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弥勒の拳  作者: 真桑瓜
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吉日



吉日


大安吉日の日曜日を選んで、槇草は美希を伴って実家へ帰省した。

実家は両親と妹、それに祖母が一緒に住んでいる。

両親は美希をとても気に入ってくれた。

祖母は「早くひ孫の顔が見たい」と言って槇草を慌てさせた。

妹は初め、軽い嫉妬を覚えたようだった。

妹は兄が大好きだった。

しかし、打ち解けて話しているうちに、美希の男前な性格にすっかり惚れ込んでしまった。

帰る頃には、今度いつ来るのかとしつこく聞いていた。


槇草の父は、近くの農家から農作物を集め、トラックで福岡まで運び青果市場に卸す仕事をしていた。

自分でも小規模ながらみかんを作っている。

四人兄弟の長男だが、性格がおっとりしていて槇草が何かやろうとしても反対したことがない。

槇草が小学生の頃、近所の家の庭の柿の木から柿を盗んだ時は、一緒になって謝りに行ってくれた。

その父の背中を見た時、槇草は涙が止まらなかった。もう二度と父を悲しませるようなことはしないと心に誓った。


母は気丈な女性だった。槇草が喧嘩で負けてくると、勝つまで家に入れてはもらえなかった。

槇草が上級生の理不尽ないじめにあった時、その上級生の家に怒鳴り込んで行ったこともある。

とにかく負けることが嫌いなのだ。


妹は、おてんばを絵に描いたような娘だった。

近所の川で、十メートルもある岩の上から飛び込んだり、滝壺に潜って鯉を捕まえてきたりしていた。

ある日、田んぼの畦道を黒い大きなアゲハチョウを追っていて、肥溜めに落ちたことがあった。

槇草が風呂場で綺麗に洗い流してやった。妹はずっと大声で泣いていた。


祖母は、なんでもできる魔法使いのようなばあちゃんだった。

槇草が鳥もちでメジロを捕まえてきた時、竹でメジロ籠の作り方を教えたくれたのはばあちゃんだ。

川のどの辺りにうなぎ筒を仕掛けたら良く獲れるのかを教えてくれたのもばあちゃんだった。

風呂場が土間の向こうにあったから、裸の槇草をおんぶして運んで呉れたのもばあちゃんだった。


式は一年後を目処に進められることになった。

まず仲人を決めて両方の親の顔合わせ、それから結納・・・。


槇草は一挙に多忙になった。





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