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Berry  作者: ねこじゃ・じぇねこ
オオカミと赤ずきん-ベリーロード
195/196

5.世界はどうなったのか

 さて、何から話そう。

 ベリーロードを歩んだ君たちだ。出会った人の数もそれだけ多かっただろう。一番気になっている人は誰かねと言ったところで、ブルー君、君の事だ。きっと、皆って答えるだろうね。

 だから、そうだね。吾輩が飛んでいった順に話すとしよう。


 マルの占いが順調で、他の地域の事にも関心が行くようになってから、吾輩は彼女の目となるべくクックークロックを飛び立った。

 まず向かったのは、グラスホッパーだ。そこでホワイトバイソンのアレキサンダーに面会し、互いに状況を報告した。君たちの行動を尊んでいたよ。また一度、顔を見せてやれば喜ぶだろう。


 次に向かったのは、カラント博士のもとだ。近かったからね。そこで、ラブ先生の淹れたベリー茶をいただきながら、リスの双子――カシスとグロゼイユと少々お話をしたのだよ。

 ふたりとも相変わらず食いしん坊だったね。食べ盛りなのかな。カラント博士やラブ先生もたじたじだった。

 ところで、アフタヌーンはここ一か月ほど、バッタの被害に悩まされていたわけだが、それもだいぶ収まったようだ。その爪痕はすぐに癒えるようなものではないが、誰かが命を落とすようなことはなかったと聞いている。


 カラント博士たちの元を飛び立った後は、サンドストームへと向かった。ちょうどナジャたちが面白い企画をしていると風の噂で聞いていたから見物してみた。どうも、彼らもまた演劇や演奏というものに興味があるようだ。もっと形になれば、きっと良い観光資源となるだろうね。

 それはそうと、彼らのパフォーマンスを見ている途中で、ケネス博士たちに会うことが出来た。アポなしだったにも関わらず、モーニングまで同行させてくれた。

 モーニングでは博士の助手であるカレン君とライオネル君もいたね。前にも話した通り、あの場所はブラック君の襲撃の被害にあったところだ。だが、その襲撃によって、大変な事実が発覚したのだそうだよ。


 カレン君の削ったトーテムベリーは、やはり光を失わなかったという。削り方が上手いからだとかつては思われていたのだが、最近になって、その理由にも関わるようなことが、カレン君の実家から見つかったそうだ。

 古い日記だ。長らくそれは、ストロベリー家の歴史に関わるものだと思われていたが、よくよく注目してみれば、そこには女神として生きる妹を神官として支える若い娘の日常が記されていたそうだ。

 そう、それは入植者の娘の日記ではなく、もともとあの地域に暮らしていた、女神の一族のひとりの日記だったのだ。


 つまり、カレン君にもいくらか先住民の血が混じっていたというわけだね。

 皆、ネコ化しているものだから、すっかり忘れ去られてしまった歴史だったらしい。いったい何代前の誰の日記なのかも、これから検証していくところらしいからね。

 だが、ともかくとして、遺跡を調べる上で貴重な資料が思わぬところから見つかったとして大騒ぎだったそうだ。

 まさに灯台下暗し。襲撃は怖かったが、そもそもストロベリー家の歴史について疑いだしたのも、もとはといえばブラック君に言われてトーテムベリーを削った時だとカレン君は言っていたよ。

 ライオネル君も同じだ。彼のやったことは簡単に許せるようなことじゃない。だが、その迷惑な思い切りが新しい道を切り開いたのは確かだとね。


 それはともかく、ふたりとも君たちに想いを寄せていたよ。

 勇者になってしまったと聞いた時は、ふたりともショックで食事がのどを通らなかったそうだ。歴代の勇者との別れもまたドラゴンメイドの歴史として有名だからね。しかし、歴代の勇者たちとは違って、再び会えるかもしれないと知って、心からホッとしたようだ。

 会いたがっていたよ。……そうか、君も会いたいか。ぜひ会いに行くと良い。皆歓迎してくれるだろうから。


 彼らと別れた後は、メインゲートに向かった。そこでは、人魚たちに事の顛末とトーテムベリーの今後について相談しなきゃならなかったんだ。

 ドロシーは吾輩に負けず劣らずお喋りだったね。海の中じゃ十分にお喋りできないと言って、吾輩を相手にぺちゃくちゃとね。しかも、他の人魚たちによれば、水中でもエコロケーションで無駄に話しかけてくるらしいのだけれど。

 ああ、ブルー君、エコロケーションって知っているかい? ざっくりというなれば、人魚たちが海の中で使っている会話術だよ。あとはコウモリ族なんかも使うらしい。まあ、詳しい仕組みは知らんのだけどね。


 メインゲートではシャチ隊ともお話できたよ。海兵隊員が君たちに感謝していた。シャチ隊もようやく誠実な者が本来の業務をこなせるようになったらしく、メインゲートの治安もぐんとよくなったという。

 そうそう、大事なことが一つあった。地震が何度か起こったとき、メインゲートでは水害が起こったんだよ。しかし、事前にドロシーたちが人々に伝えることが出来て、住民たちは皆、高台に避難できたという。

 赤ん坊もお年寄りも犠牲にならずに済んだ。それもこれも、君たちがメインゲートで活躍してくれたおかげだと感謝していたよ。これからもきっと、メインゲートの人々は人魚の声にも耳を傾けてくれるだろう。


 ん? 盗賊たちかい? さて、捕まった後の事は分からなかったな。死んだとは聞いていないから、きっと今も奉仕活動を続けているのだろう。

 はぐれマヒンガが悪さをしていたとのことだが、町はすっかり正義のオオカミとそれをモチーフにしたグッズで溢れていたよ。

 おやおや、ブルー君。照れているのかい? 可愛いものだね。


 さて、メインゲートを飛び立ったあとは、ゴーストライクおよびサンライズへと向かった。

 ワタリガラスの一族はかねてよりクラウド家の支援を受けていたからね。その謝礼も兼ねて、挨拶に伺ったのだよ。そこでヴィンセント=クラウド氏が直々にお会いしてくれて、ゴーストライクの近況を色々と教えてくれたのだ。


 ゴーストライク周辺は昔からグレート・アナコンダたちが過激な行動を繰り返していたが、ドラゴンメイドの目覚めに伴う災害により、その活動を自粛していたらしい。そして、勇者が眠りについたという報せを受けると、組織としての破壊行為をもうしないという旨の声明がグレート・アナコンダ側から出たのだという。

 ドラゴンメイドは本来、争いごとを好まれない。とくに勇者と眠りについたばかりの時期は繊細で、ちょっとした騒動にも機嫌を損ねてしまう。

 彼女が怒れば爬虫類や両生類の伝統的な暮らしを維持するだけの環境が、守られなくなってしまう。ゆえに、力ではなく言葉で町の者達と話し合いたいという姿勢を見せたようだ。


 ヴィンセント氏によれば、それ以来、ゴーストライクの人々を震えさせるような事件は起こっていないという。カエル事件についても少し教えてくれたが、その犯人もまた、ドラゴンメイドの目覚めに伴う一連の騒動が収まったあとで、自首したらしい。

 捕まったのは、キツネ化患者の男性で、もともとは密林のそばで爬虫類や両生類系の住民たちと暮らす先住民の一派、イシガメの一族の末裔だったらしい。

 滅びゆくイシガメの一族への哀憐がいつの間にか狂気に取りつかれ、過激思想を広めるグレート・アナコンダたちと同調し、怒りの矛先が密林を率先して切り開いていったとも言われているクラウド家へ向いたのだそうだ。


 その後も彼は反省せず、次なる攻撃の手口を考えていたそうだが、ドラゴンメイドの目覚めによる一連の騒動でそれどころじゃなくなった。

 そして、ふたりの勇者の眠りによりこの大地が救われたと知って、目が覚めたような思いに見舞われたそうだ。


 移民と先住民の両方の血を引くヒト族の若き娘と、マヒンガの青年という組み合わせは、彼にとっても思うところがあったのだろうね。

 ともあれ、彼のお陰で芋づる式にゴーストライク周辺を脅かしていた者達が捕まったとも言われている。彼らに同調していた者達の多くも心を入れ替えたようだ。まさに君たちの行動が、あの地域を救ったのだ。


 ヴィンセント氏と分かれたあとに、デイライトにも立ち寄ってみた。旅人たちにとって唯一の拠点でもあった宿でも、グレート・アナコンダの話題で持ちきりだったね。

 とくにイシガメの末裔が逮捕されたのは、宿の主人たちにとってショックな出来事だったらしい。彼らもまたイシガメだからね。

 それに、あそこの老女将はかつてマルのように巫女として人々を導いてきたお方だ。生憎、彼女からは娘が生まれず、姉妹や従姉妹にも娘が生まれず、その血筋は途絶えることが決まってしまったが、言葉は正しく伝わる限り生き続けるのだと仰っていた。

 彼らの思想はワタリガラスにも共通する尊いものだ。これからも時折、彼らの話を聞いて、君にも教えてあげよう。


 その後は、そのままウィルオウィスプへと飛んだ。フォード博士たちが戻っていたから挨拶がてらにね。

 だが、それだけじゃない。扉の門番の相棒として、ある存在に言伝をしなければならなかったのだ。サンダーバードの止まり木とも言われているトーテムベリーだ。

 その周辺はウィルオウィスプを守る精霊――フレッドと呼ばれる存在が眠っているが、会うことは出来なかったね。ただ、目に見えぬ彼らに吾輩は感謝を述べ、近いうちに預かったトーテムベリーを返しに来ると告げたのだ。

 ついでにキツネ化の呪いを解くヒントを教えてもらえたらなんてお伺いをしたけれど、辺りは静寂に包まれていて、うんともすんとも返事は来なかった。

 それでも、吾輩は信じているよ。あの場所には精霊がいて、精霊の価値観に従って統治をしているのだと。


 うん、そうだね。今のブルー君やラズ君もまた精霊のようなものだ。吾輩たちからすれば、君たちは確かにここにいるが、ドラゴンメイドは忠告した。

 もしも地上に暮らす生き物の全てが君たちのことを忘れ去ってしまえば、君たちはもうベリーロードを歩くことはできないらしい。それがどれくらい先の事なのかは分からない。

 吾輩やマルが老いてドラゴンメイドの夢の住人になってから、さらにうんと先の未来のことかもしれない。それでも、いつかはその時が来るだろうって。

 だから、人々がサンダーバードやマダムバタフライ、フレッドなどの伝承を語りついできたように、吾輩たちも君たちの存在を語り継がなくてはならないのだ。

 それが未来の為、ドラゴンメイドの為。世界を終わらせない為に、そうしようと心から思ったのだ。


 ウィルオウィスプに別れを告げると、そのまま吾輩はスノーブリッジへと飛んだ。

 雪山が気になるだろう? ドラゴンメイドの目覚めによる地震で、スノーブリッジではあちらこちらで雪崩がおきたらしい。しかし、危ない場所を見つけると、君の姉上が麓まで降りて、冷静な言葉で人々に伝えたらしい。そのため、事故による被害は最小限に抑えられ、ずいぶんと有難がられていたよ。


 そうそう、君の無邪気な妹も元気だったね。お姉さんから聞くという雪山の家族の話を吾輩にも教えてくれた。

 マヒンガたちにも平和が戻っているらしい。山賊まがいのことをする者達はすっかり消え失せ、北国ビッグフットへの架け橋となる山道もようやく安心して通れるようになったという。

 これからはスノーブリッジもまた他国からの入り口となるだろうね。だが、そうなったとしても、君の妹を預かる料亭の女主人は一見さんを断り続けるのだろうね。

 美味しい料理なのに勿体ない。だが、それも一興なのかもしれない。


 次に向かったのはイブニングだ。そこではワタリチョウの一族が経営している店があってね、古い馴染みだから向かったのだ。ワタリチョウって聞いたことはあるかい? おや、ないのか。何を隠そう、君もあったことがある人々だよ。ライオネル君が連れて行ってくれただろう。〈平和の民〉たちによるマダムバタフライのレシピをふるまう料理店だよ。

 思い出したかい? そうそう、あの兄妹も元気だったよ。

 料理を振る舞いながら人々を笑顔し、自分たちの崇拝するマダムバタフライが愛したこの大地を少しでも良くしようとしているのだ。

 ドラゴンメイドの目覚めが迫った時は、さすがに悲観的にもなったそうだが、かつて自分たちの料理を食べてくれた君たちが騒動を収めてくれたのだと聞いて、とても感謝しているようだった。もしも君たちがまた来てくれたなら、とっておきの料理を振る舞いたいといっていたよ。


 イブニングで腹ごしらえをした後は、ミルキーウェイにも行ってきた。レベッカ=アービュタスが不在で寂しそうだったが、彼女たちの所属するスターライト歌劇団の劇場は人がわんさかいたよ。

 留守をあずかっているレベッカの若い伴侶は大忙しのようだった。新婚で離ればなれは寂しいだろうが彼女の歌声が賞賛されていると聞くと、とても嬉しそうだったよ。

 それに、前に会った時よりも、いくらか逞しい青年になったように見えたね。


 ミルキーウェイの後はタイトルページに直行した。バーナード先生にトーテムベリーの感謝と今後のことをお伝えしなきゃならなかったからね。

 グリズリーの血を引いているということで、かつては中傷被害もあったそうだが、再びヒット作を出したことでその被害も抑えられているという。

 君たちをモデルにした物語について訊ねると、完成した物語を君たちがどう思うのかが気になっている様子だった。スランプを抜け出せたのも、新しいヒット作に恵まれたのも、君たちのお陰だと感謝していたよ。


 さて、タイトルページの後、ここへ寄る前に一か所だけ立ち寄った場所がある。そこはね、人々から忘れ去られたトーテムベリーのある場所なんだ。フロッグプリンセスの逸話は覚えているだろう? 彼女がベリーとなって眠るその場所に、吾輩は赴いたのだ。彼女がベリーになってから、勇者はいくらか代替わりした。それでも、彼女は精霊のひとりとして、今もこの辺りを守ってくださっているのだ。


 君たちふたりが出会えたのは、ドラゴンメイドの導きだと思うが、ひょっとしたら彼女の意図を汲み取ったカエルの姫さまが引き合わせてくれたのかもしれない。何にせよ、君たちが無事にトワイライトで出会い、旅立てたのは、少なからず彼女の加護があってのことだ。だから、感謝の言葉を伝えておいたよ。

 さてさて、まだまだ喋り足りなくてうずうずするのだが、どうやら吾輩の話はこれで終わりのようだ。

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