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弥勒の拳  作者: 真桑瓜
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懺悔


懺悔


その夜、平助は道場の真ん中で刀の手入れをした。明かりは裸電球が一つ点いているだけだ。

この刀で人を斬った事がある。戦時中は白兵戦の斬り込み隊長として名を馳せた。

戦争なのだ、と無理やり自分に言い聞かせた。

終戦間際、指揮官機に搭乗中グラマンに撃墜され、尾翼につかまって海を漂っている時に味方の船に助けられた。

爺さんは西南戦争の時、新政府軍の隊長だった。

人斬りと恐れられた薩摩の中村半次郎とは不思議な因縁があったそうだ。

偶然田原坂で遭遇した時、西郷軍の隊長だった半次郎は爺さんの隊を見逃した。

『戦っていたら全滅だっただろう、なんせ此方は百姓ばかりだったからな』と爺さんは言って笑った。

何故人は戦争をするのだろう?お国の為と綺麗事を言いながら、どこかで誰かが笑っている。

武器を作って、敵に売っていた商人もいる。

平助は考えるのをやめた、いつも思考は堂々巡りだ。

刀を帯に差し、座構えに構えた。

鯉口を切ったとき、後太刀も既に終わっていた。

今は、この動きを出来る人間も僅かだろう。

戦後すぐに浅草で観た見世物小屋に居合の達人がいた。

あれほどの技量を持った武術家が、見世物に出て糊口をしのいでいたのだ。

『何としても、この技を後世に伝えたい。今日来た若者は、その望みを叶えてくれるだろうか?』

平助は、ふと鯉口を切る手を止めた。

『いや、過ぎた望みを持つのは止そう。また、落胆する事になる』

平助は、迷いを断ち切って術の世界に没頭して行った。





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