「人はどうして争うのかしら」
逞しいオオカミのシルエットの前でイヌ族とオオカミ族が握手を交わしている絵柄の便せんに、手紙は綴られている。
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親愛なるグース姉さんへ
スノーブリッジの日々はあっという間でした。一か月という長い期間にも関わらず、やっぱり寒いものは寒いというのが正直な感想で、トワイライトの暖かさが懐かしいほどでした。それでも、ブルーと一緒に過ごしていたので飽きることはなく、次なる町のウィルオウィスプまでの道のりも難なく進めそうです。
スノーブリッジでは、さまざまなマヒンガ達を見ました。どうやら雪山は物騒な状況にあるらしく、北の隣国との行き来も命懸けだそうです。けれど、スノーブリッジの町はそんなこともなく、せいぜいいつもの小競り合いに眉を顰めるくらいでした。
とはいえ、悪いオオカミばかりではありません。スノーブリッジで関わったオオカミたちはいずれも心優しく、別れるのが名残惜しいくらいです。
また、クックークロック大学卒の研究者の方々とも深くお話をする機会があり、非常に勉強になりました。どうやら、ブラックも彼らにお世話になったようですが、それはまた別の機会に詳しく。
ところで、姉さん。姉さんは酷い喧嘩をしたことはありますか?
私はクランとしょっちゅう喧嘩をしてしまいますが、それでも長引いたり、深刻化したりすることはあまりなかったように思います。言葉で噛みつきあったとしても、やっぱり血を分けた家族だし、心の底から憎んだことなんて一度もありません。
それでも、血を分けていても憎み合うことってあるんだってスノーブリッジでは思いました。
どうして喧嘩って起こるんだろう。どうして争いって起こるんだろう。きっとこうだろうというヒントは見つかっても、やっぱりお互いに思いやれない関係というのは理不尽なものだなって思いました。
少し話が長くなりましたね。次はウィルオウィスプでお手紙を書きます。
あなたの妹ラズより
追伸 スノーベリーがたくさん採れたので同封しておきます。
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下書きも消し、しっかりと封をして、ラズは手紙を投函した。
けれど、ウィルオウィスプの役場にて姉グースからの返信を開封してみると、そこにはこう書かれていた。
「スノーベリーは溶けてしまったのかしら?」
同封し忘れていたことに気づいたのは、それから数分後のことだった。




