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3/3

楽しかったね

  山田町は夏は涼しく冬は寒い。

冬には雪が積もり、しかも毎年かなり積もる。故に7名しかいない生徒たちに雪かき当番が回ってくるのである。


 今日は一年生が当番の日だった。優太と梓は朝早起きをして学校にやってきた。

待っていたのは目一杯に積もった雪。ショベルを手にして長靴とぶ厚いコートに

マフラーに手には手袋。イヤーマフラーに頭には帽子。重装備で雪かきの準備をしてきた。それでも寒い。猛烈に寒い。


 校門の前を二人でショベルに足をかけて、思いっきり雪をすくう。雪を歩道の横に棄ててゆく。その作業を何回も繰り返す。その内手袋も長靴の中もぐしょぐしょになる。


「お、終わったあ~」

 梓が珍しく疲れ果てた顔で声を上げた。手も長靴の中もぐしょぐしょで手も足も冷えている。ショベルを優太が梓から回収して、二人で倉庫にショベルを片付けに行く。

「……オレ、疲れたよ」

「私も~」

 二人とも顔を見合わせて、苦笑しながら一年生の教室に向かった。

 まだ誰も居ない教室のストーブをつけて、手を温める。


「あったか~い」

 梓は嬉しそうに声を出して手をかざしたまま、ストーブの前から離れない。優太もだ。

「本当に雪かき当番って地獄だな」

 げんなりした声音の優太に

「……うん」

 梓が頷く。


 二人でストーブを真ん中にして、温まってくるとふと二人の視線が合った。

「オレ、腰が痛い」

「私も」

 はあーっと溜息が出る。これで何回目の雪かき当番だか分からない。

「今年は例年のない大雪らしいよな」

「だね……。後何回二人で雪かきするんだろう」

「向日葵の当番は楽しいって言ってたじゃないか」

 にやりと嫌味っぽく優太が笑う。それを梓は思わずむきになって返す。

「あれは優太君と一緒だったから楽しかったんだもん!」

 本音がぽろりと漏れる。


「へ……?」

「あ……」

 真っ赤になる二人は顔をお互い背けた。沈黙が二人を包む。

暫くして梓は思い切って優太に気持ちを告白しようと決めた。


「あのね……私優太君と一緒なのってすごく楽しいの。それって私が優太君の事大好きだからなの。今日も楽しかった……二人で」

 梓の手に優太の手が重ねられた。梓は振り返る。

「オレも……」

 梓は涙を溜めた大きな空色の瞳を優太に向ける。

「楽しかったね……」

「うん……」

 手はそっと重ねられたままで二人は笑い合った。


 窓の外は白い花のような雪が降ってきた。白い雪の結晶が次から次へと降る。季節は冬なのに二人の心は暖かかった。

ほっこりのんびり短編連作でした!

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― 新着の感想 ―
 優しい物語だと思います。季節ごとに少しずつ変化していく二人の関係性がいいですね。  舞台が、人数も非常に少ない、ある意味閉鎖された狭い世界なのも物語の展開に説得力を感じました。  ありがとうござい…
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