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弥勒の拳  作者: 真桑瓜
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帰郷4


帰郷4



剛三は、道場で師範代の吉田を相手に『型』の稽古を繰り返していた。

「この型は一見力強く見えるが、決して力んではならない」

剛三がそう言った時、道場の入り口に人の気配がした。

「篠塚さん!」

剛三が振り返る前に、吉田が声をあげた。

「なにっ!」見ると篠塚がそこに立っている。

篠塚はゆっくりと跪き、床に頭を擦り付けるように礼をして、そのまま固まってしまった。

剛三の心に、二つの思いが重なった。

自分を裏切って出て行った篠塚と、平助に喉を潰され、沖縄で生まれ変わった篠塚。

どちらの篠塚を、自分は選択するべきか・・・。

『どの面下げて戻って来た!』喉まで出かかった言葉を、剛三は辛うじて飲み込んだ。

「立て篠塚、お前の心を見せてみよ!」

篠塚は蹲ったまま動かない。

やがて、剛三が静かに言った。「吉田、稽古着を貸してやれ」

「はい!」

吉田は慌てて、稽古着を取りに走った。



師弟は、道場の中央で向き合ったまま微動だにしなかった。

「篠塚、お前が俺を裏切って出て行った事実は消えはせん!」

篠塚は黙したまま項垂れた。

「しかし、無門平助に敗れ、沖縄で生まれ変わったのもまた事実」

「お前の精進が本物なら、この俺を倒してみよ!」

剛三は項垂れたままの篠塚を睨みつけた。

「お前がこの俺を超えることが出来たなら、俺はお前を認めよう」

篠塚の眉がピクリと動いた。

「どうした、篠塚!この俺が怖いのか!」

篠塚がゆっくりと顔を上げる。

「そうだ、それで良い。さあ、お前の心を見せよ!」

剛三は両の掌を胸の前に伸ばし、篠塚に向けて構えた。

篠塚は左足を引いて、半身を取る。

先に動いたのは、剛三。前足からツッと間合いを詰めた。

篠塚は動かない。

次の瞬間、大きく踏み込んだ剛三の掌が篠塚の頬を打った。

篠塚は二間ほど吹っ飛んで道場の板壁に激突した。

間髪を入れず、前蹴りが飛んできて篠塚の腹を抉る。

次の瞬間、剛三の正拳が篠塚を襲った。

辛うじて躱すと、板壁の割れる音がした。

『師は本気だ、手加減など微塵も無い』

「どうした篠塚、お前の覚悟はそれくらいのものか!」

必殺の拳が目の前に迫っていた。篠塚は死を覚悟した。

『決して力んではならない』いつも剛三に諭されていた言葉が蘇る。

躰が勝手に動いていた。

気がつくと、篠塚の拳が倒れた剛三の目の前でピタリと静止していた。

「ふふふ・・・」

「確かに見せてもらった」

篠塚は拳を納め、三歩下がって床に跪くと、両手を着いて深々と礼をした。


「吉田、篠塚を逃すなよ!」吉田にそう言い残して、剛三は道場を出て行った。

「篠塚さん!」吉田が駆け寄り、頭を下げたままの篠塚の肩に触れた。

『逃げはしないよ』篠塚は吉田を見て頷いた。



「源さん、どうだった?」よしえが遅く帰った篠塚に訊いた。

『先生は、俺を許してくださった』篠塚は、そう手帳に書いた。

「そう、本当に良かったわね」

篠塚が頷く。『明日は、妙心館へ行く』

「分かった、私も一緒に行くわ」

篠塚は又頷いた。

よしえがバッグから紙袋を取り出した。

「今日、源さんがいない間に、町の本屋さんに行って来たの」よしえが言った。「欲しい本を沢山買ったわ」

篠塚は微笑んだ。『すべての目的を果たしたら、俺も行きたいものだ』

よしえは頷き、篠塚にキスをした。



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