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Berry  作者: ねこじゃ・じぇねこ
ドラゴンメイドの博士‐アフタヌーン
138/196

5.ドラゴンメイドの目覚め

 その昔、ドラゴンメイドは一つの国ではなかった。あらゆる言語が使われ、あらゆる種族が暮らし、その違いから対立することもあれば、協力し合うこともあったが、今のように平等な暮らしは出来ていなかった。

 しかし、ある時、東の大陸からこの大地にある冒険者が到達した。彼はその冒険心から未知なる世界を旅してまわった。東から持ち込んだあらゆる異物は好奇心の強い種族たちの心を掴み、親しみの証として大地に伝わるベリーの存在を教えたのだった。


 だが、伝説でのみ語られていた魔石が本当にあると知った冒険者たちの中には、欲に目が眩んで次々に原住民たちを殺害し、ヒト族は奴隷にし、それ以外の種族は肉や毛皮を剥いでしまう者も現れた。

 彼らの悪行が積み重なり、大陸の文化の半数が壊されてしまった。破壊は憎しみを生み、憎しみは争いを産んだ。冒険者であろうと、先住民であろうと、あらゆる者達が対立し、ドラゴンメイドの各地が暴力の渦に巻き込まれていった。


 タイトルページではグリズリーとシュシュが移民たちとの交流を巡って戦争を起こし、スノーブリッジでは開拓を阻止しようとするマヒンガの一部が毎日のように敵対する者たちへ奇襲をかけていた。

 そして、ゴーストライク周辺では開拓をしようとする移民たちと、密林を守りたい爬虫類人や両生類人との戦争が起こっていた。


 争いによって流れた彼らの血は、じわじわと大地を穢していく。穢れは地底まで届いていき、少しずつドラゴンメイドの夢を血の色に染めていった。

 そしてそんなことが続いたある時、とうとう異変は起きた。


 サンドストームを異様な熱波が襲ったかと思えば、スノーブリッジでは大きな雪崩が発生し、辺りを開拓していた先住民や彼らに友好的な立場をとっていたイヌ族たちの多くが犠牲となった。原因はこれまでにない雪解けだったという。

 さらに異変は続いた。

 現在のグラスホッパー周辺で大量の渡りバッタが出現し、作物の多くを食い荒らしてしまったのだ。そして、同時期に、クックークロックの上空を何十億羽もの渡り鳥たちが季節外れの渡りを行い、一部を残してほぼ全てが北や南へと逃れてしまった。


 そして、鳥も飛蝗も見かけなくなった頃に、さらなる恐怖が人々を襲った。

 ミルキーウェイの町に星が落ち、その直後より、各地で地震が起こるようになった。地震はメインゲートで津波を発生させ、多くが水に飲まれてしまった。


 混乱が極まると、いよいよドラゴンメイドは目を覚ました。大地を唸らす方向が響いたかと思えば、その途端、各地の山々は火を噴き、辺りは炎に包まれ始めた。

 生きるも死ぬも運次第という状況に、人々は嘆くしかない。終わりの見えない災害の数々に、人々は争うどころではなくなっていた。


 そんな混沌の中、ワタリガラスの一族たちは時代の流れと移民たちの圧力で廃れそうになっていた扉の番人と竜の勇者の伝統をひっそりと復興させていた。

 扉の番人には巫女の血を受け継ぐ少女が選ばれ、竜の勇者は彼女の姉のような存在であった勝気な娘が選ばれた。ふたりは協力して荒れ果てた大地を歩み、各地のトーテムベリーをどうにかして集めると、ドラゴンメイドの夢に繋がる扉を開けて、彼女に直接訴えにいったのだった。


 たった一人の犠牲で良い。

 すでに失われた命は多かったものの、まだ間に合う。


 すっかり目覚めていたドラゴンメイドは復興のために選ばれた二人に対して疑問を投げかけたという。

 この有様を引き起こしたのは、大勢の人々の営みである。特に、新しく入ってきた人々は、せっかく安定していた秩序を壊し、ワタリガラスの一族がこれまで受け継いできた伝統も壊してしまった。

 それなのに、たった一人で罪を背負い、犠牲になる事を受け入れるのかと。それで良いのかと。


 扉の番人は迷ってしまったが、しかし、勇者は迷わなかった。勇者として選ばれたときから、彼女は願っていたのだ。妹のような存在である扉の番人の少女たちが安心して暮らせる世の中を。それが、いつかは恨んだかもしれない人々の罪を被ることになるのだとしても、小さな誇りや悔しさを理由に絶好の機会を失いたくないのだと。

 それは本心からの願いであり、ドラゴンメイドの納得する答えでもあった。


 こうして、ドラゴンメイドは再び眠りについた。共に眠る勇者を招き入れて。その後、すぐに大地の揺れはなくなり、慈雨が炎を消した。各地の気候も安定し、少しずつ元の大地へと戻っていったのだった。

 全てはこの二人の――とくに扉を越えて眠りについた勇者のお陰。ワタリガラスの一族は、さっそくそのことを語り継ぎ、移民たちにもその教えを認めさせた。

 彼らの言葉通り大地が安定したことで、生き残った移民たちは素直にそれを認め、勇者を輩出したワタリガラスの一族たちを始めとした友好的な先住民たちの知恵を借りながら、改めて人間にとって暮らしやすい新しい世界を築き始めたのだった。


 しばらく大きな災害が起こらなかったお陰で、新しく築き上げたものは壊れないまま継承されていき、現在のドラゴンメイド国が築かれる基礎が出来上がっていった。

 そして、独立をかけた戦争を経てドラゴンメイドが正式な国となった後も、人々は眠りについたドラゴンと勇者のことを忘れないように語り継ぐことに決めたのだった。


 これはおとぎ話ではない。新興国が箔をつけたいからと創作した神話でもない。

 この大地に暮らす者は特に、いつの時代も忘れてはいけないことである。


 ドラゴンメイドが目覚める時の合図を見逃すな。

 世間の混乱が続き、各地で異常気象が認められる時は、山々の様子に気を配るといい。

 人々は争っていないか。ベリーの産出が減ってはいないか。暑過ぎないか、寒過ぎないか。ミルキーウェイに星は落ちていないか。季節外れの渡りはないか。異常な蝗害こうがいは起こっていないか。

 おかしいと感じた時は、ワタリガラスの一族の言葉に耳を傾けよ。


 そして、備えよ。

 ドラゴンメイドの目覚めに。

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