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弥勒の拳  作者: 真桑瓜
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木割り


木割り


窯いっぱいの炭材を切り出すのに一週間かかった。

「次は炭材を作るよ」慈恵は洗濯をしながら次の行程を指示した。

「細い木は割らずにそのまま、中位の木は斧で半分に割る。太いものは四つに割って調整するんだ」

「わかりました、でその次は?」

「後は暫くする事は無い」

「えっ」

「炭材を乾燥させるんだよ、本当は二、三ヶ月かけて乾燥させるんだけど、今回は一ヶ月でやってみよう」

「その一ヶ月は?」

「ただ、待つんだよ、待つ事は意味の無いことじゃない、『何もしない事』をする事も積極的な行為だよ」

「う〜ん、難しいなぁ」黒田は唸った。

「その間はまた寺の仕事を手伝ってもらうから、炭材はなるべく日当たりの良い、雨よけの屋根のあるところに置いておくんだよ」

「ラジャー!」黒田は慈恵に向かって敬礼して見せた。

黒田が作業に戻ると、慈恵は洗濯を再開した。

「軍隊じゃ無いんだよ、まったく!」慈恵は渋い顔をした。「だけどクロちゃんもノリが良くなってきたなぁ、なかなか良い傾向だよ」と独り言を呟いた。


作業に戻った黒田は、まず細い材を同じ長さに切り分けた。

細い材は蒸気乾燥が良く進むため硬度の高い炭に焼きあがる。

これは窯の奥の方に立てる。

中位の材は半分に割るのだが、薪と違って長いので寝かして割るしか無い。

太い材は斧を二丁使って、一本を楔にして割るので大変な作業になる。

これは炭焼きの爺さんの残した、広告の綴じ紙に書いてあった。

黒田はこの作業を黙々とこなした。

自然の材に対すると、斧を振り下ろすにも同じ感触は二度と無い。

常に目の前の現実に対処しなければならない。

これは武術でも一緒だ、同じ事は二度と起きないのだ。

『形』を単純作業と心得、ただ繰り返しても意味が無い。ただ同じことを繰り返してその動きを身につけるという事は、応用が利かなくなるということだ。

黒田は自然から学ぶことの重要さを知った。

昔の武術家の山籠りはその為なのだ。決して木刀で立木を打つ稽古ばかりをしていたわけでは無い、そんなことは道場でもできる。

武蔵は言った。

『鍬も剣なり 剣も鍬なり 土にいて乱を忘れず 乱にいて土を忘れず 分に依って一に帰る』・・・・と

 




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