最後の任侠
最後の任侠
1
門司に、現代の次郎長と言われる俠客がいる。
名を、関長次郎と云う。
関一家と言えば、門司で知らない人はいない。『弱きを助け、強きを挫く』を、地で行くような任侠集団だ。
親分が商店街を歩けば、様々な人から声がかかる。
「親分、いい魚が入りましたよ、後でお届けしておきます」
「魚正の大将、いつもすまないねぇ、うちは大飯食らいばかりだから助かるよ」
また、八百屋の女将からは、「親分、今は大根が旬です、魚正の鰤と一緒にあら炊きなんて美味しいですよ」と、引きも切らない。
長谷川は、その関一家に松尾を連れて現れた。
松尾は、考え抜いた末に長谷川の提案を受け入れることにしたのだった。
2
「関の親分、電話でお話しした通りこいつは世間の枠には納まりきれません、ここで修行をさせて漢にしてやってくださいませんか?」
長谷川は座敷に通され、親分と向かい合うとそう切り出した。
「長谷川の旦那の頼みとあっちゃあ、無下に断れやしませんが・・・」関は静かに松尾を見た。「ほう、いい面構えをしておりますな」
松尾はその涼しげな眼の光に却って畏怖を覚え、この親分について行く事を決めた。
「宜しくお願い致します」やっとそれだけを言った。
「しかし、警察の旦那がヤクザに頼み事とはねぇ」関は笑って長谷川を見た。
「なあに、幕末の剣聖山岡鉄舟でさえ、弟子を清水の次郎長に預けて修行させたと言います。世間の常識に縛られていては、男は小さくなるばかりですよ」
「ははは、良いでしょう、お引き受け致しましょう」関は、あっさりと請け合った。
「ありがたい、これで私の肩の荷も下りました」
「ただし、もう堅気の世界にはお返しできないかもしれませんよ。なにせ任侠の世界も人材不足ですからな」
関は、そう言って豪快に笑った。
松尾は、こうやって最後の俠客への道を歩みだした。




