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弥勒の拳  作者: 真桑瓜
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当日


当日


武徳殿には紅白の幕が張り巡らされていた。

道場は半分が畳、半分が板張りである。

見物人は壁際の通路に鈴なりになっている。

来賓席には、市長はじめ、警察関係者、教育関係者などの顔が見える。

市長の挨拶の後、柔道・剣道・空手・居合・杖道・薙刀の模範演武が、粛々と披露されていった。

模範試合は、昼食をはさんで午後から行われる予定だ。


「篠塚はまだ現れないか?」剛三は門下生の一人に聞いた。

「はい、まだのようです!」

「困った奴だ、こなければ吉田を代わりに出す。準備させておけ!」


午後の部が始まった。

剣道も柔道も、五対五の団体戦、警察官と教職員の対抗戦だ。

剣道は三対二で教職員、柔道は二対三で警察官、どちらもかろうじて面目を保った形となった。

剣道と薙刀の異種試合では薙刀が勝って拍手喝采を浴びた。“脛”の攻防が勝敗を分けたようだ。

後は篠塚と槇草の模範試合を残すのみ。

この試合は、ある意味で注目を集めていた。市警が警察官の逮捕術強化の為に、空手を採用するかどうか、試合を見て決めると言っているからだ。


とうとう剛三の前に篠塚は現れなかった。西の控え室には吉田がいる筈だ。

ところが、呼び出されて姿を現したのは篠塚だった。

「篠塚・・・どうして!」剛三が叫んだ。

その時門下生が慌てて剛三の側へ飛んできた。

「大変です、控え室で吉田さんが倒れています!」

「何っ!」

篠塚はすでに開始線に立って東の控え室をじっと睨んでいる。

槇草が呼び出されて出てきた。篠塚と眼が合うと、ほっとした表情で頭を下げた。

今日は篠塚と戦わなければ意味がない。

高尾幻斎が二人の間に立った。

「わしが立会人を務める高尾幻斎じゃ。両名とも空手家の誇りをかけて立派に戦え!」

幻斎が一歩下がった。

「はじめっ!」

槇草は素早く構え、両拳を正中線上に乗せた。

篠塚は猫足立ち、開手で正中を守る。

槇草が送り足でじりじりと間合いを詰めて行く。

篠塚の猫足が、槇草の脛を狙ってピクリと動いた。

咄嗟に槇草は右へ回った。

それを待っていたように、篠塚の後足が槇草の前足を薙ぎ払った。

槇草の躰が宙に浮き背中から床に落ちた。

間髪を入れず必殺の拳が顔面に落ちてきた。

槇草が身を捩ってそれを躱すと、篠塚の拳は道場の床でゴッ!という鈍い音を立てた。

観客がどよめいた。当たっていれば槇草は無事では済まなかった筈だ。

場内に緊張が走る。

「篠塚は本気だ・・・」剛三は呟いた。

槇草は、身を転じた勢いのまま素早く身を起こした。

篠塚はゆっくりと立ち上がった。眼が狂人じみた光を放っている。

二人は、睨み合ったまま動かなくなった。

場内は静まり返って、二人の睨み合いを凝視している。

「いかん、篠塚は槇草君を殺すつもりだ!」剛三が叫んだ。

と、篠塚の膝から力が抜けてあっという間に間合いが縮まった。

「キエー!!」篠塚の化鳥のような甲高い叫び声が場内に響く。

槇草の躰が、篠塚の動きに合わせて変化し始めた。居合の横払いを拳に置き換えた技、表裏突きが槇草の脳の命令を待たずに発動したのだ。

槇草の最速の拳が、篠塚の尖った顎に一直線に向かって行った。

二人の拳が交差した時、篠塚の拳は槇草の左耳を切り裂いて後方に流れて行った。

篠塚はまるで木偶のように硬直して倒れていった。




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