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弥勒の拳  作者: 真桑瓜
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結納



結納


爽やかな五月晴れの大安の日曜日、槇草と美希の結納が行われた。

仲人である職場の先輩、鯨津夫妻と槇草の両親、槇草本人は午前十一時に観音寺家に到着した。

男性陣は黒の礼服、女性陣は留袖を着ている。

母屋の玄関は開いている、五人は一言もしゃべらずに結納の品を観音寺家の床の間の前に飾り付けた。

そういうしきたりなのである。

結納の品のほかに、平助から大きな鯛が届いていた。


飾り付けが終わり、観音寺剛三と美希が入って来た。

剛三は羽織袴を身につけており、大柄な躰に良く似合う。

美希はあでやかな振袖を着て剛三の後ろに控えている。

床の間に向かって右側に仲人と槇草家、左側に観音寺家の二人が向かい合わせに座る。


「本日は、お日柄も良くご両家の皆様には心よりお慶びを申し上げます・・・」鯨津は型通りに仲人の口上を述べた。「では、新郎のお父様よりご挨拶をお願いいたします」

槇草の父が緊張しているのが分かる。

「こ、この度は・・・む・む・む息子の悠と・・み、み美希様の結婚をご承諾くださいまして・・あ・ありがとうございます」畳に手をついた父の声は震えている、母が横目で父を睨んだ。

「ほ、本日はお日柄もよろしく・・・こ、こ、婚約の印として結納の品々をご持参いたしました・・い、幾久しくお受け取りください」父の額に汗が滲む。

「結構な・・結納の品々を、ありがとうございます・・・幾久しくお受けいたします」剛三も槇草の父に劣らず緊張している、道場では決して見られない姿だ。

辛うじて、道場主としての威厳を保っている。

「受け書でございます、お納め下さい」剛三が受け書を差し出す。

「拝見いたします」父は受け書を確認し「お受け取り頂きありがとうございました」と言った。

『もう少しだ、頑張れ親父!』と槇草は心の中で激励した。

「ほ、本日は、どうもありがとうございました・・・おかげさまで無事に結納をお納めすることができました。今後とも・・・今後とも・・」その先が出てこない。

「幾久しく・・・」母が小声で助け舟を出す。

「そ、そうか・・・今後とも幾久しくよろしくお願いいたします」父はホッと息を吐いた。

「こちらこそ、幾久しくよろしくお願いいたします」剛三が深々と頭を下げる。


槇草と美希が下座に並んで座る。二人は揃って畳に手をついた。

「本日は、私たちの為にこのような席を設けて下さり有難うございました。今日、婚約できましたのも皆様のおかげであると心より感謝いたしております。二人力を合わせて幸せな家庭を築いて参ります、今後ともどうぞよろしくお願いいたします」槇草は立派に口上を述べ終えた、母は満足げに息子を見ていた。




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