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弥勒の拳  作者: 真桑瓜
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精錬


精錬


この時期窯内の炭材は盛んに炭化を行うようになる。

これを大焼きという、この時煙道口から出る煙が本黄肌煙だ。

大焼きが最盛期を過ぎこの煙が白く変化したら、いよいよ精錬が始まる。

煙道口の温度が170〜180度になると煙の色が青くなる。

煙道に、盛んにタールが付着するのが分かる。

この煙が青みを増し、煙道口の温度が200〜230度になると通風口を徐々に開いて行く。

爺さんのノートには『通風口を急激に開くと、木炭に縦裂けや横避けが起こるので注意!』と書いてある。

煙道口の温度が250度になったら通風口を全開にする。

このとき窯内の温度は1000度に達する。


ある日黒田は椅子に腰掛け窯を見ていた。窯の前は暖かい、いい具合に眠気を誘う。

ふと見ると、足元に子猫が擦り寄って来た。

「ん、お前どこから来たんだ?」

黒田が子猫を抱き上げようと手を伸ばすと、子猫は後退り牙を剥いた。

「な、何だ・・・」

子猫の姿が、風船でも膨らますように大きくなって行く。

「わわわ!」

子猫はトラほどの大きさになると大きく口を開いて咆哮した。

「わっ!」黒田はびっくりして椅子から転げ落ちた。

「なんだ、寝てしまっていたのか・・・」

その時、近くで獣の唸り声がした。

とっさに黒田は身構えた、「山から何か降りてきたのか?」

しかしいつまで待っても、獣は姿を現さない。

耳をすませて声の出所を探る。

「おやっ、窯の中から聞こえるぞ」

煙道口に耳を近づけると、確かに中から聞こえる。

窯内の空気の循環に伴って、燃焼している炎があげている唸り声だった。


四日経った。

通風口から火が噴き出してくる。

火に気をつけながら通風口から窯中を覗くと、炭材が真っ赤になっている。

『もし炭材表面に灰が形成されていたら、空気の供給が過大なので通風口を少々狭める』

黒田は、通風口に少量の赤土を詰め通風口を狭くした。

獣の咆哮はまだ続いている。


五日目、煙道口の温度が250度になり、煙が透き通ってきた。

煙は、甘味を伴う匂いに変化した。

窯内は精錬最盛期となる。


六日目、煙道口から排出される煙は一層透き通り陽炎のように見える。

黒田は、通気口から棒を突っ込み、炭材の一部を倒してみた。

窯内から『カラカラ、シャラシャラ』と金属音がする。

この音が窯内に反響し、こだまのように響き合う。

炭材を一本、素早く取り出し用意しておいた灰を掛けて冷ます。

「硬さと木口面の割れは問題ないようだな」

黒田は入念に炭の状態をチェックした。

「もうそろそろ精錬終了だな、あとは全ての穴を塞ぎ完全に消化するのを待つのみだ」

黒田は、通風口、煙道口などの空気の流入口を全て密閉した。







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