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君の歌が聴こえる  作者: ひふみん
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第1章「出逢いの季節」④

第1章完結話です!

ようやく、物語はここからが始まりです!

 次の日の放課後、いつものように音楽室に向かいながら、いつになくドキドキしていた。


 朝陽君が来ているかどうかなんて分からないし、そもそも数日間音楽室に顔を出さなかったのに昨日の今日で来ている可能性なんて低いし、むしろ香奈子に話していたようにまた音楽室に来るかどうかも分からないし。


 それでも、もしも音楽室の扉を開けて、そこに朝陽君が居たら一体どんな顔をしたらいいだろうか。


 謝りたいという気持ちがあるのは間違いないけれど、何て朝陽君に伝えれば良いのかわからない。


 頭の中であれこれ色んなことを考えてると、いつもは先輩たちの目を気にして長く感じる音楽室までの道のりもあっという間で、気が付けば音楽室の前に立っていた。


「…まぁ、流石に昨日の今日では居ないよね」


 誰かに言い訳するように呟きながら、音楽室の扉を開いた。


「こんにちは。今日は少し早かったね」

「……」


 朝陽君は、まるで居るのが当たり前かのように言って、音楽室の真ん中で座っていた。


「…何で、朝陽君居るの?」


 思わず、そんなことを言った。


「あれ?来ちゃダメだったかな?」

「いや、ダメじゃないんだけど…えっと、あれ、その…」


 音楽室に入る前に想定していたことが嫌な方向で当たって、案の定朝陽君を目の前にすると頭が混乱して上手く考えがまとまらない。


 しかし、そんな私の戸惑いを知ってか知らずか、朝陽君はいつもみたいに変わらずあっけらかんとしてニコニコしている。


「前来た時から、昨日来るまでに結構日にち空いてたから、てっきり今日は来ないと思っていたから…」


 何か言わなきゃ、と思って口から出た言葉に、「いや、そっちじゃないでしょ」と内心で自分自身にツッコミを入れる。


「あぁ、色々家の用事があって来れなかったのもあるけど、天音さんいるのに行くのも悪いんじゃないかな、とも思ったから」


 そう言って、朝陽君は声を上げて笑った。


「全然そんなこと気にしなくて良いのに。というか、そもそも私もここは許可もらって使ってるわけじゃないし、むしろ無断で使っちゃってるし」


 もっと伝えるべきことは他にあるはずなのに、口は話し易いことをペラペラと喋り続ける。


「あれ?そうだったっけ?」

「うん。それこそ、前に朝陽君が先生から鍵貰ってきたって聞いて、『鍵あるんだ』って思ったくらいだし」

「何だ、そうだったんだね」


 朝陽君は、楽しそうに笑ってくれた。


 だけど、そこで会話は途切れた。


 朝陽君と一緒にいる時は、常に話しているか朝陽君の演奏を聴いているかだったので、こんな風に沈黙が降りるのは初めてだった。


 朝陽君も、何となく気まずそうに、笑顔が苦笑いに変わっていくように見えた。


「あっ、ごめん…というか、考えなしに来ちゃったけど、これじゃあ天音さん練習できないよね」


 気まずそうに笑いながら、朝陽君が立ち上がりそうな気配を感じた。


 その瞬間、反射的に頭を下げた。


「ごめん!」


 その勢いに任せて、声が滑り出た。


「えっ?どうしたの?何でいきなり謝るの?」


 頭の上から、朝陽君の戸惑う声が降ってくる。


 しかし、顔を上げることなく続けた。


「昨日は、ごめん。朝陽君、あんなに嫌がってたのに無理矢理演奏してもらおうとしちゃって。そのくせ、自分は演奏せずにそのまま何も言わずに帰っちゃって…」


 一気に、思っていたことを伝えた。一度堰が外れてしまえば、言葉は止めどなく出てきてくれた。


「何だ、そんなこと気にしてたの?」


 ところが、朝陽君はあっけらかんと答えた。


 その声に、ようやく顔を上げた。


「むしろ、僕の方こそごめんね。僕も、天音さんが演奏するの嫌がってたこと気付いてたのに、無理矢理演奏させようとしちゃって」


 朝陽君は、頭を掻きながら困ったように笑った。


「でも、天音さんの演奏聴いてみたいなって思ってたから、つい」


 それはまるで、悪戯が見つかって怒られた子どものように見えた。反省はしてるんだけど、「やっちゃった」という顔がどこか憎めない。


 それから、「ごめん」「いや、私の方こそ」「いや、僕の方が」「いやいや、私が」「いやいやいや…」とごめんなさいの応酬が繰り広げられ、結局どちらから共なくそのやり取りに笑い出して、そこで昨日の件は手打ちとなった。


「あー、良かった。朝陽君に謝れて」


 昨日からモヤモヤしていたことが晴れて、思わず本音が漏れ出た。


「えっ?何で?」


 朝陽君は、またキョトンとした顔を浮かべた。


「いや、この音楽室以外で朝陽君に会える時ってないから、もしももう音楽室に来なくなっちゃったらちゃんと謝れないな、って思ってたから」

「えっ?何で?教室に来てくれたら普通にいるよ?」


 同じ言葉を繰り返して、当然のことを指摘してくる。


「うーん、確かにそれはそうなんだけど、それは何となく負けたような気がして…」

「何それ。天音さんは、一体誰と戦ってるの?」


 香奈子に言ったことをそのまま言ってみると、朝陽君は呆れたようにカラカラ笑った。その朝陽君の反応に、思わず顔が熱くなる。


「だって!何か、他のクラスに行くのって結構勇気いるでしょ?」

「あー、それは分かるけど。同じ教室なのに、何となく他のクラスの教室って入りにくいね」

「ね?でしょ?そういうことなんだよ!」


 自分の恥ずかしさを紛らわすために、殊更に朝陽君の同調に乗っかる。


「でも、天音さんって何となく友だち多そうだから、他のクラスに行くこともあるんじゃないの?」

「えっ?そう見えてるの?」


 思いがけないことを言われて、驚いた声を上げた。


「うーん、まぁそれこそ朝陽君のクラスに友だちいない事はないんだけど、しばらく顔合わせてないから少し気まずくって…」


 腕組みをしているあの子の顔が思い浮かんで、少し身震いした。


「へぇー、何か意外だね。天音さんなら、気にせずグイグイ行けるような気がするけど」

「あれ?ちょっと待って。今のって、私褒められてないよね?」

「……」


 朝陽君は、何も言わずに微笑んでいた。その反応が、何よりの返答だった。


「何か、少しずつ朝陽君が私のことをイジってきてる気がする…」

「あはは。でも、それは天音さんの良いところだと思うよ」


 サラッと弁明がなかったのは、朝陽君の天然だろうけど少し心にダメージを受けた。


「でも、きっと天音さんがそうしてくれてなかったら、僕はこんな風に天音さんと話はできてなかったと思うよ。だから、僕的にはちゃんと褒めてるよ」


 天然だからこそ、朝陽君の言葉は素直でストレートで嘘じゃないことが分かる。そして、今度こそ褒めてくれているのは分かるんだけど、それはそれでこうしてストレートに言われると少し照れてしまう。


「…まぁ、そう言ってくれるなら、褒め言葉としてもらっておくよ」

「あれ?それなのに何でこっち向いてくれないの?」


 思わず顔を逸らしてしまったら、すかさず朝陽君は覗き込むように見て言った。その表情も、今度こそ明らかにニヤニヤしていて、やっぱり朝陽君はイジってきてない?


「朝陽君は、あんなに演奏上手いのに、どうして演奏するの渋ってたの?」


 わざとらしく話を変えた。


「えっ?そうかな?」


 突然の話題転換に、朝陽君はキョトンとした表情を浮かべたけど、すぐに「うーん」と考える仕草をした。


「やっぱり、人前で演奏するのは緊張するよ。何より、お客さんが一人だけでその人に向けて演奏するなんて余計にそうだよ」


 朝陽君からの回答は、思いがけずロマンチックなものだった。


 たった一人、その人の為だけに演奏するなんて、漫画やドラマでは案外よくある演出だったりするけど、それが本当に起こったらそれはとても美しいものなんだろうなと思った。


 そして、それを真面目な顔で、なおかつそれを口に出してもちゃんと臭くなく似合ってしまっている朝陽君はすごいなと思った。


「お客さんが一人だけで、って朝陽君は今までに何人ものお客さんの前で演奏したことあるの?」

「うーん、お客さんと言うと違うけど、一応ピアノコンクールとかも受けたことはあって、その時は結構人が聴いてたりもするから、そういうことは何回かやったことあるよ」


 なるほど、朝陽君ほどの腕前だったら、確かにコンクールも結構な規模のものを受けたりするのかな、と思った。


 綺麗なコンサートホールのステージで、朝陽君がピアノを弾いてるのはさぞ画になるだろう。


「へぇー、やっぱりピアノやってるとそういうコンクールとかも出るんだね」

「まぁ、何かとね。親に出させられることも結構あったし」


 そう言って、朝陽君は力なく笑った。


 朝陽君は基本的に笑顔を絶やさないけど、最近一緒にいる中で、その笑顔の作り方で朝陽君の本音が見え隠れしているような気がした。


 今の笑顔も、何だか無理をしているような感じだった。「親に出させられる」という言い方から、朝陽君はあまり望んでそのコンクールに出たわけでもなさそうだった。


 それでも、私に弾いてくれているピアノは、前回もその前も本当に楽しそうに弾いてるように見えた。


「でも、あんなに上手いんだから、結構賞とか貰ってたりするの?」

「えっ?…うーん、まぁ、それなりに、かな」


 また、困ったような笑顔を浮かべた。「あっ、これは謙遜しているだけで、やっぱり結構良い賞もらってるんだな」とピンと来た。


 しかし、朝陽君が言いにくそうにしているのに、そこに無遠慮に踏み込んでいくのは流石に憚られて、それ以上の追求は止めた。


「えっと…これ、聴いてもいいか分からないんだけど、天音さんは人前で演奏したことはあるの?」


 朝陽君は、とても言いにくそうに言ってきた。


 そもそも、私が振った疑問がそのまま私に戻ってきただけだ。だけど、朝陽君はすごく気を遣ってくれていて、それが朝陽君の表情や声から伝わってきた。


 でも、昨日は逃げてしまったけど今日は逃げたくはなかった。そして何より、朝陽君になら言っても良いかと思っていた。


「あるよ。でも、そのせいで人前で演奏出来なくなっちゃったんだけどね」


 「あはは」と情けなく笑いながら、朝陽君に話し出した。


 私の、トラウマの話を。


---


 両親曰く、私はちっちゃい頃から歌うことがとても好きな子どもだったらしい。


 流石に、そんなちっちゃい時のことは覚えていないけど、二歳,三歳くらいの時からテレビから流れてくる歌を聴いては、舌足らずな声で歌っていたらしい。(それがめちゃくちゃ可愛いと、お父さんは動画に撮っていたらしいけど、恥ずかしくて一度も観たことはない)


 少しずつ大きくなっていく中でも、歌が好きな所は変わらなくて、テレビから流れてくる歌や、両親が家や車の中で掛けている歌に合わせて歌っていた。


 ギターをやろうと思い立った時のことはよく覚えていて、小学四年生の夏休みの頃だった。


 その日は、毎年恒例になっていた音楽特番の日だった。数時間の長丁場な音楽番組で、様々なアーティスト同士が普段はやらないコラボレーションをするその番組を観ることは毎年の楽しみになっていた。だけど、その番組を観るということは同時に、夏休みも後残り僅かだと知らせてくることで、心中は何とも複雑だった。


 普段から音楽番組は好きで結構観てはいたけれど、基本的にはお目当ての好きなアーティストが出る時じゃないと積極的に観ることはなかった。


 しかし、その特番は好きなアーティストが出るのもそうだったけど、飽きない演出や目まぐるしく変わるアーティストやコラボレーションのお陰で最初から最後までずっと観ていられた。


 デュエットをしたり、グループ同士でダンスコラボをしたり、有名なソロアーティスト同士がハモったり、華やかなステージが続いていった。


 そんな中で、パッと照明が暗くなって一人の女性アーティストがステージの中央に登場した。


 それまでの煌びやかに照らされたステージとは打って変わって、真っ暗なステージの中央で、スポットライトだけがその女性アーティストを照らし出していた。


 女性アーティストの名前は、「YU」。「ゆう」と読むそのアーティストは、それまで私は見たことのないアーティストだった。だけど、その佇まいがやけに印象的だったことを覚えている。


 背丈は、テレビ画面越しに観ていてもそこまで大きくはなさそうだった。現に、手に持ったギターはその女性には不釣り合いに大きく、まるで子どもがギターを持っているようだった。


 だけど、目を閉じてスタンバイしているその姿は自信に満ち溢れていて、会場の誰しもが歌い出すのを固唾を飲んで見守っているのが、伝わってきた。


 息を吸う音が聞こえた。そして、歌い出した。


 その歌声に、息を飲んだ。


 囁くように、でもはっきりと透き通るその歌声は、スッと耳に自然に流れてきた。曲は聴いたことがない曲だった。それも、最初のテロップで「acoustic ver.」の表記があったので、恐らく原曲とは違うこの特番用の特別バージョンみたいだった。


 ただ、これが本来の原曲であるかのように歌声とギターのみで紡がれていくその歌は、とても心地良かった。


 基本的にはアカペラに近い演奏。ギターは、時折鳴らすくらいのアクセントで、あくまでもYUの声が一番の楽器だった。


 もちろん、それまでのステージでもソロやデュオのアーティストは何組かいて、安定したパフォーマンスを披露していた。でも、その中でもYUは全然違って見えた。


 最初は不釣り合いに見えたギターを静かに鳴らしながら、小さい身体からは想像できない伸びやかさで優雅に歌い紡いでいく。どうして、そんな小さな身体からそんな広がる歌声が出せるのか不思議で仕方なかった。


 だけど、それは今の私が思う感想で、その当時の私は何も言わずに画面に釘付けになって、口を開けてその歌をただただ聴いていた。


 決して、歌声を聴き溢さないように、じっと目と耳を集中させてその歌を聴いていた。


 曲は次第と盛り上がっていった。時折挟み込むぐらいにしか鳴らさなかったギターも、次第にメロディーをしっかりと鳴らし始めて、それに負けないくらい歌声も強さを増していった。


 そして、大サビに入って歌声が爆発した。


 そんな表現が正しく思えるほど、身体全体を響かせて鳴らされた歌声は、私の身体を冗談ではなく確かに震わせた。テレビを観ているだけのはずなのに、すぐ目の前で歌われてるかのようで、その歌声に身体がすっぽり覆われてしまったかのように固まって、その場で動けなくなってしまった。


 いつまでもこの歌声の中に居たい、とそんなことを思うくらい心地良かった。


 そうして、最後まで歌い切ったYUは、最後に静かにギターを鳴らして演奏を終えた。


 テレビ画面の中で、拍手の音が鳴った。それは、これまでのアーティストに送られたものと何ら変わらないボリュームだったけど、私はそんな拍手では全然足りない、とばかりにテレビの前で手が痛くなるくらいに拍手を送った。


「私もギターやる!」


 子どもの頃というのは、無邪気で単純だ。そして、身の程知らずにも、私はその時に「今観たあの女の人になる!」と本気で思っていた。


 それから、すぐさまお父さんにギターをせがんだ。しかし、流石に高価なものだったのもあるけれど、元々テンションに左右される気合の強かった私だから、そのテンションも一時のものだと思った両親は「楓にはまだ早いよ」とまともに取り合ってはくれなかった。


 ギターが買ってもらえないことに少しばかり落ち込みはしたけれど、ギターがなくても歌は歌い続けることができた。暇さえあれば学校でも家でも、時には外でも歌っていた。それこそ、家の中で歌っていて、時たまお母さんから怒られるようになったのはその頃からだ。


 本物のギターはなくても、あの日見たYUみたいになりたいという想いはずっと残り続けていて、ただの真似事でもエアギターをジャカジャカ弾きながら歌っていた。


 そんな日々が、二年間続いた。


 最初は一時のテンションでギターをせがんでいたと思っていた私が、思った以上に本気であることが分かった両親は、小学六年生の時に「勉強とお手伝い頑張ったら、中学入学祝いでギターを買ってあげる」と言ってくれた。


 そこから、エアギターをするよりも勉強やお手伝いに力を入れ始めたのは言うまでもない。


 そうやって、ようやく自分自身のギターを手に入れた。


 ギターを買ってもらってからは、ひたすらギターを弾き続けた。コードの本を買って、どう押さえれば良いかを試行錯誤して、最初はちゃんと音が鳴らなくて、でも段々と弾けるコードが増えてきて、弾き過ぎて指が痛くなっても我慢して弾き続けた。


 ある程度弾けるようになってきて、思ってなかった意外な障壁は、弾き語りだった。


 ギターを弾き始めるまでは、ギターさえ弾けるようになればギターを弾きながら歌う、いわゆる弾き語りは普通にできるものだと思っていた。


 でも、いざ自分でやってみようと思うと、コードに気を取られると歌えなくなり、歌に集中しようと思うとコードを押さえることがおざなりになってメロディーがぐちゃぐちゃになり、訳が分からなくなった。


 だからといって、そのことを相談できる人なんて周りにはおらず、ヒーヒー言いながら何とか自力で弾き語りができるようになるまで随分掛かった。


 しかし、そこからは本当に楽しかった。


 ギターを買ってもらう前、自分の歌いたい歌を歌う時は、必ずCDの音源が必要だった。オーディオから流れてくる歌やメロディーに合わせて歌うことしかできなかった。


 でも、自分である程度ギターが弾けるようになってからは、歌おうと思った時はコード譜を見ながら自分でギターを弾きながら歌えば良かった。


 場所を選ばず、家の中でも外でも、自由に歌を歌うことができた。(もちろん、家の中ではボリュームはなるべく抑えてだ。)


 ギターの腕前はまだまだ力不足なところは勿論あったけれど、それでもやっていくうちに弾ける曲が増えていって、歌に関しては長年歌ってきたお陰もあって、我ながらなかなかに上手いんじゃないか、と思っていた。


 ギターがもっともっと弾けたら、私は結構イケるんじゃないか。


 そんな風に思っていた。



--だからこそ、私は少し思い上がっていたのかもしれない。



---


 住んでいる地元の町は、誰もが認めるような田舎町だった。


 道を歩いていれば子ども達や若者に会うよりもおじいちゃんやおばあちゃんに出会うことが多く、そもそもあまり誰かとすれ違うということすら珍しい。


 自分の家こそ、一応商店街の近くにはあったけど、徒歩圏内には田園風景が広がっている。


 都会の同い年の子達は、遊ぶってなったらカフェに行ったりカラオケやボーリングに行ったりするんだろうけど、そういったものをやるためには一時間に一本しか来ない電車に乗って、30分位列車に揺られながら行かなきゃいけない。小学生の頃、友だちと映画を観に行くだけでもなかなかに大冒険だった。


 遊ぶ場所もない。大して自慢できるような施設や場所やイベントもない。そんな田舎町の中で、年に一度、大勢の人が集まる大きなお祭りがあった。


 ちょうど、夏休みが始まる7月の下旬頃、「ねつおくり祭り」という四日間に渡る夏祭りが毎年行われていた。


 一年通して、大きなイベントなんてほとんどなくて、だからこそなのかこの祭りに掛ける気合いはなかなかのものだった。


 そもそも、四日連続でやることもすごいことだけど、まず驚くのはその期間町に施される装飾だ。規模感自体は、商店街の二つの通りいっぱいに出店が並ぶくらいの小さいものだけれど、二車線の道路に大きな七夕飾りが飾られる。その大きさは、車に乗ってその時期に街中を走ると、フロントガラスに七夕飾りである星の吹き流しのヒラヒラが覆い被さってくるくらいだ。その七夕飾りが、祭り前の一週間頃から祭り期間中まで道路に等間隔に飾られているもんだから、その中を車で走っているとほとんど前が見えず、助手席に乗ってる身としては何とも怖い。


 七月の下旬に七夕?というツッコミは脇に置いておいて、それだけ大きな装飾を街中に飾り付けて、商店街に所狭しと出店も出てくるので、田舎の夏祭りといえどその規模感は中々に侮れない。


 何より、そのお祭りには一つ大きな名物があった。


 お祭り最終日に上がる、打ち上げ花火だ。


 小さい頃こそ、単純に打ち上げ花火をただただ打ち上げるという地味なものだったけど、中学生になったくらいからそのクオリティはどんどん上がっていった。


 打ち上がる本数が次第に増えてきて、弾ける花火も大きくなってきた。ここ近年に至っては、音楽を流しながらそれに合わせて花火を打ち上げるなんてことも始めている。


 改めて、自分の街ながら祭りに掛ける情熱と気合いが凄いなと思った。


 そこから更に、中学三年生の時から名物花火は新しいことを始めた。それまではCDなどの音源に合わせて打ち上げていたのが、簡単なステージを作ってそこでの生演奏を披露し、それに合わせて花火を打ち上げるという演出だ。


 生演奏と共に花火なんて、何とも豪華なと思いきや、流石に有名なアーティストを呼ぶわけはなく、地域の人たちが自由にエントリーして歌や楽器演奏を披露するというものだった。


 こんな田舎町で、そこまでエントリーがあるものかな?とうちの両親なんかは言っていたけど、いざ始めてみたら思いの外好評で沢山のエントリーがあった。


 もちろん、音楽ができると言ってもそこは流石に素人の域を出ないもので、演者の実力やパフォーマンスはムラがあった。でも、そこはパフォーマンスの高さ以上に、演者も観てる人たちも花火と共にそんな催しがされていることを楽しんでいた。


 そして、私もそのステージに憧れた。


『私の方が、絶対良い演奏できる!』


 まだまだ弾き語りを人前で演奏する自信がなく、始まったその年にはエントリーは出来なかったけど、出てくる演者の演奏を聴いてる限りは自分の方が全然歌は上手いように思えた。


 ギター演奏ではまだまだ力不足。だけど、この一年間でギターを猛特訓して、高校生になったらあのステージで私もあの頃観たYUのように……


---


「…そんな風に思ってたんだけどねー」


 一旦言葉を結んで、思わず遠い目になる。


 ここまで、朝陽君は私の話を特に遮ることなく、必要最低限の相槌だけして話を聴いてくれていた。


「過去形?」


 初めて、朝陽君が質問を投げた。


「あはは。うん、過去形」


 あまり重たい空気になってしまうことは望むところではなかったので、空元気で笑った。しかし、自分自身あまり上手く笑えてないことは自覚していた。


「高校生になって、大分弾き語りの方も出来てきてたから、それこそ昨日朝陽君に弾いてもらった『なつまつり』でエントリーしたんだ」

「あっ、だからこの時期にあの曲だったんだね」

「うん。季節外れで、何で?って思ったよね」


 この曲をリクエストした時、演奏することと同時に、「えっ?何でその曲?」という表情があからさまに浮かんでいた朝陽君を思い出して、クスリと笑った。


「多分、朝陽君がどんな演奏をするのか気になったのも勿論あるけど、それ以上に朝陽君の演奏聴いて自分自身のトラウマを払拭したいって思ってたんだと思う」


 まるで他人事のように言いながら、また笑った。


 チラリと目線を向けると、朝陽君は所在なさげに目を泳がせて何だか落ち着かない様子だった。


 どこまで聴いて良いのかどうか。トラウマと言われた私の過去について、踏み込んで良いのかどうか迷っているように見えた。


 だからこそ、私は話を続けた。


「去年、意気揚々とステージに上がって、いざ顔を上げてお客さん達の顔が見えた途端、歌うことも、ギターを弾くことも、何もできなかった」


 あの時の光景は、すぐに脳裏に浮かべることができる。


 河川敷に作られた簡易的なステージに、照明が当てられていた。


 一応、控えの場所は少し離れた場所に簡易テントが設けられていて、出番前はそこで待機していた。


 実際、出番を待ってる間はそんなに緊張してなかった。それ以上に、いよいよステージに上がって演奏できることが楽しみで仕方なかった。


 この日のために、一つの曲を初めてずっと練習し続けていた。正直自分自身で聴き飽きるくらいに聴いて歌って、ギターを手に持ってなくてもいつでもコードを追えるくらいまで練習した。


 一度、香奈子に聴いてもらった時も、「良いじゃん」とお墨付きをもらっていた。


 自信はあった。絶対に良い演奏ができると思っていた。


 そして、出番が来て断続的に打ち上がっている花火の合間に、真っ暗な河原にポツリと浮かび上がっているステージに足を進めていった。


 気合いを入れて着てきた浴衣で、原っぱを歩くのは少し歩きにくいな、なんてそんなことしか気にしてなかった。


 そうして、名前を呼ばれて意気揚々とステージに上がった。少し眩しく感じた光の中に入っていき、ステージに立ってギターを構えて顔を上げた。そこで初めて、お客さん達の顔を見た。


 そして、固まった。


 目の前に映るお客さんの数は、頭の中で思い描いていたものとはまるで比にならなかった。


 ステージに上がるまで、頭の中で浮かべていたお客さんの数は、せいぜい十数人くらいだった。それくらいの人に向けて「よろしくお願いします!」なんて言いながら、笑顔で気持ち良く歌えば良いと思っていた。


 だけど、現実に目の前にいる人の数は軽く数十人は超えていて、しかもステージを観る場所ではないにせよ、花火を観るためにその後ろには何百人という人が見えた。


 冷静に思い返せば、その後ろに見えていた人たちの目的はあくまでも花火だ。目の前で席に座って観てくれている人たちも、花火に合わせて行われる催し物を興味本意で観ていただけに過ぎなかったんだろう。


 でも、この時の私はとてもそんな風に考えられてなかった。


 これだけの人たちの前で、今から自分は歌うんだ


 自分の歌声が、多くの人の耳に届くんだ。


 そう思った途端、ダメだった。


 頭が真っ白になる直前、最前列で陣取ってくれていた香奈子の顔が一瞬見えたけど、そこからの記憶はほとんどない。


 覚えているのは、ひどく暑くて汗が止まらなかったことと、火薬の匂いがやけにしたことと、喉がカラカラになっていたことだけだ。


 目をギュッと閉じていても、その瞼の裏には無数の視線が突き刺さってきて、まるで私を逃さないように監視しているように感じられた。


 今すぐにでもこの場から逃げ出したいのに、まるでその無数の視線に身体が繋ぎ止められているかのように身体が動かない。


 いつまでも続く真っ暗な世界の中で、時折遥か頭上からドーンと鼓膜を震わせる花火の音が聞こえてきて、その度にぼんやりと瞼の裏に光が差し込んでいた。


 「大丈夫ですか!」と、飛び込んできた声に、やっと目を開けられて身体が微かに動いた。


 見ると、ステージに送り出してくれていたスタッフの人が慌ててステージに上がってきていた。


 その人を見た時、すぐに思ったのは「助かった」だった。


『すいません、実は少し体調が優れなくて』


 まるで、元々そうであったかのような言い訳に、頭の片隅で自分自身が呆れていた。


 そのまま、背中を支えられながらそのスタッフの人に連れられてステージを降りた。次にスタンバイしていた出場者とすれ違ったけど、顔はよく見れていない。ただ、多分ギョッとした目で私のことを見てたんだろうな、って思う。


 あの時の私は、きっとひどく苦しい顔をしていただろうから。


 スタッフ用のテントまで連れられて、水を渡されて少しの間休憩を取った。正直、ステージを降りてからは大分意識もハッキリし始めていたので、体調自体は何ともなかったけれど、ここですぐに何処かに行くのも情けなくて、しんどそうなフリをしながらパイプ椅子に座って時間が経つのを待っていた。


 少し経ってから、遠くの方でギターやドラムの音と共に、「よろしくお願いしまーす!」という声が聞こえてきた。


 次の人が演奏始めたんだ、とぼんやりと考えながら、「あぁ、あれは私じゃないんだ」と当たり前のことを考えて、そのまま自虐的に笑った。


「……とまぁ、結局何も出来ずにステージを降りちゃったわけ」


 あの日と同じように笑いながら言った。


 何とか笑顔を作っている私に対して、朝陽君は顎に手を当てて何だか思い詰めた表情を浮かべていた。


 流石に、少し引かせちゃったかな、と心配になる。


「ごめ…」

「そうなんだね。ありがとう、話してくれて」


 ところが、顔を上げた朝陽君は優しい笑顔を向けてくれた。


「でも、ごめんね。嫌なこと思い出させたよね」


 そして、私に向けられた声はとても優しかった。


 その優しさに、ほんの少しだけ救われた気がした。


「ううん、全然そんなことないよ。むしろ、クラスの友だち以外にこの話したことなかったから、話ができて少しスッキリした」


 余談だけど、ステージを降りて休憩していると、血相変えて香奈子が「楓、大丈夫!?」とスタッフテントに飛び込んできてくれた。その時に、私は本当に良い友達を持ったと嬉しくなった。


「その時、クラスの友だちはいなかったの?」

「うーん、あの時はもうテンパり過ぎててあんまり見えてなかったけど、とりあえず一番仲が良い友だちしかいなかったかなー」


 そう言われてみれば、あの時の姿をもしも他の友だちに見られていたとしたら、大分恥ずかしい。あの時は、とてもそれどころではなかったので、そこまで意識してなかったけど。


「うわー、確かにクラスの子とかにも観られてる可能性あるんだね。花火大会、結構沢山人来てたし」


 あれだけの人混みの中では、人の顔なんてほとんど識別できてない。というより、香奈子以外は知らない人ばかりで、後から両親も実は観に来ていたことを教えられたけど、私は見つけた覚えがない。


「まぁ、夏休み終わって特に噂にもなってなかったし、香奈子以外にも何か言われたことないから、大丈夫か…」


 目の前に朝陽君がいるのに、独り言のようにブツブツ呟いて、自分を納得させる。


 そんな私を、朝陽君は特に訝ることなく見ててくれた。


「天音さん、もうステージに上がるのは嫌?」


 投げ込まれた言葉に、パッと顔を上げた。


 朝陽君は、優しい眼差しで私のことを見ていた。


「えっ…」


 突然の言葉に、少し混乱する。


 それは、私自身もずっと頭の中でぐるぐる回っている葛藤だった。


 今年の恥ずかしさを払拭したい。リベンジをしたい。そんな想いもなきにしもあらずだけど、そんなことよりも思うことがあった。


 やっぱり、私は……


「天音さん、僕の前では演奏できなかったけど、一人の時はずっと演奏してたんだよね?初めて会った時、僕がいることにやけにキョトンとしてたけど、あれはいつものようにここに来てないとしない反応だと思ってさ」


 確かに、朝陽君の言うように夏休みが終わって学校が始まってからも、ほぼ欠かすことなくこの音楽室に来てはギターを弾いて歌を歌っていた。


「きっとだけど、天音さんはずっとここに来てギターを弾いて歌っていたんじゃないかな?」


 人前で歌えなかったのに、どうして?


 自身の中ですぐさま問いかけが浮かび上がってくる。


 歌うのが好きだから?ギターを弾くのが好きだから?ギターを弾きながら歌うのが好きだから?ただ自己満足でやっていれば楽しいから?


「……」


 朝陽君は、それ以上は何も言わず、じっと私の方を見つめていた。


 じっくりと、私の中から出てくる答えを待ってくれているように思えた。


---歌えなかった私が、何で…?


 この問い掛けは、朝陽君からの問い掛けではなく、自分自身に向けている問い掛けだ。


 だけど私は、


「…それは」


 気付けば、当たり前のように放課後になったら音楽室に足が向いていた。


 こんな問い掛けが浮かぶより前に、自然と音楽室に行ってギターを弾いて歌を歌ってきた。


 私は、疑問を抱くより前に先に思ってしまっていた。


「私は、自分の歌を沢山の人に聴いてもらいたい」


 言葉が、自然と零れ落ちていた。


 その答えを、既に私は持っていた。


 恥ずかしいとか情けないとか悔しいとか、そんな感情よりも先に、何よりも私は歌が歌いたかった。


 やっぱり、自分の歌を人に聴いてもらいたいと思っていた。


「そっか、良かった」


 朝陽君は、そう言って優しく笑うと、おもむろに立ち上がって自分の鞄の方へと歩き出した。


 そして、鞄から一枚のチラシを取り出して私の所に戻って来た。


「だったら、良ければ来年のこのステージに、僕と一緒にエントリーしない?」


 朝陽君が持って来たチラシは、何度も捨てようと思って、でも捨てられずに今も自分の部屋の引き出しの奥に仕舞い込んでいたものだった。


 真っ暗な夜空に打ち上がる花火が印刷されたチラシ。その花火の下の方には、「花火ステージの演者エントリー募集!!」の文字が書かれていた。


 そしてその下に更に大きな文字で、「オーディションで決まる、クライマックスの大輪花火ステージ!!」「オーディションエントリー募集!!」


「えっ、これに?」


 まるで、さも初めて見たかのような驚いた反応をした自分に呆れる。


 恒例になった打ち上げ花火のステージ。いつもは、事前エントリーさえすれば、誰しもが自由にステージに立つことができるが、来年はトリの演者だけはオーディションで決めるということだった。


 なんでも、来年がお祭りが始まってからちょうど何百年というアニバーサリーイヤーらしく、そんな年に相応しくクライマックスをより派手な演出でやろうということで、ラストの演者はただのエントリーではなくオーディションで決めようというものだった。


 オーディションエントリーは、応募年齢自由。バンド参加でもソロ参加でもエントリーは自由で、選ばれるのは一組だけ。何百発と打ち上げられるラストの大花火ステージで、演奏ができるというものだった。


 チラッと見ただけで、募集要項まで思い出しているところに、自分自身のいじましさを感じた。


 それなのに、朝陽君が持って来た時に咄嗟に出た自分の反応が、自分を落ち込ませた。


「えっ…でも」


 それが何故か。理由は明白だった。


 私は、今年のあんな小さなステージでもあがってしまってまともに演奏が出来なかったんだ。そもそも、人前でも演奏ができないのに、果たしてそんな大きなステージに立つことなんてできるだろうか。


 また、あの真っ暗な風景を見るかもしれないと思うと、すぐに目の前が真っ暗になる。


 そもそも、エントリーしたとしても最後の一組まで勝ち残れるなんて、それはどれくらいの確率だろうか。きっと、自分なんかよりもステージに慣れてて演奏や歌も上手い人なんていくらでも出てくるだろうし、そんな中で自分が最後まで残れる、なんて想像をすることも浅ましい。


 また、恥を晒すのか。あの光景を繰り返すのか。


 初めてチラシを見た時に過ったネガティブな感情がグルグルと頭を巡って、ゆっくりゆっくり深く沈んでいく。


 沈んで……


「大丈夫」


 俯いていた所に、フワリと風が吹いた。


 落ち込んだ視線の先に、子どものようにしゃがみ込んだ朝陽君がいた。


「僕で良かったら、天音さんと一緒に花火の下で演奏しますよ」


 そして、満面の笑みで言った。


 その笑顔はとても無邪気で、私の心配やトラウマや気苦労なんて全部無視しているようで、そのことに拍子抜けした。


 一人では無理でも、僕と一緒だったら大丈夫だよね?


 全く疑うことのない純粋なその表情と眼は、さも当たり前にそんなことを言ってるように見えた。


 本当、やっぱりこの子は変な子だ。


 そんな朝陽君に、笑ってしまった。


「何か、まるで告白みたいだね」


 思わず、そんなことを言っていた。


「えっ?」


 もちろん冗談で言ったつもりだったけど、朝陽君はさっきまでの爽やかな笑顔はどこへやら、顔を真っ赤にして慌てて跳ね起きた。


「いや、そんなつもりは!」


 てっきりいつもの天然炸裂で涼しい反応を見せるかと思ったら、思いがけず朝陽君は動揺した様子を見せてアワアワしていた。


 そんな朝陽君の様子に、プッと笑いが漏れた。


「あはは、朝陽君慌て過ぎだよ」


 言いながら、ゆっくりと立ち上がった。


「ありがとう、朝陽君」


 さっきまでの沈んでいく気持ちは気が付けばどこかに霧散していた。


 今目の前に朝陽君がいる。朝陽君とステージに立つ。


 それだけで、なんだか何とかなる気がしていた。


「私も、やっぱりステージに上がりたい」


 パチンと両手を叩いて、自分自身に気合いを入れた。


 そんなことでトラウマが消えるわけでも消えたわけでもない。きっとまだ、朝陽君の前でだって演奏はできない。


 それでも、


「それに、朝陽君が一緒に演奏してくれるなら心強いかな」


 初めて朝陽君に会った時、その演奏にその場から動けなくなった。


 YUの演奏を初めて観た時のように、他の人の演奏に心を掴まれたのは随分久しぶりだった。そしてそれが、テレビの中のアーティストではなく現実にいて、しかも私は出会ってこうして仲良くなっている。


 見たことはないはずなのに、花火が打ち上がるその下で、朝陽君がピアノを演奏している光景が浮かんでくる。


 その光景はとても綺麗で画になっていて、朝陽君の演奏を沢山の人たちが感動しながら見ている。


 そして、


「うん、一緒にまたあのステージに上がろう」


 その光景の中には私も居て、朝陽君と一緒に花火の下でギターを弾いて思い切り歌を歌っている。


 それは、すごく最高な光景だ。


「うん!でも、私が歌えなくなったら、朝陽君が代わりに歌ってね」


 そうして、私も満面の笑みでそんなことを言った。


 私の軽口に、朝陽君は「あはは」と笑い声を上げて、「それは責任重大だね」と笑った。

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