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弥勒の拳  作者: 真桑瓜
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相似



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「あはははははは・・・」平助は愉快そうに笑った。「湊川がそう言うたのか?」

「はい」

「当たらずとも遠からずじゃ、儂は沖縄の空手を日本の空手にしたかったのじゃから」

「日本の・・・?」槇草は不思議そうな顔をした。

「まあよい、それで儂に試合を許せと?」

「はい」槇草の顔は真剣だ。

「儂にそんな資格はないよ、儂らがやってきたことをお前さんたちに禁止することはできん」

「では、お許しいただけるのですね?」

「好きにするがよい、儂も観たかったがこの有様ではな・・・」

「有り難うございます、ではすぐに比嘉先生に連絡を取ります」

「ほ、忙しいの?」

「明日は福岡に戻らねばなりません。会社には叔父が死んだことにしてきましたから」

「そうか、叔父さんには気の毒なことをした」

「では明日また報告に参ります」槇草は、そそくさと病室を出て行った。


その夜、幸長の道場“神武館”には、弟子が二十名ほど集まって壁際に整然と座っていた。

壁に沢山の写真が掛けてあった。中央の大きな遺影が島袋先生だろう。

槇草は、借り物の道着を着て道場の中央に進み出た。湊川が待っていた。

幸長が二人の間に立つ。

「二人とも準備は良いな!」幸長が声をかけると、二人は黙って頷いた。

「では・・・はじめっ!」

槇草は、右足を引き左の入り身に構えた。湊川は左足を出して左半身の四股立ち。

間合いは一足一刀。

「ほう・・良い勝負になる」幸長が唸った。

先に動けば不利になる。だが、敢えて槇草は動いた。別に焦った訳ではない、湊川の構えから発する技を見てみたかったのだ。

槇草は右足を大きく踏み込んで右の上段突きを放つ。同時に湊川が右足を踏み込んだ。

湊川の左腕が槇草の拳を彈き、右の拳は下段を突いた。頭突きが槇草の鳩尾に迫る。

山突き、同時に三点の攻撃を可能にする。型にはあるが、今時この技を使う者は少ない。

槇草は湊川の動きを見て、わずかに躰の軌道を修正した。

双方の技は、紙一重で交差し互いの位置を変えるにとどまった。

互いに背を見せずに振り返ったので、構えが逆に変わる。槇草右入り身、湊川は右半身の四股立ち。

湊川は待ちの構えから一転して攻撃に出た。

右の裏拳を見せ技にして、左の逆突きで槇草の中段を責める。

槇草は右の足を下げ、左手で湊川の左拳を押さえた。

同時に右拳で下から突き上げ、足刀で湊川の前足を蹴込む。

この一連の動作には淀みが無い。

湊川は前足をさらに踏み込み、槇草の蹴込を効果の無いものにした。

二人の間合いが詰まる。

槇草は身を沈めながら、天掌内掛けの大技で湊川を後方へ投げる。

湊川は投げられながらも躰を反転させ、猫のように四つ足で立つ。

古風な技の応酬になった。


どのくらいの時間が過ぎたのだろう?

一進一退の攻防が果てしなく続くように思われて、周りで見ている弟子達は身動ぎもできなかった。しかし、二人にはもう、動く力はあまり残っていなかった。

最後の力を振り絞って、二人は同時に動いた。

槇草は、右の猿臂を湊川の左顎に叩きつけた。

湊川は、右膝で槇草の鳩尾を突き上げた。

二人がもつれ合って倒れた、もう立つ気力も無い。幸長がゆっくりと歩み寄る。

「引き分け、それまで!」幸長は静かに笑った。「似た者同士だわい」




「くれぐれも無茶をしないように!」翌朝槇草は、立ち合いの結果を告げるとそう言い置いて帰って行った。

「まるで世話女房じゃな・・・」平助は苦笑いをした。


次に来た幸長が立ち合いの内容を詳しく教えてくれた。

「俺たちの立会いとそっくりだったよ、不思議だなあ」

「二人とも師に似たのだ、不思議はない」平助が笑う。

昼過ぎに、今度は上原が篠塚を連れて見舞いに来た。

「おう篠塚か、久しぶりじゃな」平助は陽気に声をかけた。「息災じゃったか?」

篠塚は黙って頭を下げた。

「上原、篠塚には内緒じゃと言ったろうが」平助は上原を睨んだ。

「それがそうもいかなかった。笹野が来たのだよ」

「笹野が・・・どうしてじゃ?」

「一度自分が狙った相手を見ておきたかったそうだ」

「酔狂な奴だ」

「笹野は篠塚を見て、黙って帰って行ったよ」

「何も言わずにか?」平助は上原を見た。

「平助に伝言を頼まれた」上原は平助に言った。

「ほう、なんじゃ?」

「俺に下手な手加減をしたから怪我をしたのだ・・・と」

「馬鹿な奴じゃ・・・」

篠塚がノートを出して平助に示した、『上原先生の元で修行して、必ずあなたを倒します』篠塚の目が笑っていた。

「楽しみにしておるでな」平助が言った。


二人が帰って、病室の窓から外を見ると、早咲きの沖縄の桜は既に満開だった。








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