猛稽古
猛稽古
「次っ、次はおらんのかっ!」篠塚が大声で叫んだ。
この日、道場に観音寺剛三の姿は無かった。
道場には十人ほどの門下生が稽古に来ていたが、篠塚の剣幕に、皆恐れをなしている。
「師範代、近頃荒れてるな」
「大会が近い所為だろう?」
「いや、美希お嬢さんに振られたという話だぞ」
門下生たちは、小声で囁きあった。
「おい、お前たち何をしゃべっている、そんな暇があるなら俺の相手をしろ!」
三人は身を硬くして黙った。
「一人二人は面倒だ、三人でかかってこい!」
『三人ならなんとかなるかもしれんぞ』三人は互いに目配せした。
三人が篠塚の前に立つと、篠塚の眼が異様な光を帯びた。
「こいっ!」
篠塚が言うと、三人は間合いを取って篠塚を囲んだ。
篠塚は、突っ立ったまま構えも取らない。
門下生達は篠塚の狂気を宿した眼に睨まれて竦んだ。皆、誰かが動いてくれるのを待っていた。
いきなり篠塚が右に飛んだ。不意をつかれた一人は、思わず無防備のまま退がってしまった。
電光石火の横蹴りが下腹部に突き刺さり、門下生はもんどりうって倒れたまま動かなくなった。
慌てて正面の一人が篠塚に迫った。篠塚は躰を捌くと、右の正拳突きを受け流し、頭突きを敵の腹に叩き込んだ。
そのまま、崩折れた相手の躰を押し込んで、真後ろにいた敵にぶつける。
二人は折り重なって倒れた。間髪を入れず篠塚が襲い掛かる。
「それまでだっ!」
篠塚が動きを止めた。いつの間にか剛三が道場に立っている。
「篠塚、道場生を壊すなよ。あまりカッカすると胃癌で死ぬぞ!」
篠塚は剛三に頭をさげると、無言で道場を出て行った。
「おい、大丈夫か?」剛三が門下生に訊いた。
「はい、なんとか・・・」
「どうやら急所は外したようだな・・・それにしても、恐ろしい奴」
大会まであと三ヶ月。




