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真冬の金魚  作者: 綾坂薙
1/1

いじめ。

プロローグ


なんとも情けない話。

クラスのみんなは、めんどくさい仕事を彼女一人に押し付けようとしている。

誰一人「委員長」に立候補しないで、彼女を推薦する。


「私にはできません……」


小さな声で訴える彼女の声をかき消すように、聞こえませーんなどと茶化す。


このクラスにはいじめがある。


担任の教師は見て見ぬふり。


味方は誰一人いない。



そんな俺さえも見て見ぬふりで、周りと変わらないのだろう。


「あー……、他に候補がいないなら暁さんになるけどかまわないか?」


センコウは暁の言葉を聞かなかったことにして話を進める。


そんな高校2年生、4月の半ば。


「次は副委員長だな。誰か候補はいないか?」


センコウの一言で皆黙る。


そりゃそうだ、誰もやりたくない。


こんなクラスに嫌気がさしていた。

めんどくさいことは暁にやらせて、ストレスがたまれば、無視、いやがらせ、陰口。


それに反抗しない暁にも嫌気がさしていた。


すっと手を上げる。


何をしているんだろう。


「お、犬飼、やってくれるか?」


おうん?俺は何をしてるんだろう?

勝手に手が……。


皆がキョトンとした。

あの目つきの悪く、態度の悪い俺が副委員長?

声が出ない。


「じゃぁ、犬飼、頼むな?」


センコウのその一言にHRは終わった。



「あの、犬飼君……」


小さな声が後ろから聞こえた。


前髪を長く前に垂らし、女っ気のない女。


暁だ。



「ん?なんだよ。」


ぶっきらぼうに返事した。


「これからよろしくね……私、トロ臭くて足引っ張っちゃうかもしれないけど……」


「じゃぁ、頑張れよ。俺は何もしねーぞ。」


鞄を手にして、俺は自宅へと足を急がせた。


「陰気臭い女。もー少しおしゃれとかできねぇのかよ。」


ぼそぼそとつぶやきながら小石を蹴った。


長いスカート。サイズの合ってないダボっとしたジャケット。

整えていないような長い髪。

顔が見えないように伸ばした前髪。


いじめてくださいと言っているようなものだ。


「帰ったの?ただいまくらい言ったらどうなの?」


玄関を開け、二階の自分の部屋へ行こうとするとお袋が声をかけてきた。


「おう。」


「それだけ?お弁当箱、台所に置いておいてよね。」


「あぁ。」


めんどくさりながらも台所に空の弁当箱を置きにダイニングに入った。

そこには見たこともない男が、ぴっちりしたスーツを着て、書類を広げていた。


「どちら様で?」


お袋が少し寂しげに言った。


「まだ、話してなかったわね。あなたもこっちへ来なさい。」


言われたとおりにソファにドカッと座った。


「お母さんね、離婚しようと思うの。そのお手伝いをしてくれる弁護士さんの佐々木さん。」


あぁ、やっぱりか。


もう何年も前から、親父の挙動がおかしかった。

帰りはいつも午前様。

お袋とは話もしない。

スマホは手放さない。


浮気だろ?って感じだった。


「健は、お父さんとお母さん、どっちと一緒に住む?」


「親父、女いるんだろ?お袋しかいねーんじゃねーの?」


「健君だったかな?まだ、女性がいるとは決まってないんだ。よく考えてもいいんだよ、大事なことだ。」


弁護士の佐々木さんがそう言うと、今日はこの辺で……と腰を上げた。


「ありがとうございました……」


離婚かぁ。いつからこんなギスギスした家庭になった?

覚えてないや。


何事もなく二階の自室へと上がっていった。



翌日、学校へ行った。

正直めんどくさい。


家にいてもめんどくさいから、どっちにしろ同じだ。


教室に入ると、びしょびしょに濡れた暁が教室の真ん中で突っ立っていた。


「あぁ、ごめぇん。花瓶の水かぶっちゃったね~」


いつものことだ。


「……うん……大丈夫……」


何が大丈夫なんだ?


「おい、何がごめんねだ。さすがにやりすぎだろ……」


相変わらず目つきの悪い俺が軽くにらむと、主犯格の女子がひっと小さく声を上げた。


そんなに怖いかな?


しかし、珍しくかばってしまった。

まぁ、いじめを食らうことはないだろう。


「……暁さん、ごめんなさい……」


主犯格の女子はきちんと謝り、ハンカチを手渡した。


「それ、あげるから……」


「……ありがとう……」



そこへセンコウが入ってきた。


「HR始めるぞ~、座れ~」


相変わらずか。

この状態を見ても何も言わない。


何事もなくHRが終わり、次の授業の準備を始める。


「ねぇ、知ってる?暁さんのお母さん、不倫してるんだって……」


「え?」


「うちのクラスの生徒のお父さんらしいんだけど、誰だかわかんないんだよねぇ」


「マジで?」



ほほう、暁も大変だな。

俺も他人事じゃないが。


授業を淡々と進めて、あっという間に放課後。


委員長って言っても放課後のHRで少し話をして、日誌を書いて終わりだもんな。



そんな日誌を書いていると、暁がぼそっと話し始めた。


「犬飼君、もう聞いたでしょ?うちの……お母さんのこと……」


「んぁ?あんなもん噂だろう?気にすんな」


「違うの……本当なの……」


「……え?」


「……私、どこにも居場所がない……」


グスングスンと泣き出す暁。



居場所……。

俺はどうなんだろうな。

家に帰れば、陰気な顔した母親、そっけない親父。

居心地はよくないな。


「……一人暮らしでもするか……」


「え?」


「あぁ、俺んちもごたごたしててよ。いっその事一人暮らしでもしちまえば楽かな?って」


「……すごいね……」


「いやいや、まだ決めてないぞ?出来たら楽だな~ってだけでさ」


「でも……凄いなって思う……私は何もできないから……」


か細い声で暁はそう言うと下を向く。


「とりあえず、日誌片付けようぜ?日が暮れるよ」


日誌を片付けると、職員室に向かった。

何故か暁までついてくる。

別に来なくていいのに。


「日誌……ここな」


センコウのデスクにポンと置くと、センコウはご苦労さんと一言返してきた。


職員室を出る二人。


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