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弥勒の拳  作者: 真桑瓜
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正月三態・沖縄


正月三態・沖縄


沖縄には正月が三度ある。と、夏川よしえが教えてくれた。

一度目は本土と同じ一月一日。

沖縄そばで年越しをして、近くの神社にお参りをする。

本土と違うのは、半袖のシャツで十分だというところか。


篠塚は、アレックスとの戦いの後、上原に暇を願い出た。

『恨みを買っている身であれば、いつご迷惑をおかけするかもしれない』と伝えると、上原に笑い飛ばされた。

「武術家に遺恨はつきものだ、そんなことでいちいち逃げていたら居場所はなくなる」そして上原は、決して篠塚の願いを聞き入れようとはしなかった。


この日、道場には上原の一族、それから弟子たちが集まり賑やかな正月となった。

おせちのメインは豚肉だ。篠塚は久しぶりに泡盛で酔い、心が軽くなった。

具志川が三線を持ち出し弾き始めた。

真っ先に踊り始めたのは上原だ。皆、次々と立ち上がり、踊りだす。

「篠塚も踊れ」上原が命じた。

篠塚はみんなを真似て踊る。

本部御殿手の奥義は“舞の手”にあると上原は言う。上原の踊りは他の誰よりも美しかった。


二度目は旧暦の一月一日、中国では“春節”という。

この年は新暦の二月三日にあたり、篠塚は上原のお供で国際通りへ繰り出した。

街は中華圏の人で賑わい、いつもと違った活気があった。

通りは赤い色で溢れかえっている、赤い提灯、赤い灯篭、縁起の良い「福」や「春」の文字、爆竹の匂い。

「どうだ篠塚、日本の正月とは随分趣が違うだろう?」

篠塚は周りを見回した。

「日本も昔は旧正月で新年を迎えていたのだよ。だが戦争に負けて、アメリカから正月を西暦の一月一日に改めるようにお達しがあった。日本人は大人しくその命に従ったが、沖縄やその他のアジアの国々は未だに旧正月を祝っているところが多いな」

篠塚は頷いた。

「沖縄は琉球といった昔から、中国の影響を多分に受けている。そのあとは日本、戦後はアメリカ、だがウチナンチューの誇りは決して忘れてはいない」

篠塚は上原が何を言いたいのか理解した。

「ワンはここへ来るたびそのことを思い出す」


三度目の正月は、ジュウルクニチー(十六日祭)旧暦の一月十六日だ、今年は二月十八日に当たる。

あのグソウの正月と呼ばれ、宮古島や八重山出身の人たちを中心に行われている。

宮古島出身のよしえは、重箱に豚の角煮ラフテー・かまぼこ・卵焼き・豆腐・巻き寿司などをぎっしりと詰め、篠塚をジュウルクニチーに誘った。

海の見える墓地で、先祖と正月を祝う。

「篠塚さん、たくさん食べてくださいね」

篠塚は頷いた。

「お酒も少しならありますよ」

篠塚は首を横に振った。

「どうしてです?」

篠塚はノートを出して大きく書いた、『帰ったら、本が読みたい』

よしえはにっこり笑って頷いた。

「今、何をお読みですか」

『三国志』と書く。

「吉川英治?やはり篠塚さんは良い本をお選びですね」

『呂布が好きだ』と書いた。

「ああ、のちに関羽の愛馬になる赤兎馬の持ち主ですね?」

『まだそこまでは読んでいない』

「あっ!ごめんなさい私ってバカ」よしえはすまなそうに頭を下げた。

『かまわない』と篠塚は笑って、ノートに書いた。


海風が篠塚の頬を撫でる、『墓参りなど何年ぶりだろう?』

よしえは、故郷の宮古島の方を向いて手を合わせ、目を瞑った。

『俺も、いつか婆ちゃんの墓参りに行かなくては・・・』





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