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弥勒の拳  作者: 真桑瓜
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炭材切り



炭材切り


朝食の後、黒田は今日やるべきことを慈恵に訊いた。

「今日は炭材の切り出しだね」と、慈恵は言った。

「炭材の切り出し・・・ですか?」

「この寺の敷地内に森があることは知っているだろう?」

「はい」

「その森から、炭の材料となる木を切り出してくるんだ」

「えっ、木を切っちゃっていいんですか?」黒田は驚いて訊いた。

「間伐材だよ」

「間伐って?」

「間伐も知らないのかい。森は余計な木を切ってやらないと育たないんだよ」

「なぜです?」

「太陽の光が届かなくなって森が暗くなるからだよ」

「そうか」黒田は納得した。

「昨日、切っていい木に赤い紐で印をつけておいたから、その木を切って窯の中に立てられるくらいの長さに切り揃えるんだ」

「はい」

「椚、楢、朴、樫、桜、いろんな雑木があるから、種類別に分けて窯の前に積み上げておくといい」

「わかりました、どのくらい集めればいいのですか?」

「窯にぎっしり詰まるくらいだよ、隙間があると上手く炭にならない」

「了解です」

「一日でやろうとするんじゃないよ。チエーンソーがあれば楽なんだけど、寺にそんなものはないからね。鋸でやってもらう」

「分かりました、今日はきつそうだ」

「そこまでやったら、次に進むよ」

「はい」

「それからこれを持ってお行き」慈恵は風呂敷包みを黒田に手渡した。

「なんですか、これ?」

「弁当だよ、今日は一日森の中で重労働だからね、特別だよ」

「ありがとうございます!」

「腹が減っては戦はできぬ、ってね」



黒田は、炭焼き小屋の裏手から森に入った。

ところどころに赤い印が見える。昨日慈恵がつけてくれたものだ。

「さてと、まずは手頃な木からいくとするか」黒田は最初に目についた木に鋸を当てた。

「この木、細いけど意外に硬いな」黒田は呟いた、「樫か?備長炭が樫だったよな」貧弱な記憶を辿る。

五分程かけてやっとその木を切り倒した。それだけでもう腕の筋肉が強張っている。

「力で鋸を引くからいけないのだな。こんなことじゃあの窯を満たすのに何日かかるかわからんぞ」

黒田はこの木を三等分して窯の前まで運んだ。

次に選んだ木は、さっきの木より太かったがあっさり切れた。

「この木は軽いな、すぐ火は着くが火持ちは悪そうだ」黒田はこの木の細い枝を落とし、適当な長さに切り分けた。

今度は窯の前まで運ばずにそのままにしておいた、「後でまとめて運ぼう」

そういう風に昼まで働いた黒田は、十本の木を切り倒した。

「午後はこの木を窯の前まで運ぼう、何か橇のようなものはないかな?そうだブルーシートに乗せて引きずって行こう」

次々に考えが浮かぶ、妄想が現れる暇がない。


「とにかく腹ごしらえだ」切り株に腰掛けて、慈恵が作ってくれた弁当を開く。

経木におにぎりが二個と、梅干しが包んである。

黒田はおにぎりにかぶりつく。

「う、美味い、こんな美味しいおにぎりは初めてだ。いや、今までに食べたどの食べ物よりも美味い!」

水筒のお茶で喉の渇きを潤す。なんと幸せな時間だろう。

「さて、もう一働きするか・・・」

黒田は徐に切株から立ち上がった。





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