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弥勒の拳  作者: 真桑瓜
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佐竹



佐竹




佐竹は”高屋神社”と書かれた石碑の後ろに潜んで、人が来るのを待った。

歳は三十をいくつも超えてはいないだろう。中肉中背、黒のポロシャツに濃い色のジーンズを履いている。

辺りは既に薄暗く、石段脇の灯籠には灯が入っていた。

そろそろ起倒流の弟子達が稽古に通って来る時刻である。

神社の前の道を、東の方から人が歩いて来るのが見えた。小柄だが、躰つきから男と判る。白のトレーナーにベージュのチノパン。白いスニーカーを履いて、紺のキャップを目深に被っている。

佐竹は、男を一旦やり過ごし、後ろから声をかけた。

「待て」

「何か?」男は徐に振り向いて帽子の庇をあげた。

「起倒流の者か?」

「そうですが?」

「ここで俺と立ち会って貰おう」

「何の為に?」

「すまんな、それには答えられない。ただお前に恨みがある訳では無い」

佐竹は男の端正な顔を見つめた。どこかで見た覚えがある。

佐竹の心を読んだかのように男は言った。「今日の昼、境内でお会いしましたね」

「・・・」佐竹は昼間、他の参詣人に混じってここの様子を偵察に来ていたのだ。

「私は境内の掃除をしていましたよ」黒田は帽子を取って顔を見せた。

「む?あの時の神主か・・・」佐竹は松葉箒で境内を掃いていた男の姿を思い出した。

「思い出して頂けましたか?・・・お待ちしておりました」落ち着いた声音で黒田が言った。

「なにっ!」佐竹は狼狽した、待ち伏せのつもりが反対に罠にかかったのだ。素早く腰を落とし身構える。

黒田はその場に帽子を落とし二歩下がった。頭の中で相手との距離を測る。

佐竹は前傾の姿勢のまま、じりじりと間合いを詰めて行く。

黒田は無構えのまま突っ立っている。

佐竹は、帽子の落ちた位置まで間合いを詰めた瞬間地を蹴った。躰ごと黒田にぶつかって行き、跳ね飛ばす。

確かに、躰は黒田にぶつかった。が手応えが無い。黒田は二三歩前方に先ほどと同じように立っている。

今度は遮二無二掴みに行った。トレーナーの襟元と袖を掴み惹きつける。

が、やはり手応えを感じない。まるで暖簾を相手にしているようだ。

強引な背負い投げを掛けた。

黒田は、佐竹の背中を横に滑って目の前に降り立つ。

黒田の上着を掴んだまま、さらに押し込んで行った時、佐竹の躰は宙に舞った。

背中から、高屋神社の石碑に叩きつけられた。

佐竹が蹲って呻いている所へ黒田はゆっくりと後ろから回り込み、首に腕を絡め佐竹を締め落としてしまった。

黒田は、後方の鎮守の森に向かって声を掛けた。

「そこの人、後を頼みます」


杉の大木の陰で、人の動く気配がした。




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