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下山
下山
黒田が寺を去る日、慈栄が言った。「あの炭は里の皆さんに貰ってもらう事にしました、本当によく頑張りましたね」
「いえ、慈恵さんのおかげです、慈恵さんと音吉さんのノートがなければ、絶対にできませんでした」
「黒田さん、寂しくなります・・・私」よっちゃんは、目に涙を浮かべていた。
「綿入れの陣羽織、大切にします」
「クロちゃん、最初はあんたのこと嫌いだったんだよ、なんだか暗くってさ」
「え〜、そんなぁ」
「でも、今は違うよ、必ずまたおいでよ」慈恵は鬼瓦のような顔をくしゃくしゃにして、泣き笑いをしている。
「一廉の人間になったら戻ってきます。俺はここで生まれ変わったんですから」黒田はもう、三人の顔をまともに見られなかった。石段を駆け下り、一度振り返って深々とお辞儀をすると、もう二度と振り返らなかった。
慈栄と慈恵とよっちゃんは、山門の前で黒田の姿が見えなくなるまで見送っていた。




