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弥勒の拳  作者: 真桑瓜
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剛道館



剛道館


無門平助は剛道館道場の真ん中で、館長の観音寺剛三と向き合って座った。

周囲の壁際には二十人程の弟子達が整然と並んで端座している。

剛三の後ろには師範代の篠塚が控え、平助の後ろには槇草が控えている。

「先日は留守をしておって失礼した。ご用件を伺いに来たのだが」平助が剛三に言った。

「篠塚が、そちらのお弟子と手合わせを願ったとか。お互い良い勉強になったでしょう」剛三が悪びれもせずに言い放った。

「要件というのは他でもない、半年後武徳殿にて行われる武道大会の模範試合に、うちの篠塚を出そうと思うのだが、その相手を探しておるのです」

「この平助に相手をせよと?」

「そうではない、そちらの道場に強い弟子がいないかと思ったのだが・・・」

「して、強い弟子はおったかな?」

「残念ながら」後ろで篠塚が答えた。

「ふむ、では他を当たってくれ」平助が腰を浮かそうとした。

「師匠、俺にやらせてください!」槇草が叫んだ。

「君はうちの篠塚に手も足も出なかったそうじゃないか。この上恥の上塗りをしたいのか?」

槇草が何か言おうとしたが言葉にならなかった。

「そうかやりたいか?」平助が北叟笑み、浮かせた腰を戻し剛三を見据えた。

「弟子もこう申しておる。是非やらせてくれぬか?」

「だが、僅か半年ではな」剛三がせせら笑った。

「『男子三日会わざれば刮目して見よ』とも言うぞ」平助が悪戯っぽく笑った。「それまで床板の修理代は待ってやろう。ただし、うちの槇草が勝ったら、その男に槇草の股を潜ってもらう」

「なにっ!」篠塚が気色ばみ、片膝をついて立ち上がろうとした。

「まあ、待て篠塚」剛三が篠塚を制す。「面白い。大衆の面前で、無門平助がほえ面をかくのを見てみたいものだ」

「では、良いのだな?」

「否は無い!」剛三が平助を睨んだ。

「ならば、これにて失礼する」

平助は、槇草を促して立ち上がり槇草にだけ聞こえる声で言った。

「振り返るなよ・・・」

玄関を出たところで道場がざわめき足音が響いた。

「追うなっ、試合で勝てば良い!」剛三の声が聞こえてきた。


門に続く石畳に和服の女性が佇み、平助を見ると頭を下げた。

「無門先生、父の非礼をお許し下さい」

「なあに、構わんよ」

槇草はたった今起こった出来事も忘れて、呆然とその美しさに見とれていた。






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