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君の歌が聴こえる  作者: ひふみん
1/8

序幕

「海に向かって」の次に描く夏の小説です。

今作は、「音楽」をテーマに物語を創っていきます。

同じ青春小説ではありますが、「海に向かって」とはテイストも変えて、更にクオリティ高い作品にしていこうと思っています!

もちろん、「海に向かって」読んでない方も、こちらからぜひお読み頂ければと思います!

音楽を文章で描いていきますので、ぜひ音や風景をイメージしながらお読み頂ければ幸いです。

 ピアノの音が聴こえる。


 自分が鳴らしているはずの音が、どこか他人事のように聞こえる。


 でも、鍵盤を弾く度に音符通りにその音は鳴っていて、何度も練習を繰り返して覚えたそのメロディを、ピアノは奏でてくれていた。


 頭の芯の部分がぼんやりしていて、全身の感覚がひどく曖昧だった。それでも、鍵盤を弾く指先だけはジンジンと痺れていて、音を鳴らす度にじんわりと微かな痛みが広がった。


 辺りは曖昧な暗闇に包まれていた。その暗闇の中で、闇に溶け込むことなく漆黒のピアノは光を反射させ、艶やかな光沢を帯びてそこに在った。その中から浮かび上がるように並ぶ真っ白な鍵盤を弾いて、音を紡いでいく。


 それはまるで、この場所に自分とピアノしか無いような感覚だった。


 たった一人、何もない真っ暗な夜空に向かって演奏を続ける。


 いや、そうじゃなかった。


 曖昧な感覚の向こう側、やけに遠くの方から、一緒に演奏してくれるバイオリンの音色と、リズムを叩いてくれるドラムの音が聴こえる。


 それは、こちらに寄り添ってくれるような、合わせてくれるような音。


 暗闇の中で、その二つが道しるべだった。その音を頼りに、ズレないように曖昧な感覚の中でメロディを鳴らしていく。


 クライマックスは近い。


 バイオリンもドラムも、それを分かっているから鳴らす音の厚みが増してきて、音の粒がハッキリとしてくる。


 ボリュームが徐々に戻ってくる。全ての音が一つに収束するように、決して零れることなく一つの塊となって、音楽を創り上げていく。


 ボリュームが上がる。曖昧な意識が浮上してくる。周りの輪郭が次第に戻ってくる。


 気持ちが昂ぶってくる。その全てを吐き出すように、鍵盤を鳴らしていく。


 盛り上がり、最高潮の前の一瞬の静寂。


 そして、



 頭上で大輪の花火が開いた。



 全身を包み込む爆音と振動。ひどく曖昧だったはずの感覚を、無理矢理呼び起こすように、全身がビリビリと痺れた。


 思わず、空を見上げた。


 夜空一杯を埋め尽くすほどの大輪の光が爆発していた。


 すぐに散り落ちてしまうその光を途絶えさせないように、次々に花火は打ち上がり、その光は幾重にも重なり合い、色とりどりに夜空を輝かせていた。


 何も無かった真っ暗な夜空が、あっという間に光で満たされていた。


--あぁ、こんなに綺麗な花火を見ることは、きっとこの先一生ないだろうな。


 そう思えるくらい、その花火はどうしようもなく綺麗だった。


 花火は、とどまることなく上がり続けた。


 色とりどりの光が降る下で、ただその光景をじっと見上げていた。この光景を絶対に忘れないようにと、頭が痛くなるくらいにその輝きを見つめた。


 そして、落ちる涙が鍵盤を鳴らしてくれていた。



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