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弥勒の拳  作者: 真桑瓜
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帰郷2



帰郷2




「篠塚源之助様、お待たせいたしました。現金一万円と、通帳をお返し致します」窓口の女性は、そう言って篠塚に通帳を渡した。


『なんだ・・・これは』

篠塚は、沖縄銀行今帰仁支店の待合の椅子で、途方に暮れていた。

『一・十・百・千・万・・・・0が六つもある・・・ということは・・百万!』

本を買う為に金を下ろしに来ていたのだ。記帳された通帳には、座波院長からの振込みが入っていた・・・それも百万。『何かの間違いだろう』そう思って、窓口の女性に筆談で聞いてみた。

「いえ、間違いではありません」その女性は、笑って答える。

篠塚は、一旦帰ってから上原に相談することにした。



「貰っておけ」上原は、簡単に答えた。「座波院長は、お前を気に入られたのだ」

『しかし・・・』篠塚は困惑した。

「断れば、却って失礼だ。座波院長はそういう人だよ」

篠塚は、師の言葉に従うことにした。本音を言えば、今、この金は喉から手が出るほど欲しい。福岡に帰って、自分のやるべき事が出来る。

篠塚は師に一時の帰郷を願った。師は快く許してくれた。

「お前の気の済むようにやって来い」師はそう言って篠塚の肩を叩いた。



翌日篠塚は、夏川よしえにこの事を伝える為、アーケードの書店に行った。

『帰郷する、ついて来てくれないか?』ノートに書いてよしえに見せた。

よしえは目を丸くして篠塚を見つめた。やがて、よしえの目に涙が浮かぶ。

「嬉しい・・・」よしえは、ハンカチでそっと目頭を押さえた。



その夜、よしえは上原の自宅を訪れ、幸子の歓待を受けた。

よしえは、福岡の地図や旅行情報誌を持って来て、幸子とああでも無いこうでもないと、楽しそうに話している。

「篠塚、お前の出る幕はなさそうだぞ」上原が笑って言った。

『そうですね』篠塚が苦笑いで答える。

篠塚は旅行の計画を立てる事に不慣れだった。そんな事、やった事が無い。

「計画は女性陣に任せておけ、お前はやるべきことをやり遂げて来い」

篠塚は、深く頷いた。

やがて、よしえと幸子はあちらこちらに電話を掛け始めた。飛行機やホテルの予約を取っているのだろう。

「平助に会ったら、よろしく伝えてくれ」上原が言った。「生きているうちにもう一度会おう、とな」

『分かりました』篠塚は頷く。

「篠塚さん」幸子が言った。「計画が決まりました」

『はい』篠塚は幸子を見て頷いた。

「出発は明後日です、明日中に準備をしなさい」幸子が篠塚に命じた。「後は、よしえさんに任せておけばいいわ」

篠塚は、笑って頷いた。

「源之助さん、私、福岡に行ったら本屋さんに行きたいわ、いいでしょ?」

篠塚は、指で輪っかを作った、OKの意味だ。『俺も行く』その指で自分の顔を指した。

「楽しみね」よしえが嬉しそうに笑う。


上原家の夜は、ゆっくりと更けて行った。




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