告白しようと決めた。
「あのね……私優太君と一緒なのってすごく楽しいの。それって私が優太君の事大好きだからなの。今日も楽しかった……二人で」
梓の手に優太の手が重ねられた。梓は振り返る。
「オレも……」
梓は涙を溜めた大きな空色の瞳を優太に向ける。
「楽しかったね……」
「うん……」
手はそっと重ねられたままで二人は笑い合った。
窓の外は白い花のような雪が降ってきた。白い雪の結晶が次から次へと降る。季節は冬なのに二人の心は暖かかった。
ほっこりのんびり短編連作でした!